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第4章 離れたふたり
4-12 ルイーズの捕獲②
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訳の分からないルイーズは、強引なエドワードに手を引かれている。
少し前まで困惑の表情を浮かべていた彼女は、エドワードに付き合わされ、町の中を渋々歩いていたはず。
それなのに、そんなことはすっかり忘れ、いつもどおりの2人。
……結局、ルイーズは楽しそうにしている。
やはり単純だなと、エドワードはルイーズの顔をみて笑っていた。
「ルイーズの弟は、ルイーズよりしっかりしているな」
「そうなの、不思議よね~。とってもいい子で賢いのよ」
感心するように話しているルイーズを見て、エドワードは顔を引きつらせる。
「10歳の子どもに負けているって言われたら、否定するところだろう」
「いいのよ。あの子は本当にしっかりしているから。子どもだって思っていたら、くまの刺繍は嫌だって、いつの間にか成長していたんだもん」
「はぁぁーっ、10歳の子どもが嫌がった刺繍を俺のガウンに描くなよ」
「だって、2人の入れ替わりから戻ったときに、万が一それが夢だと思ってしまったら、わたしがいた証しが何も残らないでしょう。そう思ったら、なんか寂しくなって。エドワードの服は、どれもこれも上品で繊細な刺繍ばっかりなんだもん、くまが丁度良かったのよ。……それに、アランよりエドワードの方が子どもっぽいし」
それを聞いたエドワードの涙腺が緩みかけた。が、ピタリと閉まる。
「おいっ! ほんの一瞬だけ感動した俺の時間を返せ。10歳の子どもに俺が劣っているわけないだろう、あほっ」
「困ったわね……。そんな風に全然見えないわ」
「それは、ルイーズの感性がおかしいからだろう」
結局言いたい放題のふたり。でも、そのふたりの腕は、がっしり組んで緩む様子はない。
エドワードの用事。その店へ2人で入ろうとする。
だが、ここは見覚えがある。流されて入ったら後戻りできない。
……嫌な予感がすると、狼狽するルイーズは、入り口で精いっぱいの抵抗を見せる。
そんなものは、エドワードに通用しない。
入り口で固まるルイーズは、ぼけっとするなと、エドワードに背中を押され、店舗の奥にある別室に押し込まれていた。
(ちょっと、ここって、高価な石ころのお店でしょう……)
彼女が別室の椅子で座って待っている間、エドワードが店主と話し込んでいるようだった。
……そして、ルイーズの元へ戻った彼は、時間を気にしている。
「俺の用事は済んだけど、ルイーズはどこか行きたい所はないか?」
「うーん、わたしは特に、これといってないわね」
ぐぅぅ~っと、ルイーズから響き渡るおなかの音。どうしてこんなときに、タイミングが悪すぎると焦るルイーズ。
……気まずくなったルイーズは、涼しい顔で空を見上げる。
「言えよ。腹が減っているんだろう」
「いや、それは本当に大丈夫。そんなのいいわ。ウソじゃないから……」
「何を言っても無駄だ。ウソも下手だが、俺にはバレバレだしな。悪い、でも今日は時間がないからチョコレートのケーキは無理だ、王宮へ行くぞ」
「王宮? 訓練? 無理、無理、もう騎士は目指してないから!」
剣なんて持てない!
ルイーズは必死に訴えるが、全く取り入ってもらえないまま、馬車へ押し込められた。
ルイーズは、うつむいたまま無言になり、名案を探している。
右手が動かないことを、エドワードにどうやって、ごまかそうかと、必死の様子。
そんなことはお構いなしのエドワードは、もっと近くに来て欲しいと、ルイーズの肩に腕を回す。
それを当たり前のようにルイーズはこたえ、エドワードの肩に頭を乗せる。
「俺に隠していることはないか?」
ルイーズは、予期せぬ質問にビクッと体をこわばらせてしまう。
「えっ、何かしら。隠しごとなら心当たりがあり過ぎるから、分からないわね、ははは」
「くくっ、確かにな。ルイーズは聞いたって、隠しているからな。……なあ、部屋の一番上の引き出しは、最後まで開けなかったのか?」
「あー、重要書類が入っている引き出しのこと? それならもちろん開けていないわよ。見られたら嫌でしょう」
「ルイーズってすごいな。俺は、悪いと思いながらも、あの後もルイーズの体で色々やっていたもんな」
「馬鹿ね。言わなきゃバレないのに正直過ぎるでしょう。もーう、わたしがお願いした意味がないじゃない、何やっているのよっ! それに、むしろ恥ずかしくなるから聞きたくなかったわ」
向きになって怒るルイーズの姿を見て、笑いだすエドワード。
「くくっ。だから、やらない方がおかしいだろう」
「っ、そんなにはっきり言われると、怒っているわたしの方が、おかしい人みたいじゃない」
(エドワードにだったら、今更だもの、どうでも良くなってきたわ)
「……それにしても、わたしたちって、どうして入れ替わって、突然元に戻ったんだろう」
「前にも言ったが、原因は間違いなく俺だ。それと、ルイーズの意思が重なったんだろう。初めに入れ替わったとき、俺になりたいと考えていなかったか?」
そう言われて、そのときのことを思い出そうとするルイーズは、何かを閃いていた。
(あのときは確か、何でも言えるエドワードが羨ましくて……)
「そうだった。姉に馬鹿って言いたいと思って、何でも言えるエドワードになりたいと思ったわ」
「は? まさかそんなことで……。俺が思っていた以上に軽い理由でルイーズらしいな……。良かったな、確かに言ってやった。……それはいいが、元に戻ったときは、どうだった?」
「このままエドワードが、わたしの体と一緒に命を落とすことになったら嫌だと思って、戻れと必死に念じたわ」
「ルイーズって、やっぱりいいやつだな」
「やっと気付いたの? 今まで分かっていないって、エドワードは、本当に感性がおかしいわよ、っふふ」
「確かにそうかもな。俺、人と違うから、他人とは距離を置くようにしていたから」
「ウソばっかり。エドワードは初めっから、わたしにベッタリくっ付いていたじゃない。よく言うわね」
「それは、宰相が見込みのないルイーズのことを心配していたから、俺がお前のそばにいただけだ」
はい? ……意味が分からない。ルイーズの顔には、はっきりそう書いてある。
「えーウソ……、そんな理由だったの……。てっきりエドワードも騎士になりたいのかと思っていたわよ」
「初めから騎士になる気はなかった。俺は、別の職があるからな。俺の仕事はこの体でなければできないみたいだ。だから、ルイーズと入れ替わっていたとき、右手首に大けがをして、俺の体に何としても戻りたいと思った。……ここまで言えば、分かるか?」
少し前まで困惑の表情を浮かべていた彼女は、エドワードに付き合わされ、町の中を渋々歩いていたはず。
それなのに、そんなことはすっかり忘れ、いつもどおりの2人。
……結局、ルイーズは楽しそうにしている。
やはり単純だなと、エドワードはルイーズの顔をみて笑っていた。
「ルイーズの弟は、ルイーズよりしっかりしているな」
「そうなの、不思議よね~。とってもいい子で賢いのよ」
感心するように話しているルイーズを見て、エドワードは顔を引きつらせる。
「10歳の子どもに負けているって言われたら、否定するところだろう」
「いいのよ。あの子は本当にしっかりしているから。子どもだって思っていたら、くまの刺繍は嫌だって、いつの間にか成長していたんだもん」
「はぁぁーっ、10歳の子どもが嫌がった刺繍を俺のガウンに描くなよ」
「だって、2人の入れ替わりから戻ったときに、万が一それが夢だと思ってしまったら、わたしがいた証しが何も残らないでしょう。そう思ったら、なんか寂しくなって。エドワードの服は、どれもこれも上品で繊細な刺繍ばっかりなんだもん、くまが丁度良かったのよ。……それに、アランよりエドワードの方が子どもっぽいし」
それを聞いたエドワードの涙腺が緩みかけた。が、ピタリと閉まる。
「おいっ! ほんの一瞬だけ感動した俺の時間を返せ。10歳の子どもに俺が劣っているわけないだろう、あほっ」
「困ったわね……。そんな風に全然見えないわ」
「それは、ルイーズの感性がおかしいからだろう」
結局言いたい放題のふたり。でも、そのふたりの腕は、がっしり組んで緩む様子はない。
エドワードの用事。その店へ2人で入ろうとする。
だが、ここは見覚えがある。流されて入ったら後戻りできない。
……嫌な予感がすると、狼狽するルイーズは、入り口で精いっぱいの抵抗を見せる。
そんなものは、エドワードに通用しない。
入り口で固まるルイーズは、ぼけっとするなと、エドワードに背中を押され、店舗の奥にある別室に押し込まれていた。
(ちょっと、ここって、高価な石ころのお店でしょう……)
彼女が別室の椅子で座って待っている間、エドワードが店主と話し込んでいるようだった。
……そして、ルイーズの元へ戻った彼は、時間を気にしている。
「俺の用事は済んだけど、ルイーズはどこか行きたい所はないか?」
「うーん、わたしは特に、これといってないわね」
ぐぅぅ~っと、ルイーズから響き渡るおなかの音。どうしてこんなときに、タイミングが悪すぎると焦るルイーズ。
……気まずくなったルイーズは、涼しい顔で空を見上げる。
「言えよ。腹が減っているんだろう」
「いや、それは本当に大丈夫。そんなのいいわ。ウソじゃないから……」
「何を言っても無駄だ。ウソも下手だが、俺にはバレバレだしな。悪い、でも今日は時間がないからチョコレートのケーキは無理だ、王宮へ行くぞ」
「王宮? 訓練? 無理、無理、もう騎士は目指してないから!」
剣なんて持てない!
