5 / 10
5 むかしの事3
しおりを挟む
あまりの羞恥に直ぐにも帰ってしまいたかったが、お誘い頂いた相手が殿下では勝手に帰る訳にもいかず、意外と笑い上戸だったのかクスクス笑い続ける殿下の隣で大人しくいちごタルトを食べる僕であった。
こんな殿下は見たことは無いし、あまり他では見せてはいけない姿だと思う。ここが個室でよかったとしか言えない。
というか、僕がホットミルクを口にする度に微笑ましそうに見るのをやめてほしい。僕は本当は紅茶を頼もうとしたんだ。なのに、殿下が「ホットミルクもあるよ」とか仰るから!
ほんの少しのハチミツを入れたホットミルクはちょうどいい甘さで美味しいけれども!
「ここのいちごタルトは絶品だろう?」
艶やかないちごタルトを一口大に切り、綺麗な所作で口にした殿下は幸せそうに微笑んだ。
「城の菓子職人が作る菓子ももちろん美味しいんだけどね、ここのタルトを初めて食べた時、これだ!って思ったんだよ。何がこれなのか、未だに分からないんだけれどね。でも、いちごタルトだけはここのが一番好きなんだ」
「・・・そう、なんですね」
殿下の嬉しそうな微笑を見つめながら、私ももう一口頬張る。
うちの母の好みはクリーム系のケーキが多く、正直、フルーツのタルトは食べ慣れ無くて一番とかは分からないけれど、でも。
「とても美味しいです」
ここ数年のお茶の時間は、マナーの練習の意味合いが大きく、こんなに味わって食べるなんてことは久しく無かったように思う。
「いちごタルトって、こんなに美味しかったんですね・・・」
なんだか色々恥ずかしい思いもしたけれど、こんなに美味しいいちごタルトを殿下と一緒に食べる事が出来て、すべての悪い出来事は帳消しになってしまうかも。
むぐむぐと味わっていると、先に食べ終わった殿下がじっとこちらを見つめて、何かを考えているようだった。
なんだろう?何か僕に話でもあるのだろうか?
急いでモグモグゴックンし、ホットミルクで喉を潤して、更にひとつ深呼吸してから殿下に恐る恐る話しかける。
「あの。先程からじっとこちらを見てらっしゃいますが、私の顔に何かついていますでしょうか?」
ちょっと僕!!!何だその質問!?もうちょっと明確に、スマートに話し掛ける事はできなかったか!
顔に何かって・・・。目と鼻と口がついてるに決まってる。
自分の物言いが子供っぽ過ぎて恥ずかしい。
しかし話し掛けてしまった手前、俯くのも失礼になってしまう。
どれだけ顔が熱くても前を向いていなくては。
「ふふ。顔が真っ赤になっているよ。そんなに急いで食べなくても大丈夫だから。食べ終わってからゆっくり話をしよう」
「、はい」
顔の紅潮を指摘されてしまい、ますますもって熱を持つ顔。誰か!アイスミルクを!
・・・なんて頼まないけど。
マナー違反にならない程度の急ぎ目でタルトを食し残りのホットミルクも飲み干して一息つくと、みんなケーキを食べ終わったばかりだというのに、殿下は「全員分のお茶のおかわりを持ってきてくれ」と給仕係に申し付けていた。
おやつを食べ終わったからといってすぐに帰れるわけではないらしい。
「もう少しだけ私に付きあってくれないか。私は末王子で弟妹がいないから、こうして下の子に構えるのがちょっと嬉しくてね。以前も結構強引に抱っこしてしまったけれど、気分を害していなければいいのだが」
新しいお茶が給仕され、唇を湿らせた殿下はニコニコとそんな事を言い出した。
「気分を害する事など何もございませんが・・・。小さい子なら、昨年、王太子殿下のお子様がお生れになったのでは?殿下にとっては甥御様ですよね?」
殿下の長兄、王太子殿下は一昨年ご結婚され、昨年には男のお子様がお生れになっていた筈だ。
今年の年始の絵姿に、赤子を抱かれた王太子妃さまも描かれていたから確かである。
「あー・・・甥っ子は確かに生まれたけれど、生活する宮が違えば殆ど会わないからね。辛うじて顔を覚えているくらいかな」
ああ、そうなのか。王宮の仕来りなど全然知らなくて悪い事を言ってしまった。
我が家でも長兄は既に結婚して子供がいるけれど、屋敷では毎朝のように顔を合わせ赤子の姪っ子を抱っこしている所為で、どこでもそんなものだと思ってしまっていた。
「それは失礼致しました。物知らずですみません」
「いや、謝ってもらう程の事ではないから。まあそういうわけで、私の事はもう一人兄が増えたと思って―――は無理か初めての生徒総会で頼れる人が増えたと思ってくれればいいよ。」
僕はどんな表情をしているのだろう。殿下が苦笑して「ね?」と言うのに、意識して笑顔を作り「はい」と頷いた。
それから、殿下が生徒会を引退するまでの2年間、僕も生徒会員として活動した。
何度目かの殿下とのお茶の時間、雑談の中で各得意分野の芸術作品を発表する文化祭のような行事「学芸発表会」があるなら、学芸より体を使う事が得意な生徒が活躍できそうな「運動会」もあってもいいのではと、ちょっとした興味本位で提案して本当に実現してしまった時には、何故・・・とガックリ膝をついてしまったが。(だって僕は運動が得意ではない)
まさか初等部生の提案した行事が実現してしまうなんて思わなくて。それでも提案してしまった手前積極的に「運動会」の中身にも口を出した。ただ足の速さや力強さを競うのではなく、運動が得意ではない学生も楽しめるユーモアのある競技も必要だと、それはもう積極的に。そんな俺を殿下は微笑ましそうに、僕が運動を苦手としている事を知っている同級生は苦笑しながら見ていたらしい。
斯くして「玉入れ」「三人四脚」「大玉転がし」「百メートル走」「父兄による百メートル走」「借り物競争」「組別対抗リレー」とどこぞの世界の小学校のようなメニューで第一回運動会は開催され好評を博し、毎年の行事として本校のみならず国中の学校に広がっていくのだった。
「デュオニーソスは、誰も考えないような面白い事を思いつくよねえ?何かで見たの?」
幼馴染に言われて、内心ちょっとだけビクっとしたのは内緒。
「何となく、言ってみただけですけど。だって、文化面だけの発表では不公平でしょう?」
無難な答えに「まあ、楽しかったからいいけどー」と笑ったアディニーに、心の中で「ごめんね」を呟く。
これだけは誰にも、父上にも母上にも秘密なんだ。だって、僕自身でも信じられないもの。
どうやら僕は一度違う世界で死んで、この世界に転生してきたなんて。
こんな殿下は見たことは無いし、あまり他では見せてはいけない姿だと思う。ここが個室でよかったとしか言えない。
というか、僕がホットミルクを口にする度に微笑ましそうに見るのをやめてほしい。僕は本当は紅茶を頼もうとしたんだ。なのに、殿下が「ホットミルクもあるよ」とか仰るから!
ほんの少しのハチミツを入れたホットミルクはちょうどいい甘さで美味しいけれども!
