記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から なぜか溺愛されています
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
文字の大きさ
大中小
21 / 112
第2章 あなたは暗殺者⁉
不思議なあなたは……②
しおりを挟む
アンドレが、またしても不思議な生き物を見るような目を向けてくる。
とはいえ、こちらとしては感じたままを口にしただけ。一体なんのことやらと理解に苦しむ。
「ちゃんと魔力の気配は感じるわよ。だけど、間違っているのかしら?」
「いいえ、間違ってはいません。おそらくジュディの言ったとおりです……」
表情を硬くする彼は、ゆっくりと発した。
随分と不安そうである。
そんなアンドレは、地中に潜る土蜘蛛に懸念を抱いているのかしらと考え、彼を元気づけようと極力明るく返す。
「ふふっ、そうでしょう」
「……ですが、土蜘蛛は土に隠れた時点で、周囲に魔力が漏れてこないから、普通の人は感じないレベルですよ」
「変ねぇ? 普通に感じるけど、そうなの?」
「普通って……。僕もゲート越しでは、どこにいるか。場所までは、はっきり分からないくらいです」
「わたしには、はっきりと感じるわよ。ゲートの丁度中央に潜っているわね」
「ぇ……そこまで分かるんですか?」
と言ったきり、アンドレは額に手を置くと、しばらく考えに耽る。随分と悩ましげだ。
わたしが「アンドレ?」と声をかければ、どこか吹っ切れたように、ふっと笑った。
「はは……とんでもない手練れを送り込まれたものですね。身を潜めるのは、潮時がきたようです」
「ん? なんの話?」
「……いえ、土蜘蛛の話ですよ。僕は、あの方を一目見るまでは、死にたくないからね」
「そう」と言ったわたしの顔を彼が見つめてくる。
「——ねえ、近くで探している兵士たちは、どうして分からないのかしら? さっさと攻撃すればいいのに」
納得できずに思わず首を傾げる。
すると、アンドレがぶっと噴き出し大笑いを始めた。
「シャワーのお湯も出せずに悪戦苦闘していた人物とは思えない発言ですね」
「ちょっと、それとこれでは話が違うでしょう」
やばい。
その話題には触れないようにしていたのに、なんでさらっとシャワーの話を持ち出すのよ。恥ずかしいからやめてよね。
「それじゃあ、せっかくです。二人で土蜘蛛の討伐でもしてきますか」
「ま、待ってよ。土蜘蛛といえば、兵士二十人がかりで討伐する魔物でしょう。それを気軽に討伐するって何を考えているのよ。二人って言っても、魔法が使えないわたしは戦力外なんだから」
「本当にジュディは知識だけは聖女並みですね。魔物の強さをさらりと言える女性は、そうそういないと思いますけど」
――おや? 珍しく褒められたのか?
アンドレと出会ってからというもの、良いところなしのわたしは、得意分野を見つけた気がして、気取った口調で言ってみることにした。
「誉め言葉として受け取っておくわね」
「……思うことはいっぱいありますが、言い返すのは面倒です。そのまま得意になっているといいですよ。まだらな記憶も残念なジュディらしくて、可愛いですから」
「その言い方。——さては、わたしのことを馬鹿にしていたのね!」
「くくっ。仕方ないでしょう。名前もどこにいたのかも分からないって言い張るのに、土蜘蛛を見つけるほどの魔力感知を、さらっと披露するんだから。おかしくてしょうがないですよ」
それからしばらく、彼の笑いは止まらない。じぃっと何度も睨んでもみたが、少しも気にする素振りはないんだから。酷いわね。
そんなわけで。くつくつと笑い続けるアンドレと共に、ゲートと呼ばれる門の近くまで来たのだ。
彼から見たわたしは、肝心なことはさっぱり分からないくせに、どうしようもない記憶だけ持ち合わせているものね。それが余程おかしかったのだろう。
だとしても、わたしとしては至って真面目だ。ちっともおかしくないけどね。
アンドレは愉快に笑っているけど、どうして、こんなおかしな記憶なのか、自分が知りたいくらいだ。
門の脇で馬を降りれば、そこを守る兵士たちに近づいた。
約十人くらいの兵士たちは、結界の外に向かって一列に並び様子を窺っているようだ。
いや、もうすっかりと油断して、その場に立っているだけに見える。
彼らはそろそろ撤退しようとしているのだろうか? 気を緩めてお喋りをしている。
むしろそれが、どうかしている。
ちょうど中央に位置する兵士の先に、土蜘蛛がいるんだもの。上を歩けば民間人に被害が出るわよ。
ふと周囲を見れば、列とは離れた所から全体の様子を見ている、二十代半ばくらいの兵士が一人いる。
その男がこちらを睨んでくる。というよりも、どうやらアンドレを見ているようだ。
いかにも武将といった猛々しい男が、渋い顔をして眉毛をぴくりと動かした。
その人物の腕に見えている階級章が、他の人物より多いところをみると、上官なのだろう。
他の兵士より相当若く見えるけど、昇級するのに年齢は関係ないみたいね。
なるほどなと頷くわたしは、この軍にも存在する、絶対的な魔力主義を理解した。
まあ想像するに、この軍の中で、彼の魔力が一番大きいのかもしれない。
そう思ったところで、つと横を見れば、アンドレと目が合った。
アンドレも上官の存在を意識していたみたいだ。「さて、彼の元へ行きますか」と、さらりと口にする。
とはいえ、こちらとしては感じたままを口にしただけ。一体なんのことやらと理解に苦しむ。
「ちゃんと魔力の気配は感じるわよ。だけど、間違っているのかしら?」
「いいえ、間違ってはいません。おそらくジュディの言ったとおりです……」
表情を硬くする彼は、ゆっくりと発した。
随分と不安そうである。
そんなアンドレは、地中に潜る土蜘蛛に懸念を抱いているのかしらと考え、彼を元気づけようと極力明るく返す。
「ふふっ、そうでしょう」
「……ですが、土蜘蛛は土に隠れた時点で、周囲に魔力が漏れてこないから、普通の人は感じないレベルですよ」
「変ねぇ? 普通に感じるけど、そうなの?」
「普通って……。僕もゲート越しでは、どこにいるか。場所までは、はっきり分からないくらいです」
「わたしには、はっきりと感じるわよ。ゲートの丁度中央に潜っているわね」
「ぇ……そこまで分かるんですか?」
と言ったきり、アンドレは額に手を置くと、しばらく考えに耽る。随分と悩ましげだ。
わたしが「アンドレ?」と声をかければ、どこか吹っ切れたように、ふっと笑った。
「はは……とんでもない手練れを送り込まれたものですね。身を潜めるのは、潮時がきたようです」
「ん? なんの話?」
「……いえ、土蜘蛛の話ですよ。僕は、あの方を一目見るまでは、死にたくないからね」
「そう」と言ったわたしの顔を彼が見つめてくる。
「——ねえ、近くで探している兵士たちは、どうして分からないのかしら? さっさと攻撃すればいいのに」
納得できずに思わず首を傾げる。
すると、アンドレがぶっと噴き出し大笑いを始めた。
「シャワーのお湯も出せずに悪戦苦闘していた人物とは思えない発言ですね」
「ちょっと、それとこれでは話が違うでしょう」
やばい。
その話題には触れないようにしていたのに、なんでさらっとシャワーの話を持ち出すのよ。恥ずかしいからやめてよね。
「それじゃあ、せっかくです。二人で土蜘蛛の討伐でもしてきますか」
「ま、待ってよ。土蜘蛛といえば、兵士二十人がかりで討伐する魔物でしょう。それを気軽に討伐するって何を考えているのよ。二人って言っても、魔法が使えないわたしは戦力外なんだから」
「本当にジュディは知識だけは聖女並みですね。魔物の強さをさらりと言える女性は、そうそういないと思いますけど」
――おや? 珍しく褒められたのか?
