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第4章 逃がさない

腕をすり抜けたのは……最愛のあなた④

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「申し訳ありません。ジュディの父親だと名乗る得体の知れない中年の男に、彼女を預けたのは僕です。その責任は僕が取ります」

「得体の知れない男か……。カステン辺境伯からジュディット様が記憶喪失だと聞いた時は信じていなかったが、父親の顔も分からないとなると、いよいよ本当に王太子殿下が怪しいのか」
 パスカル殿下の表情が曇る。

「それは、どのような意味でしょうか?」

「王太子殿下とジュディット様の婚約は解消されている」
「本当ですか? そんな話は聞こえてきませんでしたが?」

「ああ、誠の話だ。ジュディット様が男と駆け落ちしたことを理由に、フィリベール王太子殿下はリナ聖女と婚約したからな。ただ、各地で魔物騒ぎに発展したせいで、王室が公表できていないだけさ」

「駆け落ち……?」
 意味も分からず聞き返す。
 少しも腑に落ちない。彼女は何も持たずに独りで山道にいたんだ。それなのに誰かと逃げたというのか? あり得ない。

 だが、彼女がどうしてあの場で眠っていたのかと、考えるまでもない。

 ジュディの近くにいた人物が王族だと分かれば、自然と結論に辿り着く。
 今日まで気づかなかったとは――。悔しさが込み上げ唇を噛む。

「ジュディット様を発見した経緯については、カステン辺境伯から説明を受けた。アンフレッド殿下がジュディット様を保護してくれたことは感謝している」

「保護といっても……」

「はははっ、駆け落ちのお相手がアンフレッド殿下で助かったぞ。筆頭聖女を穢したのが他の男なら、処刑しているところだった」

「エエエエエェェェ―――! アンドレ殿がアンフレッド殿下だって!」
 空気の読めない声が、ナグワ隊長から発せられた。

 真面目な会話の最中に、素っ頓狂な音を出した先を、一同そろってぎろっと見る。
 今更ながら何かを察したナグワ隊長が、自らの口を塞ぐように両手で覆った。

「ジュディを探しに行きます」

「いや、アンフレッド殿下には、陛下から王宮へ戻るよう命令が出ている。正装に着替えて王宮へ向かっていただきたい」

「え? 僕がですか……」

「ああ。それに、ジュディット様を連れ出した男は、実の父親のドゥメリー公爵で間違いないだろう。今頃、真っ直ぐ王都へ向かっているはずだ」

「それはどうしてですか?」

「ドゥメリー公爵家総出でジュディット様を探していたからな。闇雲に探しても見つからないと思っていたが、こんな早くに見つけ出したとなれば、あの男も何か噛んでいたのだろう」

「現れた男は偽名まで使い、公爵家の当主にはとても見えませんでしたが……」

「ああ。直近でドゥメリー公爵を見た騎士も、そう言っていた」

「そうですか、あれがドゥメリー公爵ですか……」
「向かう先は公爵家の屋敷か王宮だろう」

「彼女は一頭引きの馬車でここを出たので、騎馬で向かえば簡単に追いつくはずです」
 力強く肯定を示す頷きを返された。

「どっちの道を選んだかはっきりしない以上、我々は二手に別れよう。アンフレッド殿下は、王宮騎士団のシモンと共に山道から向かってくれ。急いでいるならそちらを選んだ可能性が高いからな」

「それではパスカル殿下はどうなさるのですか? 父親の顔も判別できなかったジュディでは、殿下が近づいても警戒されるだけだと思います」

「大丈夫だ。カステン辺境伯に同行を願う」

 その命令を聞き、別の意味で不安を抱くイヴァン卿が、げんなりする。
 宙を見上げて考えた挙句。印象の悪い自分だけでは不十分だと、半ば強引にナグワ隊長も巻き込んだみたいだ。

 騒がしい彼らのやり取りを横目に、急いで自分の部屋へ向かう。

 ……どうしよう。場違いな笑みと感情が抑えられない。
 不安を抱く僕の心が怒ったり、喜んだりを繰り返している。
 ジュディが連れ去られた今。不謹慎だと分かりつつも、彼女がジュディット様だと知り、歓喜に湧いている。
 それも、王太子殿下との婚約が解消された身でいるのだから。

 部屋の奥に鍵をかけたクローゼット。そこに仕舞ったままの軍服に着替え、彼女の部屋を訪ねる。
 そうすると、思ったとおり、使用済みのガラス玉がいくつも増えていたのだから、彼女の存在を否定しようがない。

 ……どうして僕は、森の中で眠りながら張る彼女の結界に弾かれなかったのだろう。

「──なるほどな」
 彼女の中に僕の魔力があったからなのか。
 一つあり得る可能性に辿り着けば、全てが繋がった。

 ざわざわと感じる胸騒ぎ。早く見つけなければ、と気焦りながら、出会った日と同じように、彼女の外套のポケットに目一杯のガラス玉を詰め込み部屋を出た。

 ◇◇◇
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