俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
108 / 337
36・第二王子一家、視察に来る

第108話 殿下、これが生きている家畜です

しおりを挟む
 サトウキビを楽しんだ後、我々第二王子一行は第二層へ向かうのだった。
 当然のように、第一層では何も起こっていない。
 第二層だって何も起こらないだろう。

「安全が完全に確保されているんですよ」

「ほう……! いや、私も教師から聞いたことはあったが、遺跡の中がこれほど安全に保たれているとは思わなかった。労働者たちも、仕事に専念できるのだな」

「そういうことです。お陰で僕らは、美味しい食べ物を口にすることができるわけで」

「ああ。私も暖かい食事があれほど美味しいとは思わなかった。今は日々楽しい。例え暗殺される危険が上がるとしても、あれを知ってしまった以上は冷たい食事には戻れない……」

「ええ、本当にその通りです!」

「温かい食事は大変な手間ひまが掛かってたのねえ。感謝だわ!」

 奥方とお嬢さんもそうだそうだと言っております。

「……よくぞこの人たちと仲良くなったもんだねえ……」

 ツインが大変感心している。
 そこはそれ、僕の手腕というやつだ。
 飯で釣ったからね。

 第一層から第二層への移動をエレベーターで行う。
 家畜がわんさか乗り込める大きなエレベーターだ。

 動く地面に動揺して、第二王子一家があわあわしていた。
 ゆっくりと下っていくが、眼の前の地面がどんどん上に上がっていき、岩盤になり、そしてずっと下って第二層になるわけだからね。
 この視界は慣れないと確かに驚く。

 そう、エレベーターには扉が無いのだ。
 事故に注意。

 ちょっと待ったら到着だ。

「ともだちのにおい!」

 第二層に着くや否や、コゲタがピューッと飛び出していった。
 僕が畑仕事をしている間、コゲタは家畜のお世話をしたりしていたからな。
 ここで暮らす動物たちとは顔見知りなのだ。

 あちこちから、獣の鳴き声が聞こえる。
 コゲタの帰還を感じ取ったらしい。

「うっ、こ、ここは臭いわ!」

 お嬢さんが鼻をつまんだ。
 そう、家畜とは臭うものです。

「だんだん慣れていってください。ここで、僕らが食べている肉やチーズなどが作られているんですよ。皆さん、牛乳飲んだりしないでしょう。外に出るのは、さんざん熱して加工用になったものばかりだし」

 牛乳なんかはすぐ悪くなってしまうから、殺菌して密閉する技術などが未発達なこの世界ではあまり多く飲まれていない。
 熱して飲んだりはできるんだが、日持ちさせるように加工する技術がな……。

「牛乳? それってチーズのもとになるものでしょ?」

「そうです。チーズは美味いでしょ」

「確かに美味しいわ。あれは冷めても美味しいし、むしろ冷えてると美味しいわ!」

 美味しさを語るほどに目がキラキラしてくるお嬢さん。
 美食を愛する素質がある。

「そのチーズのもとになったものですよ……」

「絶対に美味しいわ!! 飲みたい!」

「よし、牛乳飲みに行きましょう!」

「行くわ!」

 そういうことになった。
 お嬢さんの勢いは第二王子を上回るな。
 これが若さか……。

 第一層の視察で割と満足しているっぽい第二王子と奥方だが、愛娘がどんどん先に行くならばついていく必要がある。
 顔を見合わせて笑いながら、後ろを歩いてくるのだ。
 彼らのこんなにこやかな表情、城の人々は見たことがないかも知れないな。

 やって来たのは、牛がたくさんいるところだ。
 搾乳の時間に合わせてやって来たので、ここはぜひとも第二王子一家に牛の乳搾りを体験してもらおうではないか。

「あひー」

 お嬢さんがなんとも言えぬ悲鳴を上げながら乳搾りをした。
 ミルクが下の桶にビューっと出る。

「うひゃーっ」

「はしたないですよ!」

 奥方に注意されている。
 いやあ、初めてならその悲鳴は出ちゃうと思うなあ。

「あなた、見本を見せてやってください」

「えっ、私が!?」

 デュオス殿下は助けを求めるように、僕とツインを見た。
 その後、なんか顔を引き締めた。

 おっ、再会した息子にいいところ見せるつもりだな?
 その息子はもう独り立ちし、ゴールド級として地位を確立したすごいヤツなのだ。
 彼はどういう能力を使うんだろうな。
 神殿で育てられたらしいから、神官戦士みたいな感じなのではないか。

 そんな事を考えているうちに、殿下が搾乳ポジションに入っていた。
 農夫の人に教えてもらいながら、真剣な顔で牛の乳に挑む──!!

「いざ!!」

「あっ殿下、力はいりませんので優しく優しく」

「あ、うん分かった」

 緊張しながら、教えられた通りに乳搾りするデュオス殿下。
 おお、ミルクがぴゅーっと桶の中に入った。

「やるわねえお父様……!」

「あなた、素敵よ!」

 ツインもこの光景を、ちょっと口元を隠しながら眺めている。
 ニヤニヤしてしまうのを必死に隠しているな?
 離れていても家族の愛みたいなのはあるんだなあ。

 ということで!
 みんなで搾りたてのミルクをいただくことになった。
 とは言っても、一度熱して消毒はするけどね。
 それに熱くしたほうが甘みが出る。

「じゃあみんなでいただきましょうか!」

「うむ。どれ……」

 真っ先に口をつけるのは殿下だ。
 もう僕の言うことならなんでも信用してくれるところまで来ているな……。

 だが、今回は間違いない。
 暖かいうちが美味いんだから。

 生まれて初めてホットミルクを口にした殿下は、目を丸くする。

「これほど濃厚で……そして優しい甘さのある飲み物は初めてだ……。だが、どこか馴染みがある……」

「わ、私も飲むわ!」

「わ、わ、わたくしも!」

 お嬢さんと奥方が続いた!
 そしてみんな、笑顔になる。

 僕も会心の笑顔になった。

「……殿下。このミルクの美味さを街のみんなにも味わわせてやりたくないですか」

「うむ! 確かに! これを流通できる方法があれば、私は幾らでも金を出そう!」

 いいぞいいぞ!
 持つべきものは物わかりの良いパトロンなのだ!


 
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。

あけちともあき
ファンタジー
冴えない高校生女子、きら星はづき(配信ネーム)。 彼女は陰キャな自分を変えるため、今巷で話題のダンジョン配信をしようと思い立つ。 初配信の同接はわずか3人。 しかしその配信でゴボウを使ってゴブリンを撃退した切り抜き動画が作られ、はづきはSNSのトレンドに。 はづきのチャンネルの登録者数は増え、有名冒険配信会社の所属配信者と偶然コラボしたことで、さらにはづきの名前は知れ渡る。 ついには超有名配信者に言及されるほどにまで名前が広がるが、そこから逆恨みした超有名配信者のガチ恋勢により、あわやダンジョン内でアカウントBANに。 だが、そこから華麗に復活した姿が、今までで最高のバズりを引き起こす。 増え続ける登録者数と、留まる事を知らない同接の増加。 ついには、親しくなった有名会社の配信者の本格デビュー配信に呼ばれ、正式にコラボ。 トップ配信者への道をひた走ることになってしまったはづき。 そこへ、おバカな迷惑系アワチューバーが引き起こしたモンスタースタンピード、『ダンジョンハザード』がおそいかかり……。 これまで培ったコネと、大量の同接の力ではづきはこれを鎮圧することになる。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

処理中です...