64 / 107
第64話 道具と情報を集めよ
しおりを挟む
すぐにでも旅立とうと息巻くフリッカ。
だが、我々は仕事を終えたばかりである。
2日くらいはのんびりしたい。
「フリッカ、いいか? 仕事には準備というものが必要だ」
「そうやな」
そこに異論は無いようだ。
「そして我々は、ワイバーンの依頼で道具を使い、体力も消費し、魔力も使った。補充が必要だ」
「言ってることはもっともやな」
ふんふん、と頷くフリッカ。
「何日かかけて道具を補充し、体力と魔力を充実させ、そして情報収集をしよう」
「なるほど……。……あれ? うちとジェダが仲間になった時は、なんも準備しないでいきなり旅立たなかった?」
いかん。
俺のテンションが上っていたので、いきなり旅立ったのだった。
「あれはドラゴンゾンビ戦で仕入れていた資材が残っていたんだ」
「体力とか魔力……」
「ドラゴンゾンビ後のワイバーン退治はイージーミッションだったので問題なかったんだよ」
「えっ!? とすると、盗賊はワイバーンよりも強い……?」
フリッカが混乱し始めた。
いいぞいいぞ。
「強いとも言えるし弱いとも言える。対戦する相手によるからな。話し始めると長くなる……」
「あー、もうええわ! 準備するんやろ! 行ってき! うちは情報集める!」
フリッカは奮然と立ち上がると、鼻息も荒く外に出ていってしまった。
どこで情報を集めるつもりであろうか。
「ジェダ。フリッカは情報を集める伝手があるのかね?」
「ねえな。手当り次第聞き込みやって、何も得られないまま帰ってくるぜ、ありゃあ」
ジェダはニヤニヤと笑っていた。
彼は今日一日、何もしないで過ごすつもりらしかった。
テーブルの上のエールを飲み干すと、カウンターで瓶入りの酒とつまみを買う。
そして広場まで出ていって、適当なところに腰掛けてちびちび飲み始めた。
「さて、俺も行くとしよう。イングリド、ちょっと頼みたいことがあるのだが」
「なんだ?」
「変装道具を買い、実際に変装してみる。別人に見えるかどうか、付き合いが一番長い君から判断してもらえるかな?」
「ああ、もちろん構わない」
「面白そうだね。あたいも行くよ!」
「ほう、ギスカも俺が別人になったかどうかを判断すると」
「あっはっは。実際のところ、ヒゲがない男は背丈でしか見分けがつかなかったりするけどね!」
大変ドワーフらしい返答をいただいた。
いや、彼女、ドワーフ男性もヒゲでしか見分けをしてないということだろうか?
気になる、ドワーフ社会……。
こうして俺は、イングリドとギスカを連れてアキンドー商会へ。
この国には他の店も色々あるのだが、ガットルテ王国最大規模で、なんでも取り扱っていると言えばアキンドー商会なのである。
何よりも、度々こことは縁があるお陰で、俺たちに対してオマケをしてくれるのだ。
アキンドー商会を利用しない手はない。
俺たちがやって来ると、店員見習い中の子どもたちが駆け出してきた。
「オーギュストさん!」
「イングリドさんもいる!」
「ドワーフの人だ」
「あたいだけなんかテンション違わない? ま、あたいはまだ新参だけどさ」
子どもたちに囲まれる、俺とイングリドなのだ。
「今日は何を買いに来たんですか?」
一丁前に御用聞きをする子どもたち。
うーむ、人の成長とは早いものだ。
「そうだね。実はマールイ王国まで行く用事があるんだが、俺はあの国では嫌われててね」
「えっ、オーギュストさんが嫌われてるんですか!?」
「こんなにすごい道化師なのに」
「マールイ王国がきっとわるいやつなんだよ」
端的に真実に近いところに触れてきたな。
「そういうわけで、俺は変装の道具を買いに来たんだ。それを取り扱っているお店まで案内してくれるかな?」
「はーい!」
子どもたちのよいお返事が響く。
すると慌てて番頭が出てきた。
「ああ、こいつはどうも、オーギュストさん! こら、ちびども! みんなでいっぺんに客を相手するやつがどこにいる! そんなんじゃ、いくら頭数があっても足りなくなるだろうが! 一客には一人! 上客には二人! これが鉄則だ! ぜんいんでやるのは上客のお見送り! 教えただろうが!」
「はーい!」
おお、きちんと商売人としての教育がされていっているのだ。
番頭の言葉を聞く子どもたちの目は真剣そのもの。
ここは良い場所らしいな。
後で番頭に聞いたところ、自分もこうして教えられ、商売人として一人前になったということである。
良き伝統が受け継がれているのだ。
選ばれた一人の少年に案内され、俺は変装道具一式を調達した。
金を払って礼を言い、商会を後にする。
この光景に、ギスカが首を傾げた。
「ねえ道化師。それくらいの道具は、あんたでも持ってるんじゃないかい? 補充に来たのかい?」
「補充という意味もある。だが、何よりも俺はつかの間の休暇を楽しんでいるのさ。自分の仕事の結果がどうなったのか、たまにこうやってチェックして、それでうまく行っていたら楽しいだろう? これも一つの娯楽ってやつだ」
「なるほどね、いい趣味だ」
俺とギスカのやり取りを聞いて、イングリドがよく分からない、と言う顔をしている。
みなまで説明はするまい。
その後、イングリドとギスカのぶんの買い物をする。
つまり、食事と酒である。
マールイ王国までは大した距離ではないから、保存食などはあまり必要ないかもしれない。
だが、俺の中で妙な胸騒ぎがあった。
念の為に備えられるだけ備えておこう。
当座の食料を準備して、もしもあの国の中で泊まれなくなったとしても問題がない程度に。
俺がいなくなり、数々の失態を重ねたあの国が、俺の知る姿のままであるはずがないからだ。
だが、我々は仕事を終えたばかりである。
2日くらいはのんびりしたい。
「フリッカ、いいか? 仕事には準備というものが必要だ」
「そうやな」
そこに異論は無いようだ。
「そして我々は、ワイバーンの依頼で道具を使い、体力も消費し、魔力も使った。補充が必要だ」
「言ってることはもっともやな」
ふんふん、と頷くフリッカ。
「何日かかけて道具を補充し、体力と魔力を充実させ、そして情報収集をしよう」
「なるほど……。……あれ? うちとジェダが仲間になった時は、なんも準備しないでいきなり旅立たなかった?」
いかん。
俺のテンションが上っていたので、いきなり旅立ったのだった。
「あれはドラゴンゾンビ戦で仕入れていた資材が残っていたんだ」
「体力とか魔力……」
「ドラゴンゾンビ後のワイバーン退治はイージーミッションだったので問題なかったんだよ」
「えっ!? とすると、盗賊はワイバーンよりも強い……?」
フリッカが混乱し始めた。
いいぞいいぞ。
「強いとも言えるし弱いとも言える。対戦する相手によるからな。話し始めると長くなる……」
「あー、もうええわ! 準備するんやろ! 行ってき! うちは情報集める!」
フリッカは奮然と立ち上がると、鼻息も荒く外に出ていってしまった。
どこで情報を集めるつもりであろうか。
「ジェダ。フリッカは情報を集める伝手があるのかね?」
「ねえな。手当り次第聞き込みやって、何も得られないまま帰ってくるぜ、ありゃあ」
ジェダはニヤニヤと笑っていた。
彼は今日一日、何もしないで過ごすつもりらしかった。
テーブルの上のエールを飲み干すと、カウンターで瓶入りの酒とつまみを買う。
そして広場まで出ていって、適当なところに腰掛けてちびちび飲み始めた。
「さて、俺も行くとしよう。イングリド、ちょっと頼みたいことがあるのだが」
「なんだ?」
「変装道具を買い、実際に変装してみる。別人に見えるかどうか、付き合いが一番長い君から判断してもらえるかな?」
「ああ、もちろん構わない」
「面白そうだね。あたいも行くよ!」
「ほう、ギスカも俺が別人になったかどうかを判断すると」
「あっはっは。実際のところ、ヒゲがない男は背丈でしか見分けがつかなかったりするけどね!」
大変ドワーフらしい返答をいただいた。
いや、彼女、ドワーフ男性もヒゲでしか見分けをしてないということだろうか?
