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第一部:都市国家アドポリスの冒険 5
第22話 カトブレパス対処法 その2
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「おふぁようございまふ」
クルミがやっと起きてきた。
かなり長く寝たなあ。
俺が寝て、起きてもまだ寝てたもんな。
すっかり日が高い。
カトブレパス対策は明け方が楽だったんだけど、まあ仕方ないか。
「はい、クルミ、これ」
俺はクリーム状にしたマンドラゴラを差し出す。
「毒だから飲んじゃだめだよ。朝ごはん食べたら体に塗って」
「なんです?」
「マンドラゴラ。死の呪い避けの軟膏ね」
「しののろいです? ふうん?」
よく分かってない。
ナッツと干し肉とビスケットの朝食を終え、ごくごく水を飲む。
その後、軟膏をしっかり体に塗り込んだ。
クルミは俺の後ろでもぞもぞやっている。
「ブラン、ちゃんとクルミは軟膏塗ってる?」
後ろを見たら何か言われそうなので、ブランを通して確認だ。
『わおん』
ちゃんと塗ってますとも、と返すブラン。
「ふわー、べたべたしますう」
クルミが不服そうな声を上げた。
もう準備はいいだろうと振り返ると、彼女の尻尾が軟膏でべっとりとしていた。
あー、そうだよなあ。
モフモフも小さくまとめられちゃうよな。
ちょっと残念だが、カトブレパス対策には仕方ない。
さあ、仕事だ。
テントから出ると、村長や村の人々が迎えてくれた。
「おはよう、冒険者の方々。この間の冒険者は戻ってこなかったが、あんたらは大丈夫かのう……」
心配そうに村長が聞いてくる。
「ああ。カトブレパスにやられると死体を回収できないですからね。大丈夫、対策を立ててきてますから。死の呪いは致命的ですが、対策すれば割と容易に無効化できるんですよ」
「む、無効化……!? 失礼だが、この間の冒険者は6人いたし、鎧と槍を持った戦士や、魔法使いなど強そうな方々ばかりだった。あんたらはどう見ても、軽装のあんたと小さい女の子、それに大きな犬じゃないか。大丈夫なのかい……?」
「見た目で冒険者するわけじゃないですからね。それに、死の呪いの前には鎧や魔法は無意味ですよ。まあ見てて下さい。昼には戻ってきます」
「昼には!?」
村人達が驚いて声を上げた。
俺達はブランに乗って出発する。
「んもー。失礼しちゃいます」
クルミがぷりぷりと怒っている。
「仕方ないよ。俺達の見た目はなかなか頼りないからね」
「クルミはこう見えて立派なレディなんです! 小さい女の子じゃないです!」
「あ、そっち……?」
ブランが笑っている。
──と思ったら、彼がひくひく鼻を動かした。
『わん』
「人間のにおい? ちょっと行ってみて」
『わおん』
においがするという方向を目指す俺達。
そこは、沼に近い林の中。
誰かが仰向けに倒れていた。
鎧が見える。
「おーい」
ブランから降りて声をかける。
「生きてるかい」
「う……うう……。助けてくれ」
うめき声が答えた。
生きてる生きてる。
俺は駆け寄ると、相手の姿を確認した。
鎧兜に、武器。
これは先にカトブレパス退治に向かった、Bランクパーティの戦士だろう。
鎧は死の呪いに無力と言ったけど、もしかしてそこそこの効果がある?
マンドラゴラの軟膏を舐めさせると、彼は動けるようになった。
マンドラゴラは猛毒だが、死の呪いに侵された人間にとっては特効薬となる。
その見極めが難しいんだけどね。下手に舐めるとやっぱりただの猛毒になるから。
「助かった……。だが、俺だけが助かった……。みんな殺されてしまった」
戦士がしょんぼりしている。
「カトブレパスはそういうモンスターだからね。実に危険だ。こんな普通の沼地にホイッと現れたりするもんじゃない。Bランクならカトブレパスと戦った経験はなかったんじゃないかい? 事故みたいなものだよ」
「あんたは……。確か、ショーナウン・ウインドにいた……」
「ああ。今はクビになったけどね。元便利屋さ。今はモフ・ライダーズっていうパーティを率いてる」
メンバーは俺とクルミとブランの三人だけどね。
「そ、そうなのか。だけどそんな軽装であいつと戦うのか?」
「武装のことだけを装備というなら、俺達は軽装だろうね。だが、準備の周到さを装備というなら、俺達は君よりも遥かに重装備だぜ? 君は運良く生き残った。だから、俺の戦いを見ていくといい。今後カトブレパスと遭遇した時、勝つための知識になるから」
俺は彼を誘った。
彼は頷く。
「仲間の死体を回収しなくちゃならん。復活させる金は無いが……せめて埋葬してやりたい」
ということで、戦士を加えて、俺達は一路沼沢地へ。
戦士には道すがら、干し肉やナッツなどを齧ってもらう。
仮死状態だったとは言え、体からエネルギーが枯渇しているだろう。
「クルミもナッツほしいです!」
「はい、どうぞ。仕事の前だから食べ過ぎないでね」
「わあい!」
「本当に大丈夫なのか……?」
戦士が心配そうに俺とクルミを見るのだった。
クルミがやっと起きてきた。
かなり長く寝たなあ。
俺が寝て、起きてもまだ寝てたもんな。
すっかり日が高い。
カトブレパス対策は明け方が楽だったんだけど、まあ仕方ないか。
「はい、クルミ、これ」
俺はクリーム状にしたマンドラゴラを差し出す。
「毒だから飲んじゃだめだよ。朝ごはん食べたら体に塗って」
「なんです?」
「マンドラゴラ。死の呪い避けの軟膏ね」
「しののろいです? ふうん?」
よく分かってない。
ナッツと干し肉とビスケットの朝食を終え、ごくごく水を飲む。
その後、軟膏をしっかり体に塗り込んだ。
クルミは俺の後ろでもぞもぞやっている。
「ブラン、ちゃんとクルミは軟膏塗ってる?」
後ろを見たら何か言われそうなので、ブランを通して確認だ。
『わおん』
ちゃんと塗ってますとも、と返すブラン。
「ふわー、べたべたしますう」
クルミが不服そうな声を上げた。
もう準備はいいだろうと振り返ると、彼女の尻尾が軟膏でべっとりとしていた。
あー、そうだよなあ。
モフモフも小さくまとめられちゃうよな。
ちょっと残念だが、カトブレパス対策には仕方ない。
さあ、仕事だ。
テントから出ると、村長や村の人々が迎えてくれた。
「おはよう、冒険者の方々。この間の冒険者は戻ってこなかったが、あんたらは大丈夫かのう……」
心配そうに村長が聞いてくる。
「ああ。カトブレパスにやられると死体を回収できないですからね。大丈夫、対策を立ててきてますから。死の呪いは致命的ですが、対策すれば割と容易に無効化できるんですよ」
「む、無効化……!? 失礼だが、この間の冒険者は6人いたし、鎧と槍を持った戦士や、魔法使いなど強そうな方々ばかりだった。あんたらはどう見ても、軽装のあんたと小さい女の子、それに大きな犬じゃないか。大丈夫なのかい……?」
「見た目で冒険者するわけじゃないですからね。それに、死の呪いの前には鎧や魔法は無意味ですよ。まあ見てて下さい。昼には戻ってきます」
「昼には!?」
村人達が驚いて声を上げた。
俺達はブランに乗って出発する。
「んもー。失礼しちゃいます」
クルミがぷりぷりと怒っている。
「仕方ないよ。俺達の見た目はなかなか頼りないからね」
「クルミはこう見えて立派なレディなんです! 小さい女の子じゃないです!」
「あ、そっち……?」
ブランが笑っている。
──と思ったら、彼がひくひく鼻を動かした。
『わん』
「人間のにおい? ちょっと行ってみて」
『わおん』
においがするという方向を目指す俺達。
そこは、沼に近い林の中。
誰かが仰向けに倒れていた。
鎧が見える。
「おーい」
ブランから降りて声をかける。
「生きてるかい」
「う……うう……。助けてくれ」
うめき声が答えた。
生きてる生きてる。
俺は駆け寄ると、相手の姿を確認した。
鎧兜に、武器。
これは先にカトブレパス退治に向かった、Bランクパーティの戦士だろう。
鎧は死の呪いに無力と言ったけど、もしかしてそこそこの効果がある?
マンドラゴラの軟膏を舐めさせると、彼は動けるようになった。
マンドラゴラは猛毒だが、死の呪いに侵された人間にとっては特効薬となる。
その見極めが難しいんだけどね。下手に舐めるとやっぱりただの猛毒になるから。
「助かった……。だが、俺だけが助かった……。みんな殺されてしまった」
戦士がしょんぼりしている。
「カトブレパスはそういうモンスターだからね。実に危険だ。こんな普通の沼地にホイッと現れたりするもんじゃない。Bランクならカトブレパスと戦った経験はなかったんじゃないかい? 事故みたいなものだよ」
「あんたは……。確か、ショーナウン・ウインドにいた……」
「ああ。今はクビになったけどね。元便利屋さ。今はモフ・ライダーズっていうパーティを率いてる」
メンバーは俺とクルミとブランの三人だけどね。
「そ、そうなのか。だけどそんな軽装であいつと戦うのか?」
「武装のことだけを装備というなら、俺達は軽装だろうね。だが、準備の周到さを装備というなら、俺達は君よりも遥かに重装備だぜ? 君は運良く生き残った。だから、俺の戦いを見ていくといい。今後カトブレパスと遭遇した時、勝つための知識になるから」
俺は彼を誘った。
彼は頷く。
「仲間の死体を回収しなくちゃならん。復活させる金は無いが……せめて埋葬してやりたい」
ということで、戦士を加えて、俺達は一路沼沢地へ。
戦士には道すがら、干し肉やナッツなどを齧ってもらう。
仮死状態だったとは言え、体からエネルギーが枯渇しているだろう。
「クルミもナッツほしいです!」
「はい、どうぞ。仕事の前だから食べ過ぎないでね」
「わあい!」
「本当に大丈夫なのか……?」
戦士が心配そうに俺とクルミを見るのだった。
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