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51・大豆、力を垣間見せる
第146話 納豆パスタというのはどうだ
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大豆の発酵は着々と行われているが、最初は間違って納豆が誕生した。
これは腐ったのだと思われて捨てられてしまったらしい。
もったいない。
だが、納豆が生まれる条件は記録されていたので、僕はこれを自前で作ってみることにした。
同じような環境を用意して……。
納豆を食べていると酒蔵には入れなくなるらしいから、あの発酵所の職人とは距離を取って会話することになるだろう。
だが、それでよし。
「ご主人~なにつくってるのー?」
「あー、コゲタにはちょっと臭いかもしれないものだなあ。美味しいんだけど」
「えっ、くちゃい……!?」
コゲタがちょっと嫌そうな顔をした。
ニオイに敏感だからなあ、コボルドは。
途中まで豆腐のようなやり方で豆をふやかして煮たところに、藁をぶっ刺す!!
そして濡れた布とかを掛けて一晩放置する……。
完成!
大豆が糸を引いている。
「うわあーくちゃい!」
コゲタが逃げた!
確か、犬にはちょっとなら納豆をあげてもいいし、整腸効果が期待できるらしいんだよな。
さてどうしたものか……。
今回の納豆は、宿の厨房の隅っこを使わせてもらっている。
「ナザル、あんたこれ腐ってるんじゃないのかい?」
「おかみさん、人間にとって有用な変化を発酵、不要な変化を腐敗と呼ぶんですよ。つまりこれは発酵です」
「また理由の分からないことを妙に説得力のある語り口で話す……。やめておくれ! なんだか丸め込まれちまいそうだよ!」
おかみさんの前で、僕が納豆をパクっと食べたので、彼女は「ぎぇっ」と目を剥いた。
うーむ、美味い!
納豆菌は最強なので、他の有害な菌をジェノサイドするから納豆は安全なのだ。
納豆菌が増えすぎない限り。
きちんと納豆だなあ。
これはどうやって食べてやろうか。
ウキウキしてくる。
「ナザル、お腹を壊さないかい……!?」
「大丈夫大丈夫。それに僕は自己責任で食べてるから。おーいコゲタ」
「あひー」
遠くでコゲタが悲鳴をあげた。
僕に近寄りたいが、納豆の放つ未体験の香りが彼の接近を拒んでいるのだ!
「コゲタ、鼻をつまんでついてくるんだ。大丈夫、体に悪いものじゃないから」
「ほんと?」
恐る恐る近寄ってくるコゲタ。
そしてキュっと顔をしかめた。
「うーわー」
「ちょっと清潔な環境にコゲタを置きすぎたな……。これからは酸いも甘いも分かるコボルドに育てなければ……」
「ちょっと! コゲちゃんにひどいことしたらあたしが許さないよ!」
「おかみさんが保護者顔をしてくるぞ!!」
この場にいたら、おかみさんにパイ生地を伸ばす棒でひっぱたかれそうだ。
僕は慌ててコゲタを連れて外に飛び出した。
目指すはギルボウの店である。
コゲタがちょっと距離をとってついてくる。
だが、だんだん近寄ってきた。
「慣れてきた?」
「あんまくちゃくなくなってきた」
うんうん、納豆の臭いに慣れてなかっただけだからな。
僕の生前は、納豆大好きドッグとかいたから。
今のコゲタの臭いもの苦手は、宿のおかみさんが過保護にしまくったお陰とも言えよう。
いや、普段預かってくれているのだから文句は言うまい。
「ギルボウ!」
「おうなんだ! うおっ! 強烈な発酵した香り!! 何か持ってきたな!?」
「流石だなギルボウ……。こいつはな、大豆を発酵させたもの……納豆だ」
「おお……」
今回のギルボウは食いつきがいい。
サッと近寄ってくると、納豆を一粒つまんだ。
「糸を引いてやがる。これだけ漬かってるのは、長い事掛けたな?」
「実は一晩だ。煮た大豆に藁を突っ込んで一晩……」
「なぁにぃーっ!? たった一晩であの硬え豆がこのやわっこい糸引く豆に!? どーれ」
パクっと食べるギルボウなのだ。
「あひー」
またコゲタが悲鳴をあげた。
ぴゅーっと店の隅まで走っていった。
まだ抵抗があるな!
「んっ! なんだこりゃ、すげえ旨味だ! あの味の淡い豆が、こんな強烈な味になるのかよ! こりゃあ……何かと合わせたいなあ」
「ああ。それが目当てで来たんだ。作り方も教える」
「ありがてえ!」
「ただし、こいつを作ったり食べたりしてから酒蔵に行くと作りかけの酒が全滅する」
「な、なんだとぉ!? そりゃあ……また強力なイサルデの力が働いてるんだなあ」
この世界で発酵と腐敗を司るのは、技巧神イサルデということになっている。
他に、それっぽい神様に不死と蘇りの神エタニスがいるが、この神は中途半端なことはせずにぶっ殺すか復活させるかする。
問題は復活しても時間制限付きの命ということで、二度目の死は魂ごと消えるということだ。
エタニス信者はこの二度目の死の克服を目指しているらしい。
閑話休題。
で、なんでイサルデかというと、かの神様は大変気まぐれでいたずら好きで、食べられないくらいに腐らせるかと思えば、最高に美味しいタイミングに熟成させてくれたりもする……ということなんだと。
「……そうだ。確か、僕の故郷には納豆パスタというものが……」
「ナットウ!? なるほど、この料理の名だな。これとパスタを絡める……。おもしれえじゃねえか! やってみよう! この独特のニオイも、軽く炒めたらなくなりそうだな」
「僕はそのままが好みだけど、コゲタがどうにもこれが苦手みたいで」
「ああ、あんなキレイにしてるコボルドならなあ……。よし、ちょっと熱してニオイを飛ばしてやる!」
こうして、頼れるギルボウの手で納豆が生まれ変わるのだ。
これは腐ったのだと思われて捨てられてしまったらしい。
もったいない。
だが、納豆が生まれる条件は記録されていたので、僕はこれを自前で作ってみることにした。
同じような環境を用意して……。
納豆を食べていると酒蔵には入れなくなるらしいから、あの発酵所の職人とは距離を取って会話することになるだろう。
だが、それでよし。
「ご主人~なにつくってるのー?」
「あー、コゲタにはちょっと臭いかもしれないものだなあ。美味しいんだけど」
「えっ、くちゃい……!?」
コゲタがちょっと嫌そうな顔をした。
ニオイに敏感だからなあ、コボルドは。
途中まで豆腐のようなやり方で豆をふやかして煮たところに、藁をぶっ刺す!!
そして濡れた布とかを掛けて一晩放置する……。
完成!
大豆が糸を引いている。
「うわあーくちゃい!」
コゲタが逃げた!
確か、犬にはちょっとなら納豆をあげてもいいし、整腸効果が期待できるらしいんだよな。
さてどうしたものか……。
今回の納豆は、宿の厨房の隅っこを使わせてもらっている。
「ナザル、あんたこれ腐ってるんじゃないのかい?」
「おかみさん、人間にとって有用な変化を発酵、不要な変化を腐敗と呼ぶんですよ。つまりこれは発酵です」
「また理由の分からないことを妙に説得力のある語り口で話す……。やめておくれ! なんだか丸め込まれちまいそうだよ!」
おかみさんの前で、僕が納豆をパクっと食べたので、彼女は「ぎぇっ」と目を剥いた。
うーむ、美味い!
納豆菌は最強なので、他の有害な菌をジェノサイドするから納豆は安全なのだ。
納豆菌が増えすぎない限り。
きちんと納豆だなあ。
これはどうやって食べてやろうか。
ウキウキしてくる。
「ナザル、お腹を壊さないかい……!?」
「大丈夫大丈夫。それに僕は自己責任で食べてるから。おーいコゲタ」
「あひー」
遠くでコゲタが悲鳴をあげた。
僕に近寄りたいが、納豆の放つ未体験の香りが彼の接近を拒んでいるのだ!
「コゲタ、鼻をつまんでついてくるんだ。大丈夫、体に悪いものじゃないから」
「ほんと?」
恐る恐る近寄ってくるコゲタ。
そしてキュっと顔をしかめた。
「うーわー」
「ちょっと清潔な環境にコゲタを置きすぎたな……。これからは酸いも甘いも分かるコボルドに育てなければ……」
「ちょっと! コゲちゃんにひどいことしたらあたしが許さないよ!」
「おかみさんが保護者顔をしてくるぞ!!」
この場にいたら、おかみさんにパイ生地を伸ばす棒でひっぱたかれそうだ。
僕は慌ててコゲタを連れて外に飛び出した。
目指すはギルボウの店である。
コゲタがちょっと距離をとってついてくる。
だが、だんだん近寄ってきた。
「慣れてきた?」
「あんまくちゃくなくなってきた」
うんうん、納豆の臭いに慣れてなかっただけだからな。
僕の生前は、納豆大好きドッグとかいたから。
今のコゲタの臭いもの苦手は、宿のおかみさんが過保護にしまくったお陰とも言えよう。
いや、普段預かってくれているのだから文句は言うまい。
「ギルボウ!」
「おうなんだ! うおっ! 強烈な発酵した香り!! 何か持ってきたな!?」
「流石だなギルボウ……。こいつはな、大豆を発酵させたもの……納豆だ」
「おお……」
今回のギルボウは食いつきがいい。
サッと近寄ってくると、納豆を一粒つまんだ。
「糸を引いてやがる。これだけ漬かってるのは、長い事掛けたな?」
「実は一晩だ。煮た大豆に藁を突っ込んで一晩……」
「なぁにぃーっ!? たった一晩であの硬え豆がこのやわっこい糸引く豆に!? どーれ」
パクっと食べるギルボウなのだ。
「あひー」
またコゲタが悲鳴をあげた。
ぴゅーっと店の隅まで走っていった。
まだ抵抗があるな!
「んっ! なんだこりゃ、すげえ旨味だ! あの味の淡い豆が、こんな強烈な味になるのかよ! こりゃあ……何かと合わせたいなあ」
「ああ。それが目当てで来たんだ。作り方も教える」
「ありがてえ!」
「ただし、こいつを作ったり食べたりしてから酒蔵に行くと作りかけの酒が全滅する」
「な、なんだとぉ!? そりゃあ……また強力なイサルデの力が働いてるんだなあ」
この世界で発酵と腐敗を司るのは、技巧神イサルデということになっている。
他に、それっぽい神様に不死と蘇りの神エタニスがいるが、この神は中途半端なことはせずにぶっ殺すか復活させるかする。
問題は復活しても時間制限付きの命ということで、二度目の死は魂ごと消えるということだ。
エタニス信者はこの二度目の死の克服を目指しているらしい。
閑話休題。
で、なんでイサルデかというと、かの神様は大変気まぐれでいたずら好きで、食べられないくらいに腐らせるかと思えば、最高に美味しいタイミングに熟成させてくれたりもする……ということなんだと。
「……そうだ。確か、僕の故郷には納豆パスタというものが……」
「ナットウ!? なるほど、この料理の名だな。これとパスタを絡める……。おもしれえじゃねえか! やってみよう! この独特のニオイも、軽く炒めたらなくなりそうだな」
「僕はそのままが好みだけど、コゲタがどうにもこれが苦手みたいで」
「ああ、あんなキレイにしてるコボルドならなあ……。よし、ちょっと熱してニオイを飛ばしてやる!」
こうして、頼れるギルボウの手で納豆が生まれ変わるのだ。
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