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第三部:セントロー王国の冒険 5
第109話 ロネス男爵領へ その1
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ビブリオス男爵令嬢ミコトちゃんは、おっぱいをお腹いっぱい飲んでぐうぐう眠っている。
あれは大物になる顔だ。
地竜のディーンが、そんな妹を興味深そうに覗き込んでいる。
地竜と、魔族ハーフ・ホムンクルスの血が混じった赤ちゃんの兄妹か。
いろいろなものが混じりすぎていて訳が分からなくなってくるな……!
だが、この様々な種族が一緒に暮らすビブリオス男爵領にはピッタリの関係なのかも知れない。
俺だって、まさかゼロ族の嫁をもらうことになるとは思ってもいなかったしな。
「センセエセンセエ!」
「なんだい?」
「この後は、まるーい人のところに行くですか?」
「ロネス男爵だね。そうだな、彼の誘いを受けようと思う。せっかくお招きいただいたんだし、ビブリオス男爵領の見たことも聞いたこともない食材をふんだんに使った創作料理尽くしの食生活から、豪勢で文化的な食生活に早変わりだぞ。たまには贅沢なものも食べてみたい」
「ぜいたくですかー。クルミは木の実とかあれば気にならないですねえ」
ゼロ族はそもそも粗食の種族だった。
調理も、焼くか煮るくらいしか文化的に存在しないはずだもんな。
彼女と一緒になったら、俺が色々ご馳走して、クルミの料理の腕を上げる手伝いをせねばならないな。
……なんて、ナオ夫人の横にある大きな籠の中で、寝息を立てるミコトちゃんを見て思うのだ。
そうか、彼女、ビブリオス男爵領の個性的な料理を食べて育っていくんだな。
個性的な女の子になりそうだ。
「あの、オースさん!」
そこへカイルがやって来た。
何かを決断したような顔である。
「どうしたんだい、カイル」
「い、今までお世話になりました!!」
カイルが凄い勢いで頭を下げる。
「おお、なんだなんだ」
「いや、その! 俺、やっとオースさんに勝てたと言うか。あれはまあ試合なんすけど、実戦じゃ分かんないっすけど、やっと俺も自分に自信を持てたっすよ」
「うんうん」
何を言いたいんだ彼は。
俺の頭が疑問符で埋め尽くされている。
だが、クルミはすぐに察したようだった。
「センセエ! カイルはですね、アスタキシアが好きですよ!」
「ああ、うん、それは知ってる」
「な、なんとー!!」
カイルが驚いて面白いポーズをした。
あれだけあからさまで、分からないわけがない。
そしてそこまで聞いて、俺も察した。
「分かった。君はここに残りたいんだな?」
「は、はい!! アスタキシアとも仲良くなってきてるんす。俺、なんか心の底から欲しい物を見つけたっつーか!」
「そうか。そうだな、俺こそ君には世話になった。カイル、君の目指す道を行ってくれ」
「オースさん!! ……い、いいんすか」
「もちろん。俺だってそうやって、自分の生き方を見つけてそこを歩いてきたんだ。君がそうならば応援するよ」
「オースさん……!! あい、今までありがとうっすーっ!!」
カイルは男泣きに泣きながら、俺の腕をギュッと握りしめてぶんぶん振った。
うんうん、痛い。
彼ともアドポリスからの付き合いだからな。
ここで別れとなると感慨深い。
アスタキシアは公爵令嬢だと聞く。
ほぼ廃嫡されているそうだが、かなり背後の関係性が面倒な女性であることは間違いない。
カイルにはこれから、試練が待っているだろう……が。
「君の実力は、アドポリスの頃から上がっている。平和なセントロー王国では五指に入る強さだろうと俺は睨んでいるぞ。やれるさ」
「はい! やってみせます!! それじゃあ!」
カイルはすぐさま、踵を返した。
そして、バタバタと男爵の屋敷へと走っていく。
おや、遠巻きにアスタキシアがこちらを見ていたようだな。
あれはもしかすると、脈アリかも知れない。
「これからが大変ですねえー」
クルミが知った風な口調で言うのだった。
「モフモフある限りわたくしはついていきますわよ? それにお師様にオースさんを監視しろと命じられていますもの」
「やはり」
カーバンクルのローズをむにむにと触りながら、アリサが何を当たり前なことを、という顔で答えた。
思えば、彼女が離れていくはずはなかった。
どこまでついてくるんだろう……。
「では、ついてくるのは貴君ら三人と、そこの大きい犬と、猫と、ネズミかね? 動物が多いなあ」
ロネス男爵がしみじみと言う。
「俺がモンスターテイマーなもので」
「なんと、それは珍しいな! 詳しく話を聞かせてくれ!」
「あなた」
ハーフエルフの男爵夫人が、ロネス男爵の脇腹を肘で小突いた。
おっ、結構突き刺さったぞ。
「ウグワーッ」
男爵が丸い体をよじって苦しむ。
かなり痛かったんだな。
「見送りにやって来たよ。ロネス男爵、ではまた」
ビブリオス男爵と、彼の伴の人々が来ている。
おや、ナオ夫人もいるな。
赤ちゃんを見るのは、ディーンとマルコシアスに任せているらしい。
ロネス男爵夫人は、もともとビブリオス男爵領にいた冒険者。
なお夫人とも親しいそうだ。
二人で、楽しげに談笑している。
お互い、立場も男爵夫人ということで共通だしな。
「うちの人のお腹がね。暴飲暴食は控えさせてるんだけど……」
「先輩はいつもあちこち歩き回って運動していますから、ロネスさんもそうしたらいいんじゃないでしょうか」
「なるほど! じゃあロネスを走らせるわね!」
「びくっ!」
ロネス男爵が震え上がった。
ここはここで、夫婦関係が面白そうだ。
「さ、さあ行こうではないか諸君! 我が領地で諸君の冒険譚を聞かせて欲しい! セントロー王国は長く平和でな! いや、争いが生まれそうなところをビブリオス卿が収めてしまったのだがな! さあて、戻って酒と料理の準備だ! 大いに飲んで食って話を聞くぞ!」
「あなた、腹八分目は守ってもらうわよ」
「あ、はい」
「ここは奥さんがつよいですね!」
クルミがとても正直な感想を口にした。
うちはバランスいい関係で行こうな。
あれは大物になる顔だ。
地竜のディーンが、そんな妹を興味深そうに覗き込んでいる。
地竜と、魔族ハーフ・ホムンクルスの血が混じった赤ちゃんの兄妹か。
いろいろなものが混じりすぎていて訳が分からなくなってくるな……!
だが、この様々な種族が一緒に暮らすビブリオス男爵領にはピッタリの関係なのかも知れない。
俺だって、まさかゼロ族の嫁をもらうことになるとは思ってもいなかったしな。
「センセエセンセエ!」
「なんだい?」
「この後は、まるーい人のところに行くですか?」
「ロネス男爵だね。そうだな、彼の誘いを受けようと思う。せっかくお招きいただいたんだし、ビブリオス男爵領の見たことも聞いたこともない食材をふんだんに使った創作料理尽くしの食生活から、豪勢で文化的な食生活に早変わりだぞ。たまには贅沢なものも食べてみたい」
「ぜいたくですかー。クルミは木の実とかあれば気にならないですねえ」
ゼロ族はそもそも粗食の種族だった。
調理も、焼くか煮るくらいしか文化的に存在しないはずだもんな。
彼女と一緒になったら、俺が色々ご馳走して、クルミの料理の腕を上げる手伝いをせねばならないな。
……なんて、ナオ夫人の横にある大きな籠の中で、寝息を立てるミコトちゃんを見て思うのだ。
そうか、彼女、ビブリオス男爵領の個性的な料理を食べて育っていくんだな。
個性的な女の子になりそうだ。
「あの、オースさん!」
そこへカイルがやって来た。
何かを決断したような顔である。
「どうしたんだい、カイル」
「い、今までお世話になりました!!」
カイルが凄い勢いで頭を下げる。
「おお、なんだなんだ」
「いや、その! 俺、やっとオースさんに勝てたと言うか。あれはまあ試合なんすけど、実戦じゃ分かんないっすけど、やっと俺も自分に自信を持てたっすよ」
「うんうん」
何を言いたいんだ彼は。
俺の頭が疑問符で埋め尽くされている。
だが、クルミはすぐに察したようだった。
「センセエ! カイルはですね、アスタキシアが好きですよ!」
「ああ、うん、それは知ってる」
「な、なんとー!!」
カイルが驚いて面白いポーズをした。
あれだけあからさまで、分からないわけがない。
そしてそこまで聞いて、俺も察した。
「分かった。君はここに残りたいんだな?」
「は、はい!! アスタキシアとも仲良くなってきてるんす。俺、なんか心の底から欲しい物を見つけたっつーか!」
「そうか。そうだな、俺こそ君には世話になった。カイル、君の目指す道を行ってくれ」
「オースさん!! ……い、いいんすか」
「もちろん。俺だってそうやって、自分の生き方を見つけてそこを歩いてきたんだ。君がそうならば応援するよ」
「オースさん……!! あい、今までありがとうっすーっ!!」
カイルは男泣きに泣きながら、俺の腕をギュッと握りしめてぶんぶん振った。
うんうん、痛い。
彼ともアドポリスからの付き合いだからな。
ここで別れとなると感慨深い。
アスタキシアは公爵令嬢だと聞く。
ほぼ廃嫡されているそうだが、かなり背後の関係性が面倒な女性であることは間違いない。
カイルにはこれから、試練が待っているだろう……が。
「君の実力は、アドポリスの頃から上がっている。平和なセントロー王国では五指に入る強さだろうと俺は睨んでいるぞ。やれるさ」
「はい! やってみせます!! それじゃあ!」
カイルはすぐさま、踵を返した。
そして、バタバタと男爵の屋敷へと走っていく。
おや、遠巻きにアスタキシアがこちらを見ていたようだな。
あれはもしかすると、脈アリかも知れない。
「これからが大変ですねえー」
クルミが知った風な口調で言うのだった。
「モフモフある限りわたくしはついていきますわよ? それにお師様にオースさんを監視しろと命じられていますもの」
「やはり」
カーバンクルのローズをむにむにと触りながら、アリサが何を当たり前なことを、という顔で答えた。
思えば、彼女が離れていくはずはなかった。
どこまでついてくるんだろう……。
「では、ついてくるのは貴君ら三人と、そこの大きい犬と、猫と、ネズミかね? 動物が多いなあ」
ロネス男爵がしみじみと言う。
「俺がモンスターテイマーなもので」
「なんと、それは珍しいな! 詳しく話を聞かせてくれ!」
「あなた」
ハーフエルフの男爵夫人が、ロネス男爵の脇腹を肘で小突いた。
おっ、結構突き刺さったぞ。
「ウグワーッ」
男爵が丸い体をよじって苦しむ。
かなり痛かったんだな。
「見送りにやって来たよ。ロネス男爵、ではまた」
ビブリオス男爵と、彼の伴の人々が来ている。
おや、ナオ夫人もいるな。
赤ちゃんを見るのは、ディーンとマルコシアスに任せているらしい。
ロネス男爵夫人は、もともとビブリオス男爵領にいた冒険者。
なお夫人とも親しいそうだ。
二人で、楽しげに談笑している。
お互い、立場も男爵夫人ということで共通だしな。
「うちの人のお腹がね。暴飲暴食は控えさせてるんだけど……」
「先輩はいつもあちこち歩き回って運動していますから、ロネスさんもそうしたらいいんじゃないでしょうか」
「なるほど! じゃあロネスを走らせるわね!」
「びくっ!」
ロネス男爵が震え上がった。
ここはここで、夫婦関係が面白そうだ。
「さ、さあ行こうではないか諸君! 我が領地で諸君の冒険譚を聞かせて欲しい! セントロー王国は長く平和でな! いや、争いが生まれそうなところをビブリオス卿が収めてしまったのだがな! さあて、戻って酒と料理の準備だ! 大いに飲んで食って話を聞くぞ!」
「あなた、腹八分目は守ってもらうわよ」
「あ、はい」
「ここは奥さんがつよいですね!」
クルミがとても正直な感想を口にした。
うちはバランスいい関係で行こうな。
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