記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から なぜか溺愛されています
瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
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第5章 離さない
その言葉を待っていたのに
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次に目が覚めた時、アンドレは部屋にいなかった。
自分はソファーで眠ると言っていたのに、結局、彼のベッドを借りてしまった。
まあ、成り行き上、今回は仕方ない。思い悩むのはやめておくか。
二人は眠れる広いベッドのシーツ。それを無意識に触る当たり、彼が横に寝ていたんじゃないかと勘繰ってしまう。
何をやっているんだろう、わたしは……。
仮にベッドで寝ていたとしても、相当前にいなくなったのかしら。ひんやりしており、誰かが眠っていた形跡は全く残っていない。
この時間、人が動き回っている気配は乏しい。
今は何時だろうと思い、居室にある時計に、時間を教えてもらおうと動き回る。
すると、居室にクリスタが控えていたから、思わず声が上がる。
「クリスタ! あなたがどうしてここに?」
「おはようございます、ジュディット様。それは、アンフレッド殿下から、ジュディット様の目が覚めた時に、混乱しないように説明をして欲しいと仰せつかっておりましたから」
「そうだったの。……ちなみに、わたしはどれくらい眠っていたの?」
「あれから二晩ほど眠っていらっしゃいました」
「あはは……また、そんなに眠っていたのね」
まあ、自分の魔力が一晩で回復するわけないよね、と空笑いが漏れる。
「ふふふっ、結局、お風呂に一緒に入らないと仰っていたあの晩は、一緒に眠る許可をお出しにならなかったんですか?」
「どうしてそれを?」
「殿下がこれまでと同じく、ベッドの横にカウチを置いて眠っていましたから」
「ええぇ! 彼はここのソファーで寝てたんじゃないの⁉︎」
「違いますよ。この国の結界を盾に、昼も夜も殿下を呼び出す方を、常に警戒されていましたからね」
「それって、クリスタが知り得る話ではないでしょう」
行儀見習いが秘匿事項に近い話を知っていることに違和感を覚え、罠かしらと訝しむ。
「殿下のお側には必ずジュディット様がいるので、中央教会からの伝令を私どもが殿下にお伝えしておりましたので」
「そうだったの……」
「お食事をお持ちいたしましょうか?」
「……いいえ。彼はどこに行ったのかしら。彼と一緒に食べるからまだいいわ」
アンドレのことだ。また、わたしの目が覚めるまで食事を摂らずにいたはずだ。……もう、無茶ばかりして、本当に馬鹿なんだから。
「左様でございますか。殿下は……中央教会に行ったばかりなので、もうしばらく戻ってこないと存じますが」
「そうなのね」と返答し、着替えを願い出た。
彼もお腹を空かせているはずだし、一緒に食事を摂りたい。
そうなれば、彼を迎えに行くか。
そう思い、急ぎ気味に準備を済ませ、通い慣れた中央教会へ向かった。
◇◇◇
クリスタに手配してもらった馬車に乗り込み、彼女と共に中央教会へ向かう。
「アンフレッド殿下から、『ジュディット様が目覚めても、部屋から出してはいけない』と、きつく言い付けられていたのですが。殿下の元だから大丈夫ですよね」
「……彼は過保護なのよ。どこにでも付いてくるんだもの」
「ふふっ、殿下もジュディット様のお姿を見たら喜ばれますね」
「そうだと嬉しいわ」