「ここのいちごタルトは絶品だろう?」
艶やかないちごタルトを一口大に切り、綺麗な所作で口にした殿下は幸せそうに微笑んだ。
「城の菓子職人が作る菓子ももちろん美味しいんだけどね、ここのタルトを初めて食べた時、これだ!って思ったんだよ。何がこれなのか、未だに分からないんだけれどね。でも、いちごタルトだけはここのが一番好きなんだ」
「・・・そう、なんですね」
殿下の嬉しそうな微笑を見つめながら、私ももう一口頬張る。
うちの母の好みはクリーム系のケーキが多く、正直、フルーツのタルトは食べ慣れ無くて一番とかは分からないけれど、でも。
「とても美味しいです」
ここ数年のお茶の時間は、マナーの練習の意味合いが大きく、こんなに味わって食べるなんてことは久しく無かったように思う。
「いちごタルトって、こんなに美味しかったんですね・・・」
なんだか色々恥ずかしい思いもしたけれど、こんなに美味しいいちごタルトを殿下と一緒に食べる事が出来て、すべての悪い出来事は帳消しになってしまうかも。
むぐむぐと味わっていると、先に食べ終わった殿下がじっとこちらを見つめて、何かを考えているようだった。
なんだろう?何か僕に話でもあるのだろうか?
急いでモグモグゴックンし、ホットミルクで喉を潤して、更にひとつ深呼吸してから殿下に恐る恐る話しかける。
「あの。先程からじっとこちらを見てらっしゃいますが、私の顔に何かついていますでしょうか?」
ちょっと僕!!!何だその質問!?もうちょっと明確に、スマートに話し掛ける事はできなかったか!
顔に何かって・・・。目と鼻と口がついてるに決まってる。
自分の物言いが子供っぽ過ぎて恥ずかしい。
しかし話し掛けてしまった手前、俯くのも失礼になってしまう。
どれだけ顔が熱くても前を向いていなくては。
「ふふ。顔が真っ赤になっているよ。そんなに急いで食べなくても大丈夫だから。食べ終わってからゆっくり話をしよう」
「、はい」
顔の紅潮を指摘されてしまい、ますますもって熱を持つ顔。誰か!アイスミルクを!
・・・なんて頼まないけど。
マナー違反にならない程度の急ぎ目でタルトを食し残りのホットミルクも飲み干して一息つくと、みんなケーキを食べ終わったばかりだというのに、殿下は「全員分のお茶のおかわりを持ってきてくれ」と給仕係に申し付けていた。
おやつを食べ終わったからといってすぐに帰れるわけではないらしい。
「もう少しだけ私に付きあってくれないか。私は末王子で弟妹がいないから、こうして下の子に構えるのがちょっと嬉しくてね。以前も結構強引に抱っこしてしまったけれど、気分を害していなければいいのだが」
新しいお茶が給仕され、唇を湿らせた殿下はニコニコとそんな事を言い出した。
「気分を害する事など何もございませんが・・・。小さい子なら、昨年、王太子殿下のお子様がお生れになったのでは?殿下にとっては甥御様ですよね?」
殿下の長兄、王太子殿下は一昨年ご結婚され、昨年には男のお子様がお生れになっていた筈だ。
今年の年始の絵姿に、赤子を抱かれた王太子妃さまも描かれていたから確かである。
「あー・・・甥っ子は確かに生まれたけれど、生活する宮が違えば殆ど会わないからね。辛うじて顔を覚えているくらいかな」
ああ、そうなのか。王宮の仕来りなど全然知らなくて悪い事を言ってしまった。
我が家でも長兄は既に結婚して子供がいるけれど、屋敷では毎朝のように顔を合わせ赤子の姪っ子を抱っこしている所為で、どこでもそんなものだと思ってしまっていた。
「それは失礼致しました。物知らずですみません」
「いや、謝ってもらう程の事ではないから。まあそういうわけで、私の事はもう一人兄が増えたと思って―――は無理か初めての生徒総会で頼れる人が増えたと思ってくれればいいよ。」
僕はどんな表情をしているのだろう。殿下が苦笑して「ね?」と言うのに、意識して笑顔を作り「はい」と頷いた。
それから、殿下が生徒会を引退するまでの2年間、僕も生徒会員として活動した。
何度目かの殿下とのお茶の時間、雑談の中で各得意分野の芸術作品を発表する文化祭のような行事「学芸発表会」があるなら、学芸より体を使う事が得意な生徒が活躍できそうな「運動会」もあってもいいのではと、ちょっとした興味本位で提案して本当に実現してしまった時には、何故・・・とガックリ膝をついてしまったが。(だって僕は運動が得意ではない)
まさか初等部生の提案した行事が実現してしまうなんて思わなくて。それでも提案してしまった手前積極的に「運動会」の中身にも口を出した。ただ足の速さや力強さを競うのではなく、運動が得意ではない学生も楽しめるユーモアのある競技も必要だと、それはもう積極的に。そんな俺を殿下は微笑ましそうに、僕が運動を苦手としている事を知っている同級生は苦笑しながら見ていたらしい。
