記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から なぜか溺愛されています
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
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第5章 離さない
恋のお相手②
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アンドレの好きな女性のことを聞きたいけど、それを訊ねると、陰でこそこそ嗅ぎまわる、女々しい女だと思われる気がする。別にそうじゃないけど……。
とりあえずはカステン辺境伯の出方を見てからにするかと様子を窺う。シーンと静まるせいで、無駄に緊張して非常に気まずい。
だけど、ちらりちらりと見てくる彼からも、同じく罰の悪そうな空気が漂う。
そうなれば、元々気の短い彼が、わたしより先に堪えきれなくなり、申し訳なさげに口を開く。
「その節は、適当な話をジュディット様に伝えてしまい、大変申し訳ありませんでした」
「ん? 適当な話と仰いますと、何でしょうか?」
「あれ? アンドレから聞いておりませんか?」
いまいち思い出せないから、ここは素直に「聞いていない」と言うべきね。
それを口にすると、「今更お伝えする必要もないでしょうが」と言いながら、苦笑する彼は教えてくれた。
「俺が以前、アンドレが迷惑がっているとジュディット様にお伝えしたのは、全くの出鱈目でして……。本当に申し訳ありませんでした」
「あれ? そうでしたの? 分かっていなかったわ」
出て行けとアンドレから直接言われ続けていたんだから、嘘ではないはずだと、冴えない返答をする。
そうすると、ガチガチに緊張していたカステン辺境伯が、「よしッ、俺は悪くなかった」と笑顔に変わった。
はてな? と思うわたしは、やたらとテンションの高い彼を見て、呆気に取られる。
「……ああー――良かったぁ~……。気に留めていらっしゃらなかったのですね。アンドレに好きな人がいると、お伝えしましたが、あれはそもそもジュディット様ですからね」
「へぇ~、わたしと同じ名前の女性ですか……」
寝言で名前を呼んでも、どっちの夢を見ているのやらだ。よりによってと眉間に皺が寄る。
「ですからジュディット様のことですって」
「え? わたしがなんですって?」
「ですから、アンドレから聞いていらっしゃるでしょう。アンドレは、ずっとジュディット様のことが好きでしたから」
「ええぇえ、嘘よね!! そんなことって!」
「長年、いつか会える日が来ると期待していたんですが、まさかこんな出会いがあるとは思ってもいなかったですよ、はははっ」
とんでもなく嬉しそうに話しているけど、この話を信じてもいいのかしら?
いや、いや、いや。アンドレとカステン辺境伯の仲だ。二人で共謀して騙そうとしているのかしら。大概この手の話には裏があるのよ。疑わしいなと慎重に確認する。
「そ……。それは本当のことなんですの?」
「ええ、ジュディット様がフィリベール殿下の婚約者というのは知っていましたが、それでも想いを断ち切れずにいましたからね」
「あのうぅ……。カステン辺境伯が仰った、アンドレの好きな人というのは、わたしのことだったんですか?」
噛み合わない会話を繰り返すわたしを不思議そうに窺うと、「もちろんそうです。かわいい指輪だったでしょう」と微笑んだ。
「指輪ですか? どうしてそれを知っているんでしょうか?」
「何年も前に、アンドレが俺に隠れてペアリングをオーダーしてたんですが、兵士が買うには高額な品でしたからね。注文者を俺だと勘違いした宝石店が、気を利かせたつもりで俺の屋敷へ届けにきたので。まあ、そのまま宝石屋に返したから、アンドレは俺に見つかったのも知りませんけどね。やたらとジュディット様の話を聞きたがるから、贈りたいお相手もすぐに気づきましたよ、ははは」
「ぇ……嘘──……」
何度も彼から聞いていた「好きだ」という言葉は、冗談でも揶揄いでもなかったってことなの……。
「まあ、王太子殿下との結婚式も迫り、いよいよジュディット様を諦めなければならないと思ったときに、ガラス玉を大量に持つあなたが現れたのですから、それはビビりました」
「ビビるって? どういう意味ですの」
「得体の知れない魔力なしでしたから、アンドレと二人して、『アンドレを始末する刺客を拾ってきた』と確信してましたけどね。本当に失礼な勘違いでした、ははは」
「え⁉ わたしを刺客だと思っていたんですか!」
「面目ない。常識では考えられない量のガラス玉を持った魔力なしというだけで怪しかったのに、魔法の知識が常人の範疇ではなかったので、暗殺者以外にないと……完全にそう思っていました」
頭の後ろに手をやる彼は、半笑いをする。
アンドレってばわたしのことを、自分を殺しに来た暗殺者だと思っていたのに、彼はそんなわたしと一緒に暮らそうとしていたの――……。
「……もう、馬鹿なんだから……」
アンドレったら……何が好きかどうか分からないよ。それはもう、好きって言うのよ。
……わたし、今回は騙されている訳じゃないのよね。
アンドレが、わたしのことを好き……。
っていうことは⁉︎
「本当ですよ。アンドレとジュディット様の関係なら、ベッドの中でやりながら説明すれば、すぐに分かってもらえるのに、アンドレが大袈裟に心配しすぎなんですよ。お二人なら早々に世継ぎもできそうだし、この国は安泰ですな、ははは」
はぁ! やりながって何を!! ブツブツ文句を言うカステン辺境伯が、あり得ない不穏な話をし始めたんだけど!
ああぁぁあ──ちょっと待って!
わたしを心配して口移しで何かを飲ませるって話も、滅茶苦茶真剣だったのか……。
待って、待って、待って。なんか他にもやたらと愛の告白じみたことを言ってたけど、適当に受け流しちゃったじゃない!
彼は何を言ってたかしら?
そんな風に彼のことを考え始めれば、無駄にドキドキしてきたじゃない。
まずい。わたしったら何も分からず、彼の指輪をいらないって言っちゃったわよ……。どうしよう。今さら「ください」なんて、言えるわけないじゃない。
あれはケースから出した新品には見えなかった……。
ってことは、渡せるとも限らないわたしのために、あの指輪を、ずっと持ち歩いていたのかな……。
せっかくだから、もう一回、アンドレから言ってくれないかな……。
そうしてそわそわしていると。「お待たせしました」と、穏やかに微笑むアンドレが戻ってきた。
彼の顔を見た次の瞬間、妃教育で聞かされた閨事を想像してしまい、気まずくなって、バッと背中を向ける。
待って、待って。待ってよ。
今まで、どんな顔で彼と一緒にいたかしら。
急に彼の気持ちを正しく理解し始め、頭の整理ができないわたしへ、彼は優しい口調で訊ねた。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ、何でもないわ!」
「そうですか。イヴァン卿との話は終わったんですよね」
「ええ、もうお礼は伝え終えたわよ!」
「それなら僕たちはこの場を去りましょう。ドゥメリー元公爵がジュディに会わせろと大騒ぎをしているようです。顔を合わせたところで都合のいい話を言ってくるだけですので会う価値はありませんから」
「そうよ、そのとおりだわッ!」
「ん? 怒ってますか?」
「いえ、いや、怒ってるわよ父に!」
「では急いで戻りましょう」
やたらめったら緊張するわたしは、アンドレの言葉に甘え、その提案に従う。
部屋へ戻れば、急に彼の気持ちを自覚して、ぽけぇ~とするわたしの一方、忙しそうな彼は公務へと向かった。
◇◇◇
とりあえずはカステン辺境伯の出方を見てからにするかと様子を窺う。シーンと静まるせいで、無駄に緊張して非常に気まずい。
だけど、ちらりちらりと見てくる彼からも、同じく罰の悪そうな空気が漂う。
そうなれば、元々気の短い彼が、わたしより先に堪えきれなくなり、申し訳なさげに口を開く。
「その節は、適当な話をジュディット様に伝えてしまい、大変申し訳ありませんでした」
「ん? 適当な話と仰いますと、何でしょうか?」
「あれ? アンドレから聞いておりませんか?」
いまいち思い出せないから、ここは素直に「聞いていない」と言うべきね。
それを口にすると、「今更お伝えする必要もないでしょうが」と言いながら、苦笑する彼は教えてくれた。
「俺が以前、アンドレが迷惑がっているとジュディット様にお伝えしたのは、全くの出鱈目でして……。本当に申し訳ありませんでした」
「あれ? そうでしたの? 分かっていなかったわ」
出て行けとアンドレから直接言われ続けていたんだから、嘘ではないはずだと、冴えない返答をする。
そうすると、ガチガチに緊張していたカステン辺境伯が、「よしッ、俺は悪くなかった」と笑顔に変わった。
はてな? と思うわたしは、やたらとテンションの高い彼を見て、呆気に取られる。
「……ああー――良かったぁ~……。気に留めていらっしゃらなかったのですね。アンドレに好きな人がいると、お伝えしましたが、あれはそもそもジュディット様ですからね」
「へぇ~、わたしと同じ名前の女性ですか……」
寝言で名前を呼んでも、どっちの夢を見ているのやらだ。よりによってと眉間に皺が寄る。
「ですからジュディット様のことですって」
「え? わたしがなんですって?」
「ですから、アンドレから聞いていらっしゃるでしょう。アンドレは、ずっとジュディット様のことが好きでしたから」
「ええぇえ、嘘よね!! そんなことって!」
「長年、いつか会える日が来ると期待していたんですが、まさかこんな出会いがあるとは思ってもいなかったですよ、はははっ」
とんでもなく嬉しそうに話しているけど、この話を信じてもいいのかしら?
いや、いや、いや。アンドレとカステン辺境伯の仲だ。二人で共謀して騙そうとしているのかしら。大概この手の話には裏があるのよ。疑わしいなと慎重に確認する。
「そ……。それは本当のことなんですの?」
「ええ、ジュディット様がフィリベール殿下の婚約者というのは知っていましたが、それでも想いを断ち切れずにいましたからね」
「あのうぅ……。カステン辺境伯が仰った、アンドレの好きな人というのは、わたしのことだったんですか?」
噛み合わない会話を繰り返すわたしを不思議そうに窺うと、「もちろんそうです。かわいい指輪だったでしょう」と微笑んだ。
「指輪ですか? どうしてそれを知っているんでしょうか?」
「何年も前に、アンドレが俺に隠れてペアリングをオーダーしてたんですが、兵士が買うには高額な品でしたからね。注文者を俺だと勘違いした宝石店が、気を利かせたつもりで俺の屋敷へ届けにきたので。まあ、そのまま宝石屋に返したから、アンドレは俺に見つかったのも知りませんけどね。やたらとジュディット様の話を聞きたがるから、贈りたいお相手もすぐに気づきましたよ、ははは」
「ぇ……嘘──……」
何度も彼から聞いていた「好きだ」という言葉は、冗談でも揶揄いでもなかったってことなの……。
「まあ、王太子殿下との結婚式も迫り、いよいよジュディット様を諦めなければならないと思ったときに、ガラス玉を大量に持つあなたが現れたのですから、それはビビりました」
「ビビるって? どういう意味ですの」
「得体の知れない魔力なしでしたから、アンドレと二人して、『アンドレを始末する刺客を拾ってきた』と確信してましたけどね。本当に失礼な勘違いでした、ははは」
「え⁉ わたしを刺客だと思っていたんですか!」
「面目ない。常識では考えられない量のガラス玉を持った魔力なしというだけで怪しかったのに、魔法の知識が常人の範疇ではなかったので、暗殺者以外にないと……完全にそう思っていました」
頭の後ろに手をやる彼は、半笑いをする。
アンドレってばわたしのことを、自分を殺しに来た暗殺者だと思っていたのに、彼はそんなわたしと一緒に暮らそうとしていたの――……。
「……もう、馬鹿なんだから……」
アンドレったら……何が好きかどうか分からないよ。それはもう、好きって言うのよ。
……わたし、今回は騙されている訳じゃないのよね。
アンドレが、わたしのことを好き……。
っていうことは⁉︎
「本当ですよ。アンドレとジュディット様の関係なら、ベッドの中でやりながら説明すれば、すぐに分かってもらえるのに、アンドレが大袈裟に心配しすぎなんですよ。お二人なら早々に世継ぎもできそうだし、この国は安泰ですな、ははは」
はぁ! やりながって何を!! ブツブツ文句を言うカステン辺境伯が、あり得ない不穏な話をし始めたんだけど!
ああぁぁあ──ちょっと待って!
わたしを心配して口移しで何かを飲ませるって話も、滅茶苦茶真剣だったのか……。
待って、待って、待って。なんか他にもやたらと愛の告白じみたことを言ってたけど、適当に受け流しちゃったじゃない!
彼は何を言ってたかしら?
そんな風に彼のことを考え始めれば、無駄にドキドキしてきたじゃない。
まずい。わたしったら何も分からず、彼の指輪をいらないって言っちゃったわよ……。どうしよう。今さら「ください」なんて、言えるわけないじゃない。
あれはケースから出した新品には見えなかった……。
ってことは、渡せるとも限らないわたしのために、あの指輪を、ずっと持ち歩いていたのかな……。
せっかくだから、もう一回、アンドレから言ってくれないかな……。
そうしてそわそわしていると。「お待たせしました」と、穏やかに微笑むアンドレが戻ってきた。
彼の顔を見た次の瞬間、妃教育で聞かされた閨事を想像してしまい、気まずくなって、バッと背中を向ける。
待って、待って。待ってよ。
今まで、どんな顔で彼と一緒にいたかしら。
急に彼の気持ちを正しく理解し始め、頭の整理ができないわたしへ、彼は優しい口調で訊ねた。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ、何でもないわ!」
「そうですか。イヴァン卿との話は終わったんですよね」
「ええ、もうお礼は伝え終えたわよ!」
「それなら僕たちはこの場を去りましょう。ドゥメリー元公爵がジュディに会わせろと大騒ぎをしているようです。顔を合わせたところで都合のいい話を言ってくるだけですので会う価値はありませんから」
「そうよ、そのとおりだわッ!」
「ん? 怒ってますか?」
「いえ、いや、怒ってるわよ父に!」
「では急いで戻りましょう」
やたらめったら緊張するわたしは、アンドレの言葉に甘え、その提案に従う。
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