俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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9・令嬢殿下のカッパー級

第24話 会食と狐狩り

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 フォーエイブル男爵家当主にして、現アーラン王国騎士団長パリスン。
 三十年あまりの平和が続くこの世界パルメディアだが、そこにそれなりに名前が轟いている凄い武人である。

 長テーブルの主人が座る席に、どーんとその存在感ある姿が確認できる。
 焦げ茶色の髪をオールバックにして、秀でた額の下には太い眉と恐ろしく意思が強そうな目がある。
 高い鼻に、カイゼル髭。

「なるほど。君たちがソフィエラの雇ったという冒険者か。いや、お一人は我が国を救った英雄であらせられたな」

「いやいや、私なんてそんな」

「だが私は過去の栄光を理由に特別扱いなどはしない主義でしてな」

「あっはい」

 謙遜する機会を奪われて、リップルがちょっと大人しくなった。
 こういう搦め手が通用しなさそうな人は難しいよなあ。

「そして君が、試合で騎士を完封したというカッパー級冒険者か……」

「あっはい。僕は魔法使いですんで、初見殺しみたいなものですよ」

「なるほどな。だが、私が見たところ、タネが分かっていてもまともに対策することすら困難な恐るべき力のように見えたが。あれは魔法ではなかろう。ギフトだ」

 ズバッと斬り込んでくるなあ。
 その通り。
 僕の油使いはギフトだ。

 世に二つと同じ能力は存在せず、物理法則や魔法のルールなどすら無視して己のやりたいことを押し付ける。
 それがギフトだ。
 この星の裏側にある大陸では、異世界からわざわざ人間を召喚して、彼らがそのショックでランダムに得るギフトでガチャを行っていたようだが。

 それも今は昔。
 ギフト持ちだった人々が世界中に広がり、彼らの血が広まり、次々にギフト持ちが生まれた。
 で、この世界には一万人に一人くらいギフト持ちが出てくるようになったわけだ。

 だが……。
 ギフトは世界に二つと同じ能力が存在しない。
 それは過去、未来においてもそうだ。

 なので、ギフト持ちの力を受け継いで生まれた子どものギフトは、全く違うギフトになった。
 あるいはギフトを持たず生まれてきたり、なんの関係もないようなところからギフト持ちが生まれたりした。

「油使い。私ならばその力をいかにして攻略するか。ギフト無きこの身でその恐るべき力を凌ぐなら……」

「お父様! お父様! 食事中ですから、そんな血なまぐさい話をしないでくださいまし!!」

 ソフィエラお嬢様に怒られている男爵。
 彼は強面の顔のまま、「むっ! すまんすまん。ついついいつもの癖がな……。気に入らぬ他の貴族や大臣などに嫌味を言われた際、いかにして相手の首を取るかを考えてしまういつもの習いが出たか」

 にこりともしないで言う。

「こっわ、この人こっわ」

 リップルがドン引きした。
 そうだね、生粋の戦闘狂だねこの男爵。
 大陸に名だたる騎士団長がどうして男爵止まりなのかと思っていたが、理由がよくわかった。

「お父様! 私、明日が楽しみなのです! キツネ狩り! 私用のコンポジットボウをこの日のために調整に調整を加えて参りましたから!」

「ソフィエラ。お前は自らの手で弓など調整しなくてもいいのだぞ。世間一般の令嬢はそんなことをしておらん」

「私の趣味です! 猫のミケと弓の手入れ。その繋がりでバイオリンなどもやりますが」

 弓繋がりかあー。
 とにかく濃いお人たちだ、フォーエイブル男爵家。

 ただ、出てきた料理は流石に美味かった。
 ハーブの香りを利かせたピリ辛ソースは、肉を美味しく食べさせてくれる。
 パサッとしたパンにソースを載せても美味い。
 めっちゃソースを吸うから、パンに味がついてしっとりするんだよね。

「食べごたえのある肉ですね。これは」

「本日、私が外の見回り中に仕留めた鹿だ」

 あ、さいですか。
 ということは新鮮な鹿肉ということね。

 ゴブリンがいなくなり、森の中を鹿たちは我が物顔で走り回っているらしい。
 で、調子に乗ったやつが男爵の前に飛び出したんだろう。

 なるほど、ヘルシーな鹿肉も濃厚なソースと一緒に食べると美味い。

「それで、明日の予定は鹿狩りなので?」

「いや、狐狩りだ。彼奴ら、近隣の家々に忍び込んでは家禽の卵を盗んで喰らうそうでな」

「ああ、趣味と実益を兼ね備えた」

「そういうことだ。君たちの出番は無いとは思うが、ソフィエラを守ってやって欲しい」

「ええ、もちろんです」

 ソフィエラの話をする時は優しい目になるな。
 男爵も人の子なのだ。
 だだの戦闘狂ではない。

 だが、この会食が終わった後もお茶を飲みながら、僕の能力の死角についてとかひたすら聞いてくるのは参った。
 怖い怖い。

 さて。
 男爵家の風呂はそこそこ広かった。
 そこそこだ。
 物凄く豪華というほどでもない。

 男爵家だとこれくらいのスケールか……。
 男用と女用で分かれているのは、男爵とご令嬢が別々の湯船に入ってるんだろう。

 ということはつまり。

「ああ、いい湯だった……。全身の汚れが全て洗い流されて肌がチクチクする思いだ……」

 しみじみ言いながら、バスローブ姿のリップルが出てきたのである。

「無防備な人だなあ! 貴族の家をそんな格好でうろちょろするなするな」

「おやナザル、風呂上がりにそんなかっちり着て暑くはないのかい? おや? それとも私の姿にちょっとドキッとしたかな? はっはっは、君にもまだあの幼い頃みたいな純粋さが残っていたんだなあ。
どうだい? あの頃みたいに君を少年、とか呼んであげようか」

「あー、いや、遠慮しとく。とりあえず上に何か羽織ってから歩き回るんだ。ああもう、風呂で解放感いっぱいになってるじゃないか。部屋に戻るぞ部屋に。なんかフラフラしてるな? あんた、もしかして風呂で飲んでたんじゃないか?」

「熱い風呂で冷たい水で割ったワインが美味しくて……」

「この酔っ払いめえ! ちゃんと歩いて! ふらつかない! ああ、脱ぐな脱ぐな! 着ろー!」

 こうして男爵邸に一泊。
 明日の狐狩りに備えるのだ。



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