【完結】突然の変わり身「俺に惚れるな」と、言っていたのは誰ですか⁉ ~脱走令嬢は、素性を隠した俺様令息に捕獲される~

瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!

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第5章 祝福されるふたり

5ー1 ルイーズとエドワードの婚約①

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 ここ数日、救護室に通される治療希望者の数は、明らかにおかしい。
 エドワードが1週間働かなかっただけで、倍に跳ね上がっている。
 自分の他に2人、回復魔法師ヒーラーがいる。
 ……にもかかわらず、寄ってたかって自分を働かせやがって……と、エドワードはに落ちない顔をして救護室から戻ってきた。

 だが、部屋にいるルイーズの姿を見て、顔がほころぶエドワード。少し前まで抱えていた不満は、全て消え去っている。

 今日は帰す約束だ。だが、もう少しルイーズと一緒にいたい。
 ……そう思うと、自分の屋敷へ連れて帰りたくなる。
 どうしようかと思い悩むエドワードを、ルイーズはこてんと首をかしげ「何かあったの?」と、言いたげに見ている。
 名残惜しいが、今日のところは早々に帰るべきと、思いとどまった。

 ルイーズから「帰ろう」と、自分の手を握ってきた。エドワードは、それに答えるように、ぎゅっと固く握り返す。
 直接触れる手と手。自分のことを知ってもなお、ルイーズは変わることがない。
 そんな彼女の姿に、エドワードは心うれしくなり、頬笑みを向ける。

 その道中、ルイーズが珍しく鋭い質問をしてくる。
「ねぇ。エドワードはどうして、わたしがあのベンチにいるって分かったの?」

 ……うっ。と、息が止まるエドワードは、唐突な質問に、どう答えるか言葉を選ぶ。
 自分が、あのベンチの向かいにあるケーキ屋にいた。
 そんな場所へ、自分が望んで行くはずがない。ルイーズなら分かるだろう。
 そうなれば、誰といたか? という話だ。
 パトリシア侯爵令嬢といた、……それを伝えるのは、気がとがめる。
 だが、仕方ない。聞かれれば答えようと思い、重い口を開く。

「……昨日も偶然、あの場所でルイーズを見掛けたから。……気になって声を掛けようかと思ったら、急に姿が見えなくなったんだ」
 それを聞いたルイーズは、目をそらして慌て始める。
 大変だ。まさかエドワードに、とんでもなく情けないところを目撃された。
 よりによって、自分から娼館しょうかんの場所を大男に尋ね、あらぬ空気になったタイミングで見られている。

 激しく動揺するルイーズは、心拍数が一気に上昇し、ゴクリと唾を飲む。
 この話は、これ以上続けてはいけないと、必死に火消しに走る。
「あー、そうだったのね。知らなかった。はは……」
 よし、うまくいった。これで話題を変えようと、ルイーズは、心の中で大きなガッツポーズを決めた。

「……ったく、本当にあほだな。何を隠している? どうせ、馬鹿なことをやっていたんだろう……。やっぱり、昨日、すぐに声を掛けるべきだった。俺がルイーズに見えを張ったせいで、悪かったな」
 申し訳ない。それを顔に出すエドワードは、一際強くルイーズを抱き寄せる。

 エドワードの胸に顔をうずめるルイーズは、頭の中に疑問符が浮かんでいる。
「どうして分かったの?」
「さあな、ルイーズが単純だからだ」

「はぁぁーっ、聞き捨てならないわ」
「どの口が言う? くくっ」


 楽しそうに騒ぎ立てるふたりの時間は、想像以上にあっという間に過ぎていた。
 これまでなら「また、あした」の言葉があった。けれど……、今はない。

 寂し気な2人が、フォスター伯爵家の屋敷に入ろうと思ったとき。

 ガッシャーン――と、ガラスの割れる音が耳に刺さる。

 ルイーズがいなくなり、荒れている。そう察した2人が見上げた先は、伯爵夫人の部屋。
 
 エドワードが握る手から、ルイーズの跳ね上がった心臓の拍動が伝わる。
「いいか、ルイーズは何もしゃべるなよ。俺のことで、何を言われても気にするな」

 首をひたすら振ってうなずくルイーズは、エドワードにしがみつくように腕を組んでいる。
 
**

 最近様子のおかしかったルイーズが、朝から姿を消した。
「あの娘、自分の計画に気付いて逃げたのか?」と、勘繰る伯爵夫人。
 怒り心頭で、ルイーズの部屋をあさったが、荷物を持ち出した形跡もなければ、書き置きの一つもない。

 書き置きがないのは、もちろん、姉を心配するアランのお陰だ。

 今朝の食卓は、静まり返っていた。それなのに、いつも以上にピリついた空気が漂う。

 その異様さからルイーズを心配するアラン。すぐさま部屋に向かったところ、いち早く、姉がいないことを知った。
 母に知られてはまずいと直感し、ルイーズの部屋から辞退届とノートを持ち去っていた。
 
 そのルイーズは、夕方になっても一向に帰ってくる気配はない。

「あの娘、……ルイーズは、どこに消えたのよっ! 親子そろって、逃げ足が速くて忌々いまいましい」

 伯爵夫人が、グラスを壁に投げつけ、当たり散らしている。

 夫と長年愛し合っていた女が産んだ子、ルイーズを無情に娼館しょうかんに売り飛ばし、夫にもルイーズにも仕返しをする計画。

 ルイーズが、屋敷の中から忽然こつぜんと姿をくらました。
 そんなことをされては、金にも、仕返しにもならない。感情の収まりがつかない事態に陥っていたのだ。

 2つ目のグラスを投げつけ、ガッシャーンと大きな音が屋敷に響いた時。
 逃げたと思ったルイーズが、エドワードと腕を組んで帰ってきた。
 一体何が起きたのかと混乱する伯爵夫人は、不思議そうな顔で2人を出迎えている。

 だが、エドワードは伯爵夫人の視線に違和感を覚える。
 ルイーズが指にはめている大きなダイヤの指輪を見るのであれば左手のはず。

 ……それなのに、伯爵夫人はルイーズの右手を、繰り返し何度も見ては、首をかしげている。
(この夫人、ルイーズの手が動かないことに気付いていたんじゃないのか?)
 
 言葉を向ける先は、伯爵家当主。しかし、視界に伯爵夫人をエドワードはとらえている。

「今日は朝から1日中ルイーズを連れ回し、申し訳なかった。今日は、ずっと2人でいたんだが、帰り際にルイーズから、家の者に何も伝えずに出てきたと聞いた。当主に謝罪するために送り届けにきた」

 それを告げられたルイーズの父は、アゲハちょう刺繍ししゅうくぎ付けだ。
 それを見れば、スペンサー侯爵家の人間だと疑う由はない。
 上等な仕立てのジャケットを優美に着こなすエドワードが、毅然きぜんとして伯爵家の当主へ言い切った。


「わざわざ気になさらなくても、結構でしたのに……。ですが……、ルイーズからエドワード様に粗相をしたと報告を受けていたもので、何があったのかと、驚いておりまして」

「ルイーズに俺が何かされた記憶はないが、彼女との婚約を正式に結びたい。今日は既に遅いから、後日改めてこちらを訪問する」
「さっ左様ですか! 承知いたしました」
 思ってもいなかった婚約話。スペンサー侯爵家の嫡男からの婚約の申し出を、当主は満面の笑みを浮かべる。
 伯爵夫人は、ルイーズの左手に光る指輪の豪華さに気付き、口に手を当てて、感極まっている。

(……やっぱり、伯爵夫人は……。だが、俺に尋ねる気はないのか)
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