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第78話 屋台村とネレウス
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「赤い服の連中を捕まえたんか! じゃあ、尋問やな!」
やる気に満ちているフリッカ。
だが、尋問はもう必要ないのだ。
「実は彼らの狙いや行動指針はすべて引き出し済みでね」
「自分、仕事が早いなあ!」
呆れるフリッカ。
「俺は話術関係のスキルの他、催眠術のスキルもある。これで彼らから情報を全て引き出した」
「自分、怖いやっちゃなあ……」
恐れるフリッカ。
忙しい子だ。
既に、魔王教団の本拠地から魔本の入手経路に至るまで、情報は引き出し済みだ。
彼らはさほど大きな集団では無いが、それでも一騎士団に匹敵する数の人員がいる。
まだ襲撃が起こる可能性はある。
長期戦になる前に、ネレウスを引き寄せて決着を付けてしまうのがいいだろう。
ほうぼうの村や町で、ネレウスへの挑発文を流布し、さらにあちこちのお祭り職人たちを呼び寄せたマールイ王国。
場所代を格安にすることで、職人たちが王国の入り口で屋台を広げている。
マールイ王国王都で何かがあるらしいと、観光客が集まってきた。
つい最近、王国で暴れていた盗賊団が壊滅したので、安全に旅をできるようになったのだ。
人が、王都に集まってくる。
もちろん、屋台だけでは人を引き止めてはおけない。
ネレウスがやって来るまでの間、こちらもきちんと客をもてなす準備はしていた。
まず、荒れ放題になった王都をざっと掃除する。
そして、俺が大きな壁画を描き、マールイ王国王とのビフォー&アフターを明示した。
栄えていた都が、廃墟寸前の姿に!?
というこの壁画、大変受けた。
あちこちにチェックポイントを設けて、スタンプラリーを始めた。
さらに、王城を解放し、ホテルにした。
観光客は王城で寝泊まりし、スタンプラリーを楽しみ、食事は屋台でとる。
観光地のできあがりだ。
ちなみに、中庭でせっせと働いているおじさんが、現役の国王であるキュータイ三世であることも皆に伝えてある。
自ら汗水流して畑を耕す王様に、誰もが親しみを感じたようである。
陛下にはご自身も観光資源になってもらった。
そう。
マールイ王国再建計画はスタートしているのだ。
まずは、ネレウスをダシにした観光業によって、金を手に入れる。
幸い、マールイ王国の災難は、王都に集中していた。
結果として王都がずたぼろになり、国としての体を維持できなくなった。
ここ半年間のマールイ王国の迷走に嫌気がさしていた国民たちは、上り調子なキングバイ王国の所属となることを喜んで受け入れている。
別に、海に出ろと言うわけでも、高い税を払えと言われるわけでもない。
税額は今までと変わらないし、ちょくちょくやってくる、海の民をもてなせばお金がその地域に落ちるのである。
ウィン・ウィンというやつだ。
コンパクトになったマールイ王国も、活動資金を入手してから、新たな産業づくりを始める予定である。
さあ、そのためにも、ネレウスには早く来てもらわないと……。
俺はそう思って、屋台村を視察などしている。
すると、見知った男が屋台の前の席に腰掛け、串焼き肉と平たいパンを頬張っているではないか。
青い肌に金色の瞳。
銀髪の間から四本の角が生えている。
魔族ネレウスその人である。
予想よりも到着が早い。そして大変目立っている。
きっと、あの挑発文にカッカしながらやって来たものの、屋台村に惹かれて腹ごしらえを始めたのであろう。
「美味い。これも美味い」
ぶつぶつ言いながら食べている。
俺は彼の対面に腰掛けた。
顔を上げるネレウス。
その目が、カッと見開かれた。
だが、口に物が入っているので、彼は何も言わない。
「今話すと飯が不味くなるだろう。食べ終わったら話そう」
俺の言葉に、ネレウスが頷いた。
この魔族、大変美味しそうに屋台飯を食う。
テーブルいっぱいになるほど食べ物を買い込み、それを次々に平らげていく。
何もかも腹の中に収めた後、彼は水を飲みながらため息を吐いた。
「話して構わないぞ」
「ああ。君はあれか。俺と同じように、人間を遥かに超えた長寿の魔族であろうに、金に執着するというのは……金で買えるものを楽しんでいるのか」
「よく分かったな」
ネレウスが目を丸くした。
「人は凄いぞ。私が思いもつかぬものを生み出し、広げ、発展させる。この屋台で食べられる食事など、どうだ。私が生まれた頃には存在していなかったものだ。味は濃い。材料は小麦が中心。喉が渇く。だがこれがいい。こんなに楽しい食事が、金さえあればいつでもできる」
「奪ったりはしないのかな? 君の力があれば、それくらい容易いだろう」
「仕事で得た金を使い、人が生み出した快楽を買う。これがいいんだ。金を支払い、手に入れるところも含めて意味がある」
魔族ネレウスのこだわりだった。
彼は自らの生活を、人が生み出した文化で彩り、楽しくするために金を稼いでいたのだ。
「その金のために、魔王教団に手を貸すことは相反しないのかい? 彼らが魔王を復活させたら、人の生み出したものを味わう余裕などなくなるぞ」
「魔王など復活するわけがない。それはお前も分かっているだろう?」
ネレウスは、何を当たり前のことを、という口調で告げた。
「彼らは、優れた魔族であるネレウス、君を触媒にしようと考えているが」
「無駄だ。魔王は滅びた。滅ぼした。あの時代の者たちと私が滅ぼした。既に、あれの残滓すらもこの世界には残っていない。無くなったものは、返ってはこない」
「ふむ、純血種に限りなく近い魔族……」
彼の言葉から、ネレウスという魔族の素性が分かった。
彼は、人魔大戦を終わらせた英雄であるらしい。
「それがどうして、人に恨まれるような仕事を?」
「金のためだ。だが、悪い噂を広められては、今後の仕事に関わる。噂が晴れるまで待てばいいが、それでは数ヶ月の間はこうして道楽を味わえなくなる」
ネレウスは俺を睨んだ。
「お前の仕業だな、バルログの子孫め。お前こそ、魔王に連なる最高位魔族四柱の一人、その血を受け継いでいるだろうが」
「ああ、そこを突かれると弱い! 君が英雄から、金で人の命をも奪う者に変わったように、俺も邪悪な大魔族の子孫から、人を楽しませる道化師に変わったわけでね」
「私をお前の興行に付き合わせる気か?」
「いかにも。それをやらねば、我が仲間である少女が歩き出すことができないのでね。彼女の新たな人生のために、君には倒されてもらいたい」
「ははは!」
ネレウスが笑った。
思わず漏れた、と言う笑いだった。
「それは、なるほど、道楽だな。いいだろう。私は手加減抜きで行く。お前も今回は、口車で逃げようとするなよ、バルログ」
「俺の名はオーギュスト。そう呼んでもらえるとありがたいがね?」
「逃げるなよ、オーギュスト」
「興行から逃げる道化師はいないさ」
これで、興行は間違いなく執り行われる事になった。
王都に集まったお客人たちには、楽しみにしていてもらいたいものだ。
やる気に満ちているフリッカ。
だが、尋問はもう必要ないのだ。
「実は彼らの狙いや行動指針はすべて引き出し済みでね」
「自分、仕事が早いなあ!」
呆れるフリッカ。
「俺は話術関係のスキルの他、催眠術のスキルもある。これで彼らから情報を全て引き出した」
「自分、怖いやっちゃなあ……」
恐れるフリッカ。
忙しい子だ。
既に、魔王教団の本拠地から魔本の入手経路に至るまで、情報は引き出し済みだ。
彼らはさほど大きな集団では無いが、それでも一騎士団に匹敵する数の人員がいる。
まだ襲撃が起こる可能性はある。
長期戦になる前に、ネレウスを引き寄せて決着を付けてしまうのがいいだろう。
ほうぼうの村や町で、ネレウスへの挑発文を流布し、さらにあちこちのお祭り職人たちを呼び寄せたマールイ王国。
場所代を格安にすることで、職人たちが王国の入り口で屋台を広げている。
マールイ王国王都で何かがあるらしいと、観光客が集まってきた。
つい最近、王国で暴れていた盗賊団が壊滅したので、安全に旅をできるようになったのだ。
人が、王都に集まってくる。
もちろん、屋台だけでは人を引き止めてはおけない。
ネレウスがやって来るまでの間、こちらもきちんと客をもてなす準備はしていた。
まず、荒れ放題になった王都をざっと掃除する。
そして、俺が大きな壁画を描き、マールイ王国王とのビフォー&アフターを明示した。
栄えていた都が、廃墟寸前の姿に!?
というこの壁画、大変受けた。
あちこちにチェックポイントを設けて、スタンプラリーを始めた。
さらに、王城を解放し、ホテルにした。
観光客は王城で寝泊まりし、スタンプラリーを楽しみ、食事は屋台でとる。
観光地のできあがりだ。
ちなみに、中庭でせっせと働いているおじさんが、現役の国王であるキュータイ三世であることも皆に伝えてある。
自ら汗水流して畑を耕す王様に、誰もが親しみを感じたようである。
陛下にはご自身も観光資源になってもらった。
そう。
マールイ王国再建計画はスタートしているのだ。
まずは、ネレウスをダシにした観光業によって、金を手に入れる。
幸い、マールイ王国の災難は、王都に集中していた。
結果として王都がずたぼろになり、国としての体を維持できなくなった。
ここ半年間のマールイ王国の迷走に嫌気がさしていた国民たちは、上り調子なキングバイ王国の所属となることを喜んで受け入れている。
別に、海に出ろと言うわけでも、高い税を払えと言われるわけでもない。
税額は今までと変わらないし、ちょくちょくやってくる、海の民をもてなせばお金がその地域に落ちるのである。
ウィン・ウィンというやつだ。
コンパクトになったマールイ王国も、活動資金を入手してから、新たな産業づくりを始める予定である。
さあ、そのためにも、ネレウスには早く来てもらわないと……。
俺はそう思って、屋台村を視察などしている。
すると、見知った男が屋台の前の席に腰掛け、串焼き肉と平たいパンを頬張っているではないか。
青い肌に金色の瞳。
銀髪の間から四本の角が生えている。
魔族ネレウスその人である。
予想よりも到着が早い。そして大変目立っている。
きっと、あの挑発文にカッカしながらやって来たものの、屋台村に惹かれて腹ごしらえを始めたのであろう。
「美味い。これも美味い」
ぶつぶつ言いながら食べている。
俺は彼の対面に腰掛けた。
顔を上げるネレウス。
その目が、カッと見開かれた。
だが、口に物が入っているので、彼は何も言わない。
「今話すと飯が不味くなるだろう。食べ終わったら話そう」
俺の言葉に、ネレウスが頷いた。
この魔族、大変美味しそうに屋台飯を食う。
テーブルいっぱいになるほど食べ物を買い込み、それを次々に平らげていく。
何もかも腹の中に収めた後、彼は水を飲みながらため息を吐いた。
「話して構わないぞ」
「ああ。君はあれか。俺と同じように、人間を遥かに超えた長寿の魔族であろうに、金に執着するというのは……金で買えるものを楽しんでいるのか」
「よく分かったな」
ネレウスが目を丸くした。
「人は凄いぞ。私が思いもつかぬものを生み出し、広げ、発展させる。この屋台で食べられる食事など、どうだ。私が生まれた頃には存在していなかったものだ。味は濃い。材料は小麦が中心。喉が渇く。だがこれがいい。こんなに楽しい食事が、金さえあればいつでもできる」
「奪ったりはしないのかな? 君の力があれば、それくらい容易いだろう」
「仕事で得た金を使い、人が生み出した快楽を買う。これがいいんだ。金を支払い、手に入れるところも含めて意味がある」
魔族ネレウスのこだわりだった。
彼は自らの生活を、人が生み出した文化で彩り、楽しくするために金を稼いでいたのだ。
「その金のために、魔王教団に手を貸すことは相反しないのかい? 彼らが魔王を復活させたら、人の生み出したものを味わう余裕などなくなるぞ」
「魔王など復活するわけがない。それはお前も分かっているだろう?」
ネレウスは、何を当たり前のことを、という口調で告げた。
「彼らは、優れた魔族であるネレウス、君を触媒にしようと考えているが」
「無駄だ。魔王は滅びた。滅ぼした。あの時代の者たちと私が滅ぼした。既に、あれの残滓すらもこの世界には残っていない。無くなったものは、返ってはこない」
「ふむ、純血種に限りなく近い魔族……」
彼の言葉から、ネレウスという魔族の素性が分かった。
彼は、人魔大戦を終わらせた英雄であるらしい。
「それがどうして、人に恨まれるような仕事を?」
「金のためだ。だが、悪い噂を広められては、今後の仕事に関わる。噂が晴れるまで待てばいいが、それでは数ヶ月の間はこうして道楽を味わえなくなる」
ネレウスは俺を睨んだ。
「お前の仕業だな、バルログの子孫め。お前こそ、魔王に連なる最高位魔族四柱の一人、その血を受け継いでいるだろうが」
「ああ、そこを突かれると弱い! 君が英雄から、金で人の命をも奪う者に変わったように、俺も邪悪な大魔族の子孫から、人を楽しませる道化師に変わったわけでね」
「私をお前の興行に付き合わせる気か?」
「いかにも。それをやらねば、我が仲間である少女が歩き出すことができないのでね。彼女の新たな人生のために、君には倒されてもらいたい」
「ははは!」
ネレウスが笑った。
思わず漏れた、と言う笑いだった。
「それは、なるほど、道楽だな。いいだろう。私は手加減抜きで行く。お前も今回は、口車で逃げようとするなよ、バルログ」
「俺の名はオーギュスト。そう呼んでもらえるとありがたいがね?」
「逃げるなよ、オーギュスト」
「興行から逃げる道化師はいないさ」
これで、興行は間違いなく執り行われる事になった。
王都に集まったお客人たちには、楽しみにしていてもらいたいものだ。
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