記憶と魔力を婚約者に奪われた「ないない尽くしの聖女」は、ワケあり王子様のお気に入り~王族とは知らずにそばにいた彼から なぜか溺愛されています
瑞貴◆『手違いの妻』4月15日発売!
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第5章 離さない
瘴気の浄化……何も知らずに現れた、その原因①
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強い瘴気の気配を辿り、王宮の裏手に位置する聖なる泉へ向かう。
近くに着いた途端、ウッと片手で口を押さえてしまう。
――瘴気の気配がきつい。
瘴気だまりを放置してかなり時間が経っているせいで、城壁で囲われた辺り一面、瘴気で充満している。
想定よりよほど事態は深刻で、向こう側の景色が霞む程空気が淀んでいるのだから。
先日、ガラス玉でも瘴気だまりを浄化できると申し出たのを、アンドレが先送りした意味が分かった。
自分の魔力を持たずにここへ来れば、平然としていられなかったと思う。
アンドレが泉を覆いかぶせるように張ったきらきらと輝くバリーケードが、カタカタと揺れているのが分かる。あれの限界も近いわね。
一人で来たことを後悔しつつも、これを目の当たりにして出直せるほど、呑気な性格でもない。
空間の浄化をすれば、アンドレのバリーケードも壊れるだろうなと、起きうる事態を想像し、げんなりする。
蓋が消失した途端、一斉に魔物が飛び出してくるのは、火を見るよりも明らかだ。
瞬時に攻撃魔法を繰り出す必要がありそうだけど、大きさも属性も違う魔物を一度に退治するのは、少々骨が折れそうだ。
あ~あ、シモンでも連れてくればよかったけど、一人でやるしかないか。
いざ、気合を入れるため脚を一歩開き、両腕を天高く突き上げると、イライラした感情をぶちまけるように魔法を発動する。
こんなときも、いつもの癖で言葉が溢れる。
「アンドレなんか、もう知らないんだから! リナと指輪を買いに行けばいいのよ!」
そう発すると、空がきらきらと輝き、光がゆらゆらと地上に舞い落ちる。
その輝きに触れた空間は、本来あるべき清らかな色彩を取り戻す。
「もう少しね――」
光の粒がバリーケードに触れれば、瞬時に防壁も消えてしまう。
そうなれば、魔物が逃げ出す前に一網打尽にしなくては。
よし、今だなと思ったのと同時──。
わたしの後方から無数の風弾が飛び交った。
「へぇっ!」と変な声をだして驚くわたしは、前方の魔物を見るべきか、後方を見るべきか迷ってしまったけど、とりあえず、前方が正解だろう。
そう思って、そのまま瘴気だまりに視線を向ける。
飛び出してきた魔物は、魔犬に魔狼それに大量の魔虫。残念ながら、魔猪はいない。
それらの魔物が、わたしよりコンマ数秒早く発動された風弾に打たれ、光り輝く湖に次々と落ちていく。
浄化魔法が聖なる泉にも届いている証拠に、泉全体がきらきらと輝きを放つ。
その光の中に魔物が落ちれば、瞬時に消失する。
最後に出てきたのが一際大きな魔狼だったが、またしても後方から発動された魔法が魔物を貫き、泉に落ちていった。
魔物の気配を探るが、魔虫のような小さいものさえ感じないため、殲滅したとみる。
凄いな。一斉に飛び出した魔物相手に、風弾の一発さえ無駄にしなかったんだもの。
見極めとコントロール抜群の魔法攻撃の腕に、目を見張るしかない。
こんなことをできるのは、彼しかいないだろうな。
そう考えて後ろを振り返る。
やはりだった。
視線の先には、わたしに手を振り笑顔を見せる貴公子が立っていた。
「アンドレ!」
「何ですか、僕のお姫様」
「どうしてここにいるのよ」
「まあそれは僕の台詞な気もしますが、ジュディがここにいるから追いかけてきたんですよ」
「もう! どこにでも付いてくるアンドレは、相変わらず健在なのね」
「僕が目を離すと、とんでもないことをしているかもしれないので」
「してないわよ!」
「どの口が、と言いたいところですけど、やめておきます。今の浄化は凄いですね。……まさかこんな一瞬で浄化できると思っていませんでした……」
「珍しく本気を出したわ」
「ふふっ、ジュディは本当に聖女だったんだなぁ~って感心しました」
「ちょっと、今までわたしを何だと思っていたのよ。さては、どこでも眠る図々しい令嬢だと思っていたんでしょう」
すると彼は、まあねと笑えば、安堵の表情を見せる。
「魔力はすっかり戻ったようですね」
「アンドレのおかげよ。とても感謝しているわ、ありがとう」
「それはこちらの台詞ですよ。聖なる泉を浄化していただいてありがとうございます。それと、ジュディに謝らなければならなくて、さっき――」
と言いかけたところで、女性の大きな声が響く。
◇◇◇
「寂しいから来ちゃったわ、ふふふっ。あれ? どうしてここにお姉様がいるのかしら?」
