105 / 107
第105話 殴って浄化
しおりを挟む
「うおおおおお!!」
『ぬおおおおおお!!』
ジェダと悪霊がぶつかり合っている。
受肉した悪霊なら、ジェダでも存分に殴り合えるというものだ。
仲間のフラストレーションを解消しつつ、実体のない悪霊も倒せる一挙両得の作戦だ。
「出費は痛かったが……なに、また仕事で取り返せばいい。いや、俺はおかげで全く豊かになっていないな……?」
いかんいかん、そんな事を興行中に考えるものではない。
ジェダが実に楽しそうに、悪霊の宿った人形と殴り合いを繰り広げる。
だが、悪霊もそれだけで足を止められてはいない。
周囲にある材木や、石ころなどが浮かび上がり……これが周辺に向かって飛び散っていく。
念動力によるポルターガイスト現象というやつだろう。
俺はその一部を、ショートソードで撃ち落とす。
他はギスカにおまかせだ。
彼女は小さい標的に対して攻撃するのは、それほど得意ではない。
だが、広範囲の飛ぶものを撃ち落とすならばお任せなのだ。
「そおら、屑石よ、力をお貸し! 飛んで散らばり爆ぜて終い! ストーンブラスト!!」
ギスカの手にした鉱石の欠片が次々に飛び上がり、ポルターガイストに操られた木材や石ころを迎撃する。
「こっちは任せときな! あんたらで仕留めちゃって!」
「いつも感謝だギスカ」
イングリドがにこやかに礼を言い、最前線へと踏み込んだ。
甲冑の騎士となった人形が腕を振り回す。
腕の一本を、イングリドが槍で受け止めた。
そして力任せに弾き飛ばす。
おっと、人形が四肢を切り離した。
ポルターガイストで、自分が宿った体ごと分離攻撃をしてくるつもりだ。
「ジェダ! モードイーグル!」
「おうっ!!」
ジェダが飛び上がる。
その姿が大鷲に変わった。
状況に合わせたフリッカの判断である。
成長したなあ。
「オーギュスト! 何を後ろで満足そうに頷きながら見てるんや!! こないな奴、あんたなら一瞬やろ!!」
「今手抜きをしていると思われるような発言はやめて欲しいなあ」
営業に差し障りがある。
俺はショートソードをぶら下げながら駆けつけた。
あまりに人数がいると、前衛がとっちらかって見栄えがよろしくないのだが。
しかしまあ、こうしてバラバラになって攻撃してくるのならばいいか。
ばらけた人形の手足が宙を舞う姿は、本来は不気味なもの。
しかし、俺の演出でこれが演劇の出し物のように見えているのか、観客はやんややんやと喝采するばかりである。
良いことだ。
悪霊はついでとばかりに、手足を観客に向けて放とうとする。
ここに、俺が懐から取り出したナイフを投げつける。
刃の先端に、鞘をつけたままのナイフだ。
刺すのではなく、ぶつかる。
『ぬうおっ!』
空飛ぶ腕を弾き飛ばされ、悪霊がうめいた。
ナイフの後ろには糸がついており、これによって俺が引き戻して再び使うことができる。
『おのれっ、おのれっ、おのれおのれおのれっ!!』
「観客の安全には常に気を配っている! さあさあ、うかうかしているとお前の魔力が尽きてしまうぞ? 子どもの中に隠れ潜んでいた間は魔力を節約できていたのだろうが、今は全開で使わなければ俺たちに押し切られてしまうからな!」
声高に、悪霊を挑発する。
時間は夕暮れ。
もうすぐ日は沈む。
そうなってしまえば、この舞台の視認性は悪くなる。
観客が楽しむだけの余裕もなくなるだろう。
故に、ここでさっさと決める。
『うるさいっ!! ガキどもを使ってわしの信仰を広めるつもりだった! わしだけが残ればいい! わしが存在するためには信仰が! そしてエサとしての怒りと憎しみが必要なのだ!! だからそれを広めているのだ! わしの邪魔をするなあっ!!』
素晴らしい!
悪霊の本音を、周囲一帯へと知らしめる事ができた!
観客の目に、怒りの炎が灯るのが分かる。
身勝手で、理想もなく、しかし口先だけの共感を餌にして人々の人生を弄んだ。
それがこの悪霊の正体なのだ。
既に、子どもたちへ向けられる目線は同情の混じったものばかりだ。
そう。
彼らは利用された。
悪いのは全て、この悪霊。
まつろわぬ民の成れの果てだ。
「なんてやつだ!!」
「そうか、こいつが悪いのか!」
「子どもたちは利用されたんだな!」
口々に、観客が叫ぶ声が、彼らの中でストーリーを作り上げていく。
アキンドー商会に世話された子どもが、番頭を刺して逃げたという事件は知れ渡っている。
だがそれは、悪霊によって操られていたのだ。
その悪霊は子どもたちが生まれた村に存在していて、村人たちも悪霊が殺した。
さらに、悪霊はガットルテ王国にドラゴンゾンビを仕向けてきたのである。
そして、それもこれも、悪霊が自分のためだけにやったこと。
つまり……。
悪霊が全て悪い!
「ラッキークラウン、やっちまえー!!」
「悪霊をぶっ倒せー!!」
「またかっこいいところをみせてー!!」
声援が一段と大きくなった。
『ぬ、ぬぐわああああっ!? これは……! わしに対する信仰がどこにもない! どこにも!』
「いかにも! お前が付け入ることのできる、人々の心の隙間を封じさせてもらった。お前は俺たちを倒したとしても、観客を信者に変えることはできない! いつまで、信仰によって形作られたお前の体が持つかな……!?」
『おのれ! おのれ! 何だお前は! 何者だ!! わしの邪魔をして、わしを滅ぼそうとするお前は一体、何者だーっ!!』
俺は気取った仕草で、悪霊に一礼した。
「道化師にございます!」
『ぬおおおおおお!!』
ジェダと悪霊がぶつかり合っている。
受肉した悪霊なら、ジェダでも存分に殴り合えるというものだ。
仲間のフラストレーションを解消しつつ、実体のない悪霊も倒せる一挙両得の作戦だ。
「出費は痛かったが……なに、また仕事で取り返せばいい。いや、俺はおかげで全く豊かになっていないな……?」
いかんいかん、そんな事を興行中に考えるものではない。
ジェダが実に楽しそうに、悪霊の宿った人形と殴り合いを繰り広げる。
だが、悪霊もそれだけで足を止められてはいない。
周囲にある材木や、石ころなどが浮かび上がり……これが周辺に向かって飛び散っていく。
念動力によるポルターガイスト現象というやつだろう。
俺はその一部を、ショートソードで撃ち落とす。
他はギスカにおまかせだ。
彼女は小さい標的に対して攻撃するのは、それほど得意ではない。
だが、広範囲の飛ぶものを撃ち落とすならばお任せなのだ。
「そおら、屑石よ、力をお貸し! 飛んで散らばり爆ぜて終い! ストーンブラスト!!」
ギスカの手にした鉱石の欠片が次々に飛び上がり、ポルターガイストに操られた木材や石ころを迎撃する。
「こっちは任せときな! あんたらで仕留めちゃって!」
「いつも感謝だギスカ」
イングリドがにこやかに礼を言い、最前線へと踏み込んだ。
甲冑の騎士となった人形が腕を振り回す。
腕の一本を、イングリドが槍で受け止めた。
そして力任せに弾き飛ばす。
おっと、人形が四肢を切り離した。
ポルターガイストで、自分が宿った体ごと分離攻撃をしてくるつもりだ。
「ジェダ! モードイーグル!」
「おうっ!!」
ジェダが飛び上がる。
その姿が大鷲に変わった。
状況に合わせたフリッカの判断である。
成長したなあ。
「オーギュスト! 何を後ろで満足そうに頷きながら見てるんや!! こないな奴、あんたなら一瞬やろ!!」
「今手抜きをしていると思われるような発言はやめて欲しいなあ」
営業に差し障りがある。
俺はショートソードをぶら下げながら駆けつけた。
あまりに人数がいると、前衛がとっちらかって見栄えがよろしくないのだが。
しかしまあ、こうしてバラバラになって攻撃してくるのならばいいか。
ばらけた人形の手足が宙を舞う姿は、本来は不気味なもの。
しかし、俺の演出でこれが演劇の出し物のように見えているのか、観客はやんややんやと喝采するばかりである。
良いことだ。
悪霊はついでとばかりに、手足を観客に向けて放とうとする。
ここに、俺が懐から取り出したナイフを投げつける。
刃の先端に、鞘をつけたままのナイフだ。
刺すのではなく、ぶつかる。
『ぬうおっ!』
空飛ぶ腕を弾き飛ばされ、悪霊がうめいた。
ナイフの後ろには糸がついており、これによって俺が引き戻して再び使うことができる。
『おのれっ、おのれっ、おのれおのれおのれっ!!』
「観客の安全には常に気を配っている! さあさあ、うかうかしているとお前の魔力が尽きてしまうぞ? 子どもの中に隠れ潜んでいた間は魔力を節約できていたのだろうが、今は全開で使わなければ俺たちに押し切られてしまうからな!」
声高に、悪霊を挑発する。
時間は夕暮れ。
もうすぐ日は沈む。
そうなってしまえば、この舞台の視認性は悪くなる。
観客が楽しむだけの余裕もなくなるだろう。
故に、ここでさっさと決める。
『うるさいっ!! ガキどもを使ってわしの信仰を広めるつもりだった! わしだけが残ればいい! わしが存在するためには信仰が! そしてエサとしての怒りと憎しみが必要なのだ!! だからそれを広めているのだ! わしの邪魔をするなあっ!!』
素晴らしい!
悪霊の本音を、周囲一帯へと知らしめる事ができた!
観客の目に、怒りの炎が灯るのが分かる。
身勝手で、理想もなく、しかし口先だけの共感を餌にして人々の人生を弄んだ。
それがこの悪霊の正体なのだ。
既に、子どもたちへ向けられる目線は同情の混じったものばかりだ。
そう。
彼らは利用された。
悪いのは全て、この悪霊。
まつろわぬ民の成れの果てだ。
「なんてやつだ!!」
「そうか、こいつが悪いのか!」
「子どもたちは利用されたんだな!」
口々に、観客が叫ぶ声が、彼らの中でストーリーを作り上げていく。
アキンドー商会に世話された子どもが、番頭を刺して逃げたという事件は知れ渡っている。
だがそれは、悪霊によって操られていたのだ。
その悪霊は子どもたちが生まれた村に存在していて、村人たちも悪霊が殺した。
さらに、悪霊はガットルテ王国にドラゴンゾンビを仕向けてきたのである。
そして、それもこれも、悪霊が自分のためだけにやったこと。
つまり……。
悪霊が全て悪い!
「ラッキークラウン、やっちまえー!!」
「悪霊をぶっ倒せー!!」
「またかっこいいところをみせてー!!」
声援が一段と大きくなった。
『ぬ、ぬぐわああああっ!? これは……! わしに対する信仰がどこにもない! どこにも!』
「いかにも! お前が付け入ることのできる、人々の心の隙間を封じさせてもらった。お前は俺たちを倒したとしても、観客を信者に変えることはできない! いつまで、信仰によって形作られたお前の体が持つかな……!?」
『おのれ! おのれ! 何だお前は! 何者だ!! わしの邪魔をして、わしを滅ぼそうとするお前は一体、何者だーっ!!』
俺は気取った仕草で、悪霊に一礼した。
「道化師にございます!」
11
あなたにおすすめの小説
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?
今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。
バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。
追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。
シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。
僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~
いとうヒンジ
ファンタジー
ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。
理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。
パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。
友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。
その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。
カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。
キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。
最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた
アイイロモンペ
ファンタジー
2020.9.6.完結いたしました。
2020.9.28. 追補を入れました。
2021.4. 2. 追補を追加しました。
人が精霊と袂を分かった世界。
魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。
幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。
ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。
人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。
そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。
オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
結婚式の日に婚約者を勇者に奪われた間抜けな王太子です。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月10日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング2位
2020年11月13日「カクヨム」週間異世界ファンタジーランキング3位
2020年11月20日「カクヨム」月間異世界ファンタジーランキング5位
2021年1月6日「カクヨム」年間異世界ファンタジーランキング87位
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる