記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から なぜか溺愛されています
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
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第2章 あなたは暗殺者⁉
崩壊の予感③(フィリベール)
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◇◇◇SIDE フィリベール
ドゥメリー公爵家の屋敷を目の前にして立ち止まる。
王宮そして中央教会といった国の中心となる場所から程近い一等地。そこに堂々たる存在感を放つ大豪邸。
公爵家の白い壁が、今の自分にはあまりにも眩しく感じる。そのせいだろうか、本来真っ赤なはずの赤い屋根も、くすんで見えて赤茶色に思える。
門番から屋敷の中に知らせが入っていたのだろう、扉の前に立てば、この家の従者が私を恭しく招き入れた。
それと同時に「当主はいるか!」と大きな声を張り上げ、屋敷の中へと歩みを進める。
――リナはこの家で散々繰り返し黒魔術を使っていたのだろう。どうして誰も気が付かなかったのだ!
どこかで分かるタイミングはあったはずなのに。
怒りの感情は堪えられず、目に付く使用人全員を順番に睨む。そうすれば、私の行く手を邪魔する者はいない。みんな速やかに壁際に避け、道を開ける。
ドゥメリー公爵家の家令が慌てて駆け寄り、平静を装った声を出す。
「フィリベール王太子殿下。当主の部屋まで、わたくしがご案内いたします」
「不要だ!」と強い口調で言い捨てた。
こうしておけば、余計な気を遣って茶など運んで来ないだろう。
今となっては、どいつもこいつも信用ならない。
家令が案内すると言った以上、やつが在宅していることは確かだ。我慢の限界を超え、足の運びが一段と速くなる。
当主の部屋の扉は、どこかから取り寄せた一枚ものの高級木材だと、かつて聞いたことがある。
その胡桃色のしゃれた扉を開ければ、中年の大男が執務机に向かい、頭を抱えていた。
断りもなく入室した者を睨んでいたが、その相手が私だと気付いた途端、一気に青ざめた。
その表情から、やつは事態を全て理解していると見て取れる。
――それを分かった上で、門番に言伝だけ残して逃げやがって。
腹の底から湧き上がる不快感から、眼光に鋭さが増したのは、言うまでもない。
何も言わずにドゥメリー公爵に近き、そのまま、やつの耳に口元を近づける。
「探せ! 公爵が捨てた筆頭聖女のジュディットを、この場に連れ戻せ」
怒鳴らないようにしたものの、怒りが混じる声は少しばかり震え、低かった。
「殿下。仰りたいことは分かりますが……。娘を捨て置いた場所からすると、狼に襲われもう生きていないはずです」
「いや、彼女は死んでない。あの女と結んだ魔法契約が、まだ消えてはいないからな。どこかにいるのを見つけ出せ。シーツがたくさん見えた。人の多い所にいるはずだ!」
「左様でございますか。——ですが、娘を探して連れ帰ってきても、魔力が封印されているのでは、聖女として役立たずではありませんか……?」
「いいや。あの日結んだ私との魔法契約を解呪する」
「そ、それでは、魔力と共に……娘の記憶も戻ってしまいます。そうなると、殿下もわたくしも、妹のリナも……。いえ、殿下の妻となる婚約者も……。まずいことになります」
「馬鹿だな。ジュディットとの魔法契約は二つ結んであるんだ。その魔法契約の一つ。封印した魔力を解放するが、あいつの記憶は一生封印したまま二度と戻す気はない。ここまで来たら後戻りはできないからな」
「なるほど!」
「どうせあの女は、今ごろ草の根を噛むような暮らしをしているはずだ。そんな中で王太子の元婚約者だから恩情を与えると申し出れば、あの女は泣いて喜ぶに違いない。そうなれば、ジュディットは私の言いなりになるだろう。飼い殺しにしても、あの女が不満を言える立場ではない。こちらの都合のいいように、あの聖女の力を利用する」
「承知いたしました。それでは、公爵家総出でジュディットを探し出し、再び殿下の元へ連れて参ります」
「時は一刻を争う。すぐに動け!」
「はい」
「そうだ。見つけたら、迎えに行く前に私に報告してくれ」
「もちろんでございますが、連れて来てからでもよろしいのではありませんか?」
「王都に戻れば、ジュディットの顔を知っているやつらもいるだろう。そいつらに、ジュディットの魔力がないのを知られると面倒だ。王都へ入る前に私との魔法契約を解呪する。私直々に迎えに行く」
「了解いたしました」
「この間、どこの誰にジュディットの顔を見られたか分からないからな。世間にこのまま顔を見せず、そのまま側室に上げるからそのつもりでいてくれ」
と伝えれば、ふらつく足取りでドゥメリー公爵家を後にした。
◇◇◇
ドゥメリー公爵家の屋敷を目の前にして立ち止まる。
王宮そして中央教会といった国の中心となる場所から程近い一等地。そこに堂々たる存在感を放つ大豪邸。
公爵家の白い壁が、今の自分にはあまりにも眩しく感じる。そのせいだろうか、本来真っ赤なはずの赤い屋根も、くすんで見えて赤茶色に思える。
門番から屋敷の中に知らせが入っていたのだろう、扉の前に立てば、この家の従者が私を恭しく招き入れた。
それと同時に「当主はいるか!」と大きな声を張り上げ、屋敷の中へと歩みを進める。
――リナはこの家で散々繰り返し黒魔術を使っていたのだろう。どうして誰も気が付かなかったのだ!