斯くして「玉入れ」「三人四脚」「大玉転がし」「百メートル走」「父兄による百メートル走」「借り物競争」「組別対抗リレー」とどこぞの世界の小学校のようなメニューで第一回運動会は開催され好評を博し、毎年の行事として本校のみならず国中の学校に広がっていくのだった。
「デュオニーソスは、誰も考えないような面白い事を思いつくよねえ?何かで見たの?」
幼馴染に言われて、内心ちょっとだけビクっとしたのは内緒。
「何となく、言ってみただけですけど。だって、文化面だけの発表では不公平でしょう?」
無難な答えに「まあ、楽しかったからいいけどー」と笑ったアディニーに、心の中で「ごめんね」を呟く。
これだけは誰にも、父上にも母上にも秘密なんだ。だって、僕自身でも信じられないもの。
どうやら僕は一度違う世界で死んで、この世界に転生してきたなんて。
70
あなたにおすすめの小説
【完結】神官として勇者パーティーに勧誘されましたが、幼馴染が反対している
カシナシ
BL
僕、フェリスはこの村の村長の息子と付き合っている。小さい頃は病弱だった僕も、今では神官を目指して勉強に励むようになったが、恋人であるアノンは気に入らないみたい。
僕が勉強をすると『俺は要らないんだろ』と森へ入ってしまうアノン。そんな彼を連れ戻すのに日々疲弊していると、ある日、勇者パーティーが訪れ、なんと僕を神官として勧誘したいと言う。
考える時間は、彼らの滞在する、たったの三日間。
アノンは怒り、村中が反対をして――――。
神官を目指す村の子(美少年受け)。
ざまぁと言うより自業自得?
本編三万文字くらい。12話で完結。
番外編二万文字くらい。だいぶコメディ寄り。
サクッとお読みいただけると思います。
※女性向けHotランキング最高17位、いただきました!本作を読んで頂きありがとうございます。
幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。
叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。
幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。
大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。
幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。
他サイト様にも投稿しております。
悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました
藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。
(あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。
ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。
しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。
気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は──
異世界転生ラブラブコメディです。
ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
「レジ袋はご利用になりますか?」
すずかけあおい
BL
仕事帰りに寄る、いつものコンビニで五十嵐 歩(いがらし あゆむ)はイヤホンをつけたまま会計をしてしまい、「――――?」なにかを聞かれたけれどきちんと聞き取れず。
「レジ袋はご利用になりますか?」だと思い、「はい」と答えたら、実際はそれは可愛い女性店員からの告白。
でも、ネームプレートを見たら『横山 天志(よこやま たかし)』…店員は男性でした。
天志は歩に「俺だけのネコになってください」と言って…。
推し変したら婚約者の様子がおかしくなりました。ついでに周りの様子もおかしくなりました。
オルロ
BL
ゲームの世界に転生したコルシャ。
ある日、推しを見て前世の記憶を取り戻したコルシャは、すっかり推しを追うのに夢中になってしまう。すると、ずっと冷たかった婚約者の様子が可笑しくなってきて、そして何故か周りの様子も?!
主人公総愛されで進んでいきます。それでも大丈夫という方はお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる