遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。

月湖

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4 むかしの事2

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「初等部の最終学年と中等部の1年生の時だったっけ?生徒会に入ってたの」
「そう。あの頃は、殿下があんな方だとは思いもしなかった・・・」

最初の出会いは僕が初等部の5年生、あの方は高等部の1年生の時だった。
風の噂で殿下が生徒会に入ったと聞けば、ご尊敬申し上げる殿下の傍に侍る為という不純な動機で翌年の生徒会役員に立候補し、しかし流石にそれでは当選は無理だろうと生徒のみ僕なの前で『学園生活をより良くするための公約』を掲げてそれらしく演説をしてみせれば、成績優秀者でもあった私は見事役目を頂く事が出来た。
王立学園では月に1度初等部から高等部までの生徒会役員全員が集まる役員会がある。
初等部の生徒会は5年生から参加出来るが、今期の会長副会長はどちらも6年生だ。そして、役員会の参加資格は副会長以上。僕は今期の会長に就任したが、5年次には生徒会に入っていなかったので役員会は初参加だ。
今回副会長が家の都合で不参加の為、自分以外全員が上級生の役員会初参加で、多数決の挙手以外では緊張して何も発言出来ず落ち込みながら会議室を出ようとしていたところでクリスファード殿下にお声を掛けて頂いたのだった。

「ブラウデン侯爵子息」
「!クリスファード殿下!」

殿下は、去年お会いした時よりも更にお背が高くなられていて、首を仰け反って見上げなければお顔を拝見出来ないほどだった。髪も以前は短くしておられたのに、今は首の後ろで結われている。エメラルドの瞳は変わらず輝いておられるけれど。
一瞬見惚れてしまったが慌てて臣下の礼をとろうとしたところで、「学園内は平等だから」と正式な礼をとる事は止められてしまった。

「久しぶりだね。元気そうで何よりだ」
「お久しゅうございます。あの時はきちんとしたお礼も申し上げられずーーーわっ!」

殿下の視線が、去年転んで痛めた足に一瞬向いたのを見逃さずお礼を申し上げようとしたのに、それは突然頭に伸びてきた殿下の手に遮られてしまった。
あの時と同じように、大きな手がクシャクシャと私の頭を撫でる。

「上級生が可愛い後輩を助けるのは当然の事だよ。それに、ブラウデン侯爵家を通してきちんと礼は受け取っている。過分な程にね」
「そうですか。でも、それはそれです。殿下、あの時はありがとうございました。お礼を申し上げるのが遅くなりました事、お詫びいたします」
「はい。丁寧にありがとう。もう無いとは思うけど、気を付けて歩くんだよ」
「はい」

殿下の手が乗せられたままだったので頭を下げる事は出来なかったが、僕からのお礼は受け取って頂けたようだ。
ご尊敬申し上げる殿下と会話出来た事で嬉しさに胸がいっぱいになり、これ以上殿下の時間を奪ってはいけないと思い御前を辞去しようとしたのだが、「それでは」と言い掛けたところで殿下から思いもかけないお誘いを頂いたのだ。

「これから私達は城下の喫茶店に行くのだが、ブラウデン侯爵子息も一緒にどうだい?必要なら侯爵家に使いをやって連れ出す許可を貰うが」
「えっ!よろしいのですか!?」
「ああ、ブラウデン侯爵子息に訊きたい事もあったしね。都合が良ければ」
「行きます!お供させて下さい!」
「決まりだ。誰か、ブラウデン侯爵家に使いを。日が暮れる前には送って行くと言伝を」

殿下の一声で私に付いている侍従と殿下の侍従が我が家の馬車で家に走り、30分後には母上に外出の許可を頂いて戻ってきた。

「さて、では行こうか」

まるでエスコートのように殿下に手を引かれ、殿下と一緒にの馬車に乗せて頂けるなど、僕の一生分の幸運はここで尽きてしまうのじゃないかしら?
こちらの馬車には殿下と僕の二人きり。侍従達はまた別の馬車で移動中、貴重な殿下の初等部の頃の話を聞かせて頂いたり、僕の初等部最終学年の授業はどうだとかの他愛もない話をさせて頂きながらそんな事を考えていると、あっという間に目的地に着いてしまう。
侍従達が馬車の扉の前に立つのが見えると何故か僕より先に殿下が降り、僕がタラップを降りる時には僕の両脇に手を入れられ声を上げる間もなく抱き上げられてしまった。

「殿下ッ!降ろしてください!」
「はは!相変わらず小さくて軽いな!」
「そんなはずありません!少しは大きくなっている筈です・・・っ」

クラスの誰より(女子より!!)身長が小さい事はコンプレックスで、言ってほしくない事だった。
よりにもよって殿下に言われてしまうなんて。
うう。

「・・・すまない。気にしていたか。あまりに可愛らしくて抱っこしてしまったが嫌だったか」

殿下の手が僕の目尻を拭った事で自分の目に涙が浮かんでいた事を知る。
こんな事くらいで泣いてしまうなんて情けないと思われてしまっただろうか・・・。

「・・・私は」

小さいと言われた事よりも、ちょっとコンプレックスを刺激されたくらいで泣いてしまった事が恥ずかしい。
事実を口にするのも恥ずかしすぎて口ごもると、

「うん?」
「わ、んんっ!?」

僕を縦抱っこしたまま顔を覗き込んでくる殿下の顔が近すぎて反射的に仰け反ってしまい、お尻から地面に落ちそうになってしまう。
喫茶店の裏は何店舗か共同の馬車どまりになっており、車輪が回りやすいように地面は土がむき出しになっていた。
ここで落ちたら絶対痛い・・・っ!

「や・・・っ!」

ぎゅっと目を瞑りながらも、懸命に伸ばした手に当たった物を藁にも縋る思いで必死に握る。放したら死んでしまうというくらいに。その瞬間は自分の状況も忘れてしまっていた。

「お、っととっと!」

グイっと強い力で宙に放り出された身体を支えられ、元の位置―――殿下の腕の中に戻される。

「危なかった―――」
「あ、りがとうございます・・・」

カタカタと震える指が動かなくて、殿下の服を掴んだ手を離せない。
そんな僕を安心させるように、殿下はポンポンと優しく背中を叩いていてくれた。

「もう大丈夫だからな」

震えが止まるまで、暫くの間殿下はそうして僕を抱っこしていてくれた。

「・・・また、助けて頂いてしまいました」
「今のは私が悪かっただろう。すまなかったな」
「いえ!元はと言えば私が小さいのがいけないのです!もっと大きくなりますから!」

僕がもっと大きければコンプレックスなど抱かず、殿下の腕の中で泣くという失態を犯さずに済んだのだ。
何故僕はこんなに小さいのだ。父上も兄上方も大きいのに!・・・母上は、小さい。僕の髪も瞳の色も父上と同じなのに身長だけ・・・っ!?
斯くなる上は、大きくなるべくミルクを今以上に飲まなければ!

「ふ、く、はは、はははっ!」
「―――え?殿下?」
「はは、はー・・・。ミルクは一度にたくさん飲み過ぎるとお腹が緩くなる場合もあるらしいから、ほどほどにしておくのがいいと思うよ」
「え!?」

僕、今・・・?
グリンと侍従に視線を向けると、彼は残念なものを見てしまったように瞼を伏せ、衝撃の事実を口にした。

「デュオニーソス様、全部言葉に出しておられました・・・」
「!!!」

キャー―――――――!!!!
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