記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から なぜか溺愛されています
瑞貴◆『手違いの妻』4月15日発売!
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第2章 あなたは暗殺者⁉
わたしは誰②
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わたしの顔を見ては笑うアンドレと共に、寄宿舎の一番奥にある扉の前で立ち止まった。
浮かないわたしとは裏腹に、アンドレは何だって楽しそうで羨ましい。
「ここが食堂です」彼はそう言って扉を開ける。
目に飛び込んできた空間は相当広い。
置かれたテーブルは想像以上に多い。
そう思った食堂は、奥が壁一面カウンターとなり、厨房が見えている。
騎士たちが食事を摂る食堂と、今後、わたしが台所仕事をする場所は、互いの顔が見える雰囲気みたいだ。
「わぁ、すごく広いけど、ここの兵士は何人いるのかしら」
「カステン軍は、ざっと七十人はいますね」
「そんなにたくさんいるの」
「ええ。魔力が多い部隊から、第一部隊、第二部隊とあって、全部で三部隊に分かれていますので」
第三部隊の仕事は、各地への伝令やカステン辺境伯が命じた雑多な業務に従事するらしいから、実戦とはかけ離れた任務に当たっているようだ。
そうなれば。
俄かには信じられないが、さきほど出会った彼らがエリート集団というのだ。
――とてもそうは、見えなかったのに。
それって筆頭聖女の張る結界の影響だろうか?
実戦経験の乏しいこの国では、軍に平和ボケが浸透しているのが見て取れる。
こんなんで大丈夫なのかと余計な心配をしていれば、アンドレがすたすたとカウンターに向かっていた。
それに気づき、慌てて彼に付いていく。
そこから覗く厨房では、既に、中年女性が一人で昼食を作り終えていたようだ。
思わず唾液腺が刺激されるような、バターで焼いた魚の香りが広がっている。
その美味しそうな香りに誘われるように、ぐぅぅ~とお腹まで素直に鳴った。
二人で沈黙している目立つタイミングだ。
何だってこんな時に鳴るのよ、バカバカと、頬が熱くなる。
そう思ったけれど自分の意思では止められない。
ひとしきり騒ぎ立て、とりあえず止んだ。
だけど、そのお腹の音が結構大きいものだから、アンドレに聞こえていないかと恥ずかしくなり、ちらりと窺う。
けれど彼はピクリともしない。
そんな風になんの反応もないところをみれば、彼の耳には届かなかったのだろう。良かった。
働きもせずに、ご飯を食べさせろと言っているみたいで間が悪い。
勝手に気まずくなっていれば、アンドレが厨房の中の女性に声をかけた。
「エレーナ。人が足りないと仰っていた件ですが、丁度いいのが入隊しましたので紹介にきました」
「まあ! アンドレさんは覚えていてくれたんですね」
細い体をてきぱきと動かす女性が、こちらを見ずに反応した。
朝から買い物やら魔物退治をしてきたために、時刻は十一時三十分を迎えようとしている。
昼食時間も目前に迫り、もう少しで食堂に詰めかける兵士たちの準備で忙しいのだろう。
銀色のトレーに、一人前ずつ魚とスープとパンが盛り付けられ、厨房と食堂の間にあるカウンターにいくつも並べられていた。
「忘れてはいませんでしたよ。厨房が忙しい時間に申し訳ありませんが、彼女、午前中は出国用ゲートで仕事をしていたので、先にお昼にしますから」
「出国用ゲートって、第一部隊の方たちと? それは大層な仕事ですね」
「ええ、まあ。彼女は午後から厨房にも来ますので、よろしくお願いします」
その声に反応して。エレーナは料理を皿に盛り付ける手を止め、こちらを向いた。
「新人が欲しいと頼んでから、かれこれ二か月も音沙汰がないんだもの、相手にされていないんだと思っていたんだけどねぇ」
「忘れていたわけではないですが、すぐに辞めそうな人物をここへ連れてくれば『指導するだけ無駄だ』と怒られるからね。ジュディはやる気だけはあるみたいなので」
「あれまあ綺麗な髪をしているけど……ジュディちゃんは、どこかのお嬢様じゃないのかい? この辺じゃ見ない、とんでもないべっぴんさんだこと」
目を丸くしたエレーナから、まじまじと食い入るように観察される。
このわたしがお嬢様⁉ その指摘を目が覚めてから二回も言われた。
浮かないわたしとは裏腹に、アンドレは何だって楽しそうで羨ましい。
「ここが食堂です」彼はそう言って扉を開ける。
目に飛び込んできた空間は相当広い。
置かれたテーブルは想像以上に多い。
そう思った食堂は、奥が壁一面カウンターとなり、厨房が見えている。
騎士たちが食事を摂る食堂と、今後、わたしが台所仕事をする場所は、互いの顔が見える雰囲気みたいだ。
「わぁ、すごく広いけど、ここの兵士は何人いるのかしら」
「カステン軍は、ざっと七十人はいますね」
「そんなにたくさんいるの」
「ええ。魔力が多い部隊から、第一部隊、第二部隊とあって、全部で三部隊に分かれていますので」
第三部隊の仕事は、各地への伝令やカステン辺境伯が命じた雑多な業務に従事するらしいから、実戦とはかけ離れた任務に当たっているようだ。
そうなれば。
俄かには信じられないが、さきほど出会った彼らがエリート集団というのだ。
――とてもそうは、見えなかったのに。
それって筆頭聖女の張る結界の影響だろうか?
実戦経験の乏しいこの国では、軍に平和ボケが浸透しているのが見て取れる。
こんなんで大丈夫なのかと余計な心配をしていれば、アンドレがすたすたとカウンターに向かっていた。
それに気づき、慌てて彼に付いていく。
そこから覗く厨房では、既に、中年女性が一人で昼食を作り終えていたようだ。
思わず唾液腺が刺激されるような、バターで焼いた魚の香りが広がっている。
その美味しそうな香りに誘われるように、ぐぅぅ~とお腹まで素直に鳴った。
二人で沈黙している目立つタイミングだ。
何だってこんな時に鳴るのよ、バカバカと、頬が熱くなる。
そう思ったけれど自分の意思では止められない。
ひとしきり騒ぎ立て、とりあえず止んだ。
だけど、そのお腹の音が結構大きいものだから、アンドレに聞こえていないかと恥ずかしくなり、ちらりと窺う。
けれど彼はピクリともしない。
そんな風になんの反応もないところをみれば、彼の耳には届かなかったのだろう。良かった。
働きもせずに、ご飯を食べさせろと言っているみたいで間が悪い。
勝手に気まずくなっていれば、アンドレが厨房の中の女性に声をかけた。
「エレーナ。人が足りないと仰っていた件ですが、丁度いいのが入隊しましたので紹介にきました」
「まあ! アンドレさんは覚えていてくれたんですね」
細い体をてきぱきと動かす女性が、こちらを見ずに反応した。
朝から買い物やら魔物退治をしてきたために、時刻は十一時三十分を迎えようとしている。
昼食時間も目前に迫り、もう少しで食堂に詰めかける兵士たちの準備で忙しいのだろう。
銀色のトレーに、一人前ずつ魚とスープとパンが盛り付けられ、厨房と食堂の間にあるカウンターにいくつも並べられていた。
「忘れてはいませんでしたよ。厨房が忙しい時間に申し訳ありませんが、彼女、午前中は出国用ゲートで仕事をしていたので、先にお昼にしますから」
「出国用ゲートって、第一部隊の方たちと? それは大層な仕事ですね」
「ええ、まあ。彼女は午後から厨房にも来ますので、よろしくお願いします」
その声に反応して。エレーナは料理を皿に盛り付ける手を止め、こちらを向いた。
「新人が欲しいと頼んでから、かれこれ二か月も音沙汰がないんだもの、相手にされていないんだと思っていたんだけどねぇ」
「忘れていたわけではないですが、すぐに辞めそうな人物をここへ連れてくれば『指導するだけ無駄だ』と怒られるからね。ジュディはやる気だけはあるみたいなので」
「あれまあ綺麗な髪をしているけど……ジュディちゃんは、どこかのお嬢様じゃないのかい? この辺じゃ見ない、とんでもないべっぴんさんだこと」
目を丸くしたエレーナから、まじまじと食い入るように観察される。
このわたしがお嬢様⁉ その指摘を目が覚めてから二回も言われた。
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