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7 王子殿下から大公殿下へ
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僕はアディニーが持つ手紙をじっと見つめる。
過去の、これぞ王族たる姿勢に盲目的にご尊敬申し上げたあの方と、目の前の軽薄な薄桃色のカードをアディニーに送っただろう現在のあの方が本当に同一人物なのか、とてもじゃないが信じたくない。
何かの間違いだと信じたい。でもあの紋章を使えるのはあの方しかいなくて。
どうして・・・――――
・
殿下は、王立学園の高等部を卒業後は王府の文官として出仕したと聞いていた。
王位継承権は一応あれど第五王子という王太子の控えの控えの控えの控えでは、それはあっても無いようなもので。
いずれは自国の高位貴族家に婿入りか、同盟国の王族と政略結婚が有力とされていた。それまでの繋ぎだと
しかし、そんな実しやかな噂話が翻ったのは殿下が成人した20歳の時だ。
『第五王子クリスファードを大公位に叙する』
新しく騎士爵や男爵に叙された者の名が呼ばれ、貴族の証である紋章の授与がされる。
叙爵式典は基本二年に一度開かれる。これは国内全ての貴族に参加義務のある数少ない式典で、新旧貴族の顔合わせの場となっている。
数人の騎士爵や男爵が誕生し、最後に国王が第五王子の名を呼び、そして件の叙爵だ。
何も知らされないまま叙爵式典に参加した貴族達は騒然となった、らしい。
第五王子は学園を卒業してからも国内で婚約者を持たず、独身者には見合いの意味合いが大きい夜会やお茶会にも殆ど参加が無かった為、国内貴族家の婿入りではなく他国の王族との婚姻話が進んでいるのだろうと思われていた。
それがである。
突然の大公位。しかも、王位継承権を持ったままだ。更には六位だった順位は三位に。クリスファード殿下の大公位叙爵と同時、次期宰相と目される第二王子と第三王子・第四王子、それこそ王太子とその子王子以外の王子が継承権を放棄したらしい。
いや第三王子と第四王子はそれぞれ隣国の王女、国内の侯爵家の跡継ぎ令嬢との婚姻が決まっているから分かるとしても、王太子代行である第二王子の継承権放棄は何かあってと訝しがられていた。
王家に残る第二王子に継承権を無くして王家を出る第五王子に継承権を残すとは、第二王子に何が無くて第五王子に何があってそうするのか。第五王子の何にその価値があるのか。
前年に第五王子が文官から魔術師団に異例の異動をしたのは何か関係があるのか。
数年経った今でもその謎は解けていない。恐らく王家が秘匿しているのだろう。
それだけの何かがと貴族は何も分からないなりに、分からないこそ大公殿下を恐れるようになっていた。
大公位を戴いた事で様々な事実無根の噂が立った殿下だが、第五王子時代から侍る事を許された取り巻き達は、疑惑の(?)叙爵と謂れがあっても唯一人として離れた者はいなかったらしい。
元伯爵家が殿下と同年に陞爵し侯爵となった家の令息が一人、伯爵家の令息が二人、伯爵令嬢が二人、子爵令息が一人。
それぞれ商業や大鉱山、農業で成功を収めた家の何れも継嗣。この六家が将来的にそのまま大公の派閥の中心となるだろうと言われている。
そんな、出来始めの派閥の声が聞こえてきた頃。
大公に更に良くない噂が出始める。
「大公家には夜な夜な美しい若者が呼び出されている」
「帰りは深夜になる事も」
「帰りしなのお相手は疲労の色が見える」
最初は殿下に婚約を迫った家が断られた腹癒せにバラまいたものだろうと、誰にも相手にされなかったのだが。
美女で有名な子爵令嬢が殿下に呼び出されたと、父親である子爵が夜会で「ここだけの話」とポロっと零してしまい、大公殿下の噂は一気に信憑性を増してしまったのである。
過去の、これぞ王族たる姿勢に盲目的にご尊敬申し上げたあの方と、目の前の軽薄な薄桃色のカードをアディニーに送っただろう現在のあの方が本当に同一人物なのか、とてもじゃないが信じたくない。
何かの間違いだと信じたい。でもあの紋章を使えるのはあの方しかいなくて。
どうして・・・――――
・
殿下は、王立学園の高等部を卒業後は王府の文官として出仕したと聞いていた。
王位継承権は一応あれど第五王子という王太子の控えの控えの控えの控えでは、それはあっても無いようなもので。
いずれは自国の高位貴族家に婿入りか、同盟国の王族と政略結婚が有力とされていた。それまでの繋ぎだと
しかし、そんな実しやかな噂話が翻ったのは殿下が成人した20歳の時だ。
『第五王子クリスファードを大公位に叙する』
新しく騎士爵や男爵に叙された者の名が呼ばれ、貴族の証である紋章の授与がされる。
叙爵式典は基本二年に一度開かれる。これは国内全ての貴族に参加義務のある数少ない式典で、新旧貴族の顔合わせの場となっている。
数人の騎士爵や男爵が誕生し、最後に国王が第五王子の名を呼び、そして件の叙爵だ。
何も知らされないまま叙爵式典に参加した貴族達は騒然となった、らしい。
第五王子は学園を卒業してからも国内で婚約者を持たず、独身者には見合いの意味合いが大きい夜会やお茶会にも殆ど参加が無かった為、国内貴族家の婿入りではなく他国の王族との婚姻話が進んでいるのだろうと思われていた。
それがである。
突然の大公位。しかも、王位継承権を持ったままだ。更には六位だった順位は三位に。クリスファード殿下の大公位叙爵と同時、次期宰相と目される第二王子と第三王子・第四王子、それこそ王太子とその子王子以外の王子が継承権を放棄したらしい。
いや第三王子と第四王子はそれぞれ隣国の王女、国内の侯爵家の跡継ぎ令嬢との婚姻が決まっているから分かるとしても、王太子代行である第二王子の継承権放棄は何かあってと訝しがられていた。
王家に残る第二王子に継承権を無くして王家を出る第五王子に継承権を残すとは、第二王子に何が無くて第五王子に何があってそうするのか。第五王子の何にその価値があるのか。
前年に第五王子が文官から魔術師団に異例の異動をしたのは何か関係があるのか。
数年経った今でもその謎は解けていない。恐らく王家が秘匿しているのだろう。
それだけの何かがと貴族は何も分からないなりに、分からないこそ大公殿下を恐れるようになっていた。
大公位を戴いた事で様々な事実無根の噂が立った殿下だが、第五王子時代から侍る事を許された取り巻き達は、疑惑の(?)叙爵と謂れがあっても唯一人として離れた者はいなかったらしい。
元伯爵家が殿下と同年に陞爵し侯爵となった家の令息が一人、伯爵家の令息が二人、伯爵令嬢が二人、子爵令息が一人。
それぞれ商業や大鉱山、農業で成功を収めた家の何れも継嗣。この六家が将来的にそのまま大公の派閥の中心となるだろうと言われている。
そんな、出来始めの派閥の声が聞こえてきた頃。
大公に更に良くない噂が出始める。
「大公家には夜な夜な美しい若者が呼び出されている」
「帰りは深夜になる事も」
「帰りしなのお相手は疲労の色が見える」
最初は殿下に婚約を迫った家が断られた腹癒せにバラまいたものだろうと、誰にも相手にされなかったのだが。
美女で有名な子爵令嬢が殿下に呼び出されたと、父親である子爵が夜会で「ここだけの話」とポロっと零してしまい、大公殿下の噂は一気に信憑性を増してしまったのである。
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