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53・その名は味噌
第152話 ついにできたか!!
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懇意にしている醸造蔵から連絡が来た。
例のブツが完成したということだ。
「ついにできたか!!」
僕はコゲタを連れて、猛スピードで酒造へ向かった。
受付の所で、職人氏が腕組みして待っている。
「来たか!!」
「来ましたよ! 例のブツができたそうで!」
「ああ。あんたに聞いた通りなら、完成したアレがあんたの望むやつだろう。豆がな……まさかあんな形になるとは」
「ほうほう、今から変化した姿が楽しみです……」
僕と職人がもったいぶった話をしているので、コゲタはさっぱり意味が分からないらしい。
ずっと左右に首を傾げている。
「コゲタちゃんは俺と一緒にお店やろっか」
「やるー!」
受付さんに声を掛けられて、コゲタは尻尾を振りながら走っていった。
この間、一緒にお店をさせてもらって楽しかったらしいもんな。
お客さんの反応も上々らしいし。
コゲタはコミュ力高いなー。
ではうちの子をお願いするとして。
僕は待望の味噌を見るために、蔵に向かった。
職人氏はここでお別れだ。
「蔵に入ったら、違ういたずらが体についてきそうだ。イサルデは酒を美味くすることもあれば、腐らせることもあるからな」
「ここからは俺がやりましょう」
おお、大豆発酵のために雇われた大豆職人!
出自は不明なのだが、食品を醸すことにかけては優れた腕を持つ人物だ。
彼のミスが納豆を生み出し、僕の食生活を豊かにしてくれた。
大変信頼できる男なのだ。
「ナザルさんから聞いたイメージを元に、今度はナットウとやらにならないよう、気を付けてやっていたんだがね。ペースト状になった」
蔵の中は薄暗いが、なんとも言えぬ良い香りがする。
人にとっては異臭かも知れないが、僕にとっては大変なじみのある香りだ。
まさか異世界に来て、この香りを嗅ぐことができるとは……。
職人が樽を開ける。
その中には……。
赤茶色の半固形状のものがぎっしりと詰まっていた。
「こ……これは……!」
「豆だけじゃイサルデのいたずらの力が弱かったからね。粉を混ぜた。そうしたら、こうして赤茶色のペーストに変わったんだ」
「麦味噌だ……!! 異世界で、麦味噌が出来上がった……!!」
僕は興奮を抑えきれない。
「ちょっと味見しても?」
「相当塩辛いから注意しろよ」
器に少しだけ乗せて、舐めてみた。
うおお、これはしょっぱい!
だが、しょっぱさの向こうに味噌の旨味を感じる……!
これ、熟成させると塩味がまろやかになったりするやつだろうか。
職人氏から聞いた話では、この世界の大豆は単体では発酵があまりよく進まないらしい。
だが、麦の粉を混ぜたことで発酵が加速。
麦味噌になったということだった。
個人的には、甘い米味噌も好きなんだが、そのためにはまず米を発見しないといけないので遠い夢みたいなものなのだ。
どれどれ、塩辛いのは分かった上で、ちょっと味噌汁を作ってみよう……。
僕はいくらか味噌をもらい、発酵蔵の外でお湯を沸かした。
お湯に干し魚などを入れてお出汁を取り……。
味噌をちょちょっと入れて、お湯で溶いていく。
「おお……素晴らしい香りが……」
「美味そうだ! なんだナザルさん、こいつのスープが作れたのか」
「今はなき故郷がね……」
「なるほどなあ。アーランの近くに、未知の食文化を有する一族が暮らしていたんだなあ……」
職人氏が遠い目をした。
そうこうしているうちに、味噌汁が完成だ。
異世界パルメディア最初のお味噌汁ではないだろうか。
アビサルワンズのダイフク氏が生まれた大陸は、アメリカンなものが席巻してるみたいだし。
「じゃあ、いただきましょうか」
「ああ、いただこう……!」
僕も職人氏も緊張の面持ちである。
果たしてお味は……。
一口すすると、出汁と味噌が合わさった豊かな香りが鼻腔を通り抜けていった。
「うおっ! 確かに塩辛いが……さっきの干し魚で取った出汁が、この味噌によく馴染んでいる……。これはなんというか……美味いな……! スープそのものが主役なのか! これほど己を主張してくるスープは初めてだ……!!」
澄んでいないスープ。
湯の中に溶けた味噌は底に集まり、丸い球体のような姿を見せている。
これをかき回して、全体になじませて飲む。
美味い。
ちょっと癖のある味だが、確かにこれは味噌汁だ。
強い出汁の味と、それを包みこむ豆の旨味。
それらをまとめて引き締めてくれる塩味。
「美味いスープだ。味噌スープというわけか。こりゃあ、いろいろな具材を入れて味わってみたいな……」
職人氏の頬に笑みが浮かぶ。
思わず笑ってしまうくらい美味い。
いや、前世で食べた味噌汁はもっと完成度が高かったと思うんだが、こっちのは思い入れ込みでめちゃくちゃ美味しい。
僕と職人氏は、沸かした湯の分をみんな飲んでしまった。
たぷたぷする。
「あとは塩分のとりすぎだなこれは……」
「ああ、そんな時は水野菜だ」
職人氏がそこらの露天で、丸い野菜を買ってきた。
なんだなんだ。
「腹の中で塩を吸ってくれるって野菜だ。水っぽくてな。最近、フォーゼフから輸入されるようになってきたって話だぞ」
「フォーゼフから!? あの国、どれだけの隠し玉を持ってるんだ……」
明らかにアーランとは違う食文化の野菜を大量に育てている農業国家、フォーゼフ。
主食やガッツリ系の作物を得意とするアーランに押されていたが、ニッチな野菜や大豆など、フォーゼフにしかない素晴らしいものがたくさんあるではないか。
で、この水野菜は……?
「キーウリと言ってな。土につかないまま育つから、なんと生で食える」
しゃくっと齧る職人氏。
その音、そして香り……。
僕も受け取って、かじってみた。
「き……きゅうりだこれ……!!」
例のブツが完成したということだ。
「ついにできたか!!」
僕はコゲタを連れて、猛スピードで酒造へ向かった。
受付の所で、職人氏が腕組みして待っている。
「来たか!!」
「来ましたよ! 例のブツができたそうで!」
「ああ。あんたに聞いた通りなら、完成したアレがあんたの望むやつだろう。豆がな……まさかあんな形になるとは」
「ほうほう、今から変化した姿が楽しみです……」
僕と職人がもったいぶった話をしているので、コゲタはさっぱり意味が分からないらしい。
ずっと左右に首を傾げている。
「コゲタちゃんは俺と一緒にお店やろっか」
「やるー!」
受付さんに声を掛けられて、コゲタは尻尾を振りながら走っていった。
この間、一緒にお店をさせてもらって楽しかったらしいもんな。
お客さんの反応も上々らしいし。
コゲタはコミュ力高いなー。
ではうちの子をお願いするとして。
僕は待望の味噌を見るために、蔵に向かった。
職人氏はここでお別れだ。
「蔵に入ったら、違ういたずらが体についてきそうだ。イサルデは酒を美味くすることもあれば、腐らせることもあるからな」
「ここからは俺がやりましょう」
おお、大豆発酵のために雇われた大豆職人!
出自は不明なのだが、食品を醸すことにかけては優れた腕を持つ人物だ。
彼のミスが納豆を生み出し、僕の食生活を豊かにしてくれた。
大変信頼できる男なのだ。
「ナザルさんから聞いたイメージを元に、今度はナットウとやらにならないよう、気を付けてやっていたんだがね。ペースト状になった」
蔵の中は薄暗いが、なんとも言えぬ良い香りがする。
人にとっては異臭かも知れないが、僕にとっては大変なじみのある香りだ。
まさか異世界に来て、この香りを嗅ぐことができるとは……。
職人が樽を開ける。
その中には……。
赤茶色の半固形状のものがぎっしりと詰まっていた。
「こ……これは……!」
「豆だけじゃイサルデのいたずらの力が弱かったからね。粉を混ぜた。そうしたら、こうして赤茶色のペーストに変わったんだ」
「麦味噌だ……!! 異世界で、麦味噌が出来上がった……!!」
僕は興奮を抑えきれない。
「ちょっと味見しても?」
「相当塩辛いから注意しろよ」
器に少しだけ乗せて、舐めてみた。
うおお、これはしょっぱい!
だが、しょっぱさの向こうに味噌の旨味を感じる……!
これ、熟成させると塩味がまろやかになったりするやつだろうか。
職人氏から聞いた話では、この世界の大豆は単体では発酵があまりよく進まないらしい。
だが、麦の粉を混ぜたことで発酵が加速。
麦味噌になったということだった。
個人的には、甘い米味噌も好きなんだが、そのためにはまず米を発見しないといけないので遠い夢みたいなものなのだ。
どれどれ、塩辛いのは分かった上で、ちょっと味噌汁を作ってみよう……。
僕はいくらか味噌をもらい、発酵蔵の外でお湯を沸かした。
お湯に干し魚などを入れてお出汁を取り……。
味噌をちょちょっと入れて、お湯で溶いていく。
「おお……素晴らしい香りが……」
「美味そうだ! なんだナザルさん、こいつのスープが作れたのか」
「今はなき故郷がね……」
「なるほどなあ。アーランの近くに、未知の食文化を有する一族が暮らしていたんだなあ……」
職人氏が遠い目をした。
そうこうしているうちに、味噌汁が完成だ。
異世界パルメディア最初のお味噌汁ではないだろうか。
アビサルワンズのダイフク氏が生まれた大陸は、アメリカンなものが席巻してるみたいだし。
「じゃあ、いただきましょうか」
「ああ、いただこう……!」
僕も職人氏も緊張の面持ちである。
果たしてお味は……。
一口すすると、出汁と味噌が合わさった豊かな香りが鼻腔を通り抜けていった。
「うおっ! 確かに塩辛いが……さっきの干し魚で取った出汁が、この味噌によく馴染んでいる……。これはなんというか……美味いな……! スープそのものが主役なのか! これほど己を主張してくるスープは初めてだ……!!」
澄んでいないスープ。
湯の中に溶けた味噌は底に集まり、丸い球体のような姿を見せている。
これをかき回して、全体になじませて飲む。
美味い。
ちょっと癖のある味だが、確かにこれは味噌汁だ。
強い出汁の味と、それを包みこむ豆の旨味。
それらをまとめて引き締めてくれる塩味。
「美味いスープだ。味噌スープというわけか。こりゃあ、いろいろな具材を入れて味わってみたいな……」
職人氏の頬に笑みが浮かぶ。
思わず笑ってしまうくらい美味い。
いや、前世で食べた味噌汁はもっと完成度が高かったと思うんだが、こっちのは思い入れ込みでめちゃくちゃ美味しい。
僕と職人氏は、沸かした湯の分をみんな飲んでしまった。
たぷたぷする。
「あとは塩分のとりすぎだなこれは……」
「ああ、そんな時は水野菜だ」
職人氏がそこらの露天で、丸い野菜を買ってきた。
なんだなんだ。
「腹の中で塩を吸ってくれるって野菜だ。水っぽくてな。最近、フォーゼフから輸入されるようになってきたって話だぞ」
「フォーゼフから!? あの国、どれだけの隠し玉を持ってるんだ……」
明らかにアーランとは違う食文化の野菜を大量に育てている農業国家、フォーゼフ。
主食やガッツリ系の作物を得意とするアーランに押されていたが、ニッチな野菜や大豆など、フォーゼフにしかない素晴らしいものがたくさんあるではないか。
で、この水野菜は……?
「キーウリと言ってな。土につかないまま育つから、なんと生で食える」
しゃくっと齧る職人氏。
その音、そして香り……。
僕も受け取って、かじってみた。
「き……きゅうりだこれ……!!」
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