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第63話 フリッカの話
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フリッカがカッカしているので、俺はミルクを注文して座らせた。
「まあまあ。落ち着きたまえ」
「これが落ち着いていられるかっちゅうねん! うちの復讐や! 復讐するんや!」
「頭に血が上っていると、普段できることもできなくなるぞ。復讐は結構だが、それを成功させられない者はすべからく、頭に血が上って冷静に物を考えられなくなっている」
「なんやて!」
フリッカは目を見開いた。
そして席につくと、怒りにぶるぶる震える手をどうにか抑えようとする。
「深呼吸しよう。ほら、ミルクが来た。ミルクは心を落ち着かせてくれるんだ」
「わかっとる! すー、はー」
しばらく深呼吸した後、ミルクをぐいっと飲んだら落ち着いたらしい。
「ほう、こいつをあっという間に静かにさせたか。一旦火がつくと、半日は荒れているというのにな。オーギュスト、お前はできる男だな」
「せっかくの優秀な仲間が、一時の感情に囚われて実力を発揮できない……などというのはもったいないだろう? 常にフルスペックで仕事をすべきだ」
俺の返答を聞くと、ジェダはげらげら笑い、イングリドが呆れた顔をした。
ギスカは肩をすくめている。
「フリッカ。まず第一に、ネレウスは行方不明になった。追いかけるあては今の所ない。第二に、手がかりは恐らくマールイ王国にある。第三に、我々もネレウスとはちょっとだけ因縁がある。これを土台にしながら、君の事情を教えてもらえないかな」
「なんや! めっちゃ前提条件多いやん……」
さすがのフリッカも、呆れ笑いを漏らす。
怒っている場合ではなくなっただろう。
「あのな。うちの故郷は妖精使いの集落なんや。これ、その集落の方言な。んで、うちの集落に助力を願いに来た権力者がおった。だけど、うちらは妖精の力を知っとる。人間同士の争いに、妖精を使うわけにはいかん。だから断った」
「なるほど」
大体先が読めた。
その権力者がネレウスを雇ったのだろう。
「そうしたら、権力者がネレウスを雇ってな」
やっぱり。
「ネレウスを使い捨てみたいにして使ったらしいんや。そしたらネレウスが怒る怒る」
おや、雲行きが怪しくなってきた。
「結局、その権力者は一族まとめてネレウスに殺されてもうた。そしてネレウスは、権力者が最初に仕事を依頼したのがうちらだと知ってな。八つ当たりに来て、妖精使いの村は壊滅……」
「これはひどい」
俺は心底同情した。
本当に流れ弾みたいなものじゃないか。
あの魔族、何をやっているんだ。
口先でさらっと騙される男だったが、その分だけ、騙されたことに対する怒りが凄まじいのだな。
それに、権力者というのは恐らく、小国に匹敵する勢力だと考えて、それをたった一人でどうにかできてしまうのだから恐るべき実力者だと考えて間違いあるまい。
そう言えば……。
俺は記憶を呼び起こす。
似たような名前の傭兵がいたような。
どんな仕事でもこなすが、扱いに失敗すると大変なとばっちりを受けるという魔族の傭兵。
それがネレウスだったか。
幸いというか、俺は彼と仕事で関わったことはない。
この間の海での邂逅は、俺のやる気が無かったために戦いには発展しなかった。
さて、実際にやり合うことになったら、どれほどの実力だろうかな?
仲間たちには話していないが、俺が持っているバルログとしての権能を使うことになるだろうか。
とは言っても、本当に大したものではないのだが。
「オーギュスト。次の仕事が決まったで!」
「次の仕事?」
フリッカがよく分からないことを言う。
仕事も何も、彼女は掲示板に向かっていないではないか。
どうして次の仕事の話ができるのだろう。
「マールイ王国方面や! そっちの仕事をしよう!」
「なんだって」
うーむ、彼女は全然冷静になっていないぞ。
それに俺としては、あちらに行くと気分が悪くなるのだがなあ。
「道化師がやる気の無さそうな顔をしてるよ」
「オーギュストを追い出した国だからな。それはいい気分はしないだろう。私は反対だな」
「なんやて! じゃあ、うちだけで行く!」
カッカしている。
これは仕方ないとも言えよう。
フリッカにとって、魔族ネレウスへの復讐は、恐らく人生のモチベーションそのものなのだ。
ここは年長である俺が折れてやるのが筋というものか。
「仕方ないな。ではマールイ王国に向かうとしよう。だが、かの国では恐らく、俺の良からぬ噂が広がっているだろう。俺は変装して行くことにするよ。諸君は俺をオーギュストと呼ばないように」
「? だったらなんて呼べばいいんだ」
ジェダの質問があったので、俺は少し考えた。
「オーグ、という名で行こう。呼び間違えもしづらいだろう」
「略称だな、そりゃ」
その通り。
だが、俺はあの国では、略されること無く名を呼ばれていたからな。
イングリドが口の中で、オーグ、オーグと繰り返している。
一番うっかりと本名を呼んでしまいそうな彼女だから、こうして練習してもらえるのはありがたい。
「よし、ではフリッカ。マールイ王国方面の仕事を引き受けようじゃないか」
「本当!? ありがとう!!」
フリッカがパッと明るい表情になった。
やはり、一人だと不安だったのだろう。
「ネレウスについて調査するつもりだろう? 仕事のついでに、彼の足取りをたどるのか」
「そうや! みんな、ごめんな。うち、これだけは譲れなくて……」
「気にするな。私もオーギュストを追い出した国というのを見てみたかったんだ」
「あたいも興味あるねえ……。道化師を邪険にするなんて、そんなもったいないこと、まともな神経があったらできないよ。当事者の顔が見てみたいもんだね!」
「まあ私の顔見知りなんだが」
「えっ、そうなのかい!?」
イングリドとギスカの、漫才のようなやり取りを聞いていると、たまにはマールイ王国を覗きに行くのも悪くは無いかと思えてくる。
ジェダは戦えさえすれば良いようで、全く異論はないらしい。
「俺はネレウスとやり合うために、フリッカに手を貸しているからな。運命共同体みたいなもんだ。じゃあ、誰が掲示板から仕事を取ってくるんだ? 俺ぁパス。そういうの興味がねえ」
「よし、では」
俺の視線を受けてイングリドが立ち上がった。
「ははは、幸運の女神たる私に任せておくがいい」
自己肯定感が高まったなあ、イングリド。
彼女は堂々と掲示板まで歩いていくと、内容もろくに読まずに一枚を剥ぎ取った。
「よし、マールイ王国行きの仕事だ」
「内容はなんだい?」
「あの国にいる盗賊団の退治だな」
かくして、次なる舞台は、懐かしきマールイ王国となるのである。
「まあまあ。落ち着きたまえ」
「これが落ち着いていられるかっちゅうねん! うちの復讐や! 復讐するんや!」
「頭に血が上っていると、普段できることもできなくなるぞ。復讐は結構だが、それを成功させられない者はすべからく、頭に血が上って冷静に物を考えられなくなっている」
「なんやて!」
フリッカは目を見開いた。
そして席につくと、怒りにぶるぶる震える手をどうにか抑えようとする。
「深呼吸しよう。ほら、ミルクが来た。ミルクは心を落ち着かせてくれるんだ」
「わかっとる! すー、はー」
しばらく深呼吸した後、ミルクをぐいっと飲んだら落ち着いたらしい。
「ほう、こいつをあっという間に静かにさせたか。一旦火がつくと、半日は荒れているというのにな。オーギュスト、お前はできる男だな」
「せっかくの優秀な仲間が、一時の感情に囚われて実力を発揮できない……などというのはもったいないだろう? 常にフルスペックで仕事をすべきだ」
俺の返答を聞くと、ジェダはげらげら笑い、イングリドが呆れた顔をした。
ギスカは肩をすくめている。
「フリッカ。まず第一に、ネレウスは行方不明になった。追いかけるあては今の所ない。第二に、手がかりは恐らくマールイ王国にある。第三に、我々もネレウスとはちょっとだけ因縁がある。これを土台にしながら、君の事情を教えてもらえないかな」
「なんや! めっちゃ前提条件多いやん……」
さすがのフリッカも、呆れ笑いを漏らす。
怒っている場合ではなくなっただろう。
「あのな。うちの故郷は妖精使いの集落なんや。これ、その集落の方言な。んで、うちの集落に助力を願いに来た権力者がおった。だけど、うちらは妖精の力を知っとる。人間同士の争いに、妖精を使うわけにはいかん。だから断った」
「なるほど」
大体先が読めた。
その権力者がネレウスを雇ったのだろう。
「そうしたら、権力者がネレウスを雇ってな」
やっぱり。
「ネレウスを使い捨てみたいにして使ったらしいんや。そしたらネレウスが怒る怒る」
おや、雲行きが怪しくなってきた。
「結局、その権力者は一族まとめてネレウスに殺されてもうた。そしてネレウスは、権力者が最初に仕事を依頼したのがうちらだと知ってな。八つ当たりに来て、妖精使いの村は壊滅……」
「これはひどい」
俺は心底同情した。
本当に流れ弾みたいなものじゃないか。
あの魔族、何をやっているんだ。
口先でさらっと騙される男だったが、その分だけ、騙されたことに対する怒りが凄まじいのだな。
それに、権力者というのは恐らく、小国に匹敵する勢力だと考えて、それをたった一人でどうにかできてしまうのだから恐るべき実力者だと考えて間違いあるまい。
そう言えば……。
俺は記憶を呼び起こす。
似たような名前の傭兵がいたような。
どんな仕事でもこなすが、扱いに失敗すると大変なとばっちりを受けるという魔族の傭兵。
それがネレウスだったか。
幸いというか、俺は彼と仕事で関わったことはない。
この間の海での邂逅は、俺のやる気が無かったために戦いには発展しなかった。
さて、実際にやり合うことになったら、どれほどの実力だろうかな?
