4 / 112

陰謀③

しおりを挟む
「フィリ」ねぇ……。婚約者のわたしでさえ、照れくさくて呼べていないのに……この二人は普通に……。

 周囲の目も気にせずイチャイチャする二人を見て、全身にざわっと鳥肌が立つ。

「そう。フィリベール様とリナは……以前から関係があったのね……」

「ああ、今まで気づかなかったのか?」
「……どうして」

「王太子の婚約者が果たすべき式典を、お前が何年も放棄し続け、私の横にいたのは常にリナだったからな。王太子としての重責に悩む私の手を取ってくれたのは、いつもリナだった」

「ですから、わたしは――」

「今さら何を言おうがもう遅い。私は彼女と真実の愛に目覚めたんだ。お前が黒魔術を使っていると知って、鬱積した気持ちを晴らしてくれたのは、この可愛いリナだ」

「フィリったら。そんなはっきり言ったから、お姉様が驚いた顔をしているわよ」

「いいんだよリナ。私たちは真実の愛で深く結びついているからね。もう我慢せずに、あの女に教える時がきたんだよ。何度も愛し合ったんだ。既にリナが私の子どもを宿していても、おかしくないんだから」

 フィリベールが、リナの肩を抱く手とは反対の腕を、リナのお腹の辺りへ伸ばし、慈しむようになでている。

「それは……世間では不貞というものです。誇らし気に語るのは、おかしいですわ」

「何が不貞だ! 私はリナを側室として迎えるつもりだったが、婚約者のお前が禁術に手を出しているとなれば、話は変わる。お前は罪人だ」

「これで、フィリはリナだけの旦那様になるのね♡」
「ああ、そうだよ」
 二人の世界を作り、うっとりと見つめ合っている。
 
「信じられない……。リナ……。あなた、初めからわたしから立場を奪うつもりだったんでしょう。わたしが犯罪者だと言いがかりをつけて」

「酷いわ――……。リナを疑うなんて……」

 リナが泣きそうな声を出すものだから、フィリベールがますます激昂する。

「おい! ジュディット、お前よくもリナを泣かせて」
 あんな芝居じみた声に騙されて、馬鹿なのか? この男、何も見えていない。
 ――って呑気にしている場合ではない。このまま、ここにいては危ない。投獄されるわよ。

 この四人には、何を言っても無駄だ。誰か味方はいないか……。

 そうだシモンよ。
 王宮騎士団の第二部隊長であれば、わたしが黒魔術を使っていないことは、分かってくれる。
 今の今まで一緒に森へ入り、瘴気だまりを浄化してきたのだから。
 異常な瘴気だまりに、彼も違和感を覚えていたんだもの。

 そう思うわたしは、廊下へと続く扉までの距離を確認する。

 ――全力で走ればなんとかなりそうだ。
 逃げるために催眠魔法でも使いたいが、魔法の使用を禁じられている王宮で彼らに何かすれば、それこそ言い逃れができなくなる。

「お前はこの国の重要危険人物だ。お前のその力を封印させてもらう」

「他人の魔力は干渉できないことくらいご存じでしょう。そんなこと……できる訳がないわ」

「ふん。王族の血には、闇属性という特別な力があるんだ。魔力を封じる事もできれば、記憶も封じる事もできる」

「それなら、陛下が気づいて解呪なさるわ」

「くくっ、愚かだな。所詮禁術に頼るしか能がないからその程度の知識なのか? 魔法契約は同じ血の人間しか解呪できないだろう」

「――何ですって」
 一時的な魔法じゃなくて、魔法契約。
 それはまずい。魔法契約なんて結ばれたら、一生消えない。

 逃げなきゃ――。
 と思って立ち上がった時だ。ぐぅわぁんっと頭の中で渦を巻き、足に力が入らなくなった。そのまま倒れるわたしの目に留まる白いティーカップ。

 そうか……。
 フィリベールが淹れたお茶に……何か仕込まれていたのか……。

 ……あぁ、オレンジの皮は味を誤魔化すために入っていたのね。
 なんだ……わたしを思ってくれたわけじゃ……なかった。
 馬鹿だな。騙されて。もう、恋なんて懲り懲りだわ。

 もし……このまま死ぬなら……。あなたの婚約者のまま、死んでたまるか……。そんな汚名は、ご免だ……。

 ローテーブルの上に乗る白い紙へ、必死に手を伸ばす――。紙の角に僅かに触れた瞬間、一気に自分の魔力を通す。
 その数秒後、紙の中央に魔法陣が光ったのをガラスの天板越し……床から見上げた。

 お望みどおり、婚約の解消はしてあげたわ……。あなたと繋がっているなんてうんざりだもの。


 既に限界を超えていたわたしは、にやにやとわたしを見下ろすリナとフィリベールの目の前で、意識を手放してしまう。

 そして次に目が覚めたときは、全く知らない男の元だった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

「君を愛することはない」と言われたので、私も愛しません。次いきます。 〜婚約破棄はご褒美です!

放浪人
恋愛
【「愛さない」と言ったのはあなたです。私はもっとハイスペックな次(夫)と幸せになりますので、どうぞお構いなく!】 侯爵令嬢リディアは、建国記念舞踏会の最中に、婚約者である王太子レオンハルトから婚約破棄を宣言される。 「君を愛することはない!」という王太子の言葉は、国中に響く『公的拒絶誓約』となってしまった。 しかし、リディアは泣かなかった。 「承知しました。私も愛しません。次いきます」 彼女は即座に撤退し、その場で慰謝料請求と名誉回復の手続きを開始する。その潔さと有能さに目をつけたのは、国の行政を牛耳る『氷の宰相』アシュ・ヴァレンシュタインだった。 「私の政治的盾になれ。条件は『恋愛感情の禁止』と『嘘がつけない契約』だ」 利害の一致した二人は、愛のない契約結婚を結ぶ。 はずだったのだが――『嘘がつけない契約』のせいで、冷徹なはずの宰相の本音が暴走! 「君を失うのは非合理だ(=大好きだ)」「君は私の光だ(=愛してる)」 隠せない溺愛と、最強の夫婦による論理的で容赦のない『ざまぁ』。 一方、リディアを捨てた王太子は「愛さない誓約」の呪いに苦しみ、自滅していく。 これは、悪役令嬢と呼ばれた女が、嘘のない真実の愛を手に入れ、国中を巻き込んで幸せになるまでの物語。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。 「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」 ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。

処理中です...