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第2章 あなたは暗殺者⁉

離したくないあなたは……僕の暗殺者③

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◇◇◇

 兵士の部屋へ入った直後。さてどうしたものかと時が止まる。
 
 全く予期していなかったのだが、いざシーツを敷こうとベッドの前に立つと、どうしてよいのか分からない。

 アンドレが一緒にいなければ、わたしはどうするつもりだったのだろう。情けない。

 横に立つアンドレの顔をちらりと窺えば、困惑するわたしとは裏腹に、目尻を下げる彼は妙に楽しげだ。

「どうかしましたか?」と尋ねられ、気まずい空気が流れる。

「ねえ、ちょっと申し上げにくいことを伝えしてもよろしいかしら」

「ジュディが言いたいことは、大体の察しがつきましたが、まあ、聞いてあげましょう」

「それなら遠慮なく言うわね」
「どうぞ」

「シーツって、どうやって敷くのかしら? 上に乗せるだけじゃないわよね。全く分からないんだけど」

「くくっ。相変わらず残念すぎるまだらな記憶ですね」
「変ねぇ……」

「だけど、ジュディがシーツを剥がしていたんでしょう」

「あの時は急いでいたから、やっつけ仕事で引っ剥がしてしまったのよ。ちゃんと見ておけばよかったわね」

 わたしとしては至って真剣なのに、クツクツ笑うアンドレがやたらと楽しそうにしている。

 笑わすつもりはない。止めてよねと、彼をじぃーっと見つめる。
 何度も言うが、わたしは至って真面目だ。

「くくっ。どうやって記憶を失うと、そんな都合よく忘れられるんでしょうか」

「そんなのは、わたしが聞きたいわよ。ほらっ、自分から付いてくるって言ったんだから、分かりやすく教えてよね」

「教えてもいいですが、ジュディが敷いたと伝えれば、上に乗せるだけでも誰も文句を言わない気もするけどね」

 ――またしてもこれだ。

 適当な仕事の犯人をわたしにすれば、万事大丈夫と押し付ける手法である。
 日ごろ真面目なくせに、なんの根拠もない自信を持ち、大雑把な提案を平気で言い始めた。

 それではわたしが納得しない。断固拒否だ。

「アンドレはわたしのことを勘違いしているわね。こう見えても完璧主義なのよ。適当な仕事はしたくないの」

「へぇ~、完璧主義ね。それは僕としては困ったものですが、主義としては僕も同じなので、ちゃんとやりますか」

 気合の入ったアンドレから、「さあそっちを持って」と洗い立てのシーツの端を持たされた。
 マットの下に折り込んで、端は三角形に角を作るらしい。

 いざと意気込みベットの両サイドにそれぞれが立ち、マットレスを持ち上げシーツを折り込んだ。
 すると、すぐさまアンドレの指導が飛ぶ。

「ジュディ! 引っ張り過ぎです!」

「そんなことはないでしょう。これくらいないと、ちゃんと折り返せないもの」

「こっちは全然足りませんよ。見てください、綺麗に折り込んだのに、ジュディが無理やり引っ張るからマットが出ていますよ」

「あら……変ねぇ。つい夢中になって見えていなかったわ」

「これまでだってシーツくらい敷いたことがあるでしょうに」
「う~ん、やっていれば感覚が戻るかと思ったけど、さっぱりだわ」

「くくっ、もう面白くてお腹がよじれそうです」
 またしても、わたしを揶揄う。

「ちょっと失礼しちゃうわね」

「だって、『魔法は使えない』とぶつぶつ文句を言っておきながら打ち込んだ雹弾は、寸分の狂いもなかったのに。シーツは本当に敷けないんですから。とんだ雑役兵ですよ。くくっ」

「まさか、クビにしたりしないわよね」
 アンドレを見つめ、恐る恐る口にする。

「しませんよ。森でジュディを拾ったよしみですから、とことん付き合ってあげますよ。明後日の夜は、ジュディの歓迎会だってエレーナが言っていましたし、ずっとここにいてください」

 柔らかい笑顔を見せるアンドレに、「助けて欲しい」と、自分の胸騒ぎを打ち明けたい気持ちに駆られる。
 まるで彼に縋るように、口が自然と動いていた。

「あのね……」
 と、弱々しく言いかけてみたものの、少し前の出来事をハッと思い出したため口を噤む。
 イヴァン卿に釘を刺されたのだ……。危なかった。

「うん? どうかしたんですか?」

「いいえ、魔猪を食べるのが楽しみだなぁって」
「そうですね。ジュディは捕獲者だから、たくさん食べるんですよ」

 その後、魔猪について熱く語りながら、雑役兵の仕事をこなしていった。

◇◇◇
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