仲間たちには話していないが、俺が持っているバルログとしての権能を使うことになるだろうか。
とは言っても、本当に大したものではないのだが。
「オーギュスト。次の仕事が決まったで!」
「次の仕事?」
フリッカがよく分からないことを言う。
仕事も何も、彼女は掲示板に向かっていないではないか。
どうして次の仕事の話ができるのだろう。
「マールイ王国方面や! そっちの仕事をしよう!」
「なんだって」
うーむ、彼女は全然冷静になっていないぞ。
それに俺としては、あちらに行くと気分が悪くなるのだがなあ。
「道化師がやる気の無さそうな顔をしてるよ」
「オーギュストを追い出した国だからな。それはいい気分はしないだろう。私は反対だな」
「なんやて! じゃあ、うちだけで行く!」
カッカしている。
これは仕方ないとも言えよう。
フリッカにとって、魔族ネレウスへの復讐は、恐らく人生のモチベーションそのものなのだ。
ここは年長である俺が折れてやるのが筋というものか。
「仕方ないな。ではマールイ王国に向かうとしよう。だが、かの国では恐らく、俺の良からぬ噂が広がっているだろう。俺は変装して行くことにするよ。諸君は俺をオーギュストと呼ばないように」
「? だったらなんて呼べばいいんだ」
ジェダの質問があったので、俺は少し考えた。
「オーグ、という名で行こう。呼び間違えもしづらいだろう」
「略称だな、そりゃ」
その通り。
だが、俺はあの国では、略されること無く名を呼ばれていたからな。
イングリドが口の中で、オーグ、オーグと繰り返している。
一番うっかりと本名を呼んでしまいそうな彼女だから、こうして練習してもらえるのはありがたい。
「よし、ではフリッカ。マールイ王国方面の仕事を引き受けようじゃないか」
「本当!? ありがとう!!」
フリッカがパッと明るい表情になった。
やはり、一人だと不安だったのだろう。
「ネレウスについて調査するつもりだろう? 仕事のついでに、彼の足取りをたどるのか」
「そうや! みんな、ごめんな。うち、これだけは譲れなくて……」
「気にするな。私もオーギュストを追い出した国というのを見てみたかったんだ」
「あたいも興味あるねえ……。道化師を邪険にするなんて、そんなもったいないこと、まともな神経があったらできないよ。当事者の顔が見てみたいもんだね!」
「まあ私の顔見知りなんだが」
「えっ、そうなのかい!?」
イングリドとギスカの、漫才のようなやり取りを聞いていると、たまにはマールイ王国を覗きに行くのも悪くは無いかと思えてくる。
ジェダは戦えさえすれば良いようで、全く異論はないらしい。
「俺はネレウスとやり合うために、フリッカに手を貸しているからな。運命共同体みたいなもんだ。じゃあ、誰が掲示板から仕事を取ってくるんだ? 俺ぁパス。そういうの興味がねえ」
「よし、では」
俺の視線を受けてイングリドが立ち上がった。
「ははは、幸運の女神たる私に任せておくがいい」
自己肯定感が高まったなあ、イングリド。
彼女は堂々と掲示板まで歩いていくと、内容もろくに読まずに一枚を剥ぎ取った。
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