記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から なぜか溺愛されています
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
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第5章 離さない
恋のお相手①
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慌てる陛下がわたしを見つめると、宥めるように説得を始めた。
「ドゥメリー公爵家は分家筋に引き継がれるから、その件は問題ない。ジュディット様はアンフレッドが王室の人間だと知らずにお付き合いしていたのでしょうが、互いに気にする必要はないからな」
「お付き合いなんてしてませんし、わたし、王族の方とはもう――」
懲り懲りだと言おうとしたが、その言葉を遮るように告げられた。
「ジュディット様とアンフレッドとの結婚は王命としてご理解ください」
「そうですか……」
まあ、そう言われてしまえば、かつてのジュディットだって勝手にフィリベールとの結婚を決められたのだ。同じ事だと割り切ればいいか。陛下もそのつもりでいるみたいだから、言い返すのは少し面倒だし。
だとしても、しゅんとしてしまう。
結婚って、もっとワクワクしたり、幸せな気持ちになったりするものだと思っていたのに、実際はこんなに平坦な感情なものなのかしら。
自分のことなのに他人事みたいで、ちっとも胸は躍らないんだもの。
一つラッキーなのは、流された結婚とはいえ、アンドレは王太子ではないんだもの、以前に比べて気楽だ。
それに肉好きなら何を食べるかで喧嘩にならないし、朝から白い目で見られずに済む、及第点ね。
結婚となれば、一日や二日のことではなく毎日のことだもの、結構重要だ。
どうせ家もないから、まあいいかと承諾を返し、謁見の間をあとにした。
◇◇◇
廊下を歩いていれば、アンドレは、にこにこと笑い、やたらと上機嫌である。
彼もフィリベールの処遇に満足しているのねと、ほっこりしていたのだが、急に真面目な顔に切り替え、こちらを見てきた。
「ジュディを部屋まで送りますが、僕はイヴァン卿に話があるので、そのまま外へ向かいますね」
「ねぇ、わたしもカステン辺境伯に話があるんだけど、檻車まで行ってもいいかしら?」
「……鉄格子の車体ですから、移送するフィリベールの姿が見えますよ。おすすめはしませんが……」
「エレーナにお礼を伝えて欲しいのよ」
「お礼ですか……。でも……」
「お願い。いいでしょう。どうしても渡したいものがあるの」
「分かりました。まあ僕も一緒だし、行きますか」
わたしの願いを聞き入れてくれたアンドレと共に、王宮の裏側まで足を運ぶ。
外に出ると、「うわぁッ」と思わず声が漏れる。
異様な空気を放つ檻車は思わず目がいくほど存在を主張し、周囲を鉄格子の檻で囲まれた中で、フィリベールが上着で頭を隠してしゃがみ込んでいる。
まだ出発する気配がないのは、投獄している父を待っているのか……。
父がどんな心境でわたしを捨てたのかと考えると、やはり会いたくない。それが一番先に込み上げる感情だ。
いつも偉ぶる父が、風魔法を使えなかったのは驚きだが、それ以外、伝える言葉も見当たらないし。
すると、アンドレの姿に気づいたカステン辺境伯が、わたしたちの元へ駆け寄ってきた。
「アンドレとジュディット様。まさかとは思いますが、あの二人を見送りに来たのですか?」
「僕たちが、あの二人を見送るわけがないだろう。ジュディがイヴァン卿に伝えたいことがあると言うから、ここに来ただけだ」
何を寝ぼけたことを言っているんだと、アンドレが呆れた顔を返す。
「そうでしたか」と言うカステン辺境伯が、アンドレからゆっくり視線を外すと、恐る恐るわたしを見る。
お世話になった恩を感じるわたしは、素直にその気持ちを口にする。
