俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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39・ごま油の気配

第118話 ゴマを栽培せねばな

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 セサミを見せてもらった。
 箱の中にぎっしり収められたそれは、植物の種子に見える。
 とても細かい趣旨が、鞘に収まったままどっさりと詰め込まれているのだ。

「これは……。利用方法なんかは分かるんですか?」

「珍しい植物ですが、現地の者によれば煎るかすりつぶして食べるようですな。とても香味がよろしいです。ご興味がお有りですか? ですがお高いですよ」

 商人は僕を値踏みする目をしてみせた。
 うんうん、僕の姿からは、金持ちには見えないだろうからね。
 後ろにはぬぼーっとした感じでハーフエルフが立ってるし。

「実はパトロンがいるんですよ。このセサミという植物、それなりにいい値段で買い取らせてもらいたい。僕のパトロンはなかなかの好事家でね」

 僕は商人の耳に囁きかけた。
 箱いっぱい程度の量からすると、破格の値段だ。

「ほお! そんなに……。いやいや、ですがこれはわたくしめが命がけの航海で得た貴重な植物……。その金額ではとてもとても」

 こいつ、もう少し搾り取れると見て値を吊り上げたな。
 まあ、僕も第二王子どころか、第一王子のポケットマネーまで使えるようになった身だ。
 さらにリップルにお願いしてもらえば、国王だってポケットマネーを出すだろう。

 つまり、国庫をある程度僕の趣味で使える状態になっているのだ!
 なんなら船ごと買い取ってやるぞ!

 いやいや、落ち着け僕よ。

「ナザル、今尋常ではない目をしていたよ。人の道を外れるのやめておいた方がいいと思うけどね」

 さすが安楽椅子冒険者、僕が転落しそうだったのを感じ取ったようだ。
 うんうん、ここは常識的な交渉で行こう。

「ああ、でしたら、先程の金額でこの二房ほどなら……」

「ほうほう、なるほどなるほど、それでしたらよろしいでしょう。とてもとても貴重なものなのですが、特別にお分けしましょう……」

 何が貴重だ。
 明らかに、自分では味見すらしてない顔をしている。

 だが、二房あれば十分だ。
 ここから僕は栽培するからである。

 そしてセサミ……ゴマはこの国では売れまい。
 見た目がそんなに美味そうじゃないからだ!

 ははは、せいぜい値段を釣り上げて売りつける努力をするとよろしい。
 僕は二房を買い付けて、切り上げることになった。
 と思ったら、アビサルワンズの一人がトコトコついてくるではないか。

「どうしたんだい」

「いやあ、わしらは元の国に戻ろうにも、しばらく船はあそこにいるんで。わしは航海士だったんですが、すっかり暇になったのでこの機会に外国を観光して回ろうかと」

「ははあ、よろしい。僕が案内しましょう」

「あっ、助かります」

 カエルみたいなアビサルワンズの航海士は、ダイフクと名乗った。
 大福か!!
 なるほど、むちむちのおまんじゅうとも例えられる、アメフクラガエルに似ている気がする……。

 かくして、僕とリップルとダイフク氏で商業地区に戻ってきたのだった。

 早速、シャザクに連絡を取り、殿下に新たな食材をゲットの報を送る。
 そして遺跡に持ち込み、栽培開始だ。

 確かゴマは、比較的乾いた土地で育っていたはず……。
 ミャンマーやインドだったっけ。
 だから、やはり水が少ない状態で育てるといいだろう。

 オブリーやトマドと近い環境を整える。
 これだ。
 農夫は仕事が増えて大変だろうが、最近は作物による実入りが増えて、みんなホクホクしてるらしい。 
 さらに儲けさせてやるからな。

 ということで、農夫たちに一房預けてきた。
 その鞘の中から、ザラザラとゴマが出てきたので、農夫たちはびっくりしていたのだった。

「じゃあ戻ってこれを食べてみよう」

「その細かい種をかい? 全然食べごたえがなさそうじゃないか」

「うんうん、喉につっかえそうです。わしらは丸呑みしたりするんですが」

 リップルもダイフクもゴマを大変不思議そうに眺めている。
 そうだな、このままでは食べ方がわかるまい。

「ゴマは言うなれば薬味なんだ。香りつけで、ハーブの一種みたいに使う。それと、油を多く含んでいるんで、絞って香りのついた油を取ったりする」

「ナザルはずいぶん詳しいな。以前の君はそれを見てきたってことだね?」

 リップルがニヤリと笑った。

「だったらお墨付きだ。美味しいに決まってる。私は期待してるよ」

「そりゃどうも」

 ダイフクだけは、話の意味が分からずに頭を捻っていた。
 想像できないなら、食べさせてしまえばいいのだ。

 僕はギルドの酒場に行くと、マスターにすり鉢を借りた。
 あるんだよな、すり鉢……。
 バニラみたいな香りの実を擦ったり、ケーキの材料を混ぜ合わせたりするのに使うらしい。

 ゴマを煎ると、ぼんやりした色だったそれが黄金色に輝き始めた。
 こいつ、金胡麻だぞ!!

 なんともたまらない香気が、煎り鍋から漂ってくる。
 これをすり鉢に入れてするのだ。
 ゴリゴリやっていたら、もう香りが素晴らしい。

「香ばしいね! なるほど、これは未知の香りだけど、どこか懐かしいな」

「それっぽっちの量しかないのに、凄く匂いが漂ってくる! でも量が少ない!」

 リップルは感心し、ダイフク氏は量を気にしているな。
 だが、これは何かに掛けたりして、香り付けにするものなのだ。

 とりあえずマスターが焼いたケーキに載せてみよう……。
 まだクリームで飾り付けする前の、スポンジケーキだ。

 すりごまを乗せるものだっけ?
 そのままで良かったのでは……?

 だが、僕は考えるのを止めた。

 僕とマスターとリップルとダイフク氏の四人で、ケーキを食べてみる。

「おおっ! 凄い香り!!」

「これは……いいですね。甘い匂いの中に、大きな変化がもたらされた感じだ」

「あー、いいねーこれ。シンプルな生地に凄くマッチしそう。新しいメニューができるんじゃない?」

「丸呑みしたのに腹の中から香りがする~」

 ダイフク氏だけ独特だな。
 カエルジョークかな?

 だが、これでゴマの可能性は確認できた。
 あとは……。
 僕がゴマ油を生成できるかどうかを調べねばならない……!

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