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第5章 離さない

指輪②

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「いいけど、どうかしたの? そんなに怖い顔をして」
「ジュディがそれに思い入れがありそうなので、ただの嫉妬です」

「アンドレが何に嫉妬するのよ」
「身に着けていた指輪のことです」
「指輪?」

「ええ。ジュディが肌身離さず嵌めていた指輪。……あれはフィリベール殿下からの贈り物ですか?」

 もしも、わたしが「そうだ」と答えたら、許さないとでも言い出しそうな、怖い顔をしている。

 これって彼が、本当にやきもちを焼いているのかしらと感じてしまったが、断じて違う。
 彼にはわたしへ内緒にする好きな人がいるんだし。

 政略結婚をさせられるわたしのことを、全て掌握しておきたいだけだ。たぶん。
 
 亭主関白気取りのアンドレにムッとして、少々もったいつけてやろうと考え、ひとまず、肉をぱくりと頬張った。

 ああ~美味しいと、顔を綻ばせ堪能する。

 ゆっくりと咀嚼し、ごくりと飲み込んでから、終始その様子を見ていた彼に告げる。

「指輪は、わたしが借りていた部屋に忘れてきたけど、あれは母の形見よ」
 だが、それを聞いた途端、一気に力の抜けた彼は手にしていたフォークとナイフを置いた。

 その手は上着の内側に付いたポケットへ向かい、折りたたんだままのハンカチを取り出す。
 何かしらと思っているわたしへ、ゆっくりと差し出し、メインディッシュが乗る皿の横へ置いた。

「……良かった。そうであって欲しいと願っていたんですが、もし違ったらと、気が気ではありませんでした」

「もしかして持って来てくれたの?」

「はい。ジュディが大切にしていた気がしたので」

「確かにそうね、アンドレが売るなと言ってくれて本当に助かったわ。母が父から貰った指輪よ」

 彼から受け取ったハンカチを一折ずつ広げると、小さな傷が目立つ指輪が出てきた。
 大半のアクセサリーは後妻の手に渡ったが、石の付いていないこれは、見向きもしなかった代物だ。

「あ~、ホッとしました。これからは、僕が贈る指輪をつけていただきたいんですが」
 そう言って、彼が再びポケットへ手を持っていくため、使い回した指輪を渡されるのかと思い、ぴしゃりと断る。

「いやよ」
「どうしてですか?」
「別にアンドレが選んだ指輪はいらないから」

「そうですか……それなら、二人で選びますか」

「――別に指輪はいらないわ。そういえば、アンドレは精霊の呪いにかかっていたんじゃないの?」

「ええ、そういうことになっています」

「それなのに、瘴気だまりにバリケードを張ってよかったのかしら?」

「それは問題ありません。僕はジュディから貰った魔道具で呪いを克服したことになっていますから。まあ、真実を公表するかどうかを、僕の事情を知る人物たちで協議した結果、十八年かけて呪いを跳ね返した方が、箔が付くという話になったようですね」

「はい? なったようだって……、アンドレはその話し合いに参加しなかったのかしら?」
 一体何をやっているんだと、投げやりな言い方をする。

「ええ。政治的な事情に疎い僕が、余計な口を出す話ではないですから。そんな話し合いより、ジュディの傍にいたかったので」

 淡々と言ってくれたが、わたしの傍にいるよりも、その話し合いに出る方が断然重要じゃないか⁉
 アンドレ自身の人生がかかっている事なのに、なんの反論もしなかったというのか、彼は……。

「アンドレは本当にそれでいいのかしら?」

「隠していたことが発覚するよりいいんじゃないですか。それに、ジュディが僕を助けてくれたという話は、あながち作り話ではありませんからね」
 助けてなんぞいないなと思うわたしは、きょとんと返す。

「アンドレを助けた記憶は一切ないわよ」
「いいえ。ジュディの存在が生きる希望でしたから」

「もう、生きる希望って飛躍しすぎよ。いつもわたしを揶揄って遊んでいただけでしょう。本当に意地悪なんだから」

「参りましたね……。直接僕の気持ちを伝えれば彼を想い出して嫌だと言うし、遠回しに伝えると、ちっとも伝わらないんですから」

「うん? 何が?」
「お肉は美味しいですか?」
「ふふっ、最高だわ」

 にこっと笑って答えた。そうすると彼も穏やかな笑顔で笑っている。そんな彼をみれば、自分の人生を決める会議を放り出して、馬鹿ねと思ったことは、そっとしておいた。

「先程陛下に、ジュディの目が覚めたことを報告してあります。この食事が終わったら、謁見の間に向かいますね」

「そこに、フィリベール王太子殿下が来るの?」

「ええ。僕の事情を周囲に知られるわけにはいかないので、立会人は限られています。ジュディが気にしていたその魔法陣を陛下以外に見られることはありませんので、そのドレスのまま向かいましょう」

「フィリベール王太子殿下は、どうなるのかしら」

「王太子の処遇を決めるには異例ですが、陛下の権限のみで処分されます」
 フィリベールに会うのは正直なところ怖い。だが、真面目な顔で話す彼に異議もなく、承諾を返した。

 ◇◇◇
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