俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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28・覚醒のナザル

第83話 ついに油煮と出会う

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 かぐわしいオブリーオイルの香り。
 串焼きにあった、かすかなオブリーの残り香ではない。
 純度100%、完全無欠のオブリーオイルである。

「ご主人~!!」

 店先でコゲタがぴょんぴょん飛び跳ねていた。
 僕を招いているのだ!
 どれだけオブリーを僕が求めていたか、彼は知っているからな。

 意気揚々と店の中に入る。
 すると、火に掛けられた大きな鍋を前に、難しい顔をしているおばさんと出会った。

「なんだいあんた。店は夜からだよ」

 おばさんは難しい顔をして言う。
 多分、機嫌が悪いのではなくこういう顔なのだ。

「そうでしたか。僕は遥か南方の都市アーランから、オブリーの油煮を求めて旅してきた者なのですが」

「なんだい! 見たことがないやつだと思ったら、旅人だったのかい!? 油煮をわざわざ!? ヒェ~! もの好きもいるもんだね!!」

 おばさんは難しい顔のまま目をまんまるにひん剥いて驚いた。
 面白い人だ。
 追い出される風でもないので、僕とコゲタは店の中に入り込み、「ちょっと鍋を拝見しても?」「好きにおし!」ということで許しをもらった。

 油の中で煮込まれているのは、なんとオブリーの実である。
 オブリーオイルでオブリーを煮る!?
 オブリー尽くしじゃないか。

 食べたい。
 ぜひとも食べたい。

「これは王道のオブリー煮でね。こいつに色々な具材を入れて煮込むのさ。スナネズミの肉なんかが美味いね」

「スナネズミですか」

「そうさ! 岩石砂漠を走り回るすばしっこい連中でね、いつだったかの旅人は、ネズミなんてとんでもない、ありゃあウサギですよ! なんて言ってたもんだ。こいつの肉が絶品なのさ。そのまま焼くと少々臭いが、オブリーオイルで煮込むと臭みも抜けて、肉本来の味が出てくるんだ」

「聞いているだけで腹の虫が鳴きますね……。夜というとあとどれくらいで営業を?」

「日傾いた頃合いさ。すっかり沈んでもしばらくはやってるから、暗くなる頃においで」

「喜んで」

 ということで、僕はコゲタを連れて一旦宿へ戻ったのだった。
 涼しい土の部屋で昼寝をして、夕方を待つ。

 バンキンもキャロティも動きが無いということは、暑い昼間は寝て過ごす方針のようだ。
 みんな考えることは同じだな。

 さて、差し込む日差しの方向が変わり、色合いも黄色から赤くなってきた頃。
 窓の外が賑やかになってきた。

 家々から、次々に人が出てくる。
 昼間はお昼寝の時間、夕方から夜に掛けてがこの国のゴールデンタイムなのだ。

 深夜まで騒いだり仕事をしたりして、適当に食事をして寝る。
 そして短時間で置きて、明け方から昼まで仕事をして、昼から夕方まで寝る。

 独特のライフサイクルだ。
 起きて、ウェルカムドリンクのやたらと薬臭いお茶を飲んで喉を潤す。

「うえー」

 コゲタが苦そうな顔をしていた。
 目が覚めたことだろう。

 二人で外に出ると、ちょうどバンキンとキャロティも出てくるところである。
 僕らは宿で三つ同じ並びの部屋を取ったのだ。

「涼しくなったなあ! これ、さらに涼しくなるんだろ? ってことは、防寒っぽい格好しておかねえとやべえな」

「なるほどだわ! 昼と夜の寒暖差が激しいのねー! あたしは天然の毛皮があるけど!」

 寝起きなのにキャロティは元気だなあ。
 では、夕暮れの街を練り歩こうと言う話になった。

 ヒートスの周辺は高い山などはなく、あっても数メートル程度の小さな岩の柱みたいなのがある程度。
 だから地平線が見えるのだ。

 おお、太陽がゆっくり、実にゆっくりと沈んでいっている。
 昼の暑さが嘘のような過ごしやすさ。

 昼間は無人のようであった大通りに人が溢れ、たくさんの屋台が出ている。
 声が飛び交い、物が売れる。
 笑い声や怒声が響き、あちこちで走り回る者がいる。

 ヒートスはこんなに活気がある都市だったのか。
 アーランに優るとも劣らない。

「さて、どこに行こうかしらね!」

「任せてくれ。みんなでまずは油煮を食って腹ごしらえしようじゃないか!」

 僕が宣言すると、バンキンとキャロティが目を見開いた。

「油煮……? なんだそりゃあ」

「あっ! オブリーオイルでなんか煮たやつね! 野菜だと嬉しいわ!」

 行こう行こう、とキャロティが飛び跳ねた。
 
 今の時間は、日陰を伝って移動しなくてもいい。
 人混みを縫いながら、コゲタがはぐれないように先を歩きつつ例の店へ。

「やってます?」

「昼間の旅人さんだね! やってるよ!」

 おばちゃんの元気な声がした。
 僕らの他に、地元の常連客が何人もいる。
 おっさんたちである。

「えっ、旅人がこんな場末の飯屋に!?」

「誰が場末の飯屋のおかみだい! あんたを油煮にしちまうよ!」

「ひえーおかみさん勘弁してくれ!」

 ドっと笑いが起こる。
 賑やかなところである。
 こういう空気、人によっては疎外感を覚えたりするものだろうが、僕らは違う。

 面白いか面白くないかだけで、人生の先行きを決めている三人なのだ。
 当たり前みたいな顔して、「危機感を覚えるほどアツアツのオブリーオイルが!? こりゃあ期待できるなあ……」とか言って入店するのだ。

 三人で並び、何を注文するか相談する。
 おばちゃんは注文を聞いて……。

「そっちの日焼けした兄ちゃんはスナネズミ、でかい兄ちゃんはガルダの肉、スナネズミみたいなお嬢ちゃんは野菜煮ね」

「ちょっとー! 誰がスナネズミよー! あたしはウサギよ!」

 もぎゃーっと抗議するキャロティなのだった。
 そのウサギが、この国だとスナネズミなのだ。

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