俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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49・大豆プレゼン・オブ・王室

第141話 第二王子、豆腐を食す前編

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「ナザル、いい加減新しい料理ができたなら献上に来いと殿下がお怒りだ。このままではたくさんの伴を連れてお前の宿に押しかけるぞ」

「な、なんだってー!!」

 シャザクが来るなりとんでもないことを言ったのだった。
 おいおい、勘弁してくれ。
 殿下がやってきたら大騒ぎで、僕は平穏な生活ができなくなるではないか。

「いやいやナザル。君はもうデュオス殿下の美食エージェントではないか。殿下としては君に騎士爵の地位を与えてもいいと考えているくらいだぞ」

「いらない!! 名誉とか役割とか義務とかいらない! お金だけ欲しい!」

「なんと正直な男だろう」

 シャザクが呆れを通り越して感心している。
 そこへ、さっきまで宿のおかみさんと二人でベッドのシーツなどを洗濯していたコゲタがやってきた。
 おお、手にシャボン玉がついてるな。

「ご主人~! みてみてー! あっ、しゃざくさんこんにちは!」

「はい、こんにちは」

 シャザクはコゲタへの理解がある男なので、安心して任せられるのだ。
 僕が忙しい時は、たまにやってきてコゲタと遊んでくれるらしいからね。

 貴族なのになんて気さくなんだ……。

「君の相手をしている間、私は貴族としての義務から解放されるんだ……。つまり楽をしているのに義務を果たした事になり、覚えもめでたくなる」

「僕と同じじゃないか!」

「ははははは」

「おー? ふたりともみてみて! しゃぼん玉!!」

 コゲタがまだ手に残っている石鹸水をゴシゴシして、指で輪っかを作ってフーっと吹いた。
 おおーっ、しゃぼん玉が一個ぷかぷかと出てきた。

「おおー」

「おー」

 僕とシャザクで拍手をしたら、コゲタがニコニコした。
 シャザクの付き合いがいいのは、彼には妹がおり、それがコゲタくらいの大きさだった頃によく一緒に遊んでやったかららしい。
 ノスタルジーを感じるのだろうな。

「よしコゲタ。お出かけになるから手から石鹸落としてきてください」

「はあい!」

 元気なお返事をして、コゲタが去っていった。

「おお、早速来てくれるか!」

「任せて欲しい。ちょうど、実験用に大豆を浸水させていたところだ。あのボウルごと王宮に持っていくぞ」

「やる気満々じゃないか。期待しているぞ。私の保身のためにも頑張ってくれ」

「仕方ないなあ……」

 シャザク男爵の顔を立ててやろうじゃないか。
 僕と王家の取次をしてくれて、色々世話にもなってるしな。

「きたよー」

「おおコゲタ、干してたオーバーオール乾いたのか」

「うん、おひさまのによい」

 外で干した洗濯物はいい匂いするからね。

「どれどれ?」

「どーぞ!」

 しゃがんだシャザクに、オーバーオールのお腹のところを持ち上げて嗅がせてくれるコゲタなのだった。
 ていうか本当に仲いいな君ら。

 三人で居住区を抜け、貴族街を抜け、王城に到着。
 徒歩で十五分くらい。
 アーランはなんだかんだで、入口から王城まで三十分でいけるんだよな。
 直径二キロの都市なのだ。

 浸水させてる大豆はそこまで焦る必要はない。
 普通に歩いて到着した。

 水が溢れないよう、ボウルの上に板を載せているからこぼれる心配もない。

「なんだか久々に殿下の家に来た気がするな」

「来たぞ」「来た来た」「おーいナザル! 新しい物を教えてくれ!」「我々の知的好奇心が暴れ出しているんだ」

 シェフたち!
 すっかりやんちゃになって……。

 だがいいことだ。
 僕はアルカイックスマイルを浮かべると、浸水した大豆を見せた。
 ざわつくシェフたち。

 その後、僕は殿下に挨拶をした。

「ナザルよ。新しい料理が……?」

「見たことも聞いたこともないやつです」

「おほー!!」

「あらあら、まあまあ! ナザルよ、それはヘルシーですか?」

「ヘルシーです。お腹にも優しい……」

「素敵……!」

「私はガッツリでもいいんだけどなあ」

 お嬢さん以外はめちゃくちゃ期待してくれている。
 期待に応えるぞ!

 若い子には肉を出しておけばよかろう……。
 僕は厨房に戻るなり、シェフたちにレシピを伝える。

 第二王子は執務のために出発した。
 豆腐を楽しみにしていることだろう。

「なるほど、この豆から白いキューブが……」「おお、潰して煮込むと白い汁になりましたね」「ははあ、豆の香りがする……」

 わあわあ言いながら料理をしている。
 家庭科の授業ではしゃぐ人たちみたいだな。
 いや、生まれて初めての料理なのだ。
 職業料理人で、雇い主が喜んでくれるものなら嬉しいだろう。

 濾して、豆乳ができる。
 これをシェフたちはちょっとずつ飲み、「飲める豆だ!!」とざわついていた。

「これで味そのものは想像できる。このまま出しても良いものだろうな」「これに味付けをすれば、濃厚なスープになる」「十分美味い」

 そこににがりをオンして豆腐にする。
 豆乳が固まり始めると、シェフたちがエキサイトした。
 不思議な化学変化だろう? 僕もよく仕組みが分かってないんだ。

 生前、本当に料理しておくべきだったなあ!

 そして水気を抜いて豆腐が完成した。
 思いの外でかい豆腐ができあがってしまったのだった。

「なるほど、まさに白いキューブ!」「あの水を吸ってふやけた豆が、こんな形に……」「驚き!」「食べてみるか……」

 当然のように、味に鋭いシェフたちから豆腐は大好評だったわけで。

 大豆をアーランに紹介する過程で、初手を豆腐にしたのは正解だった。
 この神秘的な外見と風味の変化は、魔法みたいだもんな!

「素材のままの味を殿下にお楽しみいただきたい」「この繊細な豆の味を……」

 おいやめろ、奇をてらうんじゃない!


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