俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
292 / 337
97・密着! 油使い一家!

第292話 吟遊詩人がやって来た

しおりを挟む
「こんにちはーっ!! こんにちはーっ!!」

「うわーっ、誰だ誰だ、でかい声だしやがって」

 僕が外に出ると、派手な格好の男がいた。
 赤や緑や黄色の布を纏い、頭には白と黒が螺旋状になった帽子を被っている。
 そして布地の裾から覗く足は……。

 なんと、ヤギの足なのだ!

「サテュロス族じゃないか! 珍しいなあ!」

「どうも! どうもどうも! あはー! 髪が金色、肌が小麦色、瞳は緑色! あんたがナザルさんだね! こんにちは! やあこんにちは! どうもどうも! みどもは仰るとおりのサテュロスで、名をブレッドと言うんだ! 世界を巡るちょっとベテランの吟遊詩人なんだが!」

「賑やかなのがいるね。おや! ブレッドかい? 彼は世界的に有名な吟遊詩人だよ」

 ひょいっと顔を出したリップルが解説してくれた。
 そうなのか!

「ナザルは食の世界にいたから気付かなかっただろうが、音楽と演劇の世界において、サテュロスのブレッドを知らない者はもぐりだね。彼の描く戯曲はかなりのものだよ。アーラン大劇場でもよく演目として楽しまれているだろう?」

「一度も行ったことがない」

「君は食文化以外の文化に触れるべきだなあ! よし、私が今度連れて行ってあげよう。文化に明るくない夫は私としても教育しないといけないからね」

「なんだってー」

 面倒な話になってしまった。
 ちなみにブレッドがここに来た理由だが……。

「いやはや実はですね! ソロス王子がソロス陛下になったと聞きましてね! いやあめでたい! この間アーランに立ち寄ったときには、生まれたばかりだと思っていたのに! もう国王陛下! いやあ時の流れは早いもんだ!!」

「喋るのが止まらんなこの人!」

「口から先に生まれてきましたからねえ!」

「なになにー? だれがきたのー!」

 パタパタとコゲタもやって来た。
 そしてブレッドを見ると、「しじんさんだー!」と驚く。
 これにブレッドは大いに気を良くしたようで、「ではおちびさんのために一曲……!」とか言い始めた。

 おい、本題!
 本題~!

 なんかブレッドが朗々と、『子犬のためのフーガ』とか言う曲を奏で始めて、周囲に住まってらっしゃる品の良い方々まで出てきてニコニコしながら聞き始める。
 いや、上手いけどねこのサテュロス。
 今まで聞いた吟遊詩人の中では一番上手いけどね。

 歌い終わり、コゲタが感激してぴょんぴょん飛び跳ねながら拍手をした。
 優雅に一礼するブレッド。
 リップルも満足げだ。
 ポーターまで首を振ってノリノリだ。

 乗ってないのは僕だけではないか……!?

「さすがは油使い!! みどもの曲でもノリノリにならないとは!! あんた、さては筋金入りの音痴だね! そう、みどもの天敵だ! だからここに来た! ソロス陛下とデュオス殿下から、あんたの歌を作れと命じられたからだ! ヒャッホウ! こいつは腕が鳴るぞう!!」

 飛び跳ねながら腕まくりするブレッド。
 なんと騒がしい男であろうか!

「ということで取材させてもらっても? ああ宿は気にしないでもらって結構! 僕らサテュロスは空が天井で地面が石ころだらけでもグッスリ眠れるんだ!」

「馬小屋に泊まりなさいよ」

「ファオ! みどもの発言を聞いて表情一つ変えない塩対応!! 心というものがある生物なら可哀想に思って、母屋に入れてくれると言うのに! あんた本当に筋金入りの音痴だね……?」

 どうやら、素晴らしい楽士であるブレッドの技がイマイチ通用しない僕は、本当に凄い音痴らしい。
 初めて知った事実だな……!!

「なるほどねえ、ナザルの歌を……。アーランはナザルの存在を伝説にまで高めるつもりだろうね。歌い継いでいくのかな」

「ええーっ!? 僕をかい? なんでそこまでやるのだ」

「君な、自分を過小評価はよくないからな。食一つで世界に平和をもたらしたのが君だぞ。美食に飽く何百年か先まで、人々は戦争をしないだろうさ」

 そう告げたリップルは、ブレッドに笑いかけた。

「こんな芸術音痴の夫だが、どうか君の力で素晴らしい歌を作ってやって欲しい! 期待しているよ」

「もちろんだよ奥方! あんただって大英雄なんだから歌になるべきなんだけどね! もうしてるんだけどね! では続けて天を落とす魔女の歌を……」

「ストーップ!」

 僕はブレッドの額にチョップを叩き込んだ。
 彼は「ウグワーッ!」と叫んでぶっ倒れた。

 帽子が脱げて、ヤギの角が出てくる。
 ははあ、角と角の間が急所か。

 静かになったので、家の中に運び込んだ。
 周りの家の人々が、何故かワーッと拍手喝采で送ってくれる。

 なんだかとんでもないことになって来たな。
 ブレッドはすくっと起き上がり、

「それで取材の許可はいただけるので?」

 と聞いてきた。

「王命だろう? いいよいいよ。ついてきな。僕はしばらく美食関係の仕事をしてるから」

「なんと! 美食伯の爵位を得てなお、仕事を!? 自らの足で!? 部下を持つこともなく!?」

「部下を持ってもいいけど、美食への解像度が僕並に高い人がいないの!」

「ははあ、確かに! 全く確かに!」

 ええい、なんと賑やかなサテュロスだ。
 既に僕の言葉を真剣な顔でメモしているし。

「ご主人うたになるの!? すごーい!」

 まあコゲタが喜んでくれているならいいか。
 こうして僕の、取材される日々が始まるのだった。

しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。

あけちともあき
ファンタジー
冴えない高校生女子、きら星はづき(配信ネーム)。 彼女は陰キャな自分を変えるため、今巷で話題のダンジョン配信をしようと思い立つ。 初配信の同接はわずか3人。 しかしその配信でゴボウを使ってゴブリンを撃退した切り抜き動画が作られ、はづきはSNSのトレンドに。 はづきのチャンネルの登録者数は増え、有名冒険配信会社の所属配信者と偶然コラボしたことで、さらにはづきの名前は知れ渡る。 ついには超有名配信者に言及されるほどにまで名前が広がるが、そこから逆恨みした超有名配信者のガチ恋勢により、あわやダンジョン内でアカウントBANに。 だが、そこから華麗に復活した姿が、今までで最高のバズりを引き起こす。 増え続ける登録者数と、留まる事を知らない同接の増加。 ついには、親しくなった有名会社の配信者の本格デビュー配信に呼ばれ、正式にコラボ。 トップ配信者への道をひた走ることになってしまったはづき。 そこへ、おバカな迷惑系アワチューバーが引き起こしたモンスタースタンピード、『ダンジョンハザード』がおそいかかり……。 これまで培ったコネと、大量の同接の力ではづきはこれを鎮圧することになる。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

処理中です...