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92・結婚準備が思いの外大規模だぞ
第279話 冷えたビールを飲むぞ
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リップルと二人で、途中で馬車を捕まえてアーラン入口まで走らせる。
お使いでやって来たアララはクタクタだったみたいで、馬車に乗せたらぐうぐう寝てしまった。
なんだかんだでこの都市は広い。
端から端まで歩くと半日掛かるからな。
なので、馬車は合理的な選択なのだ。
「私が考えたんだが、お手伝いさんは朝に日替わりで合計二人、夜に一人でどうだろう」
「ほうほう、夜に一人というのは」
「私達は外食メインの生活だったじゃないか」
「なーるほど」
合点が行った。
ということで、三人のお手伝いさんを雇うことに。
朝来てもらう人には掃除もやってもらい、夜に来てもらう人は夕食や保存食の仕込みなどをやってもらう。
これだ、これで行こう。
「ところでナザル、どうして馬車を急がせているんだい? 彼が報告に来たということは、恐らくことが起こってから数時間経っていると思うけど」
「少しでも早く味わいたいんだよ、ビールを」
「ビール? あのビールかい?」
「麦から作られる発泡する酒で」
「エールみたいなものかい? ビールだとしても珍しいものじゃないんじゃないか?」
「それをキンキンに冷やして飲む」
「酒をキンキンに冷やす!? どうやるんだい!?」
「冷凍魔法を僕がワンダバーから持ってきて、ツーテイカーに提供したんだ。彼の国が冷凍魔法を独占してるが……多分近いうちに各国で商業展開すると思う」
「ほえー、ナザル、君は美食だけかと思ったら手広くやっているんだねえ……」
「全部美食につながるんだが、思えば信じられないくらい手を広げている」
「その結果がポンと家を帰る財力かあ……。君は全く分からない男だなあ。そろそろ私達の付き合いも二十年近いけど、年々底しれなくなっていくよ」
「我ながら何をやっているのかさっぱりわからん」
「あの頃はまだ可愛げがある少年だったのに」
「リップルはあの頃から全く変わらないよな」
「二十年でハーフエルフが変わるもんか。というか私は多分死ぬまでこの姿のままだからね。気持ち的に油物がきつくなっているだけで、身体機能もずっと全盛期なのがハーフエルフだぞ」
「チートだチート」
「チートというのは君の世界の言葉でズルという意味だったっけ? それはそうなんだが、君が美食に出会って世界に広げていく速度こそチートだろう。君がやり始めてたった三年だぞ!? 三年で世界はすっかり変わってしまった。とても平和的な方向に」
「うーん、我ながらなんということをやったのか」
わいわい喋っていると、馬車の御者が振り返る。
「ナザルさんとリップルさんですよね? ご結婚おめでとうございます! いやあ、お二人を乗せたのは自慢できるぜ! これから俺のところにも幸運が来そうだなあ」
「僕らは縁起物か」
そう言う扱いをされているらしい。
三十分ほど馬車を走らせたら、アーラン入口へ到着した。
新居の問題は、入口まで少々遠いことだな。
……よし、自前で馬車を持つか。
馬も飼おう。
馬の世話をする人も雇うか。
どんどん規模が大きくなっていくな……。
馬房を作らねばならないではないか。
そう言えば、コゲタと仲の良い馬がいたよな。
あいつを買って連れてこよう。
これも縁だ。
ああ、結婚式なんて過程だな。
やることはその後に幾らでもある。
だが、未来のことなんか考え続けていても始まらないのだ。
今は、冷たいビールを飲む。
それだけだ。
アーラン入口では、兵士たちが詰めかけていた。
何か騒ぎかと思ったら、差し入れのビールを受け取って、ニコニコしながら飲んでいるところだった。
おい、アーランの兵士がツーテイカーに懐柔されてるよ!
