99 / 107
第99話 奇妙な依頼失敗
しおりを挟む
冒険者ギルドに戻って来て、依頼失敗の報告をする。
受付嬢が首をひねっていた。
「依頼失敗とのことですけど……誰も犠牲者は出てないんですよね……?」
「ああ。一応ね」
正確には、リザードマンが一人亡くなっている。
もう少し相互の理解が早ければな、とは思うが、あれは避けられなかった気もする。
「先方からは、失敗の詳しい話が来ていなくてですね。それに依頼は取り下げられて、必要がなくなったと……。なんでしょう、これ」
「はっはっは、ドワーフは秘密主義だったりするからね」
「そうさね。ドワーフは偏屈者ばかりだから、突然気が変わって依頼を取り下げたんだろうさ!」
俺が笑うと、ギスカも一緒に笑う。
まあこれは、笑うしか無い状況とも言えるな。
まさか、途中で遭遇したリザードマンたちに肩入れし、ドワーフ側の坑道を一つ封鎖させるように動いた……なんてのは表立って言えるものではない。
結果として、鉱山都市では若者たちのストレスがちょっと解消され、そして彼らとリザードマンの交流が始まった。
リザードマンとしても、イフリート教の聖地……という名の温泉郷の施設をドワーフが無料で作ってくれており、ウィンウィンの関係が生まれた。
将来的には、鉱山都市と温泉郷は公式に手を取り合うだろう。
あの若者たちが、鉱山都市のトップに立った時、時代が動き始めるはずだ。
俺が思いつきでやった、とんでもない仕事であったが……。
思い返してみると、悪くない結果に収まったかも知れない。
「いやあ、あたいはこれで、一生あの穴蔵に帰らなくて済むと思うとせいせいしたよ! バカ兄貴は仕事中に酒を飲んでさぼってたことがバレて、こっぴどく叱られたみたいだし。今はリザードマンのとこに住み着いて、鉱山都市に帰ってないって話だよ」
「ディゴには少し悪いことをしたなあ」
「いいんだよ! あれはあれで打たれ強いし、リザードマンの聖地にいれば酒が浴びるように飲めるんだろう? あーあ、あたいもリザードマンの酒が飲みたかったなあ……」
「ハハハ、そのうち温泉郷に遊びに行こうじゃないか」
そういう約束をしつつ、我らラッキークラウンは再び、ギルドのいつものテーブルに集まっていた。
早速、イングリドとともに酒を飲んでいたジェダ。
彼はいきなり、俺に指を突きつけてきた。
「オーギュスト! 俺はな、今度はちゃんと戦えるような仕事を希望するぞ! 俺の取り柄は殴り合うことだけなんだからな!」
「正確な自己評価やなあ」
フリッカが、うけけけけ、と笑う。
「確かに、今回は搦め手ばかりでジェダには割を食わせてしまったな。よし、今度は荒事が確定している分かりやすい仕事を選ぼう」
と言っても。
横で涼しい顔をしながら、ジョッキを干すイングリドがいる。
彼女がいると、幸運スキルが働いてか、普通に見える依頼がおかしな方向に変わっていくのだよな。
今回も結果だけを見ると、いい塩梅に収まった。
幸運スキルが手助けした結果に思えてならない。
しかし、俺が思うに、イングリドの幸運スキルには何かの意図があるのではないだろうか。
ガットルテ王国に対する、まつろわぬ民の反乱を防いだ。
マールイ王国の崩壊を防げるタイミングで、俺をあの地へと導いた。
そして温泉郷……は関係ないか。
いやいや、バルログに関する意外な話を聞いたではないか。
幸運スキルはもしかすると、世界の平穏を保つバランサー的な役割を果たしているのかも知れない。
イングリド一人では、これを活かせなかっただろう。
俺一人では、この世界で起きる多種の事件に気付くことができなかっただろう。
不思議だ……。
「ど、どうしたんだオーギュスト。私の顔をじーっと見て」
「ああ、いやいや。なんとなくね」
「そうか。変なやつだな」
ちょっと落ち着かなげに、ジョッキに口をつけるイングリド。
いかんいかん。
人を凝視するものではないな。
さあて、幸運スキルが世界のバランサーだとして……それが明らかに、現在この世界を構成している国家……言わば体制側の味方をするのはなぜだろうか。
まつろわぬ民も、魔王教団も、幸運スキルからすると排除する対象のような扱いだった。
彼らは選ばれなかったのか?
彼らが現体制をひっくり返して作り上げる、新たな社会は望まれていないのか。
俺からすると、望まれるわけがない、という結論になる。
憎しみから起こった運動が世界を変えたとして、その先に分かりやすい幸福のビジョンはない。
つまり、あの復讐者たちは、世界に存在する人々の最大幸福のための妨げとみなされたのではないだろうか?
幸運スキルは、それを選別する仕組みなのか?
だとしたら誰が仕組んだのか。
この辺りは、案外ネレウスが詳しい可能性がある。
俺が知る限りでは、過去の大戦から生き残っている唯一の人物だ。
彼に一度会って話を聞いてもいいかも知れない。
「ところでイングリド」
「うん? どうしたんだ?」
「君は幸運スキルを持っているが、同じように運が良かった人間は、君のご先祖様などにいるかな? まあ、つまりガットルテの王の血筋ということになるだろうが」
「そうだなあ」
イングリドが考え込んだ。
「建国した初代が、思わぬ幸運に導かれてガットルテ王国を作り上げたという話はある。この土地に住む民の一人だったが、大戦が終わった直後の混乱の中、人々を救うために立ち上がったそうだ。もともと、魔王ターコワサを打ち倒したという英雄とも親しかったそうだが」
「それか……!」
なんとなく、幸運スキルとは何なのかという話に、答えが見つかりそうな気がしてくる。
これからしばらくは、仕事を受けずにのんびりする予定だ。
この間に、色々調べてみてもいいかも知れない。
そう思った矢先だった。
アキンドー商会の男が、ギルドに飛び込んできたのである。
「た、大変だ! うちの番頭が刺されて……! 子どもたちが消えた!」
「なんだって!?」
子どもたちと聞いて思い出すのは、俺とイングリドが救い出した、ジョノーキン村の子どもたちだ。
またまた、何かが起ころうとしているのか。
受付嬢が首をひねっていた。
「依頼失敗とのことですけど……誰も犠牲者は出てないんですよね……?」
「ああ。一応ね」
正確には、リザードマンが一人亡くなっている。
もう少し相互の理解が早ければな、とは思うが、あれは避けられなかった気もする。
「先方からは、失敗の詳しい話が来ていなくてですね。それに依頼は取り下げられて、必要がなくなったと……。なんでしょう、これ」
「はっはっは、ドワーフは秘密主義だったりするからね」
「そうさね。ドワーフは偏屈者ばかりだから、突然気が変わって依頼を取り下げたんだろうさ!」
俺が笑うと、ギスカも一緒に笑う。
まあこれは、笑うしか無い状況とも言えるな。
まさか、途中で遭遇したリザードマンたちに肩入れし、ドワーフ側の坑道を一つ封鎖させるように動いた……なんてのは表立って言えるものではない。
結果として、鉱山都市では若者たちのストレスがちょっと解消され、そして彼らとリザードマンの交流が始まった。
リザードマンとしても、イフリート教の聖地……という名の温泉郷の施設をドワーフが無料で作ってくれており、ウィンウィンの関係が生まれた。
将来的には、鉱山都市と温泉郷は公式に手を取り合うだろう。
あの若者たちが、鉱山都市のトップに立った時、時代が動き始めるはずだ。
俺が思いつきでやった、とんでもない仕事であったが……。
思い返してみると、悪くない結果に収まったかも知れない。
「いやあ、あたいはこれで、一生あの穴蔵に帰らなくて済むと思うとせいせいしたよ! バカ兄貴は仕事中に酒を飲んでさぼってたことがバレて、こっぴどく叱られたみたいだし。今はリザードマンのとこに住み着いて、鉱山都市に帰ってないって話だよ」
「ディゴには少し悪いことをしたなあ」
「いいんだよ! あれはあれで打たれ強いし、リザードマンの聖地にいれば酒が浴びるように飲めるんだろう? あーあ、あたいもリザードマンの酒が飲みたかったなあ……」
「ハハハ、そのうち温泉郷に遊びに行こうじゃないか」
そういう約束をしつつ、我らラッキークラウンは再び、ギルドのいつものテーブルに集まっていた。
早速、イングリドとともに酒を飲んでいたジェダ。
彼はいきなり、俺に指を突きつけてきた。
「オーギュスト! 俺はな、今度はちゃんと戦えるような仕事を希望するぞ! 俺の取り柄は殴り合うことだけなんだからな!」
「正確な自己評価やなあ」
フリッカが、うけけけけ、と笑う。
「確かに、今回は搦め手ばかりでジェダには割を食わせてしまったな。よし、今度は荒事が確定している分かりやすい仕事を選ぼう」
と言っても。
横で涼しい顔をしながら、ジョッキを干すイングリドがいる。
彼女がいると、幸運スキルが働いてか、普通に見える依頼がおかしな方向に変わっていくのだよな。
今回も結果だけを見ると、いい塩梅に収まった。
幸運スキルが手助けした結果に思えてならない。
しかし、俺が思うに、イングリドの幸運スキルには何かの意図があるのではないだろうか。
ガットルテ王国に対する、まつろわぬ民の反乱を防いだ。
マールイ王国の崩壊を防げるタイミングで、俺をあの地へと導いた。
そして温泉郷……は関係ないか。
いやいや、バルログに関する意外な話を聞いたではないか。
幸運スキルはもしかすると、世界の平穏を保つバランサー的な役割を果たしているのかも知れない。
イングリド一人では、これを活かせなかっただろう。
俺一人では、この世界で起きる多種の事件に気付くことができなかっただろう。
不思議だ……。
「ど、どうしたんだオーギュスト。私の顔をじーっと見て」
「ああ、いやいや。なんとなくね」
「そうか。変なやつだな」
ちょっと落ち着かなげに、ジョッキに口をつけるイングリド。
いかんいかん。
人を凝視するものではないな。
さあて、幸運スキルが世界のバランサーだとして……それが明らかに、現在この世界を構成している国家……言わば体制側の味方をするのはなぜだろうか。
