33 / 112
第2章 あなたは暗殺者⁉

わたしは誰③

しおりを挟む
 二度目となるお嬢様説。今回は、今どきの綺麗な服を着ているせいだろう。

 だが令嬢の可能性は「絶対にないだろう」って、わたしもアンドレも思っている。

 カウンターに阻まれているエレーナには、わたしの履いている靴が見えていない。なるほどね。そのせいで誤解しているのか。

 元々は白かったと思われる靴は、布製で底がぺったんこのパンプスだ。
 履き口にゴムが入り、どんなに動き回っても脱げない造りで、実用性しか兼ね備えていない。

 それだけならまだしも、草のつゆやら泥やらで元の色も分からず、所々ほころびており、相当に履き古した靴である。

 どこのお嬢様が、こんな汚くてボロボロの物を身に着けているというのだ。

 相手の靴を見れば人となりが分かるというが、わたしの場合は、おしゃれとは無縁。貧乏丸出しの足元をしている。

 先程入店した服屋でも、ただの冷やかし客だと思われたのだろう。
 店員から一度も声をかけられず、放置されていたんだから。

「お嬢様なんて、とんでもないです。ちょっと事情があって、家を飛び出してきただけです」
 その事情が、犯罪性を秘めていないことだけを願っている。今ごろ、指名手配をされていないかと、内心、気が気ではないのだから。

「飛び出したって駆け落ちかい! いやぁ~若いっていいね。もしかして、ジュディちゃんは、アンドレさんが手紙をやり取りしていたお嬢さんなのかい?」

「手紙ですか?」

「そうよ。アンドレさんは、その人の手紙が届くと凄く嬉しそうにしていたからね。そのお嬢さんが好きなんだって、すぐに分かったけどね」
「やめてくださいエレーナ! そのご令嬢はジュディではありません。ジュディはただの雑役兵ですよ。変な誤解をしないでください」

「あらそうなのね」

「――それに……。僕とそのご令嬢は全く関係ありませんから。お礼状を、ただやり取りしていただけです。変な思い込みは、その方に失礼なのでやめてください」
 アンドレがこの場を白けさせるほど、怒った口調で否定した。

 だけどこの手の勘違い。
 いちいち真に受けず、冗談半分に受け流せばいいのになと、わたしなら思ってしまう。

 でも、そう感じたのはわたしだけで、アンドレはわたしと噂されるのが、よっぽど嫌みたいだ。
 なんとなくだけど、アンドレはその手紙のご令嬢のことが好きなのかなって思う。そうでなければ、ここまで必死に否定しない。

 その逆に、素性の分からないわたしをアンドレが警戒しているのも、肌で感じるけど。

 アンドレはわたしを邪険にしている。それは分かっているんだけど……何としても彼の傍にいたい。

 わたしの感情が何から湧くものなのか分からないけど、離れるなと必死に頭の奥から訴えてくる。

 その感情の正体を探ろうと思考を深めると、額の辺りがむずかゆくなり、思わず手を当てた。

 その仕草を見たエレーナは、わたしが気に病んだと思ったのだろう。申し訳なさげに口を開いた。

「あらそうだったのジュディちゃん。おばさんが余計なことを言って悪かったね」

「気にしないでください。それより、わたし……大司教のガラス玉を持っているのに水道を使えなくて、厨房でお役に立てるか自信がなくてですね――」

 どうしたものかと悩みを打ち明けると、話の途中で「ジュディちゃんも魔力なしなのかい⁉」と、食い気味に確認された。

「わたしもって⁉ もしかしてエレーナさんも魔力がないのですか? あー――!」
 この人が、知識だけは聖女並みの人だ! と言いかけて口を手で覆う。

 魔力なしの少数派は、魔力至上主義の社会で虐げられているのは自分が何者か分からないわたしでさえ、知っている。

 ――聖女並みの知識。

 それはおそらく、エレーナさんが生き抜くために必要な知識だったのだろう。
 それを茶化す真似は、同じ魔力なしの立場でも言ってはいけない気がしたからだ。

「そうだよ。私みたいなのは、どこでも自由に働けないからね。ここで仕事をもらえて助かっているよ」

「ガラス玉は、持っているだけでいいと教えてもらったんですけど……わたしが大司教のガラス玉をうまく使えないのは、どうしてなんでしょうか?」

 ここにくる少し前。シャワーのお湯を出せずに苦戦した事を思い出す。
 せっかく持っているのに少しも役に立たないと、指に挟んだガラス玉を、皮肉交じりに見せつけた。

「ちょっと、それを見せてくれるかい?」

 エレーナさんが手を出すから、「あ、はい」と、よく分からないながらも彼女の手のひらに置く。

 すると、それを見た途端。ガハハッと大きな笑い声が上がった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

「君を愛することはない」と言われたので、私も愛しません。次いきます。 〜婚約破棄はご褒美です!

放浪人
恋愛
【「愛さない」と言ったのはあなたです。私はもっとハイスペックな次(夫)と幸せになりますので、どうぞお構いなく!】 侯爵令嬢リディアは、建国記念舞踏会の最中に、婚約者である王太子レオンハルトから婚約破棄を宣言される。 「君を愛することはない!」という王太子の言葉は、国中に響く『公的拒絶誓約』となってしまった。 しかし、リディアは泣かなかった。 「承知しました。私も愛しません。次いきます」 彼女は即座に撤退し、その場で慰謝料請求と名誉回復の手続きを開始する。その潔さと有能さに目をつけたのは、国の行政を牛耳る『氷の宰相』アシュ・ヴァレンシュタインだった。 「私の政治的盾になれ。条件は『恋愛感情の禁止』と『嘘がつけない契約』だ」 利害の一致した二人は、愛のない契約結婚を結ぶ。 はずだったのだが――『嘘がつけない契約』のせいで、冷徹なはずの宰相の本音が暴走! 「君を失うのは非合理だ(=大好きだ)」「君は私の光だ(=愛してる)」 隠せない溺愛と、最強の夫婦による論理的で容赦のない『ざまぁ』。 一方、リディアを捨てた王太子は「愛さない誓約」の呪いに苦しみ、自滅していく。 これは、悪役令嬢と呼ばれた女が、嘘のない真実の愛を手に入れ、国中を巻き込んで幸せになるまでの物語。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。 「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」 ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。

処理中です...