すっかり戦争が起こらなくなり、みんなちょっと弛んできているのだ。
本来ならツーテイカーはここで戦争を仕掛けてもいいのだろうが……。
世界のルールは変わっているんだ。
今は美食を用いた経済力で相手を殴る!
そういう時代だ!
「僕の到着だぞ!!」
僕が宣言すると、振り返った兵士たちがうおおおおおっと湧いた。
あっ、こいつら出来上がっている!!
奥にはツーテイカーの馬車軍団と、その前に飼い主氏がいる。
ハッとしてアララちゃんが起きた。
そしてピョーンと降りて、飼い主氏のところまで走っていく。
「よく知らせてくれたなアララ。偉いぞー」
「えへへ、がんばった!」
「冷えたビールが飲めると聞いて」
「呼んだ甲斐があったよ。披露宴の前にどうぞ、召し上がれ」
「いただきます!」
ということで、僕は陶器のジョッキにキンキンに冷えたビールを注いでもらった。
樽で運んでるのか!
炭酸が逃げないように謎の処理を施されているようだな。
おお、素晴らしい泡!
美しいピルスナー!
香しいホップの香り!!
グーッと飲むと、まさしくビールだ。
喉越しぃー!
今ばかりは僕は喉越し信者だ。
ごくごく喉を鳴らして一気に飲んでいると、リップルがこれをじーっと見ているではないか。
「……私にもくれないか? 少しでいいんだが」
「小さいジョッキもあるよ」
「じゃあそれで……。ほほー、エールよりも全然泡立つんだねえ。それに香りがいい。どれどれ……。おっ!」
リップルさすがの洞察力。
始めて口にするビールを味わうこと無く、一気に飲み込む。
「後味が苦い。なるほど……。この国のビールとは全く違う……! しかも、搾りたての酸味ある果汁のキレを感じさせる飲み口だった。これはすごいな……」
「だろう? これも披露宴に出す。このキンキンに冷えた状態で」
「凄まじい披露宴になりそうだな……。君の集大成になるんだろう? 世界を揺るがす食卓になるぞ」
そうかも知れない……。
だが、眼の前の楽しさを追求した結果がこれなのだ。
あとちょっとメニューを増やしていきたいところだが……。
お使いでやって来たアララはクタクタだったみたいで、馬車に乗せたらぐうぐう寝てしまった。
なんだかんだでこの都市は広い。
端から端まで歩くと半日掛かるからな。
なので、馬車は合理的な選択なのだ。
「私が考えたんだが、お手伝いさんは朝に日替わりで合計二人、夜に一人でどうだろう」
「ほうほう、夜に一人というのは」
「私達は外食メインの生活だったじゃないか」
「なーるほど」
合点が行った。
ということで、三人のお手伝いさんを雇うことに。
朝来てもらう人には掃除もやってもらい、夜に来てもらう人は夕食や保存食の仕込みなどをやってもらう。
これだ、これで行こう。
「ところでナザル、どうして馬車を急がせているんだい? 彼が報告に来たということは、恐らくことが起こってから数時間経っていると思うけど」
「少しでも早く味わいたいんだよ、ビールを」
「ビール? あのビールかい?」
「麦から作られる発泡する酒で」
「エールみたいなものかい? ビールだとしても珍しいものじゃないんじゃないか?」
「それをキンキンに冷やして飲む」
「酒をキンキンに冷やす!? どうやるんだい!?」
「冷凍魔法を僕がワンダバーから持ってきて、ツーテイカーに提供したんだ。彼の国が冷凍魔法を独占してるが……多分近いうちに各国で商業展開すると思う」
「ほえー、ナザル、君は美食だけかと思ったら手広くやっているんだねえ……」
「全部美食につながるんだが、思えば信じられないくらい手を広げている」
「その結果がポンと家を帰る財力かあ……。君は全く分からない男だなあ。そろそろ私達の付き合いも二十年近いけど、年々底しれなくなっていくよ」
「我ながら何をやっているのかさっぱりわからん」