「あなたは……」
そこまで口にして、言葉を失う。
二度と会うはずがないと思っていた妹の姿が、直ぐ近くに迫っていた。
中央教会でアンドレと会話していたリナが、祈祷室から出て来たのか。だとしてもどうしてここに──。
近くに着いた途端、ウッと片手で口を押さえてしまう。
――瘴気の気配がきつい。
瘴気だまりを放置してかなり時間が経っているせいで、城壁で囲われた辺り一面、瘴気で充満している。
想定よりよほど事態は深刻で、向こう側の景色が霞む程空気が淀んでいるのだから。
先日、ガラス玉でも瘴気だまりを浄化できると申し出たのを、アンドレが先送りした意味が分かった。
自分の魔力を持たずにここへ来れば、平然としていられなかったと思う。
アンドレが泉を覆いかぶせるように張ったきらきらと輝くバリーケードが、カタカタと揺れているのが分かる。あれの限界も近いわね。
一人で来たことを後悔しつつも、これを目の当たりにして出直せるほど、呑気な性格でもない。
空間の浄化をすれば、アンドレのバリーケードも壊れるだろうなと、起きうる事態を想像し、げんなりする。
蓋が消失した途端、一斉に魔物が飛び出してくるのは、火を見るよりも明らかだ。
瞬時に攻撃魔法を繰り出す必要がありそうだけど、大きさも属性も違う魔物を一度に退治するのは、少々骨が折れそうだ。
あ~あ、シモンでも連れてくればよかったけど、一人でやるしかないか。
いざ、気合を入れるため脚を一歩開き、両腕を天高く突き上げると、イライラした感情をぶちまけるように魔法を発動する。
こんなときも、いつもの癖で言葉が溢れる。
「アンドレなんか、もう知らないんだから! リナと指輪を買いに行けばいいのよ!」
そう発すると、空がきらきらと輝き、光がゆらゆらと地上に舞い落ちる。
その輝きに触れた空間は、本来あるべき清らかな色彩を取り戻す。
「もう少しね――」
光の粒がバリーケードに触れれば、瞬時に防壁も消えてしまう。
そうなれば、魔物が逃げ出す前に一網打尽にしなくては。
よし、今だなと思ったのと同時──。
わたしの後方から無数の風弾が飛び交った。
「へぇっ!」と変な声をだして驚くわたしは、前方の魔物を見るべきか、後方を見るべきか迷ってしまったけど、とりあえず、前方が正解だろう。
そう思って、そのまま瘴気だまりに視線を向ける。
飛び出してきた魔物は、魔犬に魔狼それに大量の魔虫。残念ながら、魔猪はいない。
それらの魔物が、わたしよりコンマ数秒早く発動された風弾に打たれ、光り輝く湖に次々と落ちていく。
浄化魔法が聖なる泉にも届いている証拠に、泉全体がきらきらと輝きを放つ。
その光の中に魔物が落ちれば、瞬時に消失する。
最後に出てきたのが一際大きな魔狼だったが、またしても後方から発動された魔法が魔物を貫き、泉に落ちていった。
魔物の気配を探るが、魔虫のような小さいものさえ感じないため、殲滅したとみる。
凄いな。一斉に飛び出した魔物相手に、風弾の一発さえ無駄にしなかったんだもの。
見極めとコントロール抜群の魔法攻撃の腕に、目を見張るしかない。
こんなことをできるのは、彼しかいないだろうな。
そう考えて後ろを振り返る。
やはりだった。
視線の先には、わたしに手を振り笑顔を見せる貴公子が立っていた。
「アンドレ!」
「何ですか、僕のお姫様」
「どうしてここにいるのよ」
「まあそれは僕の台詞な気もしますが、ジュディがここにいるから追いかけてきたんですよ」
「もう! どこにでも付いてくるアンドレは、相変わらず健在なのね」
「僕が目を離すと、とんでもないことをしているかもしれないので」
「してないわよ!」
「どの口が、と言いたいところですけど、やめておきます。今の浄化は凄いですね。……まさかこんな一瞬で浄化できると思っていませんでした……」
「珍しく本気を出したわ」
「ふふっ、ジュディは本当に聖女だったんだなぁ~って感心しました」
「ちょっと、今までわたしを何だと思っていたのよ。さては、どこでも眠る図々しい令嬢だと思っていたんでしょう」
すると彼は、まあねと笑えば、安堵の表情を見せる。
「魔力はすっかり戻ったようですね」
「アンドレのおかげよ。とても感謝しているわ、ありがとう」
「それはこちらの台詞ですよ。聖なる泉を浄化していただいてありがとうございます。それと、ジュディに謝らなければならなくて、さっき――」
と言いかけたところで、女性の大きな声が響く。
◇◇◇
「寂しいから来ちゃったわ、ふふふっ。あれ? どうしてここにお姉様がいるのかしら?」
「あなたは……」
そこまで口にして、言葉を失う。
二度と会うはずがないと思っていた妹の姿が、直ぐ近くに迫っていた。
中央教会でアンドレと会話していたリナが、祈祷室から出て来たのか。だとしてもどうしてここに──。
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