記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から なぜか溺愛されています
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
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第4章 逃がさない
腕をすり抜けたのは……最愛のあなた③
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各地で『魔物騒動が起きている』と、イヴァン卿が興奮しきりに話す。
……だが、そうであれば違和感しかない。
この地に魔物が入って来たのは、ジュディがここに来た翌日のみだ。
それ以降は全くもっていつもどおりに過ぎている。
そう……。第一部隊長が、部屋を探そうと非番申請するほど平和そのもの。
「そうッ、それだよ! 国内各地から王宮に魔物討伐の援軍要請が入っているのに、この領地だけ申し出がないから、ジュディット様はここにいると陛下が判断なさったみたいだ」
「あっ……」
思い当たる節に愕然とする。
以前、ジュディに不信感を抱いた使用済みのガラス玉は、そのためだったのか。
ジュディは、無意識にこの領地に結界を張っていたのか……。
僕はどうして気づかなかったんだ。もっと早くに分かっていれば。ドクドクと鼓動が煩い。
もしかして。屋上で倒れていたのも何か、その辺の原因があったのかもしれない。
ジュディは今どこへ向かったんだ……。
「ッ、おいおい。カステン辺境伯とアンドレ殿は何を話しているんだ? も、もしかして、ジュディちゃんって相当偉い人だって話をしているのか⁉」
あわあわと口を動かし、震え上がるナグワ隊長が、我慢できずに口を挟んだ。
彼に聞かせる気はなかったが、どうせ後で知られることだろうと、話の仲間へ加えた。
「ああ、そうだ」と青ざめるイヴァン卿が隊長を見ながら、弱々しく答える。
「エエエエエェェ――!! じょッ、冗談だよな!」
「いいえ、冗談なんかではありません。ジュディはこの国の次期筆頭聖女で、フィリベール王太子殿下の婚約者です」
ジュディが持っていたハンカチに書かれていた刺繍は、婚約者の名前で間違いなかった。
愛しのフィリか……。
ふっと鼻で笑う。僕が一緒にいたいと思う人は、必ず彼のものだ。ジュディもそうだったのか……。
「ア、アンドレ殿のおかげで俺は、……命拾いをしたな。じゃなきゃ、昨日のうちに強引に迫っていたかもしれない。っていうか、俺、あのスケスケの寝衣を着てくれって頼んだのは、まずかったんじゃないか!」
「大丈夫ですよ。ジュディは隊長の思惑に気づいていないので、問題はありませんから」
それを伝えると、僕の両手をとり「アンドレ殿のおかげだ」と、上下にぶんぶんと振って、煩わしいくらいの礼を告げられた。
そうこうしていると、こちらへ向かってくる二頭の馬が見える。
そのうちの一頭の馬装が華やかなため、そちらにパスカル殿下が乗っているのだろうと察する。
そしてもう一人は護衛の騎士だろう。隊長クラスの騎士とはいえ、王弟がたった一人の護衛しか伴わない時点で、事態は相当深刻だと物語る。
「アンドレ~。俺、完全にアウトなことをジュディット様に言ってしまった――」
「勝手に何を伝えたんですか……」
「アンドレには好きな人がいるから、迷惑なんで早く出ていけって言っちゃたんだよ。た、頼む! パスカル殿下には、アンドレから説明してくれ」
絶望を顔に出す彼は僕の肩に両手を置いて頼み込んでいるが、その姿を見て、彼女にあらぬ誤解が生じていないかと、動揺が走る。
「何を勝手に! なんて余計なことをジュディに言ってくれたんだよ」
思わずイヴァン卿に鋭い眼光を向ける。
「わわわ悪い。アンドレがあの子に惑わされているから、アンドレのために良かれと思って伝えたんだ。……どうしよう、ジュディット様に気味悪いって言っちまったよ」
「他にも余計なことを、ジュディに告げてないだろうな!」
「大丈夫だ、……たぶん。だから頼む、ジュディット様のことはアンドレから殿下へ報告してくれ」
そう言って目を逸らされた。
すると二人の会話を黙って聞いていたナグワ隊長が、吹っ切れたように大笑いし、まあまあと宥めるように、彼らしい大きな声でイヴァン卿を諭す。
「はははっ! アンドレ殿が、王太子殿下の婚約者のジュディちゃんと、毎晩よろしくやってた愛人っていってもだ。それを王族へ説明するのは酷だろうさ。カステン辺境伯から、ちゃんと言わなきゃなんねーだろうよ。ずんぐりむっくりの無精髭の中年男にジュディちゃんが連れ去られて、行方が分からないってな」
ナグワ隊長がそれを言い終えると、少し離れた所から、失意を含む低い声が聞こえた。
◇◇◇
「その男が言ったのは、誠の話か?」
馬に乗り、我々からは、見上げる高さにいるパスカル殿下が訝しむ。
「ああああ! ごごごご説明を頼む!」
両手を合わせるイヴァン卿から頼まれた。
まあ、彼が心配せずとも、僕自身が報告しなくてはいけないことだと承知している。ジュディを送り出したのは僕だし。
馬に乗ったままのパスカル殿下へ敬礼した後に、少し見上げて口を開く。
「ご無沙汰しております。先程、カステン軍の者が口にしたことは事実です。パスカル殿下におかれては、王都からこのカステン辺境伯領まで、王太子殿下の婚約者である、ジュディット様を迎えにいらしたのに、大変申し訳ございません」
「一歩遅かったか――……」
パスカル殿下と同行している騎士と顔を見合わせ、ぽつりと言った。
……だが、そうであれば違和感しかない。
この地に魔物が入って来たのは、ジュディがここに来た翌日のみだ。
それ以降は全くもっていつもどおりに過ぎている。
そう……。第一部隊長が、部屋を探そうと非番申請するほど平和そのもの。
「そうッ、それだよ! 国内各地から王宮に魔物討伐の援軍要請が入っているのに、この領地だけ申し出がないから、ジュディット様はここにいると陛下が判断なさったみたいだ」
「あっ……」
思い当たる節に愕然とする。
以前、ジュディに不信感を抱いた使用済みのガラス玉は、そのためだったのか。
ジュディは、無意識にこの領地に結界を張っていたのか……。
僕はどうして気づかなかったんだ。もっと早くに分かっていれば。ドクドクと鼓動が煩い。
もしかして。屋上で倒れていたのも何か、その辺の原因があったのかもしれない。
ジュディは今どこへ向かったんだ……。
「ッ、おいおい。カステン辺境伯とアンドレ殿は何を話しているんだ? も、もしかして、ジュディちゃんって相当偉い人だって話をしているのか⁉」
あわあわと口を動かし、震え上がるナグワ隊長が、我慢できずに口を挟んだ。
彼に聞かせる気はなかったが、どうせ後で知られることだろうと、話の仲間へ加えた。
「ああ、そうだ」と青ざめるイヴァン卿が隊長を見ながら、弱々しく答える。
「エエエエエェェ――!! じょッ、冗談だよな!」
「いいえ、冗談なんかではありません。ジュディはこの国の次期筆頭聖女で、フィリベール王太子殿下の婚約者です」
ジュディが持っていたハンカチに書かれていた刺繍は、婚約者の名前で間違いなかった。
愛しのフィリか……。
ふっと鼻で笑う。僕が一緒にいたいと思う人は、必ず彼のものだ。ジュディもそうだったのか……。
「ア、アンドレ殿のおかげで俺は、……命拾いをしたな。じゃなきゃ、昨日のうちに強引に迫っていたかもしれない。っていうか、俺、あのスケスケの寝衣を着てくれって頼んだのは、まずかったんじゃないか!」
「大丈夫ですよ。ジュディは隊長の思惑に気づいていないので、問題はありませんから」
それを伝えると、僕の両手をとり「アンドレ殿のおかげだ」と、上下にぶんぶんと振って、煩わしいくらいの礼を告げられた。
そうこうしていると、こちらへ向かってくる二頭の馬が見える。
そのうちの一頭の馬装が華やかなため、そちらにパスカル殿下が乗っているのだろうと察する。
そしてもう一人は護衛の騎士だろう。隊長クラスの騎士とはいえ、王弟がたった一人の護衛しか伴わない時点で、事態は相当深刻だと物語る。
「アンドレ~。俺、完全にアウトなことをジュディット様に言ってしまった――」
「勝手に何を伝えたんですか……」
「アンドレには好きな人がいるから、迷惑なんで早く出ていけって言っちゃたんだよ。た、頼む! パスカル殿下には、アンドレから説明してくれ」
絶望を顔に出す彼は僕の肩に両手を置いて頼み込んでいるが、その姿を見て、彼女にあらぬ誤解が生じていないかと、動揺が走る。
「何を勝手に! なんて余計なことをジュディに言ってくれたんだよ」
思わずイヴァン卿に鋭い眼光を向ける。
「わわわ悪い。アンドレがあの子に惑わされているから、アンドレのために良かれと思って伝えたんだ。……どうしよう、ジュディット様に気味悪いって言っちまったよ」
「他にも余計なことを、ジュディに告げてないだろうな!」
「大丈夫だ、……たぶん。だから頼む、ジュディット様のことはアンドレから殿下へ報告してくれ」
そう言って目を逸らされた。
すると二人の会話を黙って聞いていたナグワ隊長が、吹っ切れたように大笑いし、まあまあと宥めるように、彼らしい大きな声でイヴァン卿を諭す。
「はははっ! アンドレ殿が、王太子殿下の婚約者のジュディちゃんと、毎晩よろしくやってた愛人っていってもだ。それを王族へ説明するのは酷だろうさ。カステン辺境伯から、ちゃんと言わなきゃなんねーだろうよ。ずんぐりむっくりの無精髭の中年男にジュディちゃんが連れ去られて、行方が分からないってな」
ナグワ隊長がそれを言い終えると、少し離れた所から、失意を含む低い声が聞こえた。
◇◇◇
「その男が言ったのは、誠の話か?」
馬に乗り、我々からは、見上げる高さにいるパスカル殿下が訝しむ。
「ああああ! ごごごご説明を頼む!」
両手を合わせるイヴァン卿から頼まれた。
まあ、彼が心配せずとも、僕自身が報告しなくてはいけないことだと承知している。ジュディを送り出したのは僕だし。
馬に乗ったままのパスカル殿下へ敬礼した後に、少し見上げて口を開く。
「ご無沙汰しております。先程、カステン軍の者が口にしたことは事実です。パスカル殿下におかれては、王都からこのカステン辺境伯領まで、王太子殿下の婚約者である、ジュディット様を迎えにいらしたのに、大変申し訳ございません」
「一歩遅かったか――……」
パスカル殿下と同行している騎士と顔を見合わせ、ぽつりと言った。
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