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第5章 離さない

どうして私に縋らない⁉︎①(フィリベール)

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◇◇◇SIDEフィリベール

 危なく地下牢に投獄されるところを、なんとか回避し、自分の部屋で軟禁生活を強いられ、早三日。

 カステン辺境伯の話では、私が王宮へ到着するより先にジュディットは戻ってきているはずだ。廊下から漏れ聞こえるジュディットの声はないが、おそらく隠しているのだろう。

 パスカル殿下が、あの竜巻を遠目で見ていたと聞き、こちらにとっては好都合だった。真実、発狂したジュディットの仕業だ。


 事故で記憶を失ったジュディットは、私のことも分からず狂乱したのだ。私が捕まったのは想定外だが、事態は悪くない。
 こうなれば、感情任せの魔法攻撃を仕掛けるジュディットに闇魔法を行使しても裁かれる筋合いはないからな。

 むしろ、記憶と魔力のないジュディットに違和感のない、うってつけの状況が整った。

 陛下も若くない。各地での騒動が始まり時間も経過したことだし、いい加減、体力の限界を迎えたはずだ。

 陛下と私の根競べが始まり、既に三日。
 綱渡りのような結界に、いよいよ困り果てたはずだ。
 となれば、ジュディットの魔法契約を解呪して欲しいと、そろそろ陛下が音を上げる頃だろう、

 いよいよ私に声がかかる──。
 そう思っていたところで、外に巻かれているチェーンをガチャガチャと解く音が聞こえた。

 まさに思ったとおりのタイミングで、にやりと笑った。

 どいつもこいつも散々私をコケにしやがって、絶対に許さないからな。特にジュディット。顔中酷い痣だらけになのは、あの女が私を風に巻いたせいだ。

 例え側室に上げようとも、可愛がる気は毛頭ない。

「王太子殿下、陛下がお呼びになっておりますので、同行願います」
 形式じみた態度で入室してきた、シモンが告げた。

「ふんっ、やっと私を必要になったのか。随分と時間がかかったな」

「本日、次期筆頭聖女である、ジュディット様の目が覚めたようです」
「ぶふっ」
 噴き出して笑った。なんだあの女。馬鹿だな。私に向かって竜巻を発動した後に、狼にでも襲われて気を失っていたのか?

 私を攻撃したくせにおかしくてたまらない。どこを怪我したのか知らないが、ざまぁないなと腹を抱えそうになる。

 シモンを従え謁見の間に到着し、彼が扉を開けるのを待つ。
 すると扉も開けずに、シモンが淡々と口を開く。

「謁見の間に入りましたら、許可された言動以外慎みくださいと、ご命令が出ております」
「それは陛下からか?」
「いえ、違います──」
「ならば聞く必要はない。さっさと扉を開けろ!」

 声を荒げれば、顔をしかめるシモンが渋々ながらも扉を開く。

 イライラするなと思いながら謁見の間に足を踏み入れれば、玉座に座る陛下の横にパスカル殿下が控える。

 何故かこの場にカステン辺境伯がいる違和感を抱きながら、横を見れば、見覚えのない王族が一人、この場に紛れている。

 ──誰だ!
 あいつは誰だというんだ⁉
 髪が赤いということは、闇魔法の加護があるのか……。

 それにしても、私によく似ている。
 まあ確かに、大概の王族は似通っているのだから、大して驚く話でもない……。父と王弟も同系統の顔だ。
 だが、どうしてその男の横にジュディットがいるんだ。
 もしや、カステン辺境伯の言っていたアンドレなる男か?

 ──はぁっ? わたしの知らない王族が他にいたというのか? あり得ないだろう。
 ──アンドレ……アンドレ。もしや弟のアンフレッドのことなのか?
 まさか陛下は、弟を呼び出したというのか? 

 なるほどな。私がいくらリナと結婚したいと申し出ても、一切受け入れず、ジュディットを嫁にすべきだと強く推していた陛下らしい。

 ジュディットを弟の妃にでもする気なのか。くそっ、何を考えているんだ陛下は。

 いや、そうだとしても案ずる必要はない。あいつは母上でも解呪できない精霊の呪いにかかっているんだからな。

 ましてやジュディットは、このままでは使いものにならない。
 ──ふっ、それに私が刻んだ避妊魔法もあるのだから。

 陛下が何を訴えようが問題はない。ジュディットの力が必要なら、必然私が必要なんだ。必死に私に縋ってくるだろう。

 私が玉座の前で深々と頭を下げると、陛下が早々に言葉を発した。
 だが、それに納得できず、動揺しながら聞き返した。

「フィリベールの処分を言い渡す」
「えっ、突然何を仰いますか? しょ、処分ですか?」

「当然だ。この国の聖女に暴挙を働いた挙句、この国に損害を与えたのは、フィリベール、お前だからな」

「お、お待ちください。なっ、何を仰っているんですか? 私は、いっときの気の迷いで王都を飛び出したジュディットを、ただ迎えに行っただけです。事故に遭遇したのを目撃したので救助に向かえば、錯乱したジュディットが魔法を暴発させたんですよ。危険だったので、彼女の魔力を封印しただけです。そのように説明しているはずですが!」

「まだ言っているのか、この愚か者がっ!」

「陛下は私の言葉を信じないと仰るのですか⁉」

「当たり前だろう。お前も、ドゥメリー公爵も同じような事を言っているが、ただ一人違う証言をする方がいるんだからな」
「誰ですか。それは私を嵌める罠です」

 余計な事を言っているのは、初めて見る赤毛の男のような気がして、じろりと睨みつける。

 あの男……。先ほどから私を敵意の眼差しで見てくる。私を貶めて、王太子の席を自分のものにしようとしているのか? そうはさせるかっ!

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