ルイーズは必死に訴えるが、全く取り入ってもらえないまま、馬車へ押し込められた。
ルイーズは、うつむいたまま無言になり、名案を探している。
右手が動かないことを、エドワードにどうやって、ごまかそうかと、必死の様子。
そんなことはお構いなしのエドワードは、もっと近くに来て欲しいと、ルイーズの肩に腕を回す。
それを当たり前のようにルイーズはこたえ、エドワードの肩に頭を乗せる。
「俺に隠していることはないか?」
ルイーズは、予期せぬ質問にビクッと体をこわばらせてしまう。
「えっ、何かしら。隠しごとなら心当たりがあり過ぎるから、分からないわね、ははは」
「くくっ、確かにな。ルイーズは聞いたって、隠しているからな。……なあ、部屋の一番上の引き出しは、最後まで開けなかったのか?」
「あー、重要書類が入っている引き出しのこと? それならもちろん開けていないわよ。見られたら嫌でしょう」
「ルイーズってすごいな。俺は、悪いと思いながらも、あの後もルイーズの体で色々やっていたもんな」
「馬鹿ね。言わなきゃバレないのに正直過ぎるでしょう。もーう、わたしがお願いした意味がないじゃない、何やっているのよっ! それに、むしろ恥ずかしくなるから聞きたくなかったわ」
向きになって怒るルイーズの姿を見て、笑いだすエドワード。
「くくっ。だから、やらない方がおかしいだろう」
「っ、そんなにはっきり言われると、怒っているわたしの方が、おかしい人みたいじゃない」
(エドワードにだったら、今更だもの、どうでも良くなってきたわ)
「……それにしても、わたしたちって、どうして入れ替わって、突然元に戻ったんだろう」
「前にも言ったが、原因は間違いなく俺だ。それと、ルイーズの意思が重なったんだろう。初めに入れ替わったとき、俺になりたいと考えていなかったか?」
そう言われて、そのときのことを思い出そうとするルイーズは、何かを閃いていた。
(あのときは確か、何でも言えるエドワードが羨ましくて……)
「そうだった。姉に馬鹿って言いたいと思って、何でも言えるエドワードになりたいと思ったわ」
「は? まさかそんなことで……。俺が思っていた以上に軽い理由でルイーズらしいな……。良かったな、確かに言ってやった。……それはいいが、元に戻ったときは、どうだった?」
「このままエドワードが、わたしの体と一緒に命を落とすことになったら嫌だと思って、戻れと必死に念じたわ」
「ルイーズって、やっぱりいいやつだな」
「やっと気付いたの? 今まで分かっていないって、エドワードは、本当に感性がおかしいわよ、っふふ」
「確かにそうかもな。俺、人と違うから、他人とは距離を置くようにしていたから」
「ウソばっかり。エドワードは初めっから、わたしにベッタリくっ付いていたじゃない。よく言うわね」
「それは、宰相が見込みのないルイーズのことを心配していたから、俺がお前のそばにいただけだ」
はい? ……意味が分からない。ルイーズの顔には、はっきりそう書いてある。
「えーウソ……、そんな理由だったの……。てっきりエドワードも騎士になりたいのかと思っていたわよ」
「初めから騎士になる気はなかった。俺は、別の職があるからな。俺の仕事はこの体でなければできないみたいだ。だから、ルイーズと入れ替わっていたとき、右手首に大けがをして、俺の体に何としても戻りたいと思った。……ここまで言えば、分かるか?」
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