俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
132 / 337
44・磯釣りに行こう

第132話 その場で捌いて食べる

しおりを挟む
「おーい、ダイフク氏」

「なんですかなー」

「いつ頃までここにいるわけ? ダイフク氏、一応船乗りだし、操舵手だから絶対に船に必要でしょ」

「そうですなあ。その通りではあるのですがー」

 浅瀬を挟んで会話しているとまだるっこしい。
 コゲタがイソギンチャクやウミウシを触ることに夢中なので、ひとまず安全であろうと判断。
 僕はダイフク氏とおしゃべりするために移動した。

 向こうでは、飼い主氏とアララが並んでそっくりなポーズで釣りをしている。
 水遊びに夢中なコゲタと違って、アララは釣りのセンスがあるのかも知れない。

 いや、コゲタも釣り糸を垂らせば釣るので、才能はある!
 飽きっぽいだけだ。

「で、どうなのダイフク氏」

「そうですな。船主次第というところですが、かの御仁はしばらくの間こちらで豪遊していくつもりのようですな。ですからわしは、しばらくここでまったりですな」

 そうかそうか。
 ということは、一週間や二週間で去るというわけではないらしい。
 海が荒れ始める冬場になるまえに船は離れるだろうから、遅ければ秋頃、早くても夏か……?

「じゃあその間、たっぷりと遊んでいかないとな」

「ですなあ。ナザル氏と出会えたことはわしにとって得難い幸運でした。ちょこちょこ面白いことを体験できますからな」

「うんうん、アーランはまだまだ面白いところがあるからね。ともに思い出を作っていこう」

 握手を交わす僕らなのだった。

「ナザルさんはどんどん友人を作っていきますね」

 飼い主氏が感心している。

「人生の豊かさの一つの指標だからね。友人が多いほど僕の世界が広がるだろ? そうすると楽しいことがどんどん増えていくんだ。そして……食材が新たに手に入る」

「最後に本音が出たようですね」

 飼い主氏が笑った。

「その本音の一端をお見せするよ。ここに……鍋を持ってきていてね……」

 適当な岩場に石を積み上げて、薪を突っ込む。
 そして僕は新たな油を放つ。
 可燃性の油だ。

「問題は、着火しないといけないことなんだが……。おーい、サルシュ。着火の魔法使える?」

「ワタクシめは司祭ですから、本来はそういう魔法は使えませんよ」

「やっぱり」

「ワタクシめはこんなこともあろうかと使えます」

「使えるのかよ!」

 もったいぶって。
 話を聞いたら、一応爬虫類系の人種なので、何かあったら体を温められるように炎を行使する魔法を一通り覚えているらしい。
 これらは、至高神にして太陽神であるバルガイヤーの権能であるため、その信者にとって親和性が高いらしい。

「では行きますよ。えー、炎をここに」

 そう告げたサルシュが、空に向けて両手を掲げた。
 すると……。
 彼の頭上の空気がぐにゃりと歪む。

 おい、まさか……。

「そうそう。この着火の魔法は、昼間しか使うことができないのですよ」

「まさか。まさか、あれなのか!?」

 ぐにゃりと歪んだ空気の向こうに見える太陽が大きい。
 そこから、視認できるほどの強さになった太陽光が収束され、油で濡れた薪に直撃した。

 やっぱり!!
 空気をレンズにして太陽光線で熱を加える魔法だ!
 炎を行使する魔法……?

「結果的に炎が発生するので炎を行使する魔法と言って問題ありますまい」

「広義の炎の魔法過ぎる」

 だが火が付いた。
 ここに鍋を乗せ、油を敷き……。

「よいでしょう。わしが魚を捌きますぞ」

「おお、船乗りの本領を発揮!」

 ダイフク氏、立つ!
 このばで魚を料理する気まんまんだったので、刃物を持ってきていたらしい。

「わしが食べるだけなら刃物はいらないのですがな。丸呑みなので」

「あっ、カエルだから……。つまり、その魚を捌く技は誰かに食べさせるために?」

「もてなしのためですぞ」

「おおーっ」

 感嘆する僕なのだ。
 ダイフク氏は、長い航海の間、趣味で魚をおろす技を身につけたらしく、見事な手さばきである。
 鱗を取り、頭と内蔵を抜き、ざっと鍋の上に並べられる。
 おお、食欲をそそる香りよ。

 米が……米が欲しくなる香り。
 コゲタとアララが寄ってきた。

「お腹へった?」

「へったー!」

「ごはん!」

「よーし、熱いからちゃんと冷まして食べるんだぞ」

 炒めた魚を分配。
 ひとまず釣りはお休みして、ここで食べようということになった。

 サルシュがしみじみと呟く。

「釣りをする方々は、釣りが一段落するまでの間は軽食を食べながら、ひたすら釣り続けるものだと思っておりましたが……」

「僕の釣りはなんちゃってだからね。合間合間で魚でバーベキューもするし、途中で日向ぼっこに変わったりもする。浅瀬でコゲタたちと遊んでもいいし」

「なるほど、いい過ごし方です。やりたいことをやりたいようにやっておられる」

 ああ。
 お陰で今の生き方は大変満足できるものになっていると思う。

 毎日がとにかく楽しい。

 炒めた魚に塩を振ってかじると、なんともいいお味。
 中まで熱が通っている。
 油、いい仕事をしたな。

 そしてこれを食べていると、米が欲しくなってくる。
 ……米、米かあ……。

 この世界のどこかに存在しているのだろうか。

「米が欲しくなりますな!」

「あっ、ダイフク氏、君は米を知っているのか!!」

「南方大陸では米を育てておりましたな……」

「なん……だと……」

 アメリカンファストフードと米がある南方大陸。
 そこに行ってしまえば、僕の美食人生は完成するのではあるまいか?

 いやいや、それは誰かが用意したものだ。
 この世界で、ようやくパスタにトマトににんにく、オリーブオイルや寒天を一箇所に集めることができたのだ。

「こちらの世界の米を僕は探す……!!」

 果てない野望である。
 だが、まずは手近なところで大豆が手に入りそうらしいし……。

「醤油と味噌を作るところからやるか」

 この炒めた魚を、前世で馴染んだあの調味料で味付けする。
 それを夢見ながら、僕は新しい魚を焼き始めるのだった。


しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。

あけちともあき
ファンタジー
冴えない高校生女子、きら星はづき(配信ネーム)。 彼女は陰キャな自分を変えるため、今巷で話題のダンジョン配信をしようと思い立つ。 初配信の同接はわずか3人。 しかしその配信でゴボウを使ってゴブリンを撃退した切り抜き動画が作られ、はづきはSNSのトレンドに。 はづきのチャンネルの登録者数は増え、有名冒険配信会社の所属配信者と偶然コラボしたことで、さらにはづきの名前は知れ渡る。 ついには超有名配信者に言及されるほどにまで名前が広がるが、そこから逆恨みした超有名配信者のガチ恋勢により、あわやダンジョン内でアカウントBANに。 だが、そこから華麗に復活した姿が、今までで最高のバズりを引き起こす。 増え続ける登録者数と、留まる事を知らない同接の増加。 ついには、親しくなった有名会社の配信者の本格デビュー配信に呼ばれ、正式にコラボ。 トップ配信者への道をひた走ることになってしまったはづき。 そこへ、おバカな迷惑系アワチューバーが引き起こしたモンスタースタンピード、『ダンジョンハザード』がおそいかかり……。 これまで培ったコネと、大量の同接の力ではづきはこれを鎮圧することになる。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

処理中です...