「あの頃はまだ可愛げがある少年だったのに」
「リップルはあの頃から全く変わらないよな」
「二十年でハーフエルフが変わるもんか。というか私は多分死ぬまでこの姿のままだからね。気持ち的に油物がきつくなっているだけで、身体機能もずっと全盛期なのがハーフエルフだぞ」
「チートだチート」
「チートというのは君の世界の言葉でズルという意味だったっけ? それはそうなんだが、君が美食に出会って世界に広げていく速度こそチートだろう。君がやり始めてたった三年だぞ!? 三年で世界はすっかり変わってしまった。とても平和的な方向に」
「うーん、我ながらなんということをやったのか」
わいわい喋っていると、馬車の御者が振り返る。
「ナザルさんとリップルさんですよね? ご結婚おめでとうございます! いやあ、お二人を乗せたのは自慢できるぜ! これから俺のところにも幸運が来そうだなあ」
「僕らは縁起物か」
そう言う扱いをされているらしい。
三十分ほど馬車を走らせたら、アーラン入口へ到着した。
新居の問題は、入口まで少々遠いことだな。
……よし、自前で馬車を持つか。
馬も飼おう。
馬の世話をする人も雇うか。
どんどん規模が大きくなっていくな……。
馬房を作らねばならないではないか。
そう言えば、コゲタと仲の良い馬がいたよな。
あいつを買って連れてこよう。
これも縁だ。
ああ、結婚式なんて過程だな。
やることはその後に幾らでもある。
だが、未来のことなんか考え続けていても始まらないのだ。
今は、冷たいビールを飲む。
それだけだ。
アーラン入口では、兵士たちが詰めかけていた。
何か騒ぎかと思ったら、差し入れのビールを受け取って、ニコニコしながら飲んでいるところだった。
おい、アーランの兵士がツーテイカーに懐柔されてるよ!
すっかり戦争が起こらなくなり、みんなちょっと弛んできているのだ。
本来ならツーテイカーはここで戦争を仕掛けてもいいのだろうが……。
世界のルールは変わっているんだ。
今は美食を用いた経済力で相手を殴る!
そういう時代だ!
「僕の到着だぞ!!」
僕が宣言すると、振り返った兵士たちがうおおおおおっと湧いた。
あっ、こいつら出来上がっている!!
奥にはツーテイカーの馬車軍団と、その前に飼い主氏がいる。
ハッとしてアララちゃんが起きた。
そしてピョーンと降りて、飼い主氏のところまで走っていく。
「よく知らせてくれたなアララ。偉いぞー」
「えへへ、がんばった!」
「冷えたビールが飲めると聞いて」
「呼んだ甲斐があったよ。披露宴の前にどうぞ、召し上がれ」
「いただきます!」
ということで、僕は陶器のジョッキにキンキンに冷えたビールを注いでもらった。
樽で運んでるのか!
炭酸が逃げないように謎の処理を施されているようだな。
おお、素晴らしい泡!
美しいピルスナー!
香しいホップの香り!!
グーッと飲むと、まさしくビールだ。
喉越しぃー!
今ばかりは僕は喉越し信者だ。
ごくごく喉を鳴らして一気に飲んでいると、リップルがこれをじーっと見ているではないか。
「……私にもくれないか? 少しでいいんだが」
「小さいジョッキもあるよ」
「じゃあそれで……。ほほー、エールよりも全然泡立つんだねえ。それに香りがいい。どれどれ……。おっ!」
リップルさすがの洞察力。
始めて口にするビールを味わうこと無く、一気に飲み込む。
「後味が苦い。なるほど……。この国のビールとは全く違う……! しかも、搾りたての酸味ある果汁のキレを感じさせる飲み口だった。これはすごいな……」
「だろう? これも披露宴に出す。このキンキンに冷えた状態で」
「凄まじい披露宴になりそうだな……。君の集大成になるんだろう? 世界を揺るがす食卓になるぞ」
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