俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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53・その名は味噌

第153話 キーウリに味噌をつけて食う

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 突然、僕にとっては無から新しい食べ物が湧いてきたぞ。
 キーウリ!!
 恐ろしい食べ物だ。

 一見すると丸い瓜のようにも見えるのだが……。
 みちっと中に水気が詰まっているのが分かる。
 パリッとした深緑の皮を噛み破ると、中からジューシーでちょっと青臭い感じの果肉が……。

 こう、水気で張り詰めた、破裂寸前の水風船みたいな果実だ。
 野菜ではない扱いだと思う。
 甘みは全く無いのだが、これだけで水分補給できるくらい、ものすごい水気だぞ。

「ちょっと味噌を付けて食べてみよう」

「えっ、この塩辛い味噌をそのまま!?」

「その通りだ。ヤーッ!!」

 僕は気合の声とともにキーウリを新しく取ってきた味噌に付けた。
 そしてかぶりつく。

「むむうっ!! 大正解!!」
 
「なんだって!? 俺も試してみよう……ほうほう。そうか、キーウリは味がなくて水気がたっぷりしているから、むしろ味の濃い味噌をつけるとちょうどよくなる……? あっ、うっま」

 職人氏も言葉を失ったか。
 こりゃたまらないよな。

 これからやって来る夏に、最高のメニューが登場しちまったな。

「ところでこのキーウリ、妙に冷えているのだが、どういう仕組? 井戸水にそのまま付けると確か危険なんだろ?」

「ああ。聞いて驚け。石の容器に吊るしてあって、その石に汲んできた水を掛けて冷やしてるんだ」

「気化熱か!!」

 凄い工夫をする屋台があったもんだなあ。
 案の定、キーウリはバンバン売れて、昼過ぎには売り切れてしまうのだそうだ。

 ちょっと暑いときは、冷えたキーウリなんか最高のごちそうだもんな。
 お値段はちょっと高め。
 まさにこれから量産が開始される、期待の作物なのだ。

「こりゃあえらいことになってきましたぞ……!! 僕の食生活に四方八方から選択肢の総攻撃……!! 対抗不能……! もう落ちるしか無い……! この美食の深淵に……!!」

「ナザルさん、ガクガク震えて大丈夫か!? いや、しかし美味いなあ、キーウリと味噌。合うなあ……。もう少し塩味が穏やかになれば、これはいい感じになるだろうなあ……」

「そこはもう、味噌の熟成に期待ということで」

「ああ。全く新しい調味料ができるなと思っていたけど、とんでもないポテンシャルを見せつけられたよ。湯に解くだけで味の深いスープになり、野菜につけるとソース代わりになる。これはアーランの食生活を変えてしまうぞ……」

 ですよねー。
 分かっていただけて嬉しい。
 市場に出回るまでは少し掛かると思うが、今からアーランの美食を愛する者たちが衝撃に震えるのが楽しみだ。

 あと、殿下に献上しないと。
 どれ、状況を確認できたし、そろそろコゲタを連れて帰るか……と思ったら。

「お酒がおいしいですよー!」

「おおそうかいそうかい! じゃあいつもより多めにもらおうかな」

「ありがとうございまあーす!」

「元気だなあー!」

 おお、頑張って売り子をやってるじゃないか。
 なんか楽しそうなので、遠巻きにコゲタの頑張りを眺めることにした。

 わいわいとお客さんが次々やって来て、コゲタと受付さんが二人でどんどん対応する。
 いやあ、売れた売れた。
 その日の分のお酒が売り切れたところで、受付さんがしゃがみこんでコゲタとハイタッチした。

「お疲れ様ー」

 僕がやって来ると、振り返ったコゲタがピャーッと走ってくる。

「ご主人! コゲタたくさんうったよ!!」

「見てたぞー! えらい!!」

「やったー!」

 ということで、コゲタの頑張りも見れたし、今日は帰ることにするのだった。
 キーウリはコゲタも気に入りそうだな。
 今度屋台に並んだら買ってあげよう。

 帰ってからご飯を食べると、コゲタは売り子をやった疲れからかすぐに寝てしまった。
 ベッドで大の字になってスピスピ寝ているコゲタを背に、僕はデュオス殿下への報告書をしたためる。

「えー、殿下、今年何度目かの一大事です。大豆を使った調味料を作っているという話を以前致しましたが、こちらがついに形になって参りました。あと数日のうちに殿下のお口にお届けできるものと思います。大いに期待して下さい」

 会心の文章だ。
 期待を煽る!

 だが、味噌にはその期待に応えられるだけのポテンシャルがある。

 第二王子デュオス殿下はこの一年近くの僕との付き合いの中で、大いに食の冒険を楽しめるようになった。
 初めて口にするであろう味噌も、必ず気に入ってくれるだろう!

「むにゃにゃ、ご主人。しょっぱいによい……」

 コゲタの寝言が聞こえる。

 味噌の匂いも感じ取っていたか!
 だが、味噌はそのままだとコゲタには塩分が多すぎる。
 減塩して食べてもらうやり方も考えて行かねばな。

 さて、僕も今日は大いに興奮し、たっぷりと味噌を食べ、キーウリを食べた。
 今もまだ夢見心地だ。

 だんだん、こう、和食の世界が近づいてきたと思わないか?
 そうなったら、主食もちょっと和食っぽいものが欲しくなってくるではないか。

 とりあえず、パスタを使って作れるのは……うどんか。
 あとは、ありそうなんだよな。
 近場に森や山があるアーランなら、絶対にあると思う。

 そう、蕎麦!!
 絶対に蕎麦が生えているはずだ。

 今度は蕎麦を探しに行くとしよう。
 醤油が出来たら、そばつゆがつくれちゃうんだから。

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