俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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92・結婚準備が思いの外大規模だぞ

第278話 お互いの実家は……ない!!

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「おーいナザル。あっ、凄まじいカレーの匂いをぷんぷんさせている! ずるいぞ!!」

 カレーを食べた後、道でリップルと行き合ったのである。

「ははは、結婚式で出すメニューがついに完成してね。凄いぞ。乞うご期待」

「君の料理に外れは無いからな……」

「まあ素人ですが」

「ギルボウと比較してるのかい? あれ、私が百年間で見てきた中で最高の料理人だぞ。しかもダントツ一位だ。彼はおかしい。本当にギフト持ちではない?」

「不思議なことに普通の人間らしい」

「そんな馬鹿な。意味が分からない」

 二人で首を傾げていると、路行く人々が声を掛けてくるのだ。

「ようお二人さん!」「結婚おめでとう!」「凄いことやるみたいじゃないか!」「国を挙げての結婚式だって!?」「いやあ、もうすぐだろ? 楽しみだよねえ」

 どうもどうも、とペコペコするものの、なんでみんなが僕らの式を楽しみにしているのか……。
 さっぱり理解できないのだった。

 二人で歩きながら、では結婚式に必要な準備は何であろうかという話をした。

「お互いの家に挨拶をするとか……?」

「家? 私の両親は七十年前に二人とも死んでいるし、姉弟も三十年前に最後の一人が逝ってしまったから天涯孤独だが」

「いきなりハードなことを仰る」

「君だって似たようなもんだろう?」

「僕もよく考えたら遺跡の陥没事故で村ごと飲み込まれたんだった。血族どころか顔見知りまで全滅してるなあ……」

「ほらあ」

「ほんとだ。お互い身軽だな……」

 一切の準備がいらなかった。
 引き出物とかそういうのも全く必要ないようだ。

「じゃあ今後どこで生活するかなんだけど……」

「ああ、それは問題だ!!」

 リップルが天を仰いだ。

「お互い、気楽な宿ぐらしだっただろう? あれならベッドメイクもやってくれるし、朝食は出してくれるから本当に助かっていたんだ。だが、一人用の部屋だから自由が利いたとも言える。ベッドの他にちょっとしたスペースしかない部屋だからね」

「リップルそんな狭いところに住んでるのか!!」

「本棚を置いたからもう着替えをちょっとしか置けないぞ。手が届く所に全てがある」

「あー、それに慣れると広いところで暮らせないやつ。仮にも国を救った英雄がそんな暮らしを……!!」

「君だって世界に美食を広めた偉大なる男が、未だに宿の一室で質素に生活してるじゃないか」

「うちはコゲタがいるから……」

「そのコゲタだって半分独り立ちしているだろう?」

「ううーむ!!」

 お互い、住居の問題が出てきてしまった!
 これは困った。
 そして僕らは比較的、生活能力がない。

「……よし、お手伝いさんを雇おう」

「そうしよう」

 金で解決するのだ!
 完璧だな。

「じゃあ家を買うかあ……」

「おおっ、剛毅だねー。私希望を言ってもいい?」

「いいよいいよ。二人とコゲタの家だし」

「じゃあ、私の部屋は狭くしてほしい。ベッドからなんでも手が届くくらい」

「夫婦なのに別の部屋で寝る気満々じゃん」

「じゃあ一緒の部屋でもいいけど、とにかく狭い部屋がいいな」

「変わった人だなあ……」

 その足で、僕らは家を見に行った。
 アーランは大陸最大の都だから、あちこちから移住希望者が詰めかけてきている。
 その多くは宿や借家で暮らすものなんだが……。

 各地の成功者もまた、アーランに住み着いたり別荘を求めてきたりもするのだ。
 なので、新居のニーズが常にある。

 まあ、新居とは言っても中古の家をリフォームしたものが大半なんだが。

 雨と雪くらいしか降らず、災害の少ないアーランでは、中古の家もそこまで傷まない。
 なのちょっとリフォームするだけで使い物になる。

「あーっ! 話題のお二人!! も、もしや家をお探しで!? よくぞ手前の店を選んでくださいました! ここに今建てられている最大級のお屋敷が……」

「ごく小さいサイズでいいぞ」

「そうだそうだ。私達は生活能力がないから管理しきれないんだ」

「あっ、さいですか……」

 不動産の人がしゅんとなってしまった。
 でもとりあえず、お手伝いさんも雇うことだし……ということで家を幾つか見せてもらうことに。

 もう、リップルがひたすら家に興味がない。
 ずっと「ふーん」という態度なのだ。
 こういうタイプの女性は新鮮だなあ。
 いや、こういうキャラだってのは知ってたけどさ。

「……ど、どうです?」

 恐る恐る聞いてくる不動産の人。
 可哀想になってくるな。
 僕も別にどこだっていいんだが……。

 ここは、コゲタをメインで想像してみよう。
 コゲタが喜びそうな住まい……。
 家は小さくても走り回れる庭があると良さそうだ。

 だとすると。

「ここなんてどうだろう」

「庭がだだっ広くないかい? ああ、そうか、コゲタのためだね? いいんじゃないかな」

 リップルがすぐに察して、僕らの新居が決定したのだった。
 部屋数はキッチン兼ダイニング兼リビングがあって、風呂とトイレがあり、寝室が一つ。
 後は井戸がある。

 一人暮らしの学者が、畑を耕しつつ暮らしていた家らしい。
 その学者が死んだのでリフォームした上で売りに出された。

 ちょうどいいんじゃないだろうか。

「ですがお二人共、ここではお子さんができたら手狭になりますよ」

「そうしたら増築するよ」

「さらっと言ってのける……」

 殿下がパトロンで、とにかく金はあるのだ。
 それに僕とリップルの間に子ども?

 とても想像ができない。
 お互いそういうのに興味ない感じだものなあ……。

 顔を見合わせて苦笑する僕らなのだが、そこに知らせが届く。
 アララちゃんがパタパタ走ってきたのだ。

「コゲタの主さーん! リップルさーん! ご主人がいろいろもってきたよー!」

 色々!?
 つまり、ツーテイカーから何か来たということか!!
 冷凍設備とビールに違いない。

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