俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
126 / 337
42・アララの飼い主の正体

第126話 飼い主の正体

しおりを挟む
 随分長い間、僕と同じ宿に連泊している人物がいる。
 見た目は紳士的な人物で、アララという名前のコボルドを連れている。

 アララはコゲタの友達で、よく遊んでいる。
 年格好が近いから、気が合うのかもしれない。

 僕がよくコゲタに留守番をしてもらうので、そんな時はアララの存在に助けられているのだ……。
 さて、この飼い主である紳士は何者だろうか。

 他人の仕事を詮索するタイプではない僕だが、気にならないといえば嘘になる。
 冒険者でも無いらしいのに、随分長いこと宿に住み着いているしな……。

「おい、油使い」

「おや、アーガイルさん。窓から来るのは止めてください」

「悪い悪い。ようやく奴の正体が掴めてな」

「奴といいますと」

「お前の他の長期滞在者だ。入るぞ」

「表から入ってほしいんですけどね」

「階段を登るよりも壁を飛び越えるほうが早い」

 アーガイルさんはゴールド級冒険者であり、盗賊ギルドの幹部。
 ここ最近見ていたゴールド級の化け物みたいな人達と比べると、大変人間的な能力であるように見える……。
 絶対隠し玉があるだろうな。盗賊として極めて高い完成度の能力だけで、シルバー級だとしても飛び抜けてトップだろうし。

「仕事を引き受けてくれ。そうしたらそいつの正体を教えてやる」

「内容も聞かないのに仕事を!?」

「お前にとっても損にはならんだろう。いいか? お前のコボルドが困るような状況にはならん」

「あ、そうですか。それなら別に受けても構いませんが」

「これはな、内々で処理しても良かったんだが、この間のうちのバカどもが無様な仕事をしただろう」

「ああ、港の」

「そう、それだ。あいつらは一旦地下労働に回した。一年みっちり農作業やって、ほとぼりが冷めてから出てくる予定だ」

「遺跡の農場をまるで監獄みたいに……」

 あ、いや、意外とそんな感じで労役に励んでいる人が多いんだった。
 そして居心地がいいもので、本当に農夫になってしまったりもするんだよな。
 あそこは更正施設でもあるのだ。

 ちなみにオブリー栽培のアシスタントで働いている農夫は、元犯罪者で、今は完全に農業にハマっている。
 規則正しい生活と、自分の仕事がきちんと実りという形で可視化されること、そしてアーラン国民の皆さんから感謝されること。
 この味を知ってしまうともう戻れないよね……。

「結論から言うと、奴はツーテイカーの工作員だ。スパイとして潜り込んでいたのだが、あまりにもアーランの食関連の動きが激しすぎて、ずっと食の調査をしているらしい」

「なんとまあ」

 その食の変化には僕が大いに関わっているのだ。
 
「取り込め。というか、その工作員を通じて、アーランの美食がツーテイカーに流れているらしい。半端な麻薬を凌駕する中毒性で、向こうのトップは次々と陥落している。もうすぐ冷戦が終わるぞ」

「なんですって」

「それは工作員も知っているはずだ。だから、お前がやつを取り込め。味方につけろ。それが仕事内容だ。報酬には色を付けておいてやるからな」

 なかなかの金額を提示された。
 一応、建前上ギルドを通す形にはなるが、その手数料を差し引いても大した金額だ。

「やりましょうやりましょう。僕にお任せあれ」

「頼むぞ」

 そう告げて、アーガイルさんはその体勢のまま背後にジャンプした。
 窓の向こうに消えていく。
 身体能力だけならずば抜けてるよなあ。

 もう姿が見えなくなっている。

 さて、では仕事だ。
 井戸の周りで、コゲタとアララがキャッチボールをして遊んでいる。
 お互い捕球が下手なのだが、どこかに飛んでいってしまった球を取りに行くのも楽しいらしい。

 ちなみに球は何かにぶつかってもいいように、木の枝を編んで作られた中空のものだ。
 二人のキャッキャ言う声が聞こえてくるな。

 飼い主氏はいないようだ。
 僕はしばらく、二人のコボルドの遊ぶさまを眺めながら飼い主氏を待つことにした。

 夕方に差し掛かる頃、彼は戻ってきた。
 僕が立ち上がり手を上げると、会釈してくる。

「やあ、どうです。たまには一緒に夕食でも。コゲタがアララちゃんにいつもお世話になっていますし」

「ああいいですね。何を食べるんです?」

 飼い主氏はアルカイックスマイルを浮かべた。
 目が笑っていない。
 彼の中の工作員は、常に相手や状況を品定めしているのだ。

「……実は、少量ですがゴマ油が手に入りまして」

「ゴマ油……!?」

 食いついた!
 彼が所属するツーテイカーが、アーランの美食によって侵食され始めている今。
 食材の名前には興味津々だろう。

「ピーカラをゴマ油と合わせることで、ラー油が」

「ラー油!? そ、そんなものはアーランの市場には存在しなかったはず……」

「僕が今日、この世界に生み出す調味料です」

「なんですって……!? ま、まさかアーランの最近の凄まじい速度で進行する美食文化の発展は……」

「僕です」

「な、な、なんだってーっ!!」

 本気で驚いている。
 ははは、まさか同じ宿に長居している僕が、アーラン美食化計画の黒幕だとは思わなかったようだな。

「そんな……こんな近くにいたなんて……」

「最近、アーランに広まっている餃子はご存知でしょう」

「え、ええ。特別な素材を使っていないのに、様々な料理方法ができる恐るべき美食……」

「そのうち、焼餃子と呼ばれる料理が今夜完成します」

「なにぃーっ!!」

 素で凄いリアクションをしてくれる人だな!
 今までアーランに潜伏し、美食を中心に調査してきたんだ。
 僕が彼を、その最先端に招くという意味を分からぬわけではあるまい。

「行きましょうか」

「ええ。ちなみにラー油とやらはコボルドは」

「コボルドには刺激が強いので、普通に犬用を用意します」

「良かった」

 ということで、ご主人ご主人、とついてくるコゲタとアララを伴い、僕らは完成形焼き餃子を食べに行くのだ。

しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。

あけちともあき
ファンタジー
冴えない高校生女子、きら星はづき(配信ネーム)。 彼女は陰キャな自分を変えるため、今巷で話題のダンジョン配信をしようと思い立つ。 初配信の同接はわずか3人。 しかしその配信でゴボウを使ってゴブリンを撃退した切り抜き動画が作られ、はづきはSNSのトレンドに。 はづきのチャンネルの登録者数は増え、有名冒険配信会社の所属配信者と偶然コラボしたことで、さらにはづきの名前は知れ渡る。 ついには超有名配信者に言及されるほどにまで名前が広がるが、そこから逆恨みした超有名配信者のガチ恋勢により、あわやダンジョン内でアカウントBANに。 だが、そこから華麗に復活した姿が、今までで最高のバズりを引き起こす。 増え続ける登録者数と、留まる事を知らない同接の増加。 ついには、親しくなった有名会社の配信者の本格デビュー配信に呼ばれ、正式にコラボ。 トップ配信者への道をひた走ることになってしまったはづき。 そこへ、おバカな迷惑系アワチューバーが引き起こしたモンスタースタンピード、『ダンジョンハザード』がおそいかかり……。 これまで培ったコネと、大量の同接の力ではづきはこれを鎮圧することになる。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

処理中です...