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シクスゼクス帝国編
第80話 幻の岩礁と邪神オクタゴン
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さて、あっさり信用されてしまったわけなのだが、どうしてなのだろう。
ディゴ老人曰く、
「わしの目は節穴ではない。こう見えてオクタゴン様の祭祀でもあるのだ。怪物共を引き連れた男がやって来たと思ったら、何の魔力も闘気も持っていないただの人ときた。それがただの人であるわけがない。もっと恐ろしいものだ。何より、シクスゼクスを悠然と渡るただの人などありえぬ」
慧眼過ぎる。
俺を侮ったやつは全員やられたからな。
逆を言えば、侮らなかった人はみんな地位を保っている。
「びっくりですねえ。マナビさん、存在そのものが罠だって教授が言ってたのに」
「そうだなあ。イースマスは割りとその辺、しっかりしてるのかもな」
ここで邪神をやっている異世界転生者、オクタゴンが教育方面でちゃんとした人なのかも知れない。
「じゃあ早速オクタゴンに会わせて」
「話が早い!」
ディゴ老人が驚いた。
「良いのか。オクタゴン様と向き合った者は長く正気を保てぬと言われているが……。それに、オクタゴン様と接触したことが知れれば、あの三人の異世界召喚者が襲ってくるであろう」
「その辺りは俺の能力で大丈夫なんだよ。ヘルプ機能。オクタゴンの能力」
「異世界召喚者オクタゴンは、自身の存在を変質させ、邪神まで上り詰めた人物です。能力は、眷属の作成と自己周辺の異界化、そして自分よりも魂のランクが劣るものを狂気に陥れることです」
「抽象的な能力だなあ。それが最強の異世界召喚者の一人なのか。スローゲインよりも強いの?」
「比較になりません」
全然強いらしい。
ピンと来ないなあ。
「じゃあ会いに行こう。ディゴ老人、案内してくれ」
「わ、分かった。なんという剛毅な男だ」
アビサル・ワンズであるディゴ老人に感心されてしまった。
よく分からん。
「マスターの豪胆さは普通に異常ですから」
「普通に異常って何よ」
「オクタゴン強いのだ? カオルンは戦ってみたいのだ!」
戦う気満々の人もいるし!
こうして俺たちが案内されたのは、港だった。
どうみても海の上でしかない場所に、ディゴ老人が足を踏み出す。
すると、そこから先の光景が一瞬で塗り替わった。
存在していなかったはずの巨大な岩礁が出現したのだ。
もう島と言っていい。
振り返ると、港も岩場へと変化していた。
他にもアビサル・ワンズがたくさんいたのだが、彼らは皆、周辺環境が変化すると同時にひれ伏している。
「たぶんぐる、たぶんぐる、あや、あや、オクタゴン!」
なんかそんな祈りの言葉が聞こえているな。
この先にいるの、本当に異世界召喚者?
まあいいか。
会ってから考えればよろしい。
「こっちだ。わしらアビサル・ワンズでもなければ、オクタゴン様を正面から見て正気を保つことはできん。狂ったものは皆、アビサル・ワンズに変ずる。女たちはここに置いていけ」
「そうなの? どうする?」
女子たちに聞いてみる。
ルミイが青い顔をしていた。
「今、ちょっと近づいただけで精霊さんたちが悲鳴をあげて、わたしをこの先に行かせないようにしてるんですけど! わたし残ります~!」
「当機能は性質上、アビサル・ワンズに変ずることはありません。ですが認識に乱れが生じています。機能に障害が出ると今後の旅に影響しますので、ルミイと一緒にここで待ちます」
「カオルンは行くのだ!」
おおっ、好戦的なのがついてきた。
カオルンと二人、ディゴに連れられて先に向かう。
空はぐるぐると虹色に渦巻き、その中心に向かって周辺の空色を吸い込んでいるように見える。
岩礁はうねうね蠢き、一瞬も同じ形をしていない。
俺はこれらを、「ほーん、前衛芸術は分からんなあ」と首を傾げて眺めるだけだった。
「うっ、カオルン、ちょっと気持ち悪くなってきたのだ」
「マジか。大丈夫? 戻る?」
「も、戻らないのだ!」
ディゴ老人が目が零れ落ちそうなくらい見開いて俺を凝視する。
「な、なんともないのか!? オクタゴン様の御前が近いというのに、ただの人でしか無いお主が平然としているとはどういうことだ」
「俺は肝だけは太いのだ」
人間、肝が太ければ何でもやっていけるのだぞ。
そしてついに、その場に到着した。
巨大な、岩造りの玉座がある。
なんかねじくれた岩が蠢きながら、空気に半分溶け込みつつ、次々入れ替わりながら玉座を構成している。
どういう構造だろう。ちょっと触ってみたい。
で、玉座の上には鎖でぐるぐる巻きにされた男が一人座していた。
彼は何か、ぶつぶつ呟いている。
俺には分かったぞ。
あいつの唇、確かに『はー、嫁さんほしいなあ』と呟いた!
同類だな。
親近感が湧いてきた。
「わ、笑っておる! お主、平気なのか! うぐ……わしも限界だ……! ははあーっ! オクタゴン様! 協力者となる異世界召喚者を連れてまいりました!」
ディゴ老人がひれ伏した。
そして、背後でぶっ倒れる音がする。
振り返ったら、カオルンが失神していた。
なんだなんだ。
『オーケーオーケー。異世界召喚者ね。俺様を前にして正気を保ててたら、俺様の助けにもなると思うんだろうがそんなことは……』
オクタゴンがぶつぶつ言いながら顔を上げた。
おっ、一見して白人の男だ。
あれは確かに異世界召喚者だなあ。
「イヨー」
俺が挨拶すると、オクタゴンが目を丸くする。
『おいおいおい、お前、無事なのか。この俺様と同じだけの魂の力を持っていない限り、俺様の目が届く範囲では立ち上がることすらできないはずだぞ』
「じゃあ同じ魂の力とやらがあるのではないか」
『あるんだろうな。納得した』
オクタゴンが頷く。
話が早い。
『俺様はこの通り、すべての力を縛られてる。シクスゼクスの連中め、俺様の力を恐れて、国土を毒沼に変えながら六人も異世界召喚者を呼びやがった。うち三人を使って、俺様はこうして拘束されている。だが、俺様がこうしている間、その三人もイースマス周辺から動けないってわけだ。実に腹立たしいと思わないか』
オクタゴンは怒りをあらわにした。
その瞬間、ヤツの輪郭がぶれて、異形の巨大な怪物になる。
で、すぐに戻った。
「ははあ、マジで邪神になってるんだな。よし、俺が解放してやろう」
『なにっ』
鎖で縛られたまま、邪神が飛び上がった。
びっくりしたんだな。
『本当か。お前、俺様が解放されたらどうなるか分かっているのか!? 俺様は生ける邪神だぞ。この世界の神々と相反する存在になっているんだ。世界が地獄に変わるぞ』
オクタゴンの目が剣呑な輝きを放った。
周囲の空気が重くなり、ディゴ老人もひれ伏したまま気絶したようだ。
だが、俺には分かるぞ。こういうのは大体ハッタリである。
敵が多いタイプの人って、こうやって相手を試すようなことをわざわざやるんだよな。
「変わらんだろ。あんた、シクスゼクスができる前からずっといて、アビサルワンズと暮らしてきたんだろ。だけど世界は邪神のものになっていない。これはどういうことか。あんたは支配とか屈服に全く興味がないってことだ」
『……鋭い。なるほど、お前は信用できる。俺様、お前みたいなタイプには初めて会ったぞ。ああ、だからお前は俺様の前でも平然と立っているのか』
「そこら辺りはよく分からないけどな。で、俺はお前を助ける。その代わり要求したいものがある。分かるな?」
『ほう、永遠の命か? それとも眷属の守りか?』
「知れたこと……。女子たちに着せる……エッチな水着だ」
『……どこまで信頼に値する男だな、お前……!! 約束しよう! あれはな、俺様が、眷属の中からも可愛い女の子が出てくるかと思って、何百年も作り続けさせているんだ……』
オクタゴンが遠い目をした。
どうやら悲しい歴史がありそうなのだった。
ディゴ老人曰く、
「わしの目は節穴ではない。こう見えてオクタゴン様の祭祀でもあるのだ。怪物共を引き連れた男がやって来たと思ったら、何の魔力も闘気も持っていないただの人ときた。それがただの人であるわけがない。もっと恐ろしいものだ。何より、シクスゼクスを悠然と渡るただの人などありえぬ」
慧眼過ぎる。
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「びっくりですねえ。マナビさん、存在そのものが罠だって教授が言ってたのに」
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ここで邪神をやっている異世界転生者、オクタゴンが教育方面でちゃんとした人なのかも知れない。
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「話が早い!」
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「その辺りは俺の能力で大丈夫なんだよ。ヘルプ機能。オクタゴンの能力」
「異世界召喚者オクタゴンは、自身の存在を変質させ、邪神まで上り詰めた人物です。能力は、眷属の作成と自己周辺の異界化、そして自分よりも魂のランクが劣るものを狂気に陥れることです」
「抽象的な能力だなあ。それが最強の異世界召喚者の一人なのか。スローゲインよりも強いの?」
「比較になりません」
全然強いらしい。
ピンと来ないなあ。
「じゃあ会いに行こう。ディゴ老人、案内してくれ」
「わ、分かった。なんという剛毅な男だ」
アビサル・ワンズであるディゴ老人に感心されてしまった。
よく分からん。
「マスターの豪胆さは普通に異常ですから」
「普通に異常って何よ」
「オクタゴン強いのだ? カオルンは戦ってみたいのだ!」
戦う気満々の人もいるし!
こうして俺たちが案内されたのは、港だった。
どうみても海の上でしかない場所に、ディゴ老人が足を踏み出す。
すると、そこから先の光景が一瞬で塗り替わった。
存在していなかったはずの巨大な岩礁が出現したのだ。
もう島と言っていい。
振り返ると、港も岩場へと変化していた。
他にもアビサル・ワンズがたくさんいたのだが、彼らは皆、周辺環境が変化すると同時にひれ伏している。
「たぶんぐる、たぶんぐる、あや、あや、オクタゴン!」
なんかそんな祈りの言葉が聞こえているな。
この先にいるの、本当に異世界召喚者?
まあいいか。
会ってから考えればよろしい。
「こっちだ。わしらアビサル・ワンズでもなければ、オクタゴン様を正面から見て正気を保つことはできん。狂ったものは皆、アビサル・ワンズに変ずる。女たちはここに置いていけ」
「そうなの? どうする?」
女子たちに聞いてみる。
ルミイが青い顔をしていた。
「今、ちょっと近づいただけで精霊さんたちが悲鳴をあげて、わたしをこの先に行かせないようにしてるんですけど! わたし残ります~!」
「当機能は性質上、アビサル・ワンズに変ずることはありません。ですが認識に乱れが生じています。機能に障害が出ると今後の旅に影響しますので、ルミイと一緒にここで待ちます」
「カオルンは行くのだ!」
おおっ、好戦的なのがついてきた。
カオルンと二人、ディゴに連れられて先に向かう。
空はぐるぐると虹色に渦巻き、その中心に向かって周辺の空色を吸い込んでいるように見える。
岩礁はうねうね蠢き、一瞬も同じ形をしていない。
俺はこれらを、「ほーん、前衛芸術は分からんなあ」と首を傾げて眺めるだけだった。
「うっ、カオルン、ちょっと気持ち悪くなってきたのだ」
「マジか。大丈夫? 戻る?」
「も、戻らないのだ!」
ディゴ老人が目が零れ落ちそうなくらい見開いて俺を凝視する。
「な、なんともないのか!? オクタゴン様の御前が近いというのに、ただの人でしか無いお主が平然としているとはどういうことだ」
「俺は肝だけは太いのだ」
人間、肝が太ければ何でもやっていけるのだぞ。
そしてついに、その場に到着した。
巨大な、岩造りの玉座がある。
なんかねじくれた岩が蠢きながら、空気に半分溶け込みつつ、次々入れ替わりながら玉座を構成している。
どういう構造だろう。ちょっと触ってみたい。
で、玉座の上には鎖でぐるぐる巻きにされた男が一人座していた。
彼は何か、ぶつぶつ呟いている。
俺には分かったぞ。
あいつの唇、確かに『はー、嫁さんほしいなあ』と呟いた!
同類だな。
親近感が湧いてきた。
「わ、笑っておる! お主、平気なのか! うぐ……わしも限界だ……! ははあーっ! オクタゴン様! 協力者となる異世界召喚者を連れてまいりました!」
ディゴ老人がひれ伏した。
そして、背後でぶっ倒れる音がする。
振り返ったら、カオルンが失神していた。
なんだなんだ。
『オーケーオーケー。異世界召喚者ね。俺様を前にして正気を保ててたら、俺様の助けにもなると思うんだろうがそんなことは……』
オクタゴンがぶつぶつ言いながら顔を上げた。
おっ、一見して白人の男だ。
あれは確かに異世界召喚者だなあ。
「イヨー」
俺が挨拶すると、オクタゴンが目を丸くする。
『おいおいおい、お前、無事なのか。この俺様と同じだけの魂の力を持っていない限り、俺様の目が届く範囲では立ち上がることすらできないはずだぞ』
「じゃあ同じ魂の力とやらがあるのではないか」
『あるんだろうな。納得した』
オクタゴンが頷く。
話が早い。
『俺様はこの通り、すべての力を縛られてる。シクスゼクスの連中め、俺様の力を恐れて、国土を毒沼に変えながら六人も異世界召喚者を呼びやがった。うち三人を使って、俺様はこうして拘束されている。だが、俺様がこうしている間、その三人もイースマス周辺から動けないってわけだ。実に腹立たしいと思わないか』
オクタゴンは怒りをあらわにした。
その瞬間、ヤツの輪郭がぶれて、異形の巨大な怪物になる。
で、すぐに戻った。
「ははあ、マジで邪神になってるんだな。よし、俺が解放してやろう」
『なにっ』
鎖で縛られたまま、邪神が飛び上がった。
びっくりしたんだな。
『本当か。お前、俺様が解放されたらどうなるか分かっているのか!? 俺様は生ける邪神だぞ。この世界の神々と相反する存在になっているんだ。世界が地獄に変わるぞ』
オクタゴンの目が剣呑な輝きを放った。
周囲の空気が重くなり、ディゴ老人もひれ伏したまま気絶したようだ。
だが、俺には分かるぞ。こういうのは大体ハッタリである。
敵が多いタイプの人って、こうやって相手を試すようなことをわざわざやるんだよな。
「変わらんだろ。あんた、シクスゼクスができる前からずっといて、アビサルワンズと暮らしてきたんだろ。だけど世界は邪神のものになっていない。これはどういうことか。あんたは支配とか屈服に全く興味がないってことだ」
『……鋭い。なるほど、お前は信用できる。俺様、お前みたいなタイプには初めて会ったぞ。ああ、だからお前は俺様の前でも平然と立っているのか』
「そこら辺りはよく分からないけどな。で、俺はお前を助ける。その代わり要求したいものがある。分かるな?」
『ほう、永遠の命か? それとも眷属の守りか?』
「知れたこと……。女子たちに着せる……エッチな水着だ」
『……どこまで信頼に値する男だな、お前……!! 約束しよう! あれはな、俺様が、眷属の中からも可愛い女の子が出てくるかと思って、何百年も作り続けさせているんだ……』
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