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第5章 離さない

どうして否定しない!①

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 フィリベールってば、わたしの肩を二度見どころか、三度見して目を丸くしてたわよ! ふふふ。
 最後まで激昂し続け、状況を理解していないフィリベールが滑稽でならない。笑えてきてヒクヒクと胸が震える。

 この嬉しい気持ちを共感してもらおうと、横を見る。
 すると、アンドレではなく陛下と目が合い、慌てて平静を装う。

 まずい。危ないところだった。内心ゲラゲラと笑っている場合じゃない。最後までフィリベールの処遇に悩んでいた陛下がご立腹だ。

 元王太子をこのタイミングで監獄塔へ収容するとなれば、国民がいろいろな憶測をすると考え、陛下はアンドレの意見にはのらず、地下牢への投獄で穏便におさめるつもりだったのに。肩で息をしてめちゃくちゃ怒っているじゃない。

 わたしってば、笑うな、笑うなと一人でどうしようもない葛藤をしていれば、キィィーーッと、再び扉の閉まる蝶つがいが立てる高い音がした──。

 パスカル殿下が父の元へ向かったことで、陛下とアンドレとわたしの三人だけになった。

 徐々に冷静さを取り戻す陛下が、大きく息を吐き出し言葉を発する。

「我が愚息がジュディット様に大変失礼な行為をとったこと、申し訳ございませんでした」

「ですから陛下は頭を上げてください。偶然アンフレッド殿下に出会って、助けられましたし」

 本当に彼に拾われてよかった。
 もしも、フィリベールと瓜二つのアンドレに出会っていなければ、あの日、罠に嵌った気がするもの。
 事故を目撃したフィリベールがすかさず助けにきてくれたと、彼にほだされていた気がしてならない。甘い言葉に飢えてたせいで、危なく自分に都合のいい勘違いをしそうで恐ろしい。

「うむ、フィリベールとの婚約は、あいつが罪を犯したことで白紙になったと世間には知らせるから、ジュディット様に一切落ち度はありませんので、ご安心ください」

「お心遣い感謝いたします」
 そう言うと、真面目な陛下の顔が緩む。それなのに、言いにくそうな、こもった声で訊ねてきた。

「それともう一つお願いがあるんだが……。アンフレッドとジュディット様の二人部屋の工事を終えるまで、あと数日待っていてはくれないだろうか」

 え? この人、今、二人の部屋って言ったわよねと、眉間に皺が寄る。
「はい? 二人の部屋でございますか?」

「誤魔化さなくても、分かっておる分かっておる」
「あのうぅ……。陛下は何を、ご存じだと仰いますか?」
 わたしは二人部屋を用意される理由に心当たりは一つもないんだが。陛下も王妃とは別々の部屋を使っているし、側室を持てるこの国の男性王族は、一人部屋が代々の慣わしだろうに。

「ジュディット様の話をしっかり聞いておるからな。任せてくれ」
「ですからなんですか? 二人部屋なんていらないですし」

「遠慮する必要はないぞ。パスカル殿下がカステン軍の兵士から聞いた話では、ジュディット様のご希望で、いつも二人で寝起きしていたようだからな。ジュディト様が暮らしやすいように、大至急二人で過ごせる部屋を用意させるから」

「あのぅ」

「それも心配ない。浴室も二人で入れるように、ジュディット様のご希望どおり広いのを準備しているから」

 えええぇえっ⁉ どこからそんなデマが流れているのだと、アンドレをチラリと見れば、彼は我関せず涼しい顔をしている。

 おい! ガセネタと否定しなさいよねと思ったものの、陛下の御前で言い争うのはよくないだろうと、冷静に振舞う。

「わたしたちに、そんな事実はございませんよ」

「なぁ~に、照れなくても問題はない。親公認の仲だからな」
「親公認と仰っても……」

 確実に公認の使い方を間違っているでしょうに。何かを公認される事実はない。

 勝手な工事まで始めて妙に張り切った様子だが、当人同士は陛下に命じられた政略結婚なんだし。アンドレもわたしと同じで、自分だけの場所が欲しいはずだ。

 わたしを逃がさないための陛下の画策だろうが、いらないことをしてくれるな。そんな風に呆れ半分で聞き流していれば、話が勝手に進んでいく。

「アンフレッドとジュディット様の婚約発表は、国民の混乱を避けるためにも、人を集めたときに公表するつもりだ。婚約前であっても、同じ部屋で過ごすことは気にする必要はないぞ」

「えっと、わたくしって……」

「婚約発表をするまでは、筆頭聖女の仕事だけで構わない。いや、その言い方は失礼だな。今までと同じように中央教会に力を貸していただけないだろうか」

「中央教会の事は構いませんが、アンフレッド殿下との婚約は決定事項なのでしょうか? わたくしは彼がアンフレッド殿下とは存じ上げずに頼ってしまいましたが。父や妹など、ドゥメリー公爵家の人間が今回の件を引き起こしたので、わたくしが彼の婚約者になるのは問題があると存じますが」

 慌ててそう告げると、一瞬で陛下が真っ青になった。

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