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第2章 あなたは暗殺者⁉

気づかない二人③

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 ――ころころ変わる彼の感情は、やっぱりよく分からないなと首を傾げる。

「ちっとも面白くないでしょう。急に笑ってどうしたのよ?」
 不審に思って訊ねた。
 むしろ笑えない。何故なら、エリート集団と自負する隊長が、魔猪の魔力が消えたのに気づいていないのだ。
 そんな由々しき事態を目の当たりにして、これっぽっちも楽しくないでしょう。そう思って真面目な顔を向ける。
 
「もうジュディがおかしな事を言うからですよ。自分たちでは手に負えない魔物が私有地に侵入して、それを退治してもらって怒るわけないでしょう」
「えー、そうかな?」

「——お願い。あの方と同じようなことを言わないで、僕の決意が揺らぐから」
 わたしを抱える彼の腕が、ぎゅっと強くなる。

「ん? さては、一頭譲るのが惜しくなったのね」

「頭では駄目だと分かっているのに、手放すのが惜しくて。……逃したくない」

 魔猪を手放したくないとごねていたアンドレは、わたしが「絶対に渡すから」と、唇を尖らせれば、ようやっと折れてくれた。

「ナグワ隊長。今、ジュディが報告した現場に、仕留めた魔猪が二頭います。稲を踏み荒らさないよう気をつけて、魔物を回収しておいてください」

「回収するのはもちろんだが、どちらへ向かうのだろうか?」

「僕たちは、寄宿舎に戻ります」

「他にも魔物がいるかもしれないだろう。ジュディさんは、まだ残って欲しいのだが」

「魔虫の姿さえ見えませんし、この辺りに魔物がいる気配は全く感じません。これ以上ジュディがこの場にいなくてもいいでしょう」

「はぁ、まぁ……それなら分かりましたが」

「では、僕たちは帰ります」

「あッ! そうだった。ジュディさんとのデートの件ですが明日でよろしいですか?」

「本当! 楽しみにしているわ」

「デート? ジュディは仕事があるんですよ!」

「朝食後の休憩時間に行くから問題はないでしょう。エレーナさんも構わないって言ってくれているし」

「そういう話じゃなくて――。とにかくいいから、僕たちは帰りますよ」

 雑役兵の業務を怠るのは許さないと言わんばかりにイライラするアンドレが、話を遮るように馬をポンと足で蹴り歩みを進めた。

「――ナグワ隊長とデートって、どういうことですか?」
「パジャマを買ってもらうの」

「寝衣って! どうして勝手にそんなものを……それなら僕が用意してあげるのに」

「買い物の話はしたでしょう」

「まさか、男に寝衣を買ってもらおうとしているとは思ってもいませんでしたよ。必要な物は僕が揃えると言ったでしょう」

「アンドレは安月給だって言っていたでしょう。アンドレに甘えてばかりじゃいけないもの。欲しいものは色々あるけど、わたしはお金もないしね」

「へぇ~そうですか。ジュディは欲しいものを買ってもらえれば、誰でもいいんですね」
 抑揚のない口調で冷たく告げられた。

 アンドレの気に障ることはしていないはずなのに、何だって急に怒り出しているんだろう。
 意味が分からない。

「ねぇ、アンドレは何を言いたいの? 仕事以外の時間に何をしたっていいでしょう」

「ええ、そのとおりですね。ジュディが何をしようと僕には関係ありませんから。ナグワ隊長とデートでもしてくるといいですよ」

 彼から投げやりに言われ、険悪になったわたしたちは、それぞれの仕事へ戻った。

◇◇◇

 魔猪狩りが想定よりも早く終わり、「少しだけ休憩に出ていました」という顔で戻ってきたわたしを見て、エレーナが目を白黒させた。

「随分と早かったけど、もう終わったのかい?」

「はい。魔猪が大人しく寝ていたので、あっという間に狩れました」

「へぇ~、やっぱりあの第一部隊の兵士たちは、普段から偉そうにしているだけあるんだね。すぐに仕留めるとは感心するわ」

 小さく何度も頷くエレーナに合わせるよう、わたしも、うん、うんと頷いておく。
 乙女らしからぬ攻撃魔法を発動したせいで、アンドレが引いていたのだ。

 あまり大袈裟にしたくないわたしは、この件は素知らぬ振りをした。

「明後日の夜のメニューは、外でバーベキューパーティーにしませんか?」

「いいわね。ジュディちゃんが来た歓迎にもなるし、そうしましょう」

「よぉし! 明後日の夜はご馳走ですね。歓迎会をしてもらうとなれば、一生懸命働かないと」

「寄宿舎の部屋を回って、シーツを集めてくれるかい? 最後はアンドレさんが魔法で洗ってくれるから」

「はい!」と元気に飛び出した。
 二日後の夜を楽しみにして…………。

 約五十室はある寄宿舎。その大半は二人部屋になっており、人の気配のない部屋からシーツを集めるのは、そんなに大変ではない。

 寄宿舎の分はササッと集め終えた。

 そうだ。ついでにアンドレの部屋のシーツも集めてくるか。そう思って、彼の部屋を訪ねることにした。
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