「カステン軍では大変お世話になりました。皆にお礼を伝えてくださいまし」
「えええっ? それを言うためだけに、わざわざ外まで足を運んでいただいたのですか?」
「いいえ、もう一つお願いがあるけどいいかしら」
「何でしょうか」
「エレーナにこれを渡してくれないかしら?」
彼にガラス玉を一つ手渡した。
「ジュディット様のガラス玉……ですか」
「ふふっ、そうね。本当の意味で、わたしのガラス玉だわ。作ったのもコレを使おうと思っていたのも、わたしだからね」
「これを受け取ってもいいのですか? 魔力はまだ戻っていないのですよね?」
「今はまだ……。ですが今晩、アンドレに魔法契約を解呪してもらうので、わたしには必要なくなりますから」
「そうですか、それではありがたく預かっていきます。エレーナも、ジュディット様から直接もらったものだと聞けば喜ぶでしょう」
確かにそうかもしれないなと思うけれど、わたしの方が色々と感謝している。
「彼女には、何から何まで親切にしてもらったわ。ガラス玉の事は世間に公表していなかったのに、製作者がわたしだと気づいてくれてありがとうと、伝えていただけると嬉しいわ」
「ジュディット様の伝言は、確かに、エレーナに伝えておきますね」
それを言い終えるかどうかのタイミングで、パスカル殿下がアンドレを呼び出したため、「少しだけ席を外します」と彼はこの場から立ち去った。
「おっ、おい」と声を出し。アンドレを引き止めようとするカステン辺境伯は、この場でどうしてよいのか分からず、困惑しているようにも見える。
カステン辺境伯と二人きりになってしまった空間。
そうなれば、以前あったシチュエーションをどうしても思い出す。
わたしが屋上で倒れていたあの日。アンドレには好きな人がいるから、早々に出ていくように告げられていたのだ。
彼の好きな人とは、結局のところ誰を指すのか分からない。
アンドレは栞を送ったわたしのことは好きになるはずないと、必死に否定し続けていたし、一体、誰だったのだろうと気にかかる。
フィリベールとリナのことで相当痛い目を見た。
それなのに、アンドレがそのお相手を忘れられず、またしても突然、わたしが邪魔だと追い出されるかもしれないし。
「ドゥメリー公爵家は分家筋に引き継がれるから、その件は問題ない。ジュディット様はアンフレッドが王室の人間だと知らずにお付き合いしていたのでしょうが、互いに気にする必要はないからな」
「お付き合いなんてしてませんし、わたし、王族の方とはもう――」
懲り懲りだと言おうとしたが、その言葉を遮るように告げられた。
「ジュディット様とアンフレッドとの結婚は王命としてご理解ください」
「そうですか……」
まあ、そう言われてしまえば、かつてのジュディットだって勝手にフィリベールとの結婚を決められたのだ。同じ事だと割り切ればいいか。陛下もそのつもりでいるみたいだから、言い返すのは少し面倒だし。
だとしても、しゅんとしてしまう。
結婚って、もっとワクワクしたり、幸せな気持ちになったりするものだと思っていたのに、実際はこんなに平坦な感情なものなのかしら。
自分のことなのに他人事みたいで、ちっとも胸は躍らないんだもの。
一つラッキーなのは、流された結婚とはいえ、アンドレは王太子ではないんだもの、以前に比べて気楽だ。
それに肉好きなら何を食べるかで喧嘩にならないし、朝から白い目で見られずに済む、及第点ね。
結婚となれば、一日や二日のことではなく毎日のことだもの、結構重要だ。
どうせ家もないから、まあいいかと承諾を返し、謁見の間をあとにした。
◇◇◇
廊下を歩いていれば、アンドレは、にこにこと笑い、やたらと上機嫌である。
彼もフィリベールの処遇に満足しているのねと、ほっこりしていたのだが、急に真面目な顔に切り替え、こちらを見てきた。
「ジュディを部屋まで送りますが、僕はイヴァン卿に話があるので、そのまま外へ向かいますね」
「ねぇ、わたしもカステン辺境伯に話があるんだけど、檻車まで行ってもいいかしら?」
「……鉄格子の車体ですから、移送するフィリベールの姿が見えますよ。おすすめはしませんが……」
「エレーナにお礼を伝えて欲しいのよ」
「お礼ですか……。でも……」
「お願い。いいでしょう。どうしても渡したいものがあるの」
「分かりました。まあ僕も一緒だし、行きますか」
わたしの願いを聞き入れてくれたアンドレと共に、王宮の裏側まで足を運ぶ。
外に出ると、「うわぁッ」と思わず声が漏れる。
異様な空気を放つ檻車は思わず目がいくほど存在を主張し、周囲を鉄格子の檻で囲まれた中で、フィリベールが上着で頭を隠してしゃがみ込んでいる。
まだ出発する気配がないのは、投獄している父を待っているのか……。
父がどんな心境でわたしを捨てたのかと考えると、やはり会いたくない。それが一番先に込み上げる感情だ。
いつも偉ぶる父が、風魔法を使えなかったのは驚きだが、それ以外、伝える言葉も見当たらないし。
すると、アンドレの姿に気づいたカステン辺境伯が、わたしたちの元へ駆け寄ってきた。
「アンドレとジュディット様。まさかとは思いますが、あの二人を見送りに来たのですか?」
「僕たちが、あの二人を見送るわけがないだろう。ジュディがイヴァン卿に伝えたいことがあると言うから、ここに来ただけだ」
何を寝ぼけたことを言っているんだと、アンドレが呆れた顔を返す。
「そうでしたか」と言うカステン辺境伯が、アンドレからゆっくり視線を外すと、恐る恐るわたしを見る。
お世話になった恩を感じるわたしは、素直にその気持ちを口にする。
「カステン軍では大変お世話になりました。皆にお礼を伝えてくださいまし」
「えええっ? それを言うためだけに、わざわざ外まで足を運んでいただいたのですか?」
「いいえ、もう一つお願いがあるけどいいかしら」
「何でしょうか」
「エレーナにこれを渡してくれないかしら?」
彼にガラス玉を一つ手渡した。
「ジュディット様のガラス玉……ですか」
「ふふっ、そうね。本当の意味で、わたしのガラス玉だわ。作ったのもコレを使おうと思っていたのも、わたしだからね」
「これを受け取ってもいいのですか? 魔力はまだ戻っていないのですよね?」
「今はまだ……。ですが今晩、アンドレに魔法契約を解呪してもらうので、わたしには必要なくなりますから」
「そうですか、それではありがたく預かっていきます。エレーナも、ジュディット様から直接もらったものだと聞けば喜ぶでしょう」
確かにそうかもしれないなと思うけれど、わたしの方が色々と感謝している。
「彼女には、何から何まで親切にしてもらったわ。ガラス玉の事は世間に公表していなかったのに、製作者がわたしだと気づいてくれてありがとうと、伝えていただけると嬉しいわ」
「ジュディット様の伝言は、確かに、エレーナに伝えておきますね」
それを言い終えるかどうかのタイミングで、パスカル殿下がアンドレを呼び出したため、「少しだけ席を外します」と彼はこの場から立ち去った。
「おっ、おい」と声を出し。アンドレを引き止めようとするカステン辺境伯は、この場でどうしてよいのか分からず、困惑しているようにも見える。
カステン辺境伯と二人きりになってしまった空間。
そうなれば、以前あったシチュエーションをどうしても思い出す。
わたしが屋上で倒れていたあの日。アンドレには好きな人がいるから、早々に出ていくように告げられていたのだ。
彼の好きな人とは、結局のところ誰を指すのか分からない。
アンドレは栞を送ったわたしのことは好きになるはずないと、必死に否定し続けていたし、一体、誰だったのだろうと気にかかる。
フィリベールとリナのことで相当痛い目を見た。
それなのに、アンドレがそのお相手を忘れられず、またしても突然、わたしが邪魔だと追い出されるかもしれないし。
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