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60・北の国へ
第178話 突入、魔法使いのバー
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「こんにちはー」
「どうもどうもー」
僕とシズマで挨拶をしながらバーに入っていく。
ぼそぼそと談笑などが聞こえていたのがピタッと止まった。
やや薄暗い店内は間接照明オンリー。
大変に雰囲気がある。
だが、もしかして僕らが雰囲気をぶち壊してしまったかな!?
視線を感じる……。
「ここは魔法使い専門のバーだよ。観光客かい? 冷やかしなら帰ってくれ」
バーのマスターはビシッとマスターっぽい格好を決めた紳士なのだが、彼が鋭い目で僕らを値踏みしている。
なるほど、この場への参加は実力を見せる必要があるようだ。
「安心して下さい、魔法使いですよ……」
僕が器に油をドロドローっと出すと、マスターが「ウワーッ、無詠唱で無から油を!!」と驚愕した。
他の魔法使いたちも興味津々で集まってきて、「オー」「油を作る魔法」「ユニーク」とか口々に言っている。
そして僕に向けられる視線がリスペクトを帯びたものになった。
実力を見せつけておいてよかった。
次はシズマだ。
「俺はあらゆるものを沈めることができる。例えばこのテーブルに、グラスを沈める……」
シズマが指さしたグラスは、ずぶずぶとテーブルの中に沈み込んでいった。
「ウワーッ! テーブルがまるで液体のように!!」「オー」「物を沈める魔法」「ユニーク」
ということでシズマも受け入れられた。
実力が全てなんだな。
しばらく魔法使いたちに囲まれて、インタビューされた。
「実は僕らはギフト持ちで」
「どういう原理で発動しているかはわからないが、これを活用して冒険者として活動しているんだ」
「なるほどー。ギフトも広義の魔法。受け入れましょう。何を飲みます?」
さてどうしよう。
「うちの小さいのが、お酒臭くなると嫌がるのでノンアルで」
「お子さんがいらっしゃいましたか。では海藻フレーバーに柑橘類を加えたもの……。海神のランデヴーです」
「オシャレなのでてきたなあ。うおっ、昆布の香りとコクがあるのに後味がサッパリしたレモンだ! こりゃあ美味い」
「俺は地元の酒をくれ。蒸留酒を薄めたやつだったよな? 炭酸水があればハイボールになるのになあ……」
おつまみは、小魚の干物とかナッツ類。
ちゃんとした食べ物は出ないのね。
えっ、このナッツ、魔力を回復させる効果があるの!?
あー、魔力の味がする~。
「おいナザル! 新しい味覚を堪能してる場合じゃないぞ! 本来の目的! 目的!」
「あ、そうだった! 魔法使いの方、ちょっと聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
ほどよく酔った客の魔法使いが、トロンとした目で僕を見てきた。
「冷凍魔法をマスターしたいんだが、どこに行ったら覚えられる?」
「冷凍魔法……!?」
魔法使いは酔いが醒めたようだった。
「ナザル、あまりにも直接的では?」
「僕はこっち方面の搦め手は全く分からなくてな。それでどうなんだ」
「冷凍……冷凍魔法……!!」
魔法使いがわなわな震えだした。
「ナザル、ヤバい予感がするぞ」
「僕もしてきた」
ちょっと腰を浮かせる僕とシズマ。
魔法使いはついにガクガク震えだし……。
「飲み過ぎですよ」
とマスターから水を差し出された。
「す、すまない」
魔法使い、水をガブガブ飲んだ。
「驚かせてしまったな。私は酔いが回ると震えが止まらなくなるんだ」
なんて紛らわしい。
「それで、冷凍魔法か。そんなありふれたものを何に使うと言うんだ? そもそも夏でも地下は冷涼なこの国で、冷凍魔法など何の役にも立つまい」
「国外で役立つんですよ」
「ほーん」
全然興味なさそうだ。
だが、もっと驚くべきことは、このワンダバーにおいて冷凍魔法はかなり無価値寄りの魔法だったということである。
多くの魔法使いを抱え込み、最北端にある都市国家ということで、周囲が特別視し過ぎていたのかも知れない。
「多分、魔導書がどこかにあると思うんだが、あまりにも使えない魔法なんで書庫のどこかに埋もれている……」
「そんなー」
探すことになりそうだ!
絶対にめんどくさいぞ。
「明日、それじゃあ探しに伺っても」
「いいよ。私が話を通しておいてやる。面白いギフトの使い手が二人来たって言えば、魔法使いたちが野次馬に集まってくるだろうし」
見世物になるのか!
いや、だが見せて減るものでもないし。
では冷凍魔法を手に入れるため、書庫を探させてもらう約束をし、僕らは帰ることにした。
「恐ろしくトントン拍子に話が進んだな……。だが考えてみれば当たり前かもなあ。寒い国で冷凍魔法なんか役にたたないもんな」
「冬になれば自動的に冷凍されるもんな……」
ツーテイカーのベンクマンが特別視していた冷凍魔法とは、実際は冷遇されている魔法だったのだ。
「よし、じゃあどうする? モツ煮食べて帰るか?」
「コゲタを連れてこよう。そろそろ目が醒めてお腹をすかせてる頃だろうし」
「ナザルは本当にあのコボルドの親父みたいだなあ」
シズマが呆れ半分で笑った。
こうして宿に戻った僕らは、目覚めていたコゲタを連れて再び飲み屋街に繰り出した。
モツ煮は優しいお味で、コゲタも大満足。
「コゲタこれすき! おいしー!」
「うんうん。たんと食えよ。あ、僕のは調味料ちょっと多めに入れてもらって……」
こうしてワンダバー初日の夜は更けていくのだった。
「どうもどうもー」
僕とシズマで挨拶をしながらバーに入っていく。
ぼそぼそと談笑などが聞こえていたのがピタッと止まった。
やや薄暗い店内は間接照明オンリー。
大変に雰囲気がある。
だが、もしかして僕らが雰囲気をぶち壊してしまったかな!?
視線を感じる……。
「ここは魔法使い専門のバーだよ。観光客かい? 冷やかしなら帰ってくれ」
バーのマスターはビシッとマスターっぽい格好を決めた紳士なのだが、彼が鋭い目で僕らを値踏みしている。
なるほど、この場への参加は実力を見せる必要があるようだ。
「安心して下さい、魔法使いですよ……」
僕が器に油をドロドローっと出すと、マスターが「ウワーッ、無詠唱で無から油を!!」と驚愕した。
他の魔法使いたちも興味津々で集まってきて、「オー」「油を作る魔法」「ユニーク」とか口々に言っている。
そして僕に向けられる視線がリスペクトを帯びたものになった。
実力を見せつけておいてよかった。
次はシズマだ。
「俺はあらゆるものを沈めることができる。例えばこのテーブルに、グラスを沈める……」
シズマが指さしたグラスは、ずぶずぶとテーブルの中に沈み込んでいった。
「ウワーッ! テーブルがまるで液体のように!!」「オー」「物を沈める魔法」「ユニーク」
ということでシズマも受け入れられた。
実力が全てなんだな。
しばらく魔法使いたちに囲まれて、インタビューされた。
「実は僕らはギフト持ちで」
「どういう原理で発動しているかはわからないが、これを活用して冒険者として活動しているんだ」
「なるほどー。ギフトも広義の魔法。受け入れましょう。何を飲みます?」
さてどうしよう。
「うちの小さいのが、お酒臭くなると嫌がるのでノンアルで」
「お子さんがいらっしゃいましたか。では海藻フレーバーに柑橘類を加えたもの……。海神のランデヴーです」
「オシャレなのでてきたなあ。うおっ、昆布の香りとコクがあるのに後味がサッパリしたレモンだ! こりゃあ美味い」
「俺は地元の酒をくれ。蒸留酒を薄めたやつだったよな? 炭酸水があればハイボールになるのになあ……」
おつまみは、小魚の干物とかナッツ類。
ちゃんとした食べ物は出ないのね。
えっ、このナッツ、魔力を回復させる効果があるの!?
あー、魔力の味がする~。
「おいナザル! 新しい味覚を堪能してる場合じゃないぞ! 本来の目的! 目的!」
「あ、そうだった! 魔法使いの方、ちょっと聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
ほどよく酔った客の魔法使いが、トロンとした目で僕を見てきた。
「冷凍魔法をマスターしたいんだが、どこに行ったら覚えられる?」
「冷凍魔法……!?」
魔法使いは酔いが醒めたようだった。
「ナザル、あまりにも直接的では?」
「僕はこっち方面の搦め手は全く分からなくてな。それでどうなんだ」
「冷凍……冷凍魔法……!!」
魔法使いがわなわな震えだした。
「ナザル、ヤバい予感がするぞ」
「僕もしてきた」
ちょっと腰を浮かせる僕とシズマ。
魔法使いはついにガクガク震えだし……。
「飲み過ぎですよ」
とマスターから水を差し出された。
「す、すまない」
魔法使い、水をガブガブ飲んだ。
「驚かせてしまったな。私は酔いが回ると震えが止まらなくなるんだ」
なんて紛らわしい。
「それで、冷凍魔法か。そんなありふれたものを何に使うと言うんだ? そもそも夏でも地下は冷涼なこの国で、冷凍魔法など何の役にも立つまい」
「国外で役立つんですよ」
「ほーん」
全然興味なさそうだ。
だが、もっと驚くべきことは、このワンダバーにおいて冷凍魔法はかなり無価値寄りの魔法だったということである。
多くの魔法使いを抱え込み、最北端にある都市国家ということで、周囲が特別視し過ぎていたのかも知れない。
「多分、魔導書がどこかにあると思うんだが、あまりにも使えない魔法なんで書庫のどこかに埋もれている……」
「そんなー」
探すことになりそうだ!
絶対にめんどくさいぞ。
「明日、それじゃあ探しに伺っても」
「いいよ。私が話を通しておいてやる。面白いギフトの使い手が二人来たって言えば、魔法使いたちが野次馬に集まってくるだろうし」
見世物になるのか!
いや、だが見せて減るものでもないし。
では冷凍魔法を手に入れるため、書庫を探させてもらう約束をし、僕らは帰ることにした。
「恐ろしくトントン拍子に話が進んだな……。だが考えてみれば当たり前かもなあ。寒い国で冷凍魔法なんか役にたたないもんな」
「冬になれば自動的に冷凍されるもんな……」
ツーテイカーのベンクマンが特別視していた冷凍魔法とは、実際は冷遇されている魔法だったのだ。
「よし、じゃあどうする? モツ煮食べて帰るか?」
「コゲタを連れてこよう。そろそろ目が醒めてお腹をすかせてる頃だろうし」
「ナザルは本当にあのコボルドの親父みたいだなあ」
シズマが呆れ半分で笑った。
こうして宿に戻った僕らは、目覚めていたコゲタを連れて再び飲み屋街に繰り出した。
モツ煮は優しいお味で、コゲタも大満足。
「コゲタこれすき! おいしー!」
「うんうん。たんと食えよ。あ、僕のは調味料ちょっと多めに入れてもらって……」
こうしてワンダバー初日の夜は更けていくのだった。
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