もう恋なんて懲り懲りだと思っていたのに、こうして離れているのが少し寂しく感じるくらいだ。すっかり心が彼に絆されている気がして笑みが漏れる。
ルダイラ王国の中枢が、この近辺に集まっているから、中央教会と王宮は目と鼻の先と言っても過言ではない。
例に漏れず公爵家も見えるため、そちらの方角からは目を背ける。
ほんの少し馬車に揺られただけで、よく見慣れた中央教会に到着した。
以前のジュディットの行動に習い、関係者の通用口である裏側に回る。
まあ、わたしは関係者と言っても問題はないが、クリスタを同行させるわけにはいかない。
せっかく付いてきてくれたのに申し訳ないが、彼女は馬車へ残すことにして、独りで教会の中へ向かう。
結界を張るために聖女が祈りを捧げる祈祷室は、一般参拝者が訪れる礼拝堂の裏側に位置する。
大司教以外の教職者から見れば、わたしが飾りで、現筆頭聖女の王妃様を見習い、聖女の祈りを捧げていると思われていた。
まあ、しばしば寝過ごし部屋から出てこないから、適当に過ごしていると思われていたはずだ。情けないがその自覚はある。
礼拝堂の裏側の通路は一般人の立ち入り禁止エリアのため、人の気配はほとんどない。
一般参列者が集まる礼拝堂は、おそらく人で溢れていることだろうが、こちら側は足音が響くくらいシーンと静まり返っている。
長い年月、毎日通っていた場所だ。ほんの二週間足らず訪問しなかっただけで、ものすごく懐かしい気がするから、人の感覚とは不思議なものだなと思う。
このまま少しの間、感傷に浸っていたい気持ちもあったけど、それを掻き消すように、アンドレの声が耳に届いた。
あっ、彼がいるな、と笑みが浮かんでしまう。
そうなれば、うかうかしていられない。もっと声が聞き取れる場所まで向かうだけ。
驚かせてあげようと考えるわたしは、にまにましながら足音と気配を殺して歩みを進める。そして、祈祷室との分岐路の角で立ち止まった。
やはりアンドレの声で間違いない。
同じ声の人物も知っているけれど、偉ぶらない穏やかな口調がアンドレだもの。
――誰と話しているんだろう? 大司教かなと想像しながら、耳に届かない会話の相手を探る。
けれど、いくら耳を澄ましても、対話相手の声が聞こえてこない。
もしかしてだけど、彼の会話の相手はリナなのか……。
祈祷室の中にいるリナと何かを話している。たぶんそうだ。
でも、妹の声が聞こえないせいで、まるでアンドレの独り言のように聞こえる。
けれど実際、彼が発する言葉と言葉の間隔を考えると、祈祷室の中にいるリナと会話が成立しているのだろうと、声が止むのを待つ。
「待たせたけど、やっと陛下を説得できたから、もうすぐ祈祷室から出られる。そんなに怒らないで」
「……」
「ああ。私も会えなくて寂しいさ」
「……」
「結婚式ね……」
「……」
「いや、その言葉は会ってからにしよう。直接顔を見て伝えたいから」
「……」
「ふふっ、ウェディングドレスかぁ……。似合うだろうな。僕が選んだのを着てくれる姿を早く見たいんだけど。考えただけで嬉しくなってきたよ」
「……」
「指輪? あれ? とっくに渡しているだろう」
「……」
「いや、そうだったのか……。分かった、分かったから落ち着いて」
「……」
「いや、忘れていたわけじゃないから。何年も前に買っていたけど、婚約者がいる手前、渡す機会がなかっただけだから」
「……」
「悪かった……。じゃぁ、一緒に買いに行こう」
優しい口調でそう言った。
はっ! ……どうしてわたしに言ってくれなかったのに、リナに言うのよと、ムッとする。
別にわたしだってアンドレの意図はちゃんと分かっているけど、楽しそうに話す彼の声が、胸をズキズキさせる。何がウェディングドレスよ、もう!
祈祷室に留め置いたリナを説得するため、フィリベールの振りをして声をかけているのだろう。おそらく陛下の命令のはずだ。
それくらい、頭では理解できているけれど、心が納得しない。
――わたしがもう一回言って欲しい指輪の話を、リナに伝えるなんて……。
ねぇ……。わたしのための指輪なんでしょ。
何が一緒に買いに行こうよ……。最後の言葉が、やけに耳に残る。
大司教にも挨拶をしたいと思っていたけど、とても長居ができるような心境ではいからやめておくか。
気が付けば、とぼとぼと人通りの少ない裏口へと向かっていた。
自分がどんな顔をしていたのか知らない。けれど、馬車に戻れば、クリスタが優しく迎えてくれた。
アンドレの馬鹿。なんでリナと楽しそうにするのよ……。 ショックで頭の中がぼーっとして、王宮まで戻る間、彼女となんの会話をしていたのか少しも覚えていない。
◇◇◇
「ジュディット様? 聞こえていますか?」
「ああ、ごめんなさい。ぼんやりとしていたわ」
「宮殿の入り口はこちらですよ」
「そうね……。わたし、瘴気だまりを浄化してから部屋に向かうから、ここで別れましょう」
そう伝えたところで、付いてくると譲らないクリスタを説得して帰ってもらった。
自分はソファーで眠ると言っていたのに、結局、彼のベッドを借りてしまった。
まあ、成り行き上、今回は仕方ない。思い悩むのはやめておくか。
二人は眠れる広いベッドのシーツ。それを無意識に触る当たり、彼が横に寝ていたんじゃないかと勘繰ってしまう。
何をやっているんだろう、わたしは……。
仮にベッドで寝ていたとしても、相当前にいなくなったのかしら。ひんやりしており、誰かが眠っていた形跡は全く残っていない。
この時間、人が動き回っている気配は乏しい。
今は何時だろうと思い、居室にある時計に、時間を教えてもらおうと動き回る。
すると、居室にクリスタが控えていたから、思わず声が上がる。
「クリスタ! あなたがどうしてここに?」
「おはようございます、ジュディット様。それは、アンフレッド殿下から、ジュディット様の目が覚めた時に、混乱しないように説明をして欲しいと仰せつかっておりましたから」
「そうだったの。……ちなみに、わたしはどれくらい眠っていたの?」
「あれから二晩ほど眠っていらっしゃいました」
「あはは……また、そんなに眠っていたのね」
まあ、自分の魔力が一晩で回復するわけないよね、と空笑いが漏れる。
「ふふふっ、結局、お風呂に一緒に入らないと仰っていたあの晩は、一緒に眠る許可をお出しにならなかったんですか?」
「どうしてそれを?」
「殿下がこれまでと同じく、ベッドの横にカウチを置いて眠っていましたから」
「ええぇ! 彼はここのソファーで寝てたんじゃないの⁉︎」
「違いますよ。この国の結界を盾に、昼も夜も殿下を呼び出す方を、常に警戒されていましたからね」
「それって、クリスタが知り得る話ではないでしょう」
行儀見習いが秘匿事項に近い話を知っていることに違和感を覚え、罠かしらと訝しむ。
「殿下のお側には必ずジュディット様がいるので、中央教会からの伝令を私どもが殿下にお伝えしておりましたので」
「そうだったの……」
「お食事をお持ちいたしましょうか?」
「……いいえ。彼はどこに行ったのかしら。彼と一緒に食べるからまだいいわ」
アンドレのことだ。また、わたしの目が覚めるまで食事を摂らずにいたはずだ。……もう、無茶ばかりして、本当に馬鹿なんだから。
「左様でございますか。殿下は……中央教会に行ったばかりなので、もうしばらく戻ってこないと存じますが」
「そうなのね」と返答し、着替えを願い出た。
彼もお腹を空かせているはずだし、一緒に食事を摂りたい。
そうなれば、彼を迎えに行くか。
そう思い、急ぎ気味に準備を済ませ、通い慣れた中央教会へ向かった。
◇◇◇
クリスタに手配してもらった馬車に乗り込み、彼女と共に中央教会へ向かう。
「アンフレッド殿下から、『ジュディット様が目覚めても、部屋から出してはいけない』と、きつく言い付けられていたのですが。殿下の元だから大丈夫ですよね」
「……彼は過保護なのよ。どこにでも付いてくるんだもの」
「ふふっ、殿下もジュディット様のお姿を見たら喜ばれますね」
「そうだと嬉しいわ」
もう恋なんて懲り懲りだと思っていたのに、こうして離れているのが少し寂しく感じるくらいだ。すっかり心が彼に絆されている気がして笑みが漏れる。
ルダイラ王国の中枢が、この近辺に集まっているから、中央教会と王宮は目と鼻の先と言っても過言ではない。
例に漏れず公爵家も見えるため、そちらの方角からは目を背ける。
ほんの少し馬車に揺られただけで、よく見慣れた中央教会に到着した。
以前のジュディットの行動に習い、関係者の通用口である裏側に回る。
まあ、わたしは関係者と言っても問題はないが、クリスタを同行させるわけにはいかない。
せっかく付いてきてくれたのに申し訳ないが、彼女は馬車へ残すことにして、独りで教会の中へ向かう。
結界を張るために聖女が祈りを捧げる祈祷室は、一般参拝者が訪れる礼拝堂の裏側に位置する。
大司教以外の教職者から見れば、わたしが飾りで、現筆頭聖女の王妃様を見習い、聖女の祈りを捧げていると思われていた。
まあ、しばしば寝過ごし部屋から出てこないから、適当に過ごしていると思われていたはずだ。情けないがその自覚はある。
礼拝堂の裏側の通路は一般人の立ち入り禁止エリアのため、人の気配はほとんどない。
一般参列者が集まる礼拝堂は、おそらく人で溢れていることだろうが、こちら側は足音が響くくらいシーンと静まり返っている。
長い年月、毎日通っていた場所だ。ほんの二週間足らず訪問しなかっただけで、ものすごく懐かしい気がするから、人の感覚とは不思議なものだなと思う。
このまま少しの間、感傷に浸っていたい気持ちもあったけど、それを掻き消すように、アンドレの声が耳に届いた。
あっ、彼がいるな、と笑みが浮かんでしまう。
そうなれば、うかうかしていられない。もっと声が聞き取れる場所まで向かうだけ。
驚かせてあげようと考えるわたしは、にまにましながら足音と気配を殺して歩みを進める。そして、祈祷室との分岐路の角で立ち止まった。
やはりアンドレの声で間違いない。
同じ声の人物も知っているけれど、偉ぶらない穏やかな口調がアンドレだもの。
――誰と話しているんだろう? 大司教かなと想像しながら、耳に届かない会話の相手を探る。
けれど、いくら耳を澄ましても、対話相手の声が聞こえてこない。
もしかしてだけど、彼の会話の相手はリナなのか……。
祈祷室の中にいるリナと何かを話している。たぶんそうだ。
でも、妹の声が聞こえないせいで、まるでアンドレの独り言のように聞こえる。
けれど実際、彼が発する言葉と言葉の間隔を考えると、祈祷室の中にいるリナと会話が成立しているのだろうと、声が止むのを待つ。
「待たせたけど、やっと陛下を説得できたから、もうすぐ祈祷室から出られる。そんなに怒らないで」
「……」
「ああ。私も会えなくて寂しいさ」
「……」
「結婚式ね……」
「……」
「いや、その言葉は会ってからにしよう。直接顔を見て伝えたいから」
「……」
「ふふっ、ウェディングドレスかぁ……。似合うだろうな。僕が選んだのを着てくれる姿を早く見たいんだけど。考えただけで嬉しくなってきたよ」
「……」
「指輪? あれ? とっくに渡しているだろう」
「……」
「いや、そうだったのか……。分かった、分かったから落ち着いて」
「……」
「いや、忘れていたわけじゃないから。何年も前に買っていたけど、婚約者がいる手前、渡す機会がなかっただけだから」
「……」
「悪かった……。じゃぁ、一緒に買いに行こう」
優しい口調でそう言った。
はっ! ……どうしてわたしに言ってくれなかったのに、リナに言うのよと、ムッとする。
別にわたしだってアンドレの意図はちゃんと分かっているけど、楽しそうに話す彼の声が、胸をズキズキさせる。何がウェディングドレスよ、もう!
祈祷室に留め置いたリナを説得するため、フィリベールの振りをして声をかけているのだろう。おそらく陛下の命令のはずだ。
それくらい、頭では理解できているけれど、心が納得しない。
――わたしがもう一回言って欲しい指輪の話を、リナに伝えるなんて……。
ねぇ……。わたしのための指輪なんでしょ。
何が一緒に買いに行こうよ……。最後の言葉が、やけに耳に残る。
大司教にも挨拶をしたいと思っていたけど、とても長居ができるような心境ではいからやめておくか。
気が付けば、とぼとぼと人通りの少ない裏口へと向かっていた。
自分がどんな顔をしていたのか知らない。けれど、馬車に戻れば、クリスタが優しく迎えてくれた。
アンドレの馬鹿。なんでリナと楽しそうにするのよ……。 ショックで頭の中がぼーっとして、王宮まで戻る間、彼女となんの会話をしていたのか少しも覚えていない。
◇◇◇
「ジュディット様? 聞こえていますか?」
「ああ、ごめんなさい。ぼんやりとしていたわ」
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