俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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54・蕎麦に関する冒険

第157話 蕎麦切りを食す

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 蕎麦をいただくとしよう!
 つゆの中に浮かぶツヤッツヤの蕎麦。
 実に美味そうだ。

 フォークを使っていただきます。
 箸がは既に作ってもらっている。
 例のドワーフの鍛冶師にだ。

 スッと箸を構えたら、ざわつく森の職人たち。

「なんだあれは!」「太い串みたいなのを二本構えたぞ」「細く切った蕎麦を茹でるところまでは分かった。だが……何をするつもりだ……!?」「あの串で突き刺すのか!?」

「ふふふ、見ているがいい。こうだ!」

 蕎麦を箸でたぐる!
 練習しておいて良かった!
 指先は前世の動きを思い出しているぞ。

 そして蕎麦を口に運び、ツルツルツルッと啜る。
 美味い!
 蕎麦だ!
 ちょっと茹ですぎだったり足りないところがあるかもだが、立派に蕎麦だ!

 だが!
 職人たちからは「おお」「なんということだ」「ありえない」とか声がするではないか。

 あっ、そうか!
 アーランでは、高く音を立てて食事をするのはマナー違反とされる。
 蕎麦を啜る動きはよろしくないのだ!!

「こ、これはこのように音を立てて食べるのがマナーなんだ」

「本当にぃ?」「蕎麦は昔から食ってるけどさ、そんな風な食べ方聞いたこともないぜ」「いや、そんなパスタみたいな細さになった蕎麦は始めてだけどさ」「茹でるのもだよな。ぶよぶよの粥じゃなく、つるっつるのパスタになるなんてなあ……」

 混乱の職人たち!
 なお、僕の横ではコゲタがフォークで蕎麦をくるくるっと巻いて、あーんと食べている。
 美味しいらしい。

「仕方ないなあ……。じゃあ音を立てずに啜るよ」

 僕は少しずつ蕎麦を手繰って、するするーっと啜った。

「口に吸い込まれていく……!?」「どういう食い方だ!?」「蕎麦は飲み物なのかよ」

 またざわついている!
 そうか、啜って食べる食材がアーランには存在しないからだ!
 この動作そのものが未知のものなのであろう。

「今回の蕎麦は苦戦しそうだな……。ええい、面倒だ! 一気に食うぞ!」

 僕は猛烈な勢いで蕎麦を啜った。
 魚醤のつゆが絡んで美味い。
 いや、前世で食べた蕎麦に比べると、明らかに野趣あふれる味わいになってはいるのだが……。

 まあよし。
 次は丁寧に出汁を取ってつゆを作っていこう。
 僕は関東圏の蕎麦派だから、しょっぱくて黒いつゆを作るつもりなのだ。

 研究の余地ありだなあ。
 これからどんどん美味くなるぞ。

 ズズズーっと蕎麦を啜りきった。
 小腹が満たされた。

「おいしかったー」

 コゲタがお腹をぽんぽんした。
 ちょうどいい量だったみたいだ。
 よきよき。

 職人たちは、僕の後半戦の食べっぷりを見て腰を抜かしたようだ。
 音が出るのも構わず、超高速で蕎麦を食い切ったからな。

 そのうち、蕎麦食いの文化を広めたいものである。
 道は遠そうだが……。

「職人たちの反応を見るに、しばらくはパスタの仲間みたいな売り方をした方がよさそうだな……。つゆと薬味で、麺そのものの香りと歯ごたえで楽しんでいくスタイル……」

 僕が腕組みしてぶつぶつ言っていると、職人たちがわいわいと詰め所に入ってきた。
 さっきまでみんな入口に並んで僕らの食事を見ていたのだ。

「ちょ、ちょっと俺等にも食わせてくれよ」「知ってるはずの蕎麦なのに、全然味が想像できねえ……」「どういう食い方してたんだあれ……」

「おお、興味がお有りかな皆さん! では人数分の蕎麦を茹でてさしあげよう……」

 僕は職人たちの手を借りて蕎麦を粉にした。
 さすが、蕎麦を食い慣れている人々の手際はいい!

 あっという間に大量の粉ができたぞ。
 これを粉を繋ぎにして練り、蕎麦切りに……。

 そして茹でる。
 茹で上がったやつから、つゆと一緒に並べていく。
 職人たちはフォークを使って食べ始めた。

「むほー!」「なんだこれ!」「つるつるしこしこしてやがる!」「ああ、なるほど! あのツルツルーっと食うやり方がやりやすそうだ、これは!」

 お分かりいただけただろうか。
 蕎麦は特に、この香りと食感が大好評だった。

 食べ物は味だけじゃない。
 匂いと歯ごたえ、そして喉越しでも楽しむものなのだ。

 これまで味によって美食を堪能してきた、アーランの人々。
 そこに、新たな価値観の一石を投じるのだ!

「コゲタはどうだった?」

「おいしかった! おもしろかった!」

「そりゃあ良かった!」

 この面白かった、というのが大事だ。
 どんなに美味しいものでも、食感が同じだったら飽きてしまうからな。

 ここで、歯ごたえや喉越しが異なるだけで、同じ調味料でも感じる美味さが変わってくる。
 それによって、味以外の食のバリエーションが増えるのである!

 思えば寒天もそういうものだったなあ。

 夕方になる頃、やっと職人たち全員が蕎麦を食べ終えた。
 大変好評である。

「蕎麦の味は知っているし、魚醤だって最近食べ慣れてきた。だが、それが組み合わさったら全く違う味になるんだなあ……」

 職人の一人がしみじみと呟いた。

「何より、あんなツルツルシコシコした食べ物、他に知らねえ……」「蕎麦、悪くないかもな……」「粉と水があれば作れるんだろ? 今度作ってみようぜ!」

 職人たちに新たな食のブームが来たる!
 蕎麦なら近くでたくさん採れるからね。
 ぜひともたくさん作り、創意工夫をしてみて欲しい。

 今度は僕がそれを食べに来るから。

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