どこかで分かるタイミングはあったはずなのに。
怒りの感情は堪えられず、目に付く使用人全員を順番に睨む。そうすれば、私の行く手を邪魔する者はいない。みんな速やかに壁際に避け、道を開ける。
ドゥメリー公爵家の家令が慌てて駆け寄り、平静を装った声を出す。
「フィリベール王太子殿下。当主の部屋まで、わたくしがご案内いたします」
「不要だ!」と強い口調で言い捨てた。
こうしておけば、余計な気を遣って茶など運んで来ないだろう。
今となっては、どいつもこいつも信用ならない。
家令が案内すると言った以上、やつが在宅していることは確かだ。我慢の限界を超え、足の運びが一段と速くなる。
当主の部屋の扉は、どこかから取り寄せた一枚ものの高級木材だと、かつて聞いたことがある。
その胡桃色のしゃれた扉を開ければ、中年の大男が執務机に向かい、頭を抱えていた。
断りもなく入室した者を睨んでいたが、その相手が私だと気付いた途端、一気に青ざめた。
その表情から、やつは事態を全て理解していると見て取れる。
――それを分かった上で、門番に言伝だけ残して逃げやがって。
腹の底から湧き上がる不快感から、眼光に鋭さが増したのは、言うまでもない。
何も言わずにドゥメリー公爵に近き、そのまま、やつの耳に口元を近づける。
「探せ! 公爵が捨てた筆頭聖女のジュディットを、この場に連れ戻せ」
怒鳴らないようにしたものの、怒りが混じる声は少しばかり震え、低かった。
「殿下。仰りたいことは分かりますが……。娘を捨て置いた場所からすると、狼に襲われもう生きていないはずです」
「いや、彼女は死んでない。あの女と結んだ魔法契約が、まだ消えてはいないからな。どこかにいるのを見つけ出せ。シーツがたくさん見えた。人の多い所にいるはずだ!」
「左様でございますか。——ですが、娘を探して連れ帰ってきても、魔力が封印されているのでは、聖女として役立たずではありませんか……?」
「いいや。あの日結んだ私との魔法契約を解呪する」
「そ、それでは、魔力と共に……娘の記憶も戻ってしまいます。そうなると、殿下もわたくしも、妹のリナも……。いえ、殿下の妻となる婚約者も……。まずいことになります」
「馬鹿だな。ジュディットとの魔法契約は二つ結んであるんだ。その魔法契約の一つ。封印した魔力を解放するが、あいつの記憶は一生封印したまま二度と戻す気はない。ここまで来たら後戻りはできないからな」
「なるほど!」
「どうせあの女は、今ごろ草の根を噛むような暮らしをしているはずだ。そんな中で王太子の元婚約者だから恩情を与えると申し出れば、あの女は泣いて喜ぶに違いない。そうなれば、ジュディットは私の言いなりになるだろう。飼い殺しにしても、あの女が不満を言える立場ではない。こちらの都合のいいように、あの聖女の力を利用する」
「承知いたしました。それでは、公爵家総出でジュディットを探し出し、再び殿下の元へ連れて参ります」
「時は一刻を争う。すぐに動け!」
「はい」
「そうだ。見つけたら、迎えに行く前に私に報告してくれ」
「もちろんでございますが、連れて来てからでもよろしいのではありませんか?」
「王都に戻れば、ジュディットの顔を知っているやつらもいるだろう。そいつらに、ジュディットの魔力がないのを知られると面倒だ。王都へ入る前に私との魔法契約を解呪する。私直々に迎えに行く」
「了解いたしました」
「この間、どこの誰にジュディットの顔を見られたか分からないからな。世間にこのまま顔を見せず、そのまま側室に上げるからそのつもりでいてくれ」
と伝えれば、ふらつく足取りでドゥメリー公爵家を後にした。
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