コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき

文字の大きさ
51 / 107

第51話 迎え撃つ!

しおりを挟む
「決まってるだろうー!」

 イングリドが立ち上がった。
 ジョッキをぐいーっと飲み干し、宣言する。

「私たちラッキークラウンはー! 逃げも隠れもしないー! 正々堂々、卑怯な司祭を迎え撃ってやるんだ!!」

「ええ……」

 ギスカが嫌そうな顔をした。

「おや、ギスカは別の意見があるのかい」

「いやー、無いけどさあ。あたい、基本は鉱山の中で暮らしてきたドワーフだろ? 正々堂々とか、逃げも隠れもしないというのは違和感がねー」

 ドワーフというのは、男性は真正面から物事に挑み、女性は搦め手や魔法などの手段を使って婉曲に物事を成す性質があるのだそうだ。
 鉱石魔法というものは、女性に発現することがほとんどの魔法だ。
 これはかの種族の男女の性質によるのかも知れない。

「まあ、やるけどねえ。面白そうではあるしさ。あの司祭、今度は何をやらかすのかねえ」

「そこは大体予想できる。王都を腐らせるつもりだろう。そのために、この螺旋で何かを呼ぶつもりだ。王都そのものを毒霧に包む……のは現実的ではないね。ジョノーキン村一つを飲み込むために、エルダーマンティコアが他の魔法を使えなくなるほど魔力を使い、集中し続けた上に、村人を生贄に捧げて魔力の代替とせねばならなかったほどだ。この都を一つ飲み込むなら、住人をことごとく生贄にせねばならないだろうが……司祭は恐らく一人だ」

「協力者はいないか」

「俺たちが倒したマンティコアと、侍従長だろうね。お陰で、向こうが取れる手段は減っている。まあ、既に王都内部に彼が潜んでいて、何か用意している可能性は高いけど。それでも……人間一人にエルダーマンティコアと同じことはできないよ。これほど回りくどい儀式をしたのがその証拠だ。まあ、この儀式を完遂させてやって、召喚されるであろう何かとんでもないものを倒す……。その方が、見栄えがすることは確かだな」

「見栄えかい!? 呆れたねえ」

「そりゃ、俺は道化師だからな」

 肩をすくめてみせた。

「一番見栄えがして、そして笑えるのが正義さ。さあ、明日からは俺たちも準備だ。キングバイ王国からもらった報酬は、まるごと消えてなくなるかも知れないぞ」

 これにて作戦会議は終了だ。
 酔ってふらふら足になったイングリドと、しっかりしているギスカの二人が女子部屋へと戻っていく。
 残った酒をちょっと飲みながら、俺は道具の手入れをすることにした。

 考え事をするときは、これに限る。
 何日後が決戦か?
 何が出現する?
 司祭はすぐ近くにいるのか?

 その全てに、集めた情報を照らし合わせて答えを作っていく。
 猶予はあまりない。
 だが、だからこそ緊張感を持って、楽しく仕事ができるというものなのだ。

 自らも楽しんで仕事ができるなんて、冒険者というのは本当に道化師向きの仕事だな。



 翌朝。
 やはり、新しい依頼が貼られていた。
 不可解な依頼で、場所は王都のすぐ近く。

 そこでアキンドー商会から買い付けた植物を大量に植えてくれ、というものだった。
 あまりに大規模なので、三組の冒険者が駆り出されていった。

 今回は、そのおかしな依頼は一件だけ。
 当然だ。
 これで最後なのだから。

「露骨に来たな。植物を植えるとは」

「植物がどうして露骨なんだ?」

 ジョッキいっぱいのミルクを飲みながら、イングリドが尋ねる。
 朝からは飲まない主義なのだ。

「ギスカは? 朝起きたらいなかったのだが」

「朝から鉱石の買い出しに行ってるよ。報酬を使い切る勢いで買ってくるんじゃないかね」

「そうか……。おっ、来た来た」

 イングリドが注文していたモーニングが到着する。
 焼いたパンを山盛りにシチュー。

 朝から健啖ぶりを発揮し、パクパクと食べていくイングリド。
 彼女は何も用意する必要はない。
 強いて言うなら、健康を維持し、万全の体調で腐敗神の司祭に立ち向かうだけだ。

 俺はと言うと、既に注文をしてある。
 アキンドー商会があちこちに手を回し、品を集めてくれているはずだ。

 ちなみに、先日の豪遊や奢りのお陰で、俺の軍資金は底をついた。
 イングリドが快く金を貸してくれたので助かった。

 ……おかしいな。
 以前にも同じようなことをした気がする。

「オーギュストさん! おまたせしましたー!」

「来た来た!」

 ギルドの外で、ガラガラと荷馬車が走ってくる音。
 俺を呼ぶ声。

 俺はミルクを飲み干すと、外に向かって走り出た。

 そこには、荷物を山盛りにしたアキンドー商会の荷馬車がある。
 ハシゴ、ロープ、ビロウド……つまりは毛織物。それにマント、ステッキ、お手玉に見える……火薬玉。
 素晴らしい。

「オーギュストさん、大道芸でも始めるんですか? こんな量、一人で扱うもんじゃないですよ」

 アキンドー商会からの使いが、俺と荷物の山を見比べている。
 手伝いで、ジョノーキン村の子どもが混じっていた。

「道化師の兄ちゃん! なんかまた面白いことするんだろ? するんだろ? 見せて見せて!」

「いいとも! 始まりの合図はすぐに分かるぞ。一見して危なそうだが……少し距離をとってもらえれば問題ない。そうだな、町側からの広場の入口で立ち止まればいいだろうさ。俺もイングリドも、そこで決着をつけるからね」

「そっか! 広場の入口、わかった! みんなに教えてもいい?」

「もちろん。観客が多ければ多いほど燃えてくるんだ」

「やったー!!」

「あ、おい、こら! すみませんオーギュストさん」

 頭を下げてくる商会の使い。
 俺は笑ってそれを制した。

「いやいや! むしろ俺としては願ったり叶ったりだ。できれば君も、仲間を連れて見に来てくれると嬉しいな。とびきりのショーになるぞ!」

「へえ……!」

 商会の使いも、興味津々に瞳を輝かせる。
 よしよし、これは観客が増えそうだ。

 俺のやる気も増してくるというものである。
 早く来い来い、最後の襲撃……!
しおりを挟む
感想 115

あなたにおすすめの小説

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ
ファンタジー
 ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。  理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。  パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。  友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。  その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。  カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。  キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。  最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ
ファンタジー
 2020.9.6.完結いたしました。  2020.9.28. 追補を入れました。  2021.4. 2. 追補を追加しました。  人が精霊と袂を分かった世界。  魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。  幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。  ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。  人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。  そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。  オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

結婚式の日に婚約者を勇者に奪われた間抜けな王太子です。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月10日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング2位 2020年11月13日「カクヨム」週間異世界ファンタジーランキング3位 2020年11月20日「カクヨム」月間異世界ファンタジーランキング5位 2021年1月6日「カクヨム」年間異世界ファンタジーランキング87位

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

処理中です...