気になる、ドワーフ社会……。
こうして俺は、イングリドとギスカを連れてアキンドー商会へ。
この国には他の店も色々あるのだが、ガットルテ王国最大規模で、なんでも取り扱っていると言えばアキンドー商会なのである。
何よりも、度々こことは縁があるお陰で、俺たちに対してオマケをしてくれるのだ。
アキンドー商会を利用しない手はない。
俺たちがやって来ると、店員見習い中の子どもたちが駆け出してきた。
「オーギュストさん!」
「イングリドさんもいる!」
「ドワーフの人だ」
「あたいだけなんかテンション違わない? ま、あたいはまだ新参だけどさ」
子どもたちに囲まれる、俺とイングリドなのだ。
「今日は何を買いに来たんですか?」
一丁前に御用聞きをする子どもたち。
うーむ、人の成長とは早いものだ。
「そうだね。実はマールイ王国まで行く用事があるんだが、俺はあの国では嫌われててね」
「えっ、オーギュストさんが嫌われてるんですか!?」
「こんなにすごい道化師なのに」
「マールイ王国がきっとわるいやつなんだよ」
端的に真実に近いところに触れてきたな。
「そういうわけで、俺は変装の道具を買いに来たんだ。それを取り扱っているお店まで案内してくれるかな?」
「はーい!」
子どもたちのよいお返事が響く。
すると慌てて番頭が出てきた。
「ああ、こいつはどうも、オーギュストさん! こら、ちびども! みんなでいっぺんに客を相手するやつがどこにいる! そんなんじゃ、いくら頭数があっても足りなくなるだろうが! 一客には一人! 上客には二人! これが鉄則だ! ぜんいんでやるのは上客のお見送り! 教えただろうが!」
「はーい!」
おお、きちんと商売人としての教育がされていっているのだ。
番頭の言葉を聞く子どもたちの目は真剣そのもの。
ここは良い場所らしいな。
後で番頭に聞いたところ、自分もこうして教えられ、商売人として一人前になったということである。
良き伝統が受け継がれているのだ。
選ばれた一人の少年に案内され、俺は変装道具一式を調達した。
金を払って礼を言い、商会を後にする。
この光景に、ギスカが首を傾げた。
「ねえ道化師。それくらいの道具は、あんたでも持ってるんじゃないかい? 補充に来たのかい?」
「補充という意味もある。だが、何よりも俺はつかの間の休暇を楽しんでいるのさ。自分の仕事の結果がどうなったのか、たまにこうやってチェックして、それでうまく行っていたら楽しいだろう? これも一つの娯楽ってやつだ」
「なるほどね、いい趣味だ」
俺とギスカのやり取りを聞いて、イングリドがよく分からない、と言う顔をしている。
みなまで説明はするまい。
その後、イングリドとギスカのぶんの買い物をする。
つまり、食事と酒である。
マールイ王国までは大した距離ではないから、保存食などはあまり必要ないかもしれない。
だが、俺の中で妙な胸騒ぎがあった。
念の為に備えられるだけ備えておこう。
当座の食料を準備して、もしもあの国の中で泊まれなくなったとしても問題がない程度に。
俺がいなくなり、数々の失態を重ねたあの国が、俺の知る姿のままであるはずがないからだ。
11
あなたにおすすめの小説
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?
今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。
バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。
追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。
シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。
僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~
いとうヒンジ
ファンタジー
ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。
理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。
パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。
友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。
その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。
カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。
キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。
最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた
アイイロモンペ
ファンタジー
2020.9.6.完結いたしました。
2020.9.28. 追補を入れました。
2021.4. 2. 追補を追加しました。
人が精霊と袂を分かった世界。
魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。
幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。
ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。
人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。
そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。
オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
結婚式の日に婚約者を勇者に奪われた間抜けな王太子です。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月10日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング2位
2020年11月13日「カクヨム」週間異世界ファンタジーランキング3位
2020年11月20日「カクヨム」月間異世界ファンタジーランキング5位
2021年1月6日「カクヨム」年間異世界ファンタジーランキング87位
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる