84 / 107
第84話 ドワーフ鉱山異常あり
しおりを挟む
鼻歌まじりにスキップを踏みながら、ギスカが帰ってきた。
ステップの度に、ジャラジャラと音がするので、かなりの量の鉱石を買い込んだらしい。
姿を現した彼女は、カバンをパンパンにし、リュックもパンパン、さらには車輪のついた木製のカバンまで鉱石でいっぱいにしていた。
「聞いとくれ! こんなにたくさんの鉱石がお買い得でさ! アキンドー商会があたいがたくさん買うからって仕入れておいてくれたのさ! もう買い占めるしかないね! これでまた、鉱石魔法が使い放題だよ!」
弾む声色、赤らむ頬。
ギスカは喜びに満ち溢れていた。
「帰ってきたかギスカ! うげえ、なんじゃその量の鉱石は!」
そこに水を差したのが、ギスカの兄を名乗るドワーフ、ディゴであった。
彼の声を聞いて、ギスカの動きがピタッと止まった。
そして、じろりとディゴを見る。
「なんだい!! せっかく顔を見なくなってせいせいしたと思ったら、だめアニキじゃないかい! あたいが今、自分の腕一本で外の世界を渡ってるって時に、何しに来たんだい! ったく、せっかく気分良く買い物してきたのに、空気の読めない物言いなんかしてさ……。そら、帰んな帰んな!!」
「いやいやいや! 来たばかりだぞおいらは! それにおいらの用事はお前だギスカ!」
「あーあー、聞きたくない! 厄介事を持ってきたんだろう? あたいは外の世界を楽しんでるんだ! あの暗くて色のない穴蔵には戻りたくないね!」
ギスカの物言いに、イングリドが首を傾げた。
「色がない、とはどういうことだろう?」
「ああ、それはね。暗視をする時、俺たち暗視が利く種族も、夜目が慣れてきた人間も、色を感じにくくなるんだ。どうやら、暗視を司る目の仕組みが、色を排除してしまうようでね。俺たちは光の下でしか色を見ることができない。そして、ドワーフは緑と赤の色を見分けるのが苦手なんだそうだ。彼らには灰色に見える」
「そうだったのか!」
「以前もギスカが言っていただろう? ドワーフの男性は色を見分けることが不得意だ。だから、彼らの住居には色が少ない。ましてや、暗い鉱山の中で、暗視能力のあるドワーフのことだ。彼らの世界は、灰色なのかも知れない」
「そうさ!」
鼻息も荒く、ギスカが胸を張った。
「色を見分けられるのはね、ドワーフでは女の一部にしか生まれてこない才能なのさ! せっかくそんな力を持って生まれてきたのに、ずーっと鉱山の色の無い世界で暮らすなんてまっぴらさ! あたいは鉱石魔法の才能もあったから、超一流の腕を身に着けて外に飛び出してきたんだよ!」
これが、ギスカが旅立った本当の理由というやつらしい。
彼女にとって、鉱山の外の世界は色彩に満ち溢れた素晴らしい場所なのだろう。
何を求めるでもなく、ラッキークラウンの冒険にどこまでも付き合ってくれた彼女だったが、その理由はこれだったのだ。
旅をして、様々な物を見ることが、ギスカにとっての最高の報酬だったわけだな。
「頼むギスカー! 鉱山が大変なんだ! なんか地の底から、火の塊みたいなモンスターが上がってきて大騒ぎなんだ!」
「知らないよっ! 鉱山のことは鉱山でなんとかおし! あたいは帰らない! かーえーらーなーいーっ!!」
フリッカがこの様子を見て、生暖かい表情になった。
「あれやね。うち、ネレウス関係の時あんな感じだったんやね……。あー、なんちゅうかね、若いわ。うん、若いわー」
達観したようなことを言う。
だが、ディゴの言うことは聞き捨てならない内容ではある。
「ディゴ、詳しい話を聞かせてもらえないかな? ちなみにその話を仕事として依頼するには、まずギルドを通すのが筋というものでね……」
「あっ、道化師が話にずかずか入り込んできたよ! こ、これは受ける流れだね!?」
ギスカがいやいやする。
「ギスカ。君にとっては既知の世界かもしれないが、俺たちにとって鉱山は未知の世界なんだ。どういう仕組で、そこにドワーフたちが暮らしているのか。どういう生活環境になっているのか……。興味が尽きない……」
「オーギュストが完全にやる気になったので、もう止まらないな。私も、ドワーフがどういう暮らしをしてるのかは気になっていた。いいじゃないかギスカ。たまには里帰りしても。仕事が終わったらまた旅立てばいい」
「うぐううう」
なんという顔をするのだ。
本当に地元に帰りたくないのだな。
ディゴはパッと表情を明るくし、うんうんと何度も頷いた。
「そうかそうか! 助けてくれるのか! ありがてえ、ありがてえ……。これで鉱山は救われる……。おいら、あのタートル鉱山の土地勘しかねえから、あそこがダメになって他で働けって言われても自信がなくってさ……」
「うむ。基本的に人は、住まいをそう頻繁には変えないものさ。その環境で身に着けた土地勘と生活習慣は、大事な財産だからね。ではギルドを通じて我々に依頼をするように。そして詳しい話を聞かせるんだ。何から話せばいいか分からないなら、まずは俺が酒を奢ってやろう。君たちは酒を飲むと機嫌が良くなるだろう? 俺はよく知っているんだ」
「ああ~。なし崩し的に話が進んでいくよう。今日ばかりは、道化師の話の早さが恨めしいぃぃぃぃ」
しおしおとその場に崩れ落ちるギスカを、ぽんぽんと肩をたたいて慰めるイングリド。
そしていい笑顔でこう告げた。
「飲もう!」
そういうことになるのだった。
ステップの度に、ジャラジャラと音がするので、かなりの量の鉱石を買い込んだらしい。
姿を現した彼女は、カバンをパンパンにし、リュックもパンパン、さらには車輪のついた木製のカバンまで鉱石でいっぱいにしていた。
「聞いとくれ! こんなにたくさんの鉱石がお買い得でさ! アキンドー商会があたいがたくさん買うからって仕入れておいてくれたのさ! もう買い占めるしかないね! これでまた、鉱石魔法が使い放題だよ!」
弾む声色、赤らむ頬。
ギスカは喜びに満ち溢れていた。
「帰ってきたかギスカ! うげえ、なんじゃその量の鉱石は!」
そこに水を差したのが、ギスカの兄を名乗るドワーフ、ディゴであった。
彼の声を聞いて、ギスカの動きがピタッと止まった。
そして、じろりとディゴを見る。
「なんだい!! せっかく顔を見なくなってせいせいしたと思ったら、だめアニキじゃないかい! あたいが今、自分の腕一本で外の世界を渡ってるって時に、何しに来たんだい! ったく、せっかく気分良く買い物してきたのに、空気の読めない物言いなんかしてさ……。そら、帰んな帰んな!!」
「いやいやいや! 来たばかりだぞおいらは! それにおいらの用事はお前だギスカ!」
「あーあー、聞きたくない! 厄介事を持ってきたんだろう? あたいは外の世界を楽しんでるんだ! あの暗くて色のない穴蔵には戻りたくないね!」
ギスカの物言いに、イングリドが首を傾げた。
「色がない、とはどういうことだろう?」
「ああ、それはね。暗視をする時、俺たち暗視が利く種族も、夜目が慣れてきた人間も、色を感じにくくなるんだ。どうやら、暗視を司る目の仕組みが、色を排除してしまうようでね。俺たちは光の下でしか色を見ることができない。そして、ドワーフは緑と赤の色を見分けるのが苦手なんだそうだ。彼らには灰色に見える」
「そうだったのか!」
「以前もギスカが言っていただろう? ドワーフの男性は色を見分けることが不得意だ。だから、彼らの住居には色が少ない。ましてや、暗い鉱山の中で、暗視能力のあるドワーフのことだ。彼らの世界は、灰色なのかも知れない」
「そうさ!」
鼻息も荒く、ギスカが胸を張った。
「色を見分けられるのはね、ドワーフでは女の一部にしか生まれてこない才能なのさ! せっかくそんな力を持って生まれてきたのに、ずーっと鉱山の色の無い世界で暮らすなんてまっぴらさ! あたいは鉱石魔法の才能もあったから、超一流の腕を身に着けて外に飛び出してきたんだよ!」
これが、ギスカが旅立った本当の理由というやつらしい。
彼女にとって、鉱山の外の世界は色彩に満ち溢れた素晴らしい場所なのだろう。
何を求めるでもなく、ラッキークラウンの冒険にどこまでも付き合ってくれた彼女だったが、その理由はこれだったのだ。
旅をして、様々な物を見ることが、ギスカにとっての最高の報酬だったわけだな。
「頼むギスカー! 鉱山が大変なんだ! なんか地の底から、火の塊みたいなモンスターが上がってきて大騒ぎなんだ!」
「知らないよっ! 鉱山のことは鉱山でなんとかおし! あたいは帰らない! かーえーらーなーいーっ!!」
フリッカがこの様子を見て、生暖かい表情になった。
「あれやね。うち、ネレウス関係の時あんな感じだったんやね……。あー、なんちゅうかね、若いわ。うん、若いわー」
達観したようなことを言う。
だが、ディゴの言うことは聞き捨てならない内容ではある。
「ディゴ、詳しい話を聞かせてもらえないかな? ちなみにその話を仕事として依頼するには、まずギルドを通すのが筋というものでね……」
「あっ、道化師が話にずかずか入り込んできたよ! こ、これは受ける流れだね!?」
ギスカがいやいやする。
「ギスカ。君にとっては既知の世界かもしれないが、俺たちにとって鉱山は未知の世界なんだ。どういう仕組で、そこにドワーフたちが暮らしているのか。どういう生活環境になっているのか……。興味が尽きない……」
「オーギュストが完全にやる気になったので、もう止まらないな。私も、ドワーフがどういう暮らしをしてるのかは気になっていた。いいじゃないかギスカ。たまには里帰りしても。仕事が終わったらまた旅立てばいい」
「うぐううう」
なんという顔をするのだ。
本当に地元に帰りたくないのだな。
ディゴはパッと表情を明るくし、うんうんと何度も頷いた。
「そうかそうか! 助けてくれるのか! ありがてえ、ありがてえ……。これで鉱山は救われる……。おいら、あのタートル鉱山の土地勘しかねえから、あそこがダメになって他で働けって言われても自信がなくってさ……」
「うむ。基本的に人は、住まいをそう頻繁には変えないものさ。その環境で身に着けた土地勘と生活習慣は、大事な財産だからね。ではギルドを通じて我々に依頼をするように。そして詳しい話を聞かせるんだ。何から話せばいいか分からないなら、まずは俺が酒を奢ってやろう。君たちは酒を飲むと機嫌が良くなるだろう? 俺はよく知っているんだ」
「ああ~。なし崩し的に話が進んでいくよう。今日ばかりは、道化師の話の早さが恨めしいぃぃぃぃ」
しおしおとその場に崩れ落ちるギスカを、ぽんぽんと肩をたたいて慰めるイングリド。
そしていい笑顔でこう告げた。
「飲もう!」
そういうことになるのだった。
12
あなたにおすすめの小説
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?
今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。
バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。
追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。
シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。
僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~
いとうヒンジ
ファンタジー
ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。
理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。
パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。
友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。
その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。
カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。
キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。
最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた
アイイロモンペ
ファンタジー
2020.9.6.完結いたしました。
2020.9.28. 追補を入れました。
2021.4. 2. 追補を追加しました。
人が精霊と袂を分かった世界。
魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。
幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。
ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。
人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。
そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。
オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
結婚式の日に婚約者を勇者に奪われた間抜けな王太子です。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月10日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング2位
2020年11月13日「カクヨム」週間異世界ファンタジーランキング3位
2020年11月20日「カクヨム」月間異世界ファンタジーランキング5位
2021年1月6日「カクヨム」年間異世界ファンタジーランキング87位
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる