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第2章 あなたは暗殺者⁉

気づかない二人②

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 アンドレが、わたしの視線の先と同じ場所に目を向けた。

「我々の足で、畑を踏み荒らしたくないですね」
「ええ。この道沿いから狙えば魔猪も気づかないし、無駄に畑を歩き回らなくて済むわ。ねッ、アンドレ」

 もちろんやってくれるよね、という意味を込めて、アンドレに振ってみた。
 すると、アンドレが遊び心を出してきたのだ。

「ねッって。そもそもそれを頼むのは、僕ではなく、並走しているナグワ隊長でしょう」
 彼が右側に人差し指を向けて、あっちあっちと、動かしている。

「えぇ~。だって、ここからだと稲が邪魔して魔猪を目視で捉えられないでしょう。それなら成功率が高そうな人に頼んだ方が、畑の持ち主のためになるわ」

「分かりました。それなら、ジュディがやるといいですよ」

「あのねぇ~。無理だと分かって言っているでしょう」

「大司教のガラス玉を持ってきましたか?」

「うん。ないと困るし一つ持ってきているわ」
「それなら攻撃魔法も使えますね」

「できないわよ、そんなこと」
「――もし。本当にできなかったら、僕がジュディに代わって二頭の魔猪を捕らえましょう」
「じゃぁ、始めからアンドレがやってよ!」

「いいえ駄目です。獲物は仕留めた者が所有権を得ます。民間人に下げ渡す気なら、ジュディが捕らえないと主張は聞いてもらえませんからね。それに僕は兵士たちと無駄な論争はしたくないですし」
 そこまで言われてしまえば「やるしかないか」と、引き受けた。

 わたしが何も言わずとも、徐々に速度を落とした馬は、魔猪から直線距離にして一番近い所で停止した。

 アンドレってば。場所がはっきり分からないと言っておきながら、バッチリいい位置で停まってくれるんだから。なかなかやるわね。

 そう思って感心していると、突如、馬の歩みを止めたわたしたちの様子に気づき、前方から、ナグワ隊長や兵士たちがわらわらと戻ってくる。

 広がる畑は稲の穂が少しばかり重くなり、軽いお辞儀をしている。

 姿を目にすることはできないものの、間違いなくその稲に隠れ、魔猪の気配を感じる。
 となれば、唯一の手がかりである魔力の存在を丁寧に探る。

 何の魔法で攻撃すべきかと迷いかけたが、パッと思いついた技でいいやと決めた。
 そうして、アンドレのまねをして、述べる必要もない魔法名を唱える。
 
「雹弾」
 そうすれば、雲から二つ、野球ボール大の雹が猛スピードで落下してきた。

 ドンッと同時に獲物に当たったのを、二つの魔力が一変に消失したことで確証し、にまっと笑う。よし! 狙いどおりだ。

「やったわね! うまくいったわ。これで一頭は畑の所有者に渡せるわよ」

「ジュディ……。あなた本当に何者ですか――。何も見えていないのに、どちらも一発で……。あり得ない。せいぜい、かすめれば上出来くらいに思っていたのに」

「やだなぁ、アンドレは。ちょっと大袈裟よ。偶然的中しただけでしょう」

 怖い顔のアンドレを見ると、自分が悪い事をした気分にさせられるから、やめていただきたい。

 すると、そんなわたしの気も知らず、ナグワ隊長が拍子抜けすることを言い出した。

「今、もしかして魔猪を仕留めたのでしょうか……」

「そうよ。魔力が消えたでしょう」

「魔力が消えた? 初めから魔物はいなかったですが」
 出た。こんな調子なら、何日かかっても捕えられないだろう。

「この先に案山子が立っているでしょう。その辺りに二頭いるから回収をお願いね」

 稲で作られた人の形を模した案山子。手でそれを指し示し、隊長の視線を誘導する。

「は、はあ……あの場所にいるんですか?」

「一頭は、この畑の所有者に渡したいから、引き渡しをお願いしますね」

「え? 民間人に下げ渡すんですか⁉」

「当然でしょう! この畑にいたんだから。むしろ、ここにいた魔猪を、わたしたちが一頭横取りするのよ、いいじゃない」

「横取りって⁉ いや、それは違うと思いますが」

「だって、ここの稲を採ったら怒られるでしょう。それと一緒よ」

「ですが、外から侵入した魔物ですよ⁉︎」

「でも、今は畑の中にいたから畑の所有者のものでしょう」

「まあ、捕らえたジュディさんがそう言うのでしたら、分かりました。下げ渡すよう動きますよ」
 ナグワ隊長がぐるりと後ろを向き、背後にいる部下に指示を送る。

「よし! 魔猪を一頭ゲットしたわね!」
 わたしも後ろを振り返ると、アンドレを見つめ、話を続けた。
「二日くらい熟成させた方がおいしいから、明後日にパーティを開きましょう。今から待ち遠しいわ!」

 肉好きのわたしがつばを垂らさぬよう格闘していると、アンドレがゲラゲラと笑い始めた。

「ちょ、ちょっとジュディ、はははッ」
 少し前まで、わたしを邪悪な存在のように、蔑むような怖い顔をしていたのだが、それが一転、今は楽しそうだ。
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