【完結】突然の変わり身「俺に惚れるな」と、言っていたのは誰ですか⁉ ~脱走令嬢は、素性を隠した俺様令息に捕獲される~

瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!

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第4章 離れたふたり

4-11 ルイーズの捕獲①

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 昨日エドワードがパトリシア侯爵令嬢と訪れたケーキ屋。その斜め向かいにあるベンチにルイーズがいる。
 時刻は10時30分。ルイーズは、2時間以上歩いて、ここに座っていた。
 ルイーズが乗ろうと思っていた馬車が出発するまで、あと30分というところ。

 朝食時、ルイーズは継母から刺さるような視線を向けられた。継母は自分の右手に勘ずいている。そう察して、屋敷を出る時間を、慌てて切り上げた。

 先ほど、所持金は小さな切符1枚に変わった。これからの道中、夜を過ごす良い策がないかと、ふさぎ込む。
 女が独りでいればどうなるのか? ルイーズでさえ、おおよその想像はできるから、希望がわいてこない。

 エドワードは今ごろ何をしているだろうか。
 ルイーズに傷を負わせて、何か処分を受けていないかと気がかりで仕方ない。けがをした自分は、そのまま訓練から逃げ出したのだから。
 彼の体でやらかしたのも自分だし、逃げ出しているのも自分だ……。
 あんなに優しくしてもらったのに……。
 彼に申しわけない気持ちでいっぱい。そう思うと涙が浮かんでくる。



 遠くから捉えるプラチナブロンドの髪。ルイーズから少し離れた所まで、血相を変えたエドワードは迫っている。
「良かった……まだいた……」

 昨日だってルイーズを見つけた。
 それなのに、目を離したわずかな時間で見失った。今日は絶対に捕まえる。
 そう心に誓い、エドワードの向かう足取りは、さらに加速する。

 田舎まで行くつもりのルイーズ。だが、荷物といえる旅の道具もない。
 あいつは何を考えている。どこまでも、あほ。エドワードは、いら立ちを覚える。
 
「おいっ! 俺に何も言わずに、どこへ行くつもりだっ!」

 突然、ルイーズの耳に響く怒鳴り声。
 直前まで人の気配に気付かなかったルイーズは、その大きな声で体をびくつかせ、心臓が止まりそうになった。
 ルイーズにとって、聞き馴染なじみのある声だ。……恐る恐る顔を上げる。
 すぐさま目が合ったのは、獲物を狙うような視線を向けてくるエドワード。
 ……案の定だ。
 そんな顔をしていると、顔を上げる前から薄々感じていた。
 
 真っ正面で仁王立ちしているエドワード。無責任に逃げ出した自分に、激昂げっこう中である。
 
(えっ、今は訓練の時間でしょう、どうしてエドワードがここに?)

 訓練をサボッて何をしている。いや、それよりも、どうしてここにいると分かったのか? いまいち状況が飲み込めない。

「どっ、どうしたの? 何かあったの?」
「当たり前だ。ルイーズが訓練に来なくなったかと思えば、俺に何も言わず辞退届を書いたからだ」
 
「あ、それは……。いっぱい迷惑を掛けてごめんなさい。今更だけど、女性騎士は、向いていないなと分かって辞めることにしたの」
「ふ~ん。そもそも何で騎士になりたかったんだ。それによって掛ける言葉も違うだろう」

「そう? わたしに誇れる動機なんてないのよ。何の志もなくて、給金の良い騎士になれば、自分が家を出られるし、弟に家庭教師を雇ってあげられると思っていたの。エドワード、いいえ、もう訓練は終わったから、エドワード様の言うとおり、わたしには取り柄がないから、他にできそうなことがパッと思い浮かばなかったのね。それだけよ」

 それを聞いて、目が点になるエドワード。
(ルイーズは、元婚約者にだまされて、騎士になろうとしていたんじゃないのか? 弟のためだったのか……。そんなことは知らなかったな。俺、ひどいことしか言っていないだろう)
 ルイーズの言葉に、エドワードは心がかき乱されて、むずがゆくなっている。

 彼の反応にきょとんとしているルイーズ。
 ルイーズは実際のところ、一体何が起きて、エドワードがここにいるのか分からない。平静を装っているももの混乱している。
 睨みつけてくるエドワードから、ルイーズがスッと視線を外す。
 すると、ルイーズが乗ろうと思っていた馬車が、少し離れた所に停車したようだ。
 ドギマギとするルイーズ。
 あれに乗らなければ、全財産をつぎ込んだ切符が、ただの紙くずになってしまう。

 横目でチラリと見ると、エドワードは、まだ何かを言いたげにしている。

 彼ともっといたい。けれど悠長に話している時間はない。
 彼に適当なウソでごまかし、馬車へ駆け込もうとスッと立ち上がった。

「エドワード様、わたしのために色々ありがとうございました。次は、舞踏会でお会いしましょう。わたし親戚の家へ行く用事があるので、あの馬車に乗らないといけないんです。今日のところは先を急ぎますね……。さようなら」
 エドワードに真っすぐ向けた頬笑み。 

 きっと、ルイーズ姿では、エドワードに見せたことのない笑顔だろうと、ルイーズは分かっていた。
 心から出た笑顔。最後に自分の姿でちゃんと会えて、うれしかった。
 そして、その場から馬車へ向かおうと歩きだす……。

 見たことのないルイーズにときめき、ゾクッと体に衝撃が走る。
 自分から離れて行こうとするルイーズ。彼女のプラチナブロンドの髪が風でなびき、エドワードの顔にかすかに触れた。

 ここで見送れば、もう2度とルイーズに会えない、そう確信したエドワード。彼は、少しの躊躇ためらいもない。

 エドワードは、ルイーズの服の上から腕をガシッとつかむ。
 ルイーズはエドワードからの予期せぬ静止に、うろたえている。

「待てっ! どこにも行くな。ルイーズは俺のそばからいなくなるな」
「えっ、いや、それはエドワード様に言われても無理で……」
「ルイーズに様を付けられると、鳥肌が立つからやめてくれ。俺の所へ来い。結婚しようルイーズ」
 エドワードからの予期せぬ言葉にドキッとしたものの、ルイーズは意味が理解できずに首をかしげる。

「はぁい? エドワード……、何か悪いものでも食べたの? それとも誰かに言わされているの?」

「お前はどうしてそうなるんだ。俺、こういう感情は初めてなんだ。これはきっと、ルイーズが好きなんだと思う。自分の体に戻ってから、ずっとルイーズのことが頭から離れない。これからも俺の横にいて欲しい」

「うっ、あっ、まっ、待って。わたしエドワードとは無理……」
 エドワードの告白に、思わず色めき立ったルイーズは笑顔になりかけた。
 ……けれど、その感情をグッとこらえ、わいた感情に蓋をする。

(うれしくて勢い余って返事をしそうになったけど駄目だ。
 エドワードには、わたしの右手のことは言えないもの。わたしに、けがを負わせたのはエドワードってことになっている。それでなくても嫌な思いをしたんだろうし……、なんでも彼に甘えられない)

「はぁぁーっ、カーティスの婚約の申し出を俺が断ったら怒っていたのに、俺のプロポーズは躊躇ためらうのか?」
「そういうわけじゃないんだけど、……やっぱりお断りするわ」
「理由は?」
「特にないけど、何となく」
「あっ、そう。理由は分かった。これから用事があるから付き合え」
「えっ、嫌よ。わたし馬車に乗って……」
「あほのルイーズに拒否権はないっ!」

「はぁぁーっ、ちょっと、エドワードはどんだけ横暴なのよっ! わたしの切符、どうしてくれるのよ」
「くくっ。そういう立場だからな。ルイーズが言っている親戚の家があるなら、責任をもって送ってやる」
 そう言って、強引にルイーズの左手を引いて歩きだすエドワード。

(ルイーズに触れるまでは確信が持てなかったが、これなら治るだろう。秘密主義のこいつが、自分から言いだすのを待ってみるか)

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