まつろわぬ民も、魔王教団も、幸運スキルからすると排除する対象のような扱いだった。
彼らは選ばれなかったのか?
彼らが現体制をひっくり返して作り上げる、新たな社会は望まれていないのか。
俺からすると、望まれるわけがない、という結論になる。
憎しみから起こった運動が世界を変えたとして、その先に分かりやすい幸福のビジョンはない。
つまり、あの復讐者たちは、世界に存在する人々の最大幸福のための妨げとみなされたのではないだろうか?
幸運スキルは、それを選別する仕組みなのか?
だとしたら誰が仕組んだのか。
この辺りは、案外ネレウスが詳しい可能性がある。
俺が知る限りでは、過去の大戦から生き残っている唯一の人物だ。
彼に一度会って話を聞いてもいいかも知れない。
「ところでイングリド」
「うん? どうしたんだ?」
「君は幸運スキルを持っているが、同じように運が良かった人間は、君のご先祖様などにいるかな? まあ、つまりガットルテの王の血筋ということになるだろうが」
「そうだなあ」
イングリドが考え込んだ。
「建国した初代が、思わぬ幸運に導かれてガットルテ王国を作り上げたという話はある。この土地に住む民の一人だったが、大戦が終わった直後の混乱の中、人々を救うために立ち上がったそうだ。もともと、魔王ターコワサを打ち倒したという英雄とも親しかったそうだが」
「それか……!」
なんとなく、幸運スキルとは何なのかという話に、答えが見つかりそうな気がしてくる。
これからしばらくは、仕事を受けずにのんびりする予定だ。
この間に、色々調べてみてもいいかも知れない。
そう思った矢先だった。
アキンドー商会の男が、ギルドに飛び込んできたのである。
「た、大変だ! うちの番頭が刺されて……! 子どもたちが消えた!」
「なんだって!?」
子どもたちと聞いて思い出すのは、俺とイングリドが救い出した、ジョノーキン村の子どもたちだ。
またまた、何かが起ころうとしているのか。
13
あなたにおすすめの小説
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?
今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。
バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。
追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。
シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。
僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~
いとうヒンジ
ファンタジー
ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。
理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。
パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。
友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。
その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。
カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。
キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。
最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた
アイイロモンペ
ファンタジー
2020.9.6.完結いたしました。
2020.9.28. 追補を入れました。
2021.4. 2. 追補を追加しました。
人が精霊と袂を分かった世界。
魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。
幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。
ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。
人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。
そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。
オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
結婚式の日に婚約者を勇者に奪われた間抜けな王太子です。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月10日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング2位
2020年11月13日「カクヨム」週間異世界ファンタジーランキング3位
2020年11月20日「カクヨム」月間異世界ファンタジーランキング5位
2021年1月6日「カクヨム」年間異世界ファンタジーランキング87位
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる