記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から なぜか溺愛されています
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
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第1章 あなたは誰
あなたは誰④
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それも、わたしがどこかのお嬢様に見えると、度を超えた勘違いをされている。
そんな馬鹿げた話をされても、アンドレだって困り果てているじゃない。かわいそうに。
困惑するアンドレとわたしの見解は同じはず。どう見てもわたしがお嬢様なんてあり得ないものね。
別にね、決して威張って言える事じゃないけど、辺境伯がお嬢様疑惑を向けた人物は、アンドレから「どうしようもない人物」と評価されているんだから!
相当な教育を受けたご令嬢なわけがない。
わたしなんて、少し前は転売疑惑をかけられた犯罪者。
それを否定したものの、今は、自分よがりで欲深い魔力なし認定を下された身だ。悲しいことに。
なんとか汚名を払拭したいと思っていた矢先に誘拐疑惑だもの。
――いや。ひょっとして。わたしってば、凄い大金持ちのご令嬢だったりして。
両親が心配して、お屋敷の従者総出でお嬢様を捜索してくれているかもよ。ふふっ、それって夢があるじゃない。
己の中でありもしない妄想が膨らみ、にまりとしたところで、アンドレから向けられる冷静な視線を感じた。
にやけ顔を見られたのが恥ずかしくなり、慌てて気を取り直す。
ははっ。ない、ない、ない。ないな。
ぶんぶんと全力で首を振って否定する。
魔力なしが貴族籍にいるとは、到底思えない。
良家に魔力なしは生まれないし、万一そんな子が誕生すれば、孤児院へ捨てるだろう。その家の恥だし。
魔力計測器が反応しない時点で、お嬢様要素は一ミリたりともないんだから。
お嬢様という想定は、いくらなんでも飛躍しすぎよね。
そうこうしていると、アンドレとカステン辺境伯の空気が、凄い険悪な雰囲気になってきた。
――まいったな。
何度も躊躇っている彼の家へ強引に転がり込んだのは、やはり問題だったのか? 他の人の意見は、ちっとも考えていなかったわ。
彼は、一度は勝手に許可を出していたんだもの。自分に権限がある風に、躊躇いもせず。
だけど辺境伯の剣幕。これはさすがにまずい。
もうこのまま出ていくべきかと、弱気になってしまうレベルだ。
そもそもの元凶は自分なのに。
わたしを拾ってくれたアンドレが、意味もなく怒られる事態になってしまったんだもの。
けれど。彼と離れることを想像すると……、それはそれで、ざわざわと胸騒ぎが起こる。
お願いだ。何としても彼と一緒にいたい。
不安に駆られ手がじっとりと湿る。すると、アンドレの優しい声がした。
「ジュディは一度、部屋へ戻ってくれませんか。イヴァン卿と二人で仕事の話をしたいから」
表情がこわばっていたアンドレが、わざわざ、にこっと柔らかな笑顔を作る。
本心ではわたしをここにから追い払おうとしているのだ。そんなアンドレを無理に笑わせている気がして胸が詰まる。
そうはいっても余計な口出しは、この場の混乱を増長させる気がして、心の中で静かに詫びた。
エントランスの空気がぴりぴりしている中、アンドレへ「分かったわ」と静かに伝えると、「申し訳ないね」と少しも悪くない彼から謝られた。
そして、カステン辺境伯にペコリと頭を下げて、わたしが借りることになった部屋へ向かった。
わたしから挨拶をされた辺境伯は、表情一つ変えず、なんの反応もしなかったけど。
◇◇◇
【SIDEアンドレ】
ジュディはこの場から立ち去ったが、イヴァン卿から鋭く睨まれたまま。
僕が得体の知れない貴族を誘拐したと勘違いされている。
僕のことを一番知っているくせに、一体どうしたんだ。するわけないだろう。
あ……。――そうだったな。
ここ一週間。僕がイヴァン卿を避けていたからか……。
確かに今の僕は、やけを起こしたと思われても、おかしくはない。
想いを寄せる彼女に、どうしても会いたくて、いつもとは違う動きをしていた自覚はある。
社交場はおろか、国の公式行事さえ顔を出さないあの方が心配で。
世間では、幻の聖女と呼ばれている彼女に、一目会いたい衝動が抑えられず……馬鹿なことをした。
——森の中でジュディに遭遇しなければ、あのまま王都まで向かっていた。
王宮にいるはずの彼女に会うために。
もし、本当に見かけてしまえば、連れ去ってきた気がしてならない。
今に思えば、なんて無茶なことを考えていたんだ。完全に冷静さを失い自分らしくなかった。
――それもこれもイヴァン卿のせいだ……。
僕の存在をカモフラージュするために、常に傍にいるイヴァン卿。お目付け役なのに、兄や友人のように僕を心配してくれている。
彼は「王太子殿下は婚約者を入れ替える」と言い続けていた。毎日のように。
責めたいところだが、僕を心配するイヴァン卿にとっても切望だったと、僕自身が一番理解している。
なるべく真に受けないよう、「期待しないで待っている」と言い続けていたが、内心、王室から「王太子の婚約解消」の公表を心待ちにしていた。
だが結局。彼の予想は大きく外れ、残ったのは、行き場を失った期待感と、絶望だけ。
長年、余計なことばかり聞かせてくれたなと、恨めしく思う。
毎年、僕を案ずる手紙を送ってくれるジュディット様。その彼女の結婚式が、とうとう三週間後に迫る。
イヴァン卿が熱弁を奮う「婚約の解消説」は、全くの的外れだったけど。
ジュディット様の妹と王太子殿下は恋人同士なんだろう……。
王宮で仲睦まじい彼らの姿を見かけたというのだから、これに関しては間違いないはずだ。
このまま結婚して彼女は幸せなのだろうかと、彼女を思えば放っておけなかった……。
愚かだな。心配するのも分不相応の僕が何を考えているんだ。きっと彼女は僕より遥かに幸せな場所にいる。
そんな失恋相手のことよりも、自分の心配をすべきだろう。以前から警戒していた僕の処分。その時が来たようだ。
確かに、少し前に見せたジュディのカーテシーは美しくて完璧だった。
本来あるべき角度へ、寸分の狂いもなく体を動かした。
精巧な礼はそう容易くできることじゃない。
何があってもブレないように、彼女の体に叩き込まれていた。
――やはり、ジュディは僕の刺客で間違いないみたいだ。
そんな馬鹿げた話をされても、アンドレだって困り果てているじゃない。かわいそうに。
困惑するアンドレとわたしの見解は同じはず。どう見てもわたしがお嬢様なんてあり得ないものね。
別にね、決して威張って言える事じゃないけど、辺境伯がお嬢様疑惑を向けた人物は、アンドレから「どうしようもない人物」と評価されているんだから!
相当な教育を受けたご令嬢なわけがない。
わたしなんて、少し前は転売疑惑をかけられた犯罪者。
それを否定したものの、今は、自分よがりで欲深い魔力なし認定を下された身だ。悲しいことに。
なんとか汚名を払拭したいと思っていた矢先に誘拐疑惑だもの。
――いや。ひょっとして。わたしってば、凄い大金持ちのご令嬢だったりして。
両親が心配して、お屋敷の従者総出でお嬢様を捜索してくれているかもよ。ふふっ、それって夢があるじゃない。
己の中でありもしない妄想が膨らみ、にまりとしたところで、アンドレから向けられる冷静な視線を感じた。
にやけ顔を見られたのが恥ずかしくなり、慌てて気を取り直す。
ははっ。ない、ない、ない。ないな。
ぶんぶんと全力で首を振って否定する。
魔力なしが貴族籍にいるとは、到底思えない。
良家に魔力なしは生まれないし、万一そんな子が誕生すれば、孤児院へ捨てるだろう。その家の恥だし。
魔力計測器が反応しない時点で、お嬢様要素は一ミリたりともないんだから。
お嬢様という想定は、いくらなんでも飛躍しすぎよね。
そうこうしていると、アンドレとカステン辺境伯の空気が、凄い険悪な雰囲気になってきた。
――まいったな。
何度も躊躇っている彼の家へ強引に転がり込んだのは、やはり問題だったのか? 他の人の意見は、ちっとも考えていなかったわ。
彼は、一度は勝手に許可を出していたんだもの。自分に権限がある風に、躊躇いもせず。
だけど辺境伯の剣幕。これはさすがにまずい。
もうこのまま出ていくべきかと、弱気になってしまうレベルだ。
そもそもの元凶は自分なのに。
わたしを拾ってくれたアンドレが、意味もなく怒られる事態になってしまったんだもの。
けれど。彼と離れることを想像すると……、それはそれで、ざわざわと胸騒ぎが起こる。
お願いだ。何としても彼と一緒にいたい。
不安に駆られ手がじっとりと湿る。すると、アンドレの優しい声がした。
「ジュディは一度、部屋へ戻ってくれませんか。イヴァン卿と二人で仕事の話をしたいから」
表情がこわばっていたアンドレが、わざわざ、にこっと柔らかな笑顔を作る。
本心ではわたしをここにから追い払おうとしているのだ。そんなアンドレを無理に笑わせている気がして胸が詰まる。
そうはいっても余計な口出しは、この場の混乱を増長させる気がして、心の中で静かに詫びた。
エントランスの空気がぴりぴりしている中、アンドレへ「分かったわ」と静かに伝えると、「申し訳ないね」と少しも悪くない彼から謝られた。
そして、カステン辺境伯にペコリと頭を下げて、わたしが借りることになった部屋へ向かった。
わたしから挨拶をされた辺境伯は、表情一つ変えず、なんの反応もしなかったけど。
◇◇◇
【SIDEアンドレ】
ジュディはこの場から立ち去ったが、イヴァン卿から鋭く睨まれたまま。
僕が得体の知れない貴族を誘拐したと勘違いされている。
僕のことを一番知っているくせに、一体どうしたんだ。するわけないだろう。
あ……。――そうだったな。
ここ一週間。僕がイヴァン卿を避けていたからか……。
確かに今の僕は、やけを起こしたと思われても、おかしくはない。
想いを寄せる彼女に、どうしても会いたくて、いつもとは違う動きをしていた自覚はある。
社交場はおろか、国の公式行事さえ顔を出さないあの方が心配で。
世間では、幻の聖女と呼ばれている彼女に、一目会いたい衝動が抑えられず……馬鹿なことをした。
——森の中でジュディに遭遇しなければ、あのまま王都まで向かっていた。
王宮にいるはずの彼女に会うために。
もし、本当に見かけてしまえば、連れ去ってきた気がしてならない。
今に思えば、なんて無茶なことを考えていたんだ。完全に冷静さを失い自分らしくなかった。
――それもこれもイヴァン卿のせいだ……。
僕の存在をカモフラージュするために、常に傍にいるイヴァン卿。お目付け役なのに、兄や友人のように僕を心配してくれている。
彼は「王太子殿下は婚約者を入れ替える」と言い続けていた。毎日のように。
責めたいところだが、僕を心配するイヴァン卿にとっても切望だったと、僕自身が一番理解している。
なるべく真に受けないよう、「期待しないで待っている」と言い続けていたが、内心、王室から「王太子の婚約解消」の公表を心待ちにしていた。
だが結局。彼の予想は大きく外れ、残ったのは、行き場を失った期待感と、絶望だけ。
長年、余計なことばかり聞かせてくれたなと、恨めしく思う。
毎年、僕を案ずる手紙を送ってくれるジュディット様。その彼女の結婚式が、とうとう三週間後に迫る。
イヴァン卿が熱弁を奮う「婚約の解消説」は、全くの的外れだったけど。
ジュディット様の妹と王太子殿下は恋人同士なんだろう……。
王宮で仲睦まじい彼らの姿を見かけたというのだから、これに関しては間違いないはずだ。
このまま結婚して彼女は幸せなのだろうかと、彼女を思えば放っておけなかった……。
愚かだな。心配するのも分不相応の僕が何を考えているんだ。きっと彼女は僕より遥かに幸せな場所にいる。
そんな失恋相手のことよりも、自分の心配をすべきだろう。以前から警戒していた僕の処分。その時が来たようだ。
確かに、少し前に見せたジュディのカーテシーは美しくて完璧だった。
本来あるべき角度へ、寸分の狂いもなく体を動かした。
精巧な礼はそう容易くできることじゃない。
何があってもブレないように、彼女の体に叩き込まれていた。
――やはり、ジュディは僕の刺客で間違いないみたいだ。
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