俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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58・ツーテイカーからの誘い

第169話 まずは偉い人との対面だ

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 ツーテイカーはいつの間にか始まっていた。
 というのは、この都市国家はどこからツーテイカーで、どこまでツーテイカーなのかが曖昧なのだ。
 どこにも城壁などなく、バラックや古びたテントなどが目立ち始めてきたなと思ったら……。

「ここからがツーテイカーだよ」

 飼い主氏がそんな事を言うので驚いたのだった。

「スラムじゃないか」

「ホントだスラムだスラムだ」

「この辺りの家並みは毎日どんどん変わるからね。流民も積極的に受け入れるのがこの国なのだよ。ここまでは二等国民。具体的には都市部に家を持つことを許されていない者たち。彼らも功績を挙げることで一等国民になることができる。ただ一度成果を挙げれば、彼らは別世界に住めるわけだ」

 なるほど、そういう意味ではツーテイカーはフェアな国なわけだ。
 どんな人間でも、凄いことをできれば正式な国民になれる。
 それに二等のままでいいなら、周りに住むのは自由と。

「別に国の中に入って市場を使うことは制限されていない。金さえ払えばいい。店だって使える。都市部への定住が許されないだけだ」

 スラムとは言っても、みんなどんよりとした目でこっちを見ている……というわけではなく。
 古びた武器や鎧の手入れをしていたり、良く分からない獣の肉を串焼きにして売ってたりする。

 コゲタとアララちゃんが興味津々で、「なにやいてるの?」「おにく?」とか聞いたりしている。
 焼いてる人はちょっとうるさそうな顔をしたが、ボソッと「野ウサギ」と教えてくれた。

「ご主人、ウサギだって!」「ごしゅじーん!」

「はいはい」

 二人に呼ばれて、僕と飼い主氏が近づく。
 味付けは塩だけ。
 しっかり中まで火を通しているから安全だなこれは。

「あ、じゃあ二串」

「おっ、まいど」

 焼いている人はちょっと笑顔になった。
 金を渡して串焼きを買う。
 これをコゲタとアララちゃんにあげるのだ。

 二人はほくほくしながらお肉を食べている。
 うんうん。

「ナザルさん、これ、アララのぶん……」

「あ、どうもどうも」

 こういうところで貸し借りは作らない。
 微妙な立場である僕と飼い主氏の間の決め事なのだ。

「では、ツーテイカーの奥地へ案内しますよ。この目隠しを付けてもらって……」

「うわっ、居場所を知られたら困る系だ」

 僕らはいつの間にかやって来ていた馬車に詰め込まれた。
 そして耳栓までされて、ガタガタ揺れる中を運ばれていく。

 コゲタとアララは匂いが分からないように、においつよめのドッグフードみたいなのをもらったみたいだ。
 平和的な無力化手段!

 こうして音のあまりしない中、揺れが気分よくてグウグウと寝てしまっていると……。

 揺さぶられて目が醒めた。
 特に縛られていたわけでもないので、耳栓と目隠しを外す。

 周りにはツーテイカーの兵士らしき人々がいて呆れている。

「まさか本当に、大人しく目と耳を塞いだまま運ばれてくれるとは……」

「信用されているんですね」

「まあね。彼らは誠意が通じる人たちだから」

 コゲタとアララちゃんが僕らに続いて恐る恐る馬車を降りる。
 どうやら飼い主氏、アララちゃんをここまで連れてきたことはなかったようだ。

 そこは石造りの屋内で、ぐねぐね折れ曲がった道を案内されて、とある部屋に到着した。
 金属製の扉を、複雑なリズムでノックする。

「通せ」

 声が聞こえると、扉が開いた。
 やたら分厚い金属の扉が開くと……。

 奥は明るくなっている。

 大きな椅子がこちらに背を向ける形で設置されており、対面に大柄な男が座っていた。

「お前がナザルか。それと、ゴールド級冒険者のシズマだな?」

 男が口を開く。
 毛皮の襟巻きに、赤く染められた革のジャケットを着ている。
 髪の毛は染めているのか金色で、その下からやはり金色の目がこちらを見ている。

「ええ、そうです。この度はお招きにあずかり恐悦至極」

「どうもどうも」

 僕とシズマが大変大人しい様子で、しかも別に恐れ入っている様子でも無いので、彼はちょっと面白がっているようだった。

「場の空気を読み、失礼ではない態度を最低限やっているわけか。面白い。見た目通りではなさそうだな? 座れ」

 指示されたので、僕とシズマでよっこらせ、と座る。
 コゲタとアララちゃんは怖がって部屋に入らないので、外で兵士たちが相手してくれるようだった。
 おっ、せーのが始まった。

 男がこれに反応する。

「新しい遊びか……? なるほど、おい、詳しい仕組みを覚えておけ。俺も後からそれをやる」

 偏見を持たない人だ!
 それに、新しいものは常に何かに使えるかも知れないし、それが潜在的に持つ脅威みたいなものも分かるからね。

「おっと、名乗っていなかったな。俺はツーテイカー盗賊ギルドの長をやっている。ベンクマンと呼べ。そこのシズマは余計だが、ナザル、お前を招いた理由がある。いいか? うちのキノコをくれてやる。キノコを使って料理を作れ。そしてレシピをこの国によこせ。以上だ」

「ははあ、外貨を獲得するおつもりで……」

「敏いな」

 ベンクマンがニヤッと笑った。
 裏で稼ぐのはお手の物だが、名産品であるキノコを世界中に売り出す方法も確保しておきたいということだろう。
 きっとベンクマンは、今後この世界で大きな争いは起きず、混乱に乗じて稼ぐシノギは期待できないと思っているのではないか。

 いいでしょう。
 僕の持つ日本の知識を使って、平和的な稼ぎをこの国で考えてみようではないか。

 その代わり、キノコグルメを堪能させていただく!

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