アンドレと出会ってからというもの、良いところなしのわたしは、得意分野を見つけた気がして、気取った口調で言ってみることにした。
「誉め言葉として受け取っておくわね」
「……思うことはいっぱいありますが、言い返すのは面倒です。そのまま得意になっているといいですよ。まだらな記憶も残念なジュディらしくて、可愛いですから」
「その言い方。——さては、わたしのことを馬鹿にしていたのね!」
「くくっ。仕方ないでしょう。名前もどこにいたのかも分からないって言い張るのに、土蜘蛛を見つけるほどの魔力感知を、さらっと披露するんだから。おかしくてしょうがないですよ」
それからしばらく、彼の笑いは止まらない。じぃっと何度も睨んでもみたが、少しも気にする素振りはないんだから。酷いわね。
そんなわけで。くつくつと笑い続けるアンドレと共に、ゲートと呼ばれる門の近くまで来たのだ。
彼から見たわたしは、肝心なことはさっぱり分からないくせに、どうしようもない記憶だけ持ち合わせているものね。それが余程おかしかったのだろう。
だとしても、わたしとしては至って真面目だ。ちっともおかしくないけどね。
アンドレは愉快に笑っているけど、どうして、こんなおかしな記憶なのか、自分が知りたいくらいだ。
門の脇で馬を降りれば、そこを守る兵士たちに近づいた。
約十人くらいの兵士たちは、結界の外に向かって一列に並び様子を窺っているようだ。
いや、もうすっかりと油断して、その場に立っているだけに見える。
彼らはそろそろ撤退しようとしているのだろうか? 気を緩めてお喋りをしている。
むしろそれが、どうかしている。
ちょうど中央に位置する兵士の先に、土蜘蛛がいるんだもの。上を歩けば民間人に被害が出るわよ。
ふと周囲を見れば、列とは離れた所から全体の様子を見ている、二十代半ばくらいの兵士が一人いる。
その男がこちらを睨んでくる。というよりも、どうやらアンドレを見ているようだ。
いかにも武将といった猛々しい男が、渋い顔をして眉毛をぴくりと動かした。
その人物の腕に見えている階級章が、他の人物より多いところをみると、上官なのだろう。
他の兵士より相当若く見えるけど、昇級するのに年齢は関係ないみたいね。
なるほどなと頷くわたしは、この軍にも存在する、絶対的な魔力主義を理解した。
まあ想像するに、この軍の中で、彼の魔力が一番大きいのかもしれない。
そう思ったところで、つと横を見れば、アンドレと目が合った。
アンドレも上官の存在を意識していたみたいだ。「さて、彼の元へ行きますか」と、さらりと口にする。
0
あなたにおすすめの小説
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
「君を愛することはない」と言われたので、私も愛しません。次いきます。 〜婚約破棄はご褒美です!
放浪人
恋愛
【「愛さない」と言ったのはあなたです。私はもっとハイスペックな次(夫)と幸せになりますので、どうぞお構いなく!】
侯爵令嬢リディアは、建国記念舞踏会の最中に、婚約者である王太子レオンハルトから婚約破棄を宣言される。 「君を愛することはない!」という王太子の言葉は、国中に響く『公的拒絶誓約』となってしまった。
しかし、リディアは泣かなかった。 「承知しました。私も愛しません。次いきます」 彼女は即座に撤退し、その場で慰謝料請求と名誉回復の手続きを開始する。その潔さと有能さに目をつけたのは、国の行政を牛耳る『氷の宰相』アシュ・ヴァレンシュタインだった。
「私の政治的盾になれ。条件は『恋愛感情の禁止』と『嘘がつけない契約』だ」
利害の一致した二人は、愛のない契約結婚を結ぶ。 はずだったのだが――『嘘がつけない契約』のせいで、冷徹なはずの宰相の本音が暴走! 「君を失うのは非合理だ(=大好きだ)」「君は私の光だ(=愛してる)」 隠せない溺愛と、最強の夫婦による論理的で容赦のない『ざまぁ』。
一方、リディアを捨てた王太子は「愛さない誓約」の呪いに苦しみ、自滅していく。 これは、悪役令嬢と呼ばれた女が、嘘のない真実の愛を手に入れ、国中を巻き込んで幸せになるまでの物語。
ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています
木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。
少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが……
陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。
どちらからお読み頂いても話は通じます。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。
佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。
「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」
ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる