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第99話 奇妙な依頼失敗
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冒険者ギルドに戻って来て、依頼失敗の報告をする。
受付嬢が首をひねっていた。
「依頼失敗とのことですけど……誰も犠牲者は出てないんですよね……?」
「ああ。一応ね」
正確には、リザードマンが一人亡くなっている。
もう少し相互の理解が早ければな、とは思うが、あれは避けられなかった気もする。
「先方からは、失敗の詳しい話が来ていなくてですね。それに依頼は取り下げられて、必要がなくなったと……。なんでしょう、これ」
「はっはっは、ドワーフは秘密主義だったりするからね」
「そうさね。ドワーフは偏屈者ばかりだから、突然気が変わって依頼を取り下げたんだろうさ!」
俺が笑うと、ギスカも一緒に笑う。
まあこれは、笑うしか無い状況とも言えるな。
まさか、途中で遭遇したリザードマンたちに肩入れし、ドワーフ側の坑道を一つ封鎖させるように動いた……なんてのは表立って言えるものではない。
結果として、鉱山都市では若者たちのストレスがちょっと解消され、そして彼らとリザードマンの交流が始まった。
リザードマンとしても、イフリート教の聖地……という名の温泉郷の施設をドワーフが無料で作ってくれており、ウィンウィンの関係が生まれた。
将来的には、鉱山都市と温泉郷は公式に手を取り合うだろう。
あの若者たちが、鉱山都市のトップに立った時、時代が動き始めるはずだ。
俺が思いつきでやった、とんでもない仕事であったが……。
思い返してみると、悪くない結果に収まったかも知れない。
「いやあ、あたいはこれで、一生あの穴蔵に帰らなくて済むと思うとせいせいしたよ! バカ兄貴は仕事中に酒を飲んでさぼってたことがバレて、こっぴどく叱られたみたいだし。今はリザードマンのとこに住み着いて、鉱山都市に帰ってないって話だよ」
「ディゴには少し悪いことをしたなあ」
「いいんだよ! あれはあれで打たれ強いし、リザードマンの聖地にいれば酒が浴びるように飲めるんだろう? あーあ、あたいもリザードマンの酒が飲みたかったなあ……」
「ハハハ、そのうち温泉郷に遊びに行こうじゃないか」
そういう約束をしつつ、我らラッキークラウンは再び、ギルドのいつものテーブルに集まっていた。
早速、イングリドとともに酒を飲んでいたジェダ。
彼はいきなり、俺に指を突きつけてきた。
「オーギュスト! 俺はな、今度はちゃんと戦えるような仕事を希望するぞ! 俺の取り柄は殴り合うことだけなんだからな!」
「正確な自己評価やなあ」
フリッカが、うけけけけ、と笑う。
「確かに、今回は搦め手ばかりでジェダには割を食わせてしまったな。よし、今度は荒事が確定している分かりやすい仕事を選ぼう」
と言っても。
横で涼しい顔をしながら、ジョッキを干すイングリドがいる。
彼女がいると、幸運スキルが働いてか、普通に見える依頼がおかしな方向に変わっていくのだよな。
今回も結果だけを見ると、いい塩梅に収まった。
幸運スキルが手助けした結果に思えてならない。
しかし、俺が思うに、イングリドの幸運スキルには何かの意図があるのではないだろうか。
ガットルテ王国に対する、まつろわぬ民の反乱を防いだ。
マールイ王国の崩壊を防げるタイミングで、俺をあの地へと導いた。
そして温泉郷……は関係ないか。
いやいや、バルログに関する意外な話を聞いたではないか。
幸運スキルはもしかすると、世界の平穏を保つバランサー的な役割を果たしているのかも知れない。
イングリド一人では、これを活かせなかっただろう。
俺一人では、この世界で起きる多種の事件に気付くことができなかっただろう。
不思議だ……。
「ど、どうしたんだオーギュスト。私の顔をじーっと見て」
「ああ、いやいや。なんとなくね」
「そうか。変なやつだな」
ちょっと落ち着かなげに、ジョッキに口をつけるイングリド。
いかんいかん。
人を凝視するものではないな。
さあて、幸運スキルが世界のバランサーだとして……それが明らかに、現在この世界を構成している国家……言わば体制側の味方をするのはなぜだろうか。
まつろわぬ民も、魔王教団も、幸運スキルからすると排除する対象のような扱いだった。
彼らは選ばれなかったのか?
彼らが現体制をひっくり返して作り上げる、新たな社会は望まれていないのか。
俺からすると、望まれるわけがない、という結論になる。
憎しみから起こった運動が世界を変えたとして、その先に分かりやすい幸福のビジョンはない。
つまり、あの復讐者たちは、世界に存在する人々の最大幸福のための妨げとみなされたのではないだろうか?
幸運スキルは、それを選別する仕組みなのか?
だとしたら誰が仕組んだのか。
この辺りは、案外ネレウスが詳しい可能性がある。
俺が知る限りでは、過去の大戦から生き残っている唯一の人物だ。
彼に一度会って話を聞いてもいいかも知れない。
「ところでイングリド」
「うん? どうしたんだ?」
「君は幸運スキルを持っているが、同じように運が良かった人間は、君のご先祖様などにいるかな? まあ、つまりガットルテの王の血筋ということになるだろうが」
「そうだなあ」
イングリドが考え込んだ。
「建国した初代が、思わぬ幸運に導かれてガットルテ王国を作り上げたという話はある。この土地に住む民の一人だったが、大戦が終わった直後の混乱の中、人々を救うために立ち上がったそうだ。もともと、魔王ターコワサを打ち倒したという英雄とも親しかったそうだが」
「それか……!」
なんとなく、幸運スキルとは何なのかという話に、答えが見つかりそうな気がしてくる。
これからしばらくは、仕事を受けずにのんびりする予定だ。
この間に、色々調べてみてもいいかも知れない。
そう思った矢先だった。
アキンドー商会の男が、ギルドに飛び込んできたのである。
「た、大変だ! うちの番頭が刺されて……! 子どもたちが消えた!」
「なんだって!?」
子どもたちと聞いて思い出すのは、俺とイングリドが救い出した、ジョノーキン村の子どもたちだ。
またまた、何かが起ころうとしているのか。
受付嬢が首をひねっていた。
「依頼失敗とのことですけど……誰も犠牲者は出てないんですよね……?」
「ああ。一応ね」
正確には、リザードマンが一人亡くなっている。
もう少し相互の理解が早ければな、とは思うが、あれは避けられなかった気もする。
「先方からは、失敗の詳しい話が来ていなくてですね。それに依頼は取り下げられて、必要がなくなったと……。なんでしょう、これ」
「はっはっは、ドワーフは秘密主義だったりするからね」
「そうさね。ドワーフは偏屈者ばかりだから、突然気が変わって依頼を取り下げたんだろうさ!」
俺が笑うと、ギスカも一緒に笑う。
まあこれは、笑うしか無い状況とも言えるな。
まさか、途中で遭遇したリザードマンたちに肩入れし、ドワーフ側の坑道を一つ封鎖させるように動いた……なんてのは表立って言えるものではない。
結果として、鉱山都市では若者たちのストレスがちょっと解消され、そして彼らとリザードマンの交流が始まった。
リザードマンとしても、イフリート教の聖地……という名の温泉郷の施設をドワーフが無料で作ってくれており、ウィンウィンの関係が生まれた。
将来的には、鉱山都市と温泉郷は公式に手を取り合うだろう。
あの若者たちが、鉱山都市のトップに立った時、時代が動き始めるはずだ。
俺が思いつきでやった、とんでもない仕事であったが……。
思い返してみると、悪くない結果に収まったかも知れない。
「いやあ、あたいはこれで、一生あの穴蔵に帰らなくて済むと思うとせいせいしたよ! バカ兄貴は仕事中に酒を飲んでさぼってたことがバレて、こっぴどく叱られたみたいだし。今はリザードマンのとこに住み着いて、鉱山都市に帰ってないって話だよ」
「ディゴには少し悪いことをしたなあ」
「いいんだよ! あれはあれで打たれ強いし、リザードマンの聖地にいれば酒が浴びるように飲めるんだろう? あーあ、あたいもリザードマンの酒が飲みたかったなあ……」
「ハハハ、そのうち温泉郷に遊びに行こうじゃないか」
そういう約束をしつつ、我らラッキークラウンは再び、ギルドのいつものテーブルに集まっていた。
早速、イングリドとともに酒を飲んでいたジェダ。
彼はいきなり、俺に指を突きつけてきた。
「オーギュスト! 俺はな、今度はちゃんと戦えるような仕事を希望するぞ! 俺の取り柄は殴り合うことだけなんだからな!」
「正確な自己評価やなあ」
フリッカが、うけけけけ、と笑う。
「確かに、今回は搦め手ばかりでジェダには割を食わせてしまったな。よし、今度は荒事が確定している分かりやすい仕事を選ぼう」
と言っても。
横で涼しい顔をしながら、ジョッキを干すイングリドがいる。
彼女がいると、幸運スキルが働いてか、普通に見える依頼がおかしな方向に変わっていくのだよな。
今回も結果だけを見ると、いい塩梅に収まった。
幸運スキルが手助けした結果に思えてならない。
しかし、俺が思うに、イングリドの幸運スキルには何かの意図があるのではないだろうか。
ガットルテ王国に対する、まつろわぬ民の反乱を防いだ。
マールイ王国の崩壊を防げるタイミングで、俺をあの地へと導いた。
そして温泉郷……は関係ないか。
いやいや、バルログに関する意外な話を聞いたではないか。
幸運スキルはもしかすると、世界の平穏を保つバランサー的な役割を果たしているのかも知れない。
イングリド一人では、これを活かせなかっただろう。
俺一人では、この世界で起きる多種の事件に気付くことができなかっただろう。
不思議だ……。
「ど、どうしたんだオーギュスト。私の顔をじーっと見て」
「ああ、いやいや。なんとなくね」
「そうか。変なやつだな」
ちょっと落ち着かなげに、ジョッキに口をつけるイングリド。
いかんいかん。
人を凝視するものではないな。
さあて、幸運スキルが世界のバランサーだとして……それが明らかに、現在この世界を構成している国家……言わば体制側の味方をするのはなぜだろうか。
まつろわぬ民も、魔王教団も、幸運スキルからすると排除する対象のような扱いだった。
彼らは選ばれなかったのか?
彼らが現体制をひっくり返して作り上げる、新たな社会は望まれていないのか。
俺からすると、望まれるわけがない、という結論になる。
憎しみから起こった運動が世界を変えたとして、その先に分かりやすい幸福のビジョンはない。
つまり、あの復讐者たちは、世界に存在する人々の最大幸福のための妨げとみなされたのではないだろうか?
幸運スキルは、それを選別する仕組みなのか?
だとしたら誰が仕組んだのか。
この辺りは、案外ネレウスが詳しい可能性がある。
俺が知る限りでは、過去の大戦から生き残っている唯一の人物だ。
彼に一度会って話を聞いてもいいかも知れない。
「ところでイングリド」
「うん? どうしたんだ?」
「君は幸運スキルを持っているが、同じように運が良かった人間は、君のご先祖様などにいるかな? まあ、つまりガットルテの王の血筋ということになるだろうが」
「そうだなあ」
イングリドが考え込んだ。
「建国した初代が、思わぬ幸運に導かれてガットルテ王国を作り上げたという話はある。この土地に住む民の一人だったが、大戦が終わった直後の混乱の中、人々を救うために立ち上がったそうだ。もともと、魔王ターコワサを打ち倒したという英雄とも親しかったそうだが」
「それか……!」
なんとなく、幸運スキルとは何なのかという話に、答えが見つかりそうな気がしてくる。
これからしばらくは、仕事を受けずにのんびりする予定だ。
この間に、色々調べてみてもいいかも知れない。
そう思った矢先だった。
アキンドー商会の男が、ギルドに飛び込んできたのである。
「た、大変だ! うちの番頭が刺されて……! 子どもたちが消えた!」
「なんだって!?」
子どもたちと聞いて思い出すのは、俺とイングリドが救い出した、ジョノーキン村の